144「魔獣ポセイドン戦①」
時を同じくして、アラジンはサンドリア艦隊を率いてサウスブルーまでやって来ていた。
例のごとく魔獣ポセイドンが海中から姿を現す。
その姿をはじめて見た兵士達の間からどよめきが湧き起る。
「あ、あれが魔獣ポセイドンなのか」
「デカい」
「あんなのをどうやって相手すればいいんだよ」
すると、アラジンが諭すように告げる。
「何も心配することはない。こちらには聖槍グングニルがあるのだ。私の指揮に従っていれば勝利は掴める」
それでも兵士達の不安は消えない。
目の前にしている魔獣ポセイドンの存在が大きくて心が折れそうだったのだ。
戦う前からこの有様では掴めるモノも掴めない。
アラジンは改めて気合を入れ直す。
「魔獣ポセイドンを制して世界の覇権を手に入れる!サンドリア王国の未来は我らの手にかかっているのだ!」
「そうだ。私達は泣く子も黙るサンドリア王国の騎士なのだ」
「我らの誇りを見せてみようぞ」
「魔獣ポセイドンを討伐するんだ」
アラジンの言葉を受けてサンドリア王国の兵士達は覇気を取り戻す。
口々に思いの丈を叫んで自らに気合を入れ直した。
まったく手のかかる連中だ。
これだから実戦経験の少ない兵士は嫌いなんだ。
せいぜい勝利のための糧になってもらおうか。
まずは戦術通り前衛のプリ―スト達にプロテクションをかけさせ進軍する。
1×500倍のプロテクションならば魔獣ポセイドンの水龍閃も防げるだろう。
同時に1×500倍のグラシスで魔獣ポセイドンの動きを止める。
その上で魔術師達の1×2000倍のエクスプロードをぶち込む。
そしてダメージを負ったところを騎士団で総攻撃を仕掛ける。
火力に物を言わせた短期決戦型の戦術だ。
これならば魔獣ポセイドンもタダでは済まないはずだ。
まあ、作戦が失敗してもこちらには聖槍グングニルがあるのだがな。
クロード達にはせいぜい奮闘してもらおう。
「開戦の信号弾を上げろ!」
アラジンの合図で砲撃手が開戦の信号弾を上げる。
すると、艦隊は動き出し最前衛のプリ―スト部隊が魔法の詠唱に入る。
同時に魔術師部隊達も魔法の詠唱に入った。
艦隊は八角宝珠の陣形を保ちながら魔獣ポセイドンへ近づいてく。
それに反応するように魔獣ポセイドンが水龍閃を放って来た。
水龍閃は最前衛のプリ―スト艦隊を掠めるように海へ着弾する。
「フッ、けん制攻撃のつもりか。構わず進軍せよ!」
魔獣ポセイドンは他の艦隊に向けて水龍閃を放ってくる。
その攻撃のどれもが艦隊を掠めるだけで直撃はしない。
「全く舐められたものだ。砲撃手、こちらも砲撃で応戦せよ!」
アラジンの合図で全ての艦隊の砲撃手が魔獣ポセイドンへ向かって砲撃を開始する。
数多の砲弾が魔獣ポセイドン目がけて飛んで行き、爆発を起こす。
しかし、魔獣ポセイドンはもろともせずに悠然と構えている。
やはり、砲弾程度の火力ではダメージは与えられないようだ。
すると、プリ―スト部隊が詠唱を終えて魔法を放つ。
「「天より降り注ぎし光、星光の束となりて、かの者を守らん『プロテクション!』」」
プリ―スト艦隊の海面上に金色の巨大な魔法陣が浮かび上がると光の壁が競り立って行く。
それはプリ―スト艦隊を覆い隠すように幾重にも重なりながら堅牢な光の壁へと変わる。
魔獣ポセイドンは構わずに水龍閃を放つが光の壁に阻まれて届かない。
さすがは1×500倍のプロテクションだ。
魔獣ポセイドンの水龍閃すらものともしない。
続くように他のプリ―スト部隊がグラシスの魔法を放つ。
「「大地よりい出し伊吹よ、漆黒の鎖となりて、かの者を絞殺せ『グラシス!』」」
魔獣ポセイドンの海面上に緑の巨大な魔法陣が浮かび上がると太いツタが伸びて来る。
そして魔獣ポセイドンの体に絡みつくように撒き付いて締め上げる。
