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145「魔獣ポセイドン戦②」

魔獣ポセイドンが沈黙してからしばらく。

サンドリア軍の兵士達は海に投げ出された兵士達の救助にあたっている。

アラジンは陣形を崩すことを許さなかったが兵士達は指示を無視した。

クロードは5番艦に乗船して救出の指揮をとっている。


「救命艇を出せ!海に投げ出されている者達を優先して救助せよ!」


魔術師部隊の兵士達は率先して兵士の救助にあたる。

救命訓練は受けていないので手際が悪いが、それでも必死に救命に取り組んでいる。

既に海の藻屑となってしまった兵士達のためにも出来るだけ助けなければならない。

そんな使命にかられていたのだ。

あいにく今は冬ではないので海の中にいても凍えるほどではない。

それでも鎧を纏っている騎士達は泳ぐのに必死だった。


この戦闘で2000名いた騎士団の半分は海の藻屑と消えてしまった。

魔獣ポセイドンに殺された騎士は500名ほど。

救助されている騎士は300名ほどしかいない。

残りの200名は行方知れずだ。

他の騎士達と同じく海の底へ沈んでしまったと見るべきか。

すると、ひとりの騎士が大声で叫んだ。


「おい、あれを見ろ!魔獣ポセイドンの体に亀裂が入っているぞ!」


見ると言葉通り魔獣ポセイドンの体に大きな亀裂が入っている。

それは無数に増えて行って魔獣ポセイドンの体を覆い尽くす。

次の瞬間、魔獣ポセイドンの体が粉々に砕けると中から新たな魔獣ポセイドンが姿を現した。


「何だと!」


脱皮したとでも言うのか。

魔獣ポセイドンの肉体は再生されていて傷一つない。

そればかりか肉体は半透明に透けており、まるで生まれたての蝉のようだ。

魔獣ポセイドン。

只者ではないと思っていたが、再生能力を備えているなんて。

やはり聖槍グングニルでなければとどめは刺せないらしい。


「クロード!救出は後回しだ!体制を立て直せ!」

「何を言っているんだ!人名救助より優先することなどないだろう!」

「ここで魔獣ポセイドンを倒さなければ同じことだ!」

「くぅ……」


クロードは救出した兵士達を見やりながら判断に迷っている、と。

救出にあたっていた兵士が声をかけて来た。


「どうしますか、クロード様。我々はクロード様に従います」

「仕方がない。戦いを優先させる」


懸命な判断だ。

これで救助を優先させていたら愚か者の烙印を押しただろう。

戦っている相手が人間ならば人命を優先させる選択肢もあるが相手は魔獣なのだ。

人間の道理など通じない。

殺るか殺られるかだけしかないのだ。

残っている軍艦は母艦を入れて9隻あるが、そのうちの1番艦から4番艦は無人だ。

使える艦は魔術師部隊の5番艦と6番艦と。

プリ―スト部隊の9番艦と10番艦だけだ。

すでに八角宝珠の陣形は崩されてしまった。

体制を立て直すにも次の陣形を考えなければ。

この駒なら四方の陣か五芒星の陣あたりが適切だろう。

四方の陣形は母艦を中心に四方に部隊を配置する構え。

バランスがよく前後左右からの攻撃に素早く反応できる。

一方、五芒星の陣形は部隊を五芒星の形に配置する構え。

母艦は自由に配置することができ状況に応じて使い分けられる。

複雑な地形で力を発揮できる構えでもある。

ここでは前者が適していると言える。

プリ―スト部隊を前面に魔術師部隊を後方に配置させれば八角宝珠の陣形の一部を再現できる。

いわば四方の陣形は八角宝珠の陣形の簡易版と言ったところか。


後は戦術だ。

先ほどの戦いではプロテクションで水龍閃を防ぎつつ間合いを詰め。

そしてダイヤモンドダストで魔獣ポセイドンの逃げ道を塞いだ。

しかし、同じ手は通じないと見た方がいいだろう。

魔獣ポセイドンも学習している。

ダイヤモンドダストを放つ前に海にでも逃げられれば元もこうもない。

それに何より魔法詠唱中に攻撃されることが予想される。

7番艦と8番艦はそれでやられてしまった。

詠唱時間の短い下級魔法を中心に使って行くことも考えられるが支援系魔法ならともかく、攻撃系魔法は火力が足りない。

大ダメージを与えるには少なくとも上級魔法以上でなければならない。

ならば魔術師部隊の魔法詠唱時間を稼ぐために時の魔法の重ねがけが有効だろうと考えられる。

まずは下級魔法であるループで魔獣ポセイドンの動きをループさせる。

そこへ中級魔法であるスロウの重ねがけで魔獣ポセイドンの動きを鈍らせる。

そうすれば魔法詠唱時間を稼げるはずだ。


