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142「遠征②」

反撃の機会をるためにも作るためにも、まずは魔獣キマイラの動きを封じる必要がある。

1×100倍のダイヤモンドダストでは一瞬で弾かれてしまった。

ならば最上級魔法のドラゴンブレスではどうだろう。

エリザ以外の魔術師達ははじめて実戦で使うことになる訳だが。

息がぴったり合えば効果は絶大だが、息が合わなければ失敗に終わるだろう。

そんな大事な決断を今ここでしてもいいものか。

ルーン達プリ―ストのプロテクションもあと僅かしか持たないだろう。

プロテクションが破られたら私達も終わりだ。


「よし!エリザ、ドラゴンブレスを頼む!」

「私はいいけど、いきなり実戦で大丈夫なの?」

「やるしかないんだ。任せたぞ」


エリザは覚悟を決めると魔術師達と魔法の詠唱に入る。

その間にも止むことなく魔獣キマイラの炎と毒ガス攻撃が光りの壁を叩く。

ルーン達プリ―ストを見やると全力で魔力を集中させている姿が映った。

この間にもけん制攻撃は必要だ。

私はプリシア達に次の指示を与える。


「プリシア!酸倍弾で魔獣キマイラの装甲を溶かしてくれ!」

「装甲を溶かすだなんて、あんな大きい魔獣じゃ効かないよ」

「違う。弓部隊の矢に爆弾を括り付けて放つんだ。そうすれば少しは装甲を溶かせるだろう」

「そう言うことね。わかったわ。みんな、手伝って」


プリシアは荷物からあるだけの酸倍弾を取り出すと弓部隊に配りはじめる。

弓兵達は手際よく流れ作業で爆弾を受け取ると自分達の矢に酸倍弾を括り付けていく。

全部で100名分の酸倍弾の準備が整った。


「タクト、準備が出来たわ」

「よし。的は魔獣キマイラの左前足だ。ガルド達の攻撃が効くようにするんだ」

「みんな、聞こえたわね。それじゃあ行くよ!」


プリシアを先頭に爆弾をつけた弓兵達が弓を構える。

魔獣キマイラの左前足に狙いをつけると一斉に矢を放った。

矢はきれいな円弧を描きながら魔獣キマイラの左前足を捉える。

すると、酸倍弾が弾けて酸を周囲にまき散らした。

ジュワジュワと音を立て白い煙を上げながら魔獣キマイラの装甲が溶けて行く。

そして、肌蹴て魔獣キマイラの赤い地肌がむき出しになる。


「よし。狙い通りだ」


溶けた装甲は少しだが攻撃を集中させれば問題ない。

後は、そこにガルド達騎士団とラクレス達槍部隊の攻撃を集中させるだけだ。

魔獣キマイラを倒すまでには行かないがダメージを与えられるだろう。

すると、ルーンが悲鳴に近い声を上げた。


「タクトさん、もう持ちません!」


その言葉通りプロテクションは弾けて空に消え去ってしまった。

ルーン達プリ―ストは大きく肩で息をしながら呼吸を整える。

次に魔法を放つにも魔力を回復させる時間が必要だ。

エリザ達が魔法を放つにも、まだ時間がいる。

ここはガルドとラクレス達に頑張ってもらうしかない。


「ガルド、ラクレス!魔獣キマイラの左前足を狙って攻撃してくれ!」

「やっと出番か。さっきの借りは返してやるぜ!」

「我がグルンベルグ軍の力を見せつけようぞ!」


ガルドとラクレスが掛け声をかけると部隊の士気が一気に高まる。

そして剣と槍を掲げると魔獣キマイラの左前足を目指して駆けて行く。

それに反応するように魔獣キマイラの双頭の龍が毒ガス攻撃を仕掛ける。

ガルド達は散会して毒ガス攻撃をかわす。

しかし、双頭の龍は炎を吐く獅子と共闘しながらガルド達の行く手を阻んだ。


「こいつ。デカいのに反応が早いぜ」

「気を抜くなよ、剣士ガルドよ」

「わかってる」


ガルドは魔獣キマイラの攻撃をかわしながら左前足に詰め寄る。

そして、大剣を水平に構えると自らの体を回転させながら奥義を放った。


「お前に見せてやる。俺の新奥義を!奥義『大旋風!』」


ガルドの大剣は魔獣キマイラの左前足を捉えると斬撃が肉に食い込んで行く。

それは回転する風車のように連撃となって。


「オラオラオラー!」


魔獣キマイラの肉片が激しく飛び散りながら赤い血飛沫を上げる。

しかし、魔獣キマイラは攻撃の手を緩めない。

ガルドに向かって毒ガス攻撃を仕掛けて来た。

ガルドはすぐさま身を翻して間合いをとる。

次いでラクレスが奥義を放つ。


「見せてやる。我がグルンベルグ軍の神髄を。奥義『次元裂波!』」


ラクレスの構えた槍先を囲うように覇気の波が生まれる。

そして刺突を加えると覇気は渦となって魔獣キマイラの肉を抉り出した。

すぐさま双頭の龍が的を変えラクレスに襲いかかる。

ラクレスは槍を抜くと後方に飛びのいて間合いをとった。

連携するようにガルドが左の龍、ラクレスが右の龍を引きつける。

その間に騎士団と槍部隊が交互に魔獣キマイラの左前足に向かって必殺技を放つ。

しかし、獅子が反応をして騎士団と槍部隊の攻撃を妨げる。


「頭が三つあるのは厄介だな」


すると、戦いの様子を見ていたレイムが興奮しはじめる。


