147「100連爆裂剣」
遠征から戻ったタクトとラクレスは要人を集めて作戦会議をしていた。
まずは魔獣キマイラとの戦闘状況を逐一報告する。
魔獣キマイラは50メートルほどの巨体で獅子と双頭の龍の3つの頭を持っている。
獅子は炎を吐き、双頭の龍は毒ガスを吐く。
そして何より蛇の尻尾は一撃で騎士を殺せるほどの力を要していること。
「そんな奴を相手にして勝てるのか?」
「一撃だなんてあり得ない」
「グルンベルグ王国も終わりだ」
大臣達は口々に弱音を吐きはじめる。
それも無理ではない。
奥の手である高粒子砲は山をも吹き飛ばすほどの威力があるからだ。
正直言って勝てる気がしない。
「他の国に協力を要請しよう。私達だけでは無理だ」
「それよりも、この国を去った方が身のためだ」
「お前はグルンベルグ王国を捨てると言うのか?」
「仕方がないだろう。我が身が一番大事なのだからな」
大臣達の間に不穏な空気が流れはじめる。
圧倒的な力を持っている魔獣キマイラの前では皆そうなるであろう。
実際に戦った私でさえそう思えるのだ。
しかし、殺らなければ殺られるだけ。
すると、ラクレスが話を割るように言った。
「勝機が全くない訳ではない。こちらには最新式の移動式大砲があるのだ。移動式大砲を持ってすれば魔獣キマイラとてただでは済まないだろう」
「本当にそんなものが頼りになるのか?」
「最新式だが知らないが大砲だけで魔獣キマイラを倒すことなんて無理だ」
「だから私達がいるのだ」
ラクレスとて移動式大砲だけで魔獣キマイラを倒せるなんて思っていないだろう。
移動式大砲はあくまで攻撃手段のひとつだ。
メインの戦いは私達とグルンベルグ軍が担当することになる。
「まずは魔獣キマイラをアレギスタ連山からおびき出すことが必要だ。雪山では移動式大砲が使えない」
「魔獣キマイラをおびき出すなんてどうやればいいんだ?」
それが一番の問題だ。
魔獣キマイラを餌で釣るようなことは出来ない。
ならば戦闘でおびき出す方法が考えられる。
魔獣キマイラと戦闘をしながら部隊を徐々に後退させて行く。
消耗は激しくなるだろうが確実におびき出せるはずだ。
「戦闘を仕掛けておびき出すんだ」
「戦闘を仕掛けるって言ったって魔獣キマイラを相手にするのだぞ。持つか?」
「そのためにも補給部隊の行動がモノを言う。逐次、補給をしながら後退をして行くんだ」
それでも多くの犠牲が出るだろう。
しかし、それ以外方法はないのだ。
「それじゃあ戦闘を仕掛ける部隊はおとりになるってことだな」
「そうとってくれて構わない」
「俺はおとりになるなんてヤダな。無駄死にするようなものだ」
「そうだ。戦って死ぬならば本戦で死にたい」
作戦に参加していた騎士団長達からも不満の声が上がる。
魔獣キマイラと戦って来ただけに本音が零れ落ちる。
すると、ラクレスが騎士団長達に向かって叱責をする。
「お前達はそれでもグルンベルグ王国の騎士団長なのか?グルンベルグ王国の誇りを見せろ!」
「ラクレスの言いたいこともわかるが、我々は部下の命を預かっているんだ。そんな簡単には割り切れない」
その言葉で会議室の中が静寂に包まれる。
私達はけっしてひとりで戦っている訳でない。
常に多くの兵士達の命を預かっているのだ。
リーダーがどんな判断をするかによって命運も分かれる。
それが故に安易な返事は出来ないのだ。
「おとり役は私達と第一騎士団で務める。それでいいだろう、ラクレス?」
「賢明な判断だ、策士タクトよ。この役は実戦経験が豊富な者でなければ務まらない」
「しかし、たった1000名程度の部隊で大丈夫なのか?」
正直言って心もとないと言うのが事実だ。