「プリ―スト部隊を母艦の前面に魔術師部隊を後方に移動だ!」


アラジンの指示通り9番艦と10番艦は前面に、5番艦と6番艦は後方に移動する。

これで四方の陣形は整った。

後は戦術の指示だ。


「9番艦のプリ―スト部隊はループの魔法を、10番艦のプリ―スト部隊はスロウの魔法を詠唱しろ!」


アラジンの指示を受けてそれぞれのプリ―スト部隊は魔法の詠唱に入る。

次いで魔術師部隊に指示を出す。


「魔術師部隊は天空の雷を詠唱しろ!」


気絶効果のある上級魔法のインテグニションと言う方法もあるが、出し惜しみは無用だ。

エクスプロードと同程度の火力を備えた天空の雷ならば大ダメージを期待できる。

再び魔獣ポセイドンを沈黙させることができるだろう。

そうしたら聖槍グングニルでとどめを刺してやる。

魔術師部隊達は指示通り魔法の詠唱中だ。

すると、それに反応するかのように魔獣ポセイドンが攻撃を仕掛けて来た。

今度は水龍閃でけん制攻撃をすることなく最初から海に潜る。

そして5番艦の前に現れると水龍閃を放って来た。


「殺られる!」


クロードの叫び声と同時に9番艦のプリ―スト部隊がループの魔法を放つ。


「「時の迷宮に迷いし子羊、輪廻の道をいざ行かん『ループ!』」」


魔獣ポセイドンの海面上に紫色の巨大な魔法陣が浮かび上がると光の時計が頭上に現れる。

そして時計の針がぐるりと一回りすると攻撃体制に入っていた魔獣ポセイドンが攻撃前の姿勢に戻る。

それはループするように同じ動きを繰り返しはじめた。

1×500倍のループだ。

十分に時間稼ぎが出来る。

そして次いで10番艦のプリ―スト部隊がスロウの魔法を放つ。


「「時の狭間よりいでし御霊、かの者を時空の歪みに引き落とせ『スロウ!』」」


ループを繰り返している魔獣ポセイドンの下に紫色の巨大な魔法陣が浮かび上がると白い鎖が伸びて来る。

そして魔獣ポセイドンに絡みついてキツク締め上げる。

魔獣ポセイドンは重りでもついているかの如く動きを鈍らせはじめた。

このスピードならばどんなヘタレでも避けられる。

後は魔術師部隊の詠唱が終わるのを待つだけだ。

すると、魔獣ポセイドンの眉間にある第三の目が開かれる。

それはループに逆らうかのように自立して。

そしてカッと目を見開くと辺りに閃光が走った。

魔獣ポセイドンは自由に体を動かし5番艦を水龍閃で沈める。


「どう言うことだ。魔法を無効化したとでも言うのか!」


これは計算外だ。

まさか魔獣ポセイドンに魔法を無効化させる力があるなんて。

非情にマズイ展開になって来た。

これでこちらの戦力は大幅に削られてしまった。

主力でもある5番艦を潰されたとなっては残るは6番艦だけだ。

プリ―スト部隊も光魔法と言う攻撃魔法は使えるが魔法詠唱に時間がかかる。

詠唱の間に水龍閃で潰されてしまうだろう。

そんな風に思慮を巡らせていると魔獣ポセイドンはトライデントを振り回し海に突き立てた。

すると、海中から四つの水柱が空まで立ち昇り母艦を残して全ての艦を吹き飛ばした。


「なんと!」


天海四柱とでも言うべきか。

魔獣ポセイドンの全体攻撃の必殺技だ。

魔術師部隊もプリ―スト部隊も海に投げ出されて。

軍艦は横に傾き沈みはじめている。

これでは全滅ではないか。

残されたのは聖槍グングニルだけ。

アラジンは聖槍グングニルを手にする。

そして声高らかに叫んだ。


「お前の力を見せてみろ!」


アラジンが聖槍グングニルを掲げると空から一閃の聖光が降り注ぐ。

同時に聖槍グングニルから雷光が放出しアラジンの体の中心に収束して行く。


「くぅ……これが聖槍グングニルの力なのか」


全ての雷光がアラジンの体の中に取り込まれると。

今度は逆流するように黒い雷光がアラジンの体から放出をはじめる。


「うわぁぁぁぁ!」


黒い雷光は聖槍グングニルに収束して行くと魔槍ヘルスピアへと変化した。

鋭い矛先に鋭利な鎌を備えた漆黒の槍はまさに地獄の底からやって来た悪魔の槍。

それは姿形ばかりでなくアラジンの精神を浸食しはじめた。

世界の光が全て奪われて暗い闇に包まれて行く。

アラジンの精神は肉体から切り離されて深淵へと落ちて行った。


(死ぬのか。体が動かない)


すると、アラジンの過去が走馬灯のように駆け巡る。

陰派の策士の家系に生まれたアラジン。

幼い時より周りの人間から疎外されていた。

何が悪い訳でない。

陰派の策士の歴史がそうさせていたのだ。

そのことを受け入れられないアラジンは反発精神を宿して行く。


(そうだ。幼い頃から虐げられて来た。この時に復習を誓ったのだ)