魔獣ポセイドンはもがき暴れるがツタはキツク締め上げて行く。
1×500倍のグラシスからは、そう簡単には逃れられないだろう。
「ここまでは戦術通りだ。ただ、順調過ぎることも言える。魔獣ポセイドンも何か奥の手を隠し持っているかもしれない」
次いで魔術師部隊が続く。
「「我に宿りし魔神の力、蒼き炎は空を燃やし、紅の炎は大地を焦がす、その力は根源成り『エクスプロード!』」」
魔獣ポセイドンの海面上に赤い巨大な魔法陣が浮かび上がると空が鈍色に染まる。
そして空から零れるように一粒の光が魔獣ポセイドンのもとへ降り落ちる。
その蒼炎の光は周りのエネルギーを吸収しながら圧縮されて行く。
次の瞬間、まぶしい閃光が放出されると轟音と共に圧縮されたエネルギーが一気に解放された。
爆風が辺りのモノを巻き込みながら放射状に広がって行く。
アラジン達サンドリア兵士達は船の縁に掴みながら大波を凌いだ。
「やったのか?」
「魔獣ポセイドンの姿がない」
「やった!やったぞ!ついに魔獣ポセイドンを倒したぞ!」
何もなくなった海を見てサンドリア兵士達は色めき立つ。
どこを見回しても魔獣ポセイドンの姿は欠片も見当たらなかった。
「解せない。魔獣ともあろものが、この程度で殺られるとは思えない」
アラジンはひとり難しい顔を浮かべて海をくまなく見やる。
すると、東側の海から魔獣ポセイドンが姿を現した。
「魔獣ポセイドンだ!」
「どう言うことだ。殺ったんじゃないのか?」
どうやらエクスプロードを受ける直前で海の中に逃げ込んだようだ。
エクスプロードも海底までは届かない。
それをいいことにギリギリまで引きつけていたようだ。
こちらの油断を誘うことが狙いで。
魔獣ポセイドンは姿を現すと同時に水龍閃を放って来た。
8番艦に直撃して魔術師達が海に投げ出される。
サンドリア軍の兵士達は混乱状態に陥り慌てふためいている。
「まだ戦闘中だ!体制を立て直せ!」
アラジンはサンドリア軍の兵士達に一喝を入れる。
すると、サンドリア兵士達は我に返ってアラジンの指示通り体制を立て直す。
砲身を魔獣ポセイドンに向けて砲撃を再開する。
数多の砲弾が魔獣ポセイドンに降り注ぐと魔獣ポセイドンは再び海の中に逃げ込んだ。
「また、逃げたか」
これではやりようがない。
ここはあくまで魔獣ポセイドンのホームだ。
魔獣ポセイドンの思うように戦いが進む。
主導権を握らなければ敗北すらあり得るだろう。
せめてここが陸地であったら……。
そうか。
陸地に変えればいいのだ。
ダイヤモンドダストで海を凍らせれば魔獣ポセイドンの逃げ道を塞げる。
1×1500倍のダイヤモンドダストならばそう簡単には破れないはずだ。
その上で反撃を開始する。
グラシスで動きを封じつつ騎士団で総攻撃を仕掛ける。
騎士団の肉弾戦でどの程度のダメージを与えられるのかは皆無だが足止めぐらいにはなるだろう。
そしてとどめは私が刺す。
聖槍グングニルを使ってな。
「よし、魔術師部隊、魔獣ポセイドンが浮上したところを狙ってダイヤモンドダストを放て!」
アラジンの指示を受けて魔術師部隊が魔法の詠唱に入る。
次いでプリ―スト部隊にも指示を出す。
「プリ―スト部隊はグラシスの魔法で魔獣ポセイドンの動きを封じるんだ。同時にスピカの魔法で耐性を無効化せよ!」
プリ―スト部隊も二手に分かれて魔法の詠唱に入る。
「クロード。最後はお前達騎士団の出番だ。期待しているぞ」
「……」
クロード終始、無言のままアラジンを睨みつけていた。
本来であればクロードが指揮をとってアラジンが従う関係が正常だ。
サンドリア軍第一騎士団長でもあるクロードだからこそ、そう思うのだ。
しかし、今は立場が逆転している。
そのことがどうしてもクロードには受け入れられないようだ。
まあ、そのくらいの反発精神くらい持ってもらわないと困る。