攻撃に特化した騎士団だけでは防御面が不足している。
できれば魔導士部隊を加えたいところだ。
すると、魔導士部隊の第一団長が進言して来た。
「それだけでは足りないだろう。我が魔導士部隊からも兵を出そう」
「本気か?」
「これは我が国だけでの問題ではないのだ。魔獣キマイラを討伐できなければ世界が滅びることになる」
「それは助かる。防御面が欠けていたからちょうどいい。プリ―ストを300名ほど欲しい」
「300名だな。後で人選しておこう」
これで面子は揃った。
プリ―スト部隊のプロテクションを交互にかけつつ騎士団でけん制攻撃を仕掛ける。
魔獣キマイラが反撃して来たら部隊を後退させる。
その繰り返しで魔獣キマイラを誘導してアレギスタ連山から追い出す。
魔獣キマイラを誘い込むのはナスカ渓谷だ。
谷底まで魔獣キマイラを誘導して罠にかける。
両崖の上には魔術師部隊、谷底の奥には砲撃部隊と騎士団を待機させる。
魔獣キマイラがポイントまでやって来たら崖を爆破して土砂に埋めさせる。
そしたら一斉に攻撃を仕掛けるのだ。
袋小路に追いやれば魔獣キマイラとてただでは済まないだろう。
私は頭の中でシュミレーションをした戦術を説明して聞かせた。
「作戦の概要はわかったが、本当にそんな作戦で大丈夫なのか?」
「確かに。攻撃を仕掛けながら魔獣キマイラを誘導するなんて無茶もいいところだ」
「補給が要らしいが、そう上手く行くものなのか?」
それは正直言って私の都合のいい考えだ。
攻撃を仕掛けても魔獣キマイラが反応しないことも考えられる。
そうなれば誘導どころの話ではない。
「魔獣キマイラの注意を惹きつける何かがあればよいのだが」
ラクレスはふと意味深なことを呟く。
魔獣キマイラの注意を惹きつけるもの……。
思慮を巡らせてみても何も思いつかない。
しいて言えば魔獣は人間を粛清するために現れたと言うこと。
魔獣にとっての敵は力を得た人間達。
だとするならば圧倒的な攻撃を仕掛ければ乗って来るはず。
「魔術師をあと300名ほど欲しい」
「用意は出来るがどうするつもりだ?」
「魔獣キマイラを動かすには圧倒的な力が必要だ。魔術師部隊で攻撃を仕掛けて誘い込む」
「確かに1×300倍の最上級魔法ならば期待できるな」
1×100倍のドラゴンブレスで一時的に動きを封じることが出来た。
その程度の攻撃で十分なのだ。
魔法は3つに分けて使おうかと考えている。
部隊を3つに分ければ連続で魔法を放てる。
魔獣キマイラに反撃する機会を与えなければ被害も少なくなるだろう。
戦術の概要をまとめよう。
まず部隊は大きく3つに分ける。
騎士団300名ずつと魔術師100名ずつとプリ―スト100名ずつの計1500名の部隊だ。
先の魔獣キマイラ戦のことを考慮して兵士の数を倍にした。
騎士団を率いるのはガルド。
魔術師を率いるのはエリザ。
ルーンはプリ―ストを率いていもらう。
プリシアは余るのだが本体の砲撃部隊を率いてもらうことにした。
相性の悪い部隊を率いてもらうよりも、その方が適していると考えたからだ。
プリシアには後で目いっぱい活躍してもらおう。
攻撃のパターンはプロテクションで攻撃を防ぎつつ騎士団で魔獣キマイラの注意を引く。
その間に魔術師部隊に最上級魔法を詠唱させて魔法を放ってもらう。
それを3つの部隊で交互に繰り返しながら後退して行く作戦だ。
それでも戦いは激しくなることが予想されるので随時、補給を受ける。
ちなみに補給はプリ―スト部隊による回復がメインだ。
補給部隊は100名程度を想定している。
これで魔獣キマイラを誘導できるはずだ。
ここまでが第一段階だ。
第二段階はナスカ渓谷の谷底で魔獣キマイラを討伐する作戦だ。