そして盗賊団ナイトメアを立ち上げた。

それは私を虐げて来た連中に復習をするため。

行商人や旅人を襲い金品や食料を巻き上げた。

もちろん捕まえた人間は皆殺しだ。

そんなことを繰り返ししていた。

だが、それだけでは満足しない気持ちが生まれていた。


(復習など愚かなことだと)


そんな時、出会ったのがドミトスだ。

ドミトスはアラジンに忠誠を誓い全てを委ねた。

すぐに頭角を現してアラジンの右腕となる。

ドミトスとは打ち解けて何でも話した。

これまでのこと、そして未来のこと。

そんな折、”アラジン様はこんな所で燻っているお方ではない”とドミトスが言って来た。


(ドミトスの言葉が後押ししてくれたのだ)


そしてアラジンはサンドリア王国を乗っ取る計画を立てる。

足がかりとしてウェールズの街を襲撃したのだ。

そこへ立ちはだかったのが同じ策士であるタクトだ。

陽派の策士であるタクトはアラジンとは違う歴史を辿って来た。

策略に自信を持っていたがことごとく打ち砕かれてしまった。


(策に溺れていたのかもしれない)


しかし、サンドリア王国を乗っ取る計画は着々と進んで行った。

まず手はじめに聖女と魔水晶を奪う計画を実行する。

カイザルと言う使い勝手のいい手駒があったおかげで作戦は見事成功。

そしてウェズベルト軍と戦うことでサンドリア王国の邪魔な奴らを始末することが出来た。

だが、ドミトスと盗賊団ナイトメアを失ってしまった。


(ドミトスよ、私は正しかったのだろうか)


そしてアラジンは新たな誓いを立てる。

世界の覇権を掴むため聖槍グングニルを手にすると。

ミーナと言うエルフの幼女と出会ったことでそれは実行される。

ミーナはアラジンに協力してくれた。

それは死を恐れて協力したのか、本当に信用して協力したのかはわからない。

しかし、エルフ王はアラジンに忠告をして来た。

人間には聖槍グングニルは扱えないと。


(結果がこれか。私はもうすぐ消えるだろう。目的も果たせずまま終わるなんて)


すると、アラジンの精神から分離するようにもうひとりのアラジンが現れる。

それは魔槍ヘルスピアに乗っ取られた闇のアラジンだ。


{お前は弱い。弱すぎて反吐が出そうだ}

(それはお前だってそうだろう。お前は私だ)


{私は私だ。お前とは違う。私がお前の代わりに目的を果たしてやる}

(何を勝手なことを言ってるんだ)


{お前は安心して消えろ。永遠にな}

(何を!)


闇のアラジンの精神はアラジンの精神を深淵の底へ葬った。


{フッ。これからは私の時代だ}


闇のアラジンの精神はアラジンの体に戻り、静かに目を開く。

深紅に燃え盛るような赤い瞳で魔獣ポセイドンを睨みつける。

右手に握る魔槍ヘルスピアが漆黒の稲光を発している。

それに応えるかのように空は鈍色に染まり太陽の光を遮っていた。

風も吹いていないのに波が立ち母艦を揺らせていた。





海の中で一部始終を見ていたクロードは驚きの声を上げる。


「何だ、あいつは。アラジンなのか」


アラジンが聖槍グングニルを掲げた時、槍が変形したように見えた。

それに今いるアラジンはさっきのアラジンと雰囲気が違う。

禍々しいオーラを放ち心を突き刺すような深い目をしている。

以前のアラジンも冷たい目をしていたが、今はそれ以上だ。


「何が起こっているんだ」


背筋に拭いきれないような悪寒が走る。

ここにいてはいけない。

今すぐに、この場所から離れなくては死が訪れると。

クロードの心がそう答えを返していた。


「おい、こっちに船を回せ―!」


クロードはありったけの大声を出して救命艇を呼んだ。





アラジンは魔槍ヘルスピアを魔獣ポセイドンへ向ける。


「これからが本番だ。私が直々にお前に引導を渡してやる」


沈黙を保っていた魔獣ポセイドンは人語を使って話しかけて来る。


「セイソウグングニルニトリコマレタカ。ショセンニンゲンナドソノテイド」

「その程度かどうかは私が決める」

「オロカナ」


魔獣ポセイドンはトライデントを振り回すと海に突き立てた。

すると、アラジンの母艦を取り囲むように海面から水柱が立ち昇る。


「警告のつもりか?」

「オマエヲショウメツサセル」

「そうこなくては面白くない」


アラジンは魔槍ヘルスピアをくるりと回転させると構えなおす。

そして、魔槍ヘルスピアを天に掲げて叫んだ。


「目覚めよ、我が僕達!」


土日にまとめて書いているので、次の投稿は月曜日になります。

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