アラジンに食らいつくくらいの意気がなければ魔獣ポセイドンとは戦えないだろう。
すると、再び魔獣ポセイドンが海面上に姿を現す。
例のごとく水龍閃を放ってくる。
今度は7番艦に直撃して魔術師達が海に投げ出された。
「魔獣ポセイドンも闇雲に攻撃している訳ではないようだ。こちらの主力を狙い撃ちしている」
これで魔法要員は1000名に削られてしまった。
しかし、ちょうどいいタイミングで魔法の詠唱が終わる。
そして、魔術師部隊は一斉に魔法を放った。
「「零氷が紡ぎし雫、氷雪の飛礫となりて、空間を切り裂け『ダイヤモンドダスト!』」」
魔獣ポセイドンの海面上に青い巨大な魔法陣が浮かび上がると同時に空気中の水分が冷気を放つ。
そしてパチパチと音を立てながら海面を氷結させて行く。
辺り一面の海は一瞬で氷の大地へと変わってしまった。
これで軍艦を使わずとも魔獣ポセイドンに近づけると言うもの。
騎士団は軍艦から降りて魔獣ポセイドンへ向かって駆けて行く。
「私に続け!ここで魔獣ポセイドンを討ち取るのだ!」
ようやくクロードもやる気になったようだ。
次いでプリ―スト部隊がグラシスの魔法を放つ。
「「大地よりい出し伊吹よ、漆黒の鎖となりて、かの者を絞殺せ『グラシス!』」」
魔獣ポセイドンの足元に緑色の巨大な魔法陣が浮かび上がると太いツタが伸びて来る。
そして魔獣ポセイドンに絡みつきながら体をキツク締め上げる。
しかし、今度は抵抗することなくされるがままにしている。
魔獣ポセイドンも学習しているようだ。
もがけばもがくほどキツク締め付けられることを。
それでもトライデントを巧みに操り迫りくる騎士団へ向けて水龍閃を放つ。
水龍閃の直撃を受けた騎士達は吹き飛ばされて行く。
すると、クロードが騎士団達に指示を出す。
「皆の者、散会して進軍せよ!」
クロードの指示で騎士団達は散会しながら進軍を続ける。
いい傾向だ。
そうではくては面白くない。
せいぜい私のために働いてくれよ。
騎士団が魔獣ポセイドンに到着する寸前に残りのプリ―スト部隊の詠唱が終わる。
そして、
「「宇宙の星々より生まれし光、神聖なる清流となりて、かの者を結びを解き放て『スピカ!』」」
耐性を無効化できるスピカの魔法を放った。
魔獣ポセイドンの足元に白銀色の魔法陣が浮かび上がると巨大な泡が魔獣ポセイドンを包み込む。
そして泡が圧縮して行くと魔獣ポセイドンを形どってコーティングさせた。
魔獣ポセイドンがどんな耐性を持っているのかわからない段階では耐性自体を無効化できるスピカが有効だ。
ついでにアシットレインで防御力を下げておきたいところだが、それにさく要員はいない。
グラシスとスピカで手一杯なのだ。
「サンドリア軍の誇りを見せてやる。食らえ『破砕剣!』」
クロードは高く飛び上がると魔獣ポセイドン目がけて覇気を纏った刺突を放つ。
クロードの剣は魔獣ポセイドンに突き刺さると同時に雷光を走らせる。
そして魔獣ポセイドンの固い鱗を粉砕した。
クロードに続くようにサンドリア騎士団が攻撃を仕掛ける。
しかし、どれも硬い鱗に弾かれるばかりで魔獣ポセイドンには効かない。
やはり必殺技レベルの剣技を使わなければダメージを与えるのは出来ないようだ。
クロードをはじめ騎士団長クラスの者達は有効な攻撃を仕掛けている。
それ以外の者は使い物にならない。
耐性を無効化しても、この程度なら奥義でも使わない限り大ダメージは期待出来ないだろう。
騎士達はもっと火力を強くする必要がある。
これは次の戦いのための改善点にしておくべきか。
魔獣ポセイドンは周りに集まっている騎士団へ向けてトライデントを振り回す。
虫に集るように集まっているから一振りごとに騎士達が舞い上げられる。
その度に無数の騎士の死体が山積みになって行く。