魔獣キマイラをポイントまで誘導したら崖を爆破して土砂に埋もれさせる。
そうしたら砲撃隊の酸倍弾で魔獣キマイラの防御力を落とす。
そこへ魔術師部隊の最上級魔法をお見舞いする。
とどめは騎士団達の総攻撃だ。
部隊編成は騎士団が2000名、槍部隊が1000名、魔術師が2000名、プリ―ストが2000名、砲撃手が1000名の計8000名だ。
それに加えておとり部隊の1500名が加わる。
約1万弱の兵力が注がれることになる。
これで魔獣キマイラを倒せるはずだ。
私が説明を終えると要人達みんなが納得した。
中には不安を隠せない者もいたが、それは見なかったことにしておこう。
「作戦は以上だ。何か質問のある者はいるか?」
ラクレスの言葉に要人達は拍手をして応える。
こうして次の魔獣キマイラ討伐の作戦は出来上がったのである。
その頃、ガルドは訓練場に騎士団を集めて特訓をしていた。
何でも先の魔獣キマイラ戦を見ていて考えついた必殺技を習得するためのものらしい。
会議前に私に向かって「凄いのを見せてやるから期待していろ」と豪語していた。
必殺技と言うぐらいだから新しい必殺技を身につけるだけかと思っていたら違った。
それは私も想像できなかったくらい完成されたものだった。
「おい、タクト。作戦会議は終わったのか?」
「ああ。次の作戦は立った。また、ガルドの力を借りることになりそうだ」
「まあ、俺ぐらい頼れる相棒はいないだろうな」
ガルドは誇らしげに言ってのける。
これまでにもガルドには助けられて来た。
主力の攻撃はさることながら、おとり用員として働いてもらった。
おかげで幾度の危機を乗り越えられたのだ。
今度の作戦でもガルドにはおとり役を買ってもらうことになる。
ガルドの活躍云々で作戦の明暗も分かれそうだ。
「それよりガルド。必殺技の方はどうなんだ?」
「よくぞ聞いてくれました、タクト君。今までにない必殺技の習得に成功したぞ」
ガルドの喜びようからすると超強力な必殺技が習得出来たようだ。
それは戦力アップにも繋がるしありがたいことに他ならない。
しかし、私が予想をしていたよりも上を行く必殺技の習得に成功していた。
ガルドが見せてくれた必殺技は爆裂剣を連続で放って行く技。
それはひとりではなくみんなで爆裂剣を繋いで行く連続技だ。
「名付けて10連爆裂剣だ。どうだ凄いだろう」
ガルドはどうだと言わんばかりに胸を張ってみせる。
何でも先の魔獣キマイラ戦でラクレス率いる槍部隊の戦いを見て考えついたのだと言うことだ。
確かに爆裂剣の一撃では魔獣キマイラにダメージを与えることが出来なかった。
しかし、それを補うように連続で同じ場所に爆裂剣を放つことが出来れば大ダメージも期待できると言うもの。
魔獣キマイラの固い装甲も打ち破れるだろう。
今はまだ10人連続で爆裂剣を放つまでにしか至らないが、ガルドは100連爆裂剣を目指しているらしい。
「ガルド、頑張るのもいいが、あまり根を詰めるなよ」
「俺がそれくらいでへばるとでも思っているのか?」
「違うよ。他の連中だよ。見て見ろ。へばっているじゃないか」
「修業が足りないんだよ」
ここへ来てガルドの戦力は大幅にアップしている。
対魔獣戦をこなして来たからの結果だろう。
グルンベルグ軍の騎士達も同じことが言えるが、ガルド程ではない。
その差はやっぱり対モンスター戦を繰り返して来たかの差だ。
モンスターとの戦いと人間との戦いは全く違う。
モンスター戦は火力が何よりモノを言うのに対し人間戦では知恵がモノを言うのだ。
ガルドはモンスターと幾度となく戦っている間に必殺技を習得して来た。
今では奥義も4つほど習得しているまでに至る。
ガルドはまだまだ強くなるだろう。