これでは騎士の数がいくらいても足りない。
再びエクスプロードを放って大ダメージを与えるのがいいだろう。
アラジンは魔術師部隊に新たな指示を出す。
「魔術師部隊、もう一度、エクスプロードを放て!」
魔術師部隊はアラジンの指示通り魔法の詠唱に入る。
魔法の要員は半分になってしまったが耐性を無効化しているから期待は出来る。
逃げ道は塞いである。
今度こそ直撃させられるはずだ。
「クロード!もっと気合を入れろ!勝利はお前達の手にかかっているのだぞ!」
「ちぃ、勝手なことを言いやがって。やってるこっちの身にもなってみろ」
クロードは再び魔獣ポセイドンに破砕剣を放つ。
先ほど粉砕した鱗の場所をピンポイントで狙って。
今度は肌に到達し肉片をまき散らし突き刺さる。
それでも魔獣ポセイドンのダメージは皆無。
「こんなの相手じゃ、いくらやっても無駄だ」
それでも戦うしかクロード達には道がない。
アラジンの指揮下にいる以上、従うしかないのだ。
魔獣ポセイドンはトライデントと水龍閃を駆使しながら反撃をして来る。
その度に騎士達の死体の山が出来上がった。
もう、既に300名ほどの騎士が殺されてしまった。
海に投げ出された魔術師達を加えれば1300名ほどだ。
それに加え軍艦を2隻破壊されてしまった。
普通の指揮官ならば撤退を命令出すのだがアラジンは違う。
この戦いに全てをかけているのだ。
大きさは関係なく戦いと言うのは、そう言うものだ。
全力を尽くした者が勝利を収める。
少しでも力を出し惜しみすれば隙を与えて敗北を被る。
それだけ戦いと言う世界はシビアなのだ。
そんなことを考えていると魔術師部隊の詠唱が終わる。
そして、魔獣ポセイドンへ向けて再びエクスプロードを放った。
「「我に宿りし魔神の力、蒼き炎は空を燃やし、紅の炎は大地を焦がす、その力は根源成り『エクスプロード!』」」
これが最後の一撃になる。
1×1000倍のエクスプロードを直撃すれば魔獣ポセイドンとてただでは済まないだろう。
これの一撃で沈むようならば聖槍グングニルを用いるまでもない。
次の戦いまで温存しておこう。
魔獣ポセイドンの足元に赤色の巨大な魔法陣が浮かび上がると空から一粒の光が舞い降りる。
そして蒼炎の光は周囲のエネルギーを吸収しながら圧縮されて行く。
次の瞬間、まばゆい閃光を放つと同時に圧縮されていたエネルギーが一気に解放された。
爆風が騎士団達を巻き込みながら放射状に広がって行く。
その衝撃で氷結していた海に亀裂が入り粉々に砕け落ちる。
サンドリア騎士団は海に投げ出されて溺れはじめる。
必死に氷塊に捕まり一命をとりとめた騎士もいる。
クロードもその一人でとりわけ大きい氷塊の上にいた。
エクスプロードの直撃を受けた魔獣ポセイドンは黒焦げになりながら沈黙している。
すでにグラシスの魔法は解かれスピカの効果も消えていた。
1×1000倍のエクスプロードの直撃を受けても、その姿を保っていることは上出来だが。
ダメージは計り知れないだろう。
すると、どこからともなくサンドリア軍の兵士達が口々に呟く。
「今度こそやったよな」
「ああ。やった。俺達はやったんだ」
「魔獣ポセイドンは動いていない」
「よっしゃー!俺達は勝ったんだ!」
「勝ったぞ!あの魔獣ポセイドンに勝ったんだ!」
サンドリア軍の兵士達はお互いの手をとりながら歓喜の声を上げる。
それは静寂の海を騒がすような轟きとなって。
「ふぅー。これで俺の働きも実になったと言うものだ。アラジン、この借りは必ず返すからな」
クロードは助かった騎士と固い握手をしながら勝利の余韻に浸った。
その中でも、ただひとりアラジンだけは答えを急がなかった。
魔獣ポセイドンが、この程度で倒されるとは思っていなかったからだ。
そしてそれは現実のことになる。