それはガルドを慕っているレイムにも言えることだ。
「先生。100連爆裂剣を完成させましょう!100連爆裂剣で魔獣キマイラを倒すんです!」
「いい返事じゃないか、レイム。よし、休憩は終わりだ。100連爆裂剣の特訓をはじめるぞ」
気合十分のガルド達に対して騎士達はお疲れの様子。
気怠そうに立ち上がると剣を抜いて構えた。
すると、すかさずガルドの檄が飛ぶ。
「おい、お前ら、やる気はあるのか!そんなんじゃ魔獣キマイラに殺されるだけだぞ!もっと、気合を入れろ!」
「みなさん、気合を入れてください。私も頑張りますから」
これでは100連爆裂剣を習得する前に騎士達が参るのが目に見えているな。
後でラクレスに明日は休日にしてもらうように頼んでおこう。
気合だけでは100連爆裂剣の習得には至らないからな。
連撃だからみんなの意志が統一できなければ成功もしないはずだ。
休息も訓練のひとつ。
明日はガルドを誘い出して街へ出掛けて見るつもりだ。
「ガルド、ほどほどにしておけよ」
私は訓練場を後にするとログ達の工場へ足を向けた。
ログとサイムは注文しておいた騎士達の武器を造っている最中だった。
何せ1万を超える騎士達の武器を造るのは一筋縄ではいかない。
夜通し夜更かしをして造り続けていたのだ。
既に一週間は経っている。
ログ達の疲労もピークを迎え入ていた。
「おい、ログ。武器の進捗具合はどうだ?」
「タクトさん。まだ、半分も行っていないです」
ログは目の下を真っ黒にさせながら力なさそうに返事をする。
それはサイムも同じで刀鍛冶をする力も残されていない様子だった。
ほとんど無意識のうちに刀鍛冶をしている状況だ。
「そうか。それよりも休憩をしたらどうだ?」
「休憩なんてとっている暇はないですよ。注文を受けた期日までに仕上げないと」
「それも大事だがログ達の体も心配だ。注文の期日は伸ばすことにしておくから休憩をとってくれ」
「しかし」
「ログ、タクトがそう言うんだから甘えようじゃないか。俺も、もう限界を迎えていたからな」
サイムは手足を投げ出して一息つく。
私はログ達の造った武器を持って出来具合を確かめた。
「どうだ?それなら文句はないだろう」
思っていた以上の仕上がりに驚いた。
魔鉱石を武器に薄くのばしてコーティングするだけなのだがムラがない。
一定の厚さでコーティングされているから切れ味も抜群だった。
さすがはドワーフだけのことはある。
これで武器に魔法を帯びさせた攻撃が出来ると言うもの。
騎士団達の火力の弱さを補填できる。
火力のアップには必殺技の習得が何よりだが、それには修練が外せない。
時間もかかるうえモノに出来るまで繰り返し使い続ける必要があるのだ。
しかし、武器に魔法を帯びさせることが出来れば簡単に火力のアップが出来る。
時間もかからないし手軽なので戦いには重宝するはずだ。
さっそく次の魔獣キマイラ戦で使おうと考えている。
ガルド達の100連爆裂剣も期待大だが完成するかもわからないからな。
あくまで保険としての役割があるのだ。
「さすがはサイムだ。仕上がりは抜群だよ」
「俺達にかかればそんなものさ」
「後は数をこなすだけです」
「期待しているよ、ログ」
「タクトさんの期待に沿えるように努力します」
相変らずログのデスマス調には慣れない。
年上なのに年下と話している気分になって。
何だか私が偉ぶっているかのようだ。
逆にサイムみたいなタイプなら同じ目線で話せるのだが。
まあ、グルンベルグ軍の参謀をやっているぐらいだからちょうどいいのかな。
私はログ達のいる工場を後にするとデルマトのいる小屋へ。
移動式大砲の砲弾の進捗状況を確かめるために向かったのだ。