「先生、さすがですね!俺、感動しましたよ!先生、見ていてください。俺も爆裂剣を打ちこみます!」


そう宣言してレイムは剣を振りかざしながら真っすぐ魔獣キマイラの左前足へ向かって行く。

そして炎に纏った剣を構えると魔獣キマイラの左前足目がけて振り下ろす、と。

魔獣キマイラの尻尾が鞭のように撓り、レイムを弾き飛ばした。


「グハッ」


レイムは転がるように地面に叩きつけられる。


「レイムー!」


ガルドの声に反応するようにレイムが顔を上げる。


「先生、まだ俺は終わりませんよ。爆裂剣をお見舞いするまでは終われません」

「何だ、驚かせるんじゃねえよ」


レイムは剣を地面に突き刺して起き上がると構えなおす。


「これからが本番だ。先生、見ていてください、俺の爆裂剣を!」


隙をつくように魔獣キマイラの獅子が放った炎がレイムに迫る。

その時、小さな影が飛び出して来てレイムを突き飛ばした。


「プリシアさん……」


プリシアは魔獣キマイラの獅子が吐いた炎に焼かれて丸焦げになる。

それは一瞬の出来事で誰も防ぐことが出来なかった。

誰のせいでもない。

プリシアの勇気ある行動がそうさせたのだ。


「プリシアー!」


空間を裂くような断末魔が辺りに轟く。

プリシアは地面に叩きつけられピクリとも動かない。

ガルドはプリシアを助けようとするが双頭の龍に阻まれて近づけない。

ラクレスも同じで双頭の龍を対峙することで手一杯だった。

すると、プリシアに庇われたレイムがプリシアを担いでこちらに戻って来る。

そして泣きすがるようにルーンに頼み込んだ。


「プリシアさんを助けてください!俺のせいで。俺が無茶をするから」

「離れていてください。プリシアさんを助けます」


レイムはルーンに全てを任せて、隣で祈っている。

ルーンはすぐさま魔法の詠唱に入ると回復魔法を放った。


「聖なる光に包まれし蕾、睡蓮の華となりて、かの者達を潤せ『キュアレスト!』」


プリシアの下に金色の魔法陣が浮かび上がるとキラキラとした粒子がプリシアを包み込んで行く。

そして粒子がプリシアの体の中へ吸い込まれて行くとプリシアが息を吹き返した。


「ゴホッゴホッ」

「プリシア、大丈夫か?」

「タクト、何、そんなに悲しい顔をして」

「プリシア。よかった、よかった」


私はプリシアを包み込みように強く抱きしめる。

そんな私を見てプリシアは少し照れたように頬を赤らめた。


「私はもうちょっとこのままでもいいけど」

「何こんな時にイチャついているのよ。タクト、後でわかっているでしょうね」


エリザが鬼のような目で睨みつけて来る。

私は気を取り直すとエリザ達に指示を出した。


「エリザ!魔獣キマイラの動きを止めろ!」

「あーなんかムカつく。これもみんなあなたのせいだから!」


エリザは真っ赤な顔でプリプリ怒りながら魔法を放った。


「「古より戻りし蒼き龍、時の川を遡りて、空間の海を渡る、その力で永遠の約束を『ドラゴンブレス!』」」


魔獣キマイラの足元に巨大な青い魔法陣が浮かび上がると空が鈍色の雲に覆われる。

そして雲を裂くように青いドラゴンが顔を出すと凍てつくような冷気を吐く。

魔獣キマイラは一瞬でその体を凍らせて氷像へと姿を変えた。

私達は固唾を飲むように状況を見守る。

しかし、魔獣キマイラは沈黙したままで微動だにしない。


「今度こそやったか?」

「そのようだ」


1×100倍のドラゴンブレスには魔獣キマイラでも歯が立たないようだ。

これで魔獣キマイラの防御力も計れると言うもの。

魔法耐性はあるようだが1×100倍の最上級魔法なら効果が期待できると言うことだ。

攻撃は炎と毒ガスがメインだが気をつけなければならないのは蛇のような尻尾だ。

鞭のように自由自在に動かせる尻尾の一撃を食らえば大抵の人間は死んでしまう。

レイムの場合はたまたま当たりが弱かったから助かったようなもの。

硬い装甲も酸倍弾で溶かせることが証明できた。

これだけわかっただけでも十分だ。

後はこのまま撤退して戦術を練り直すことが必要だ。


「よし、情報は十分に集まった。みんな撤退するぞ!」

「何だよ。戦いはこれからじゃないか?こんなチャンスは滅多にないぞ。ここでとどめを刺してしまおうぜ」

「剣士ガルドよ、冷静になれ。こちらにも犠牲が出ているんだ。ここで撤退するのが懸命な判断だ」

「けどよ。こいつをこのままにしておいていいのか……おい、どうした?そんなに青い顔をして」


私達が話している後ろで魔獣キマイラの氷像に亀裂が走る。

そして氷を弾き飛ばしながら魔獣キマイラが息を吹き返した。


「魔獣キマイラが蘇ったぞ!」


騎士達は混乱しながら慌てふためく。

ラクレスは騎士達を制するように気合を入れる。


「皆の者、この槍を見よ!この槍は魔獣を打ち砕くために我が手にある。お前達が手にしている剣も魔獣を打ち砕くためにあるのだ!グルンベルグ騎士の誇りを忘れるな!」


ラクレスの言葉で我に返るグルンベルグ軍の兵士達。

自らの剣や槍を空に翳して雄たけびを上げた。

さすがは歴戦を駆け抜けて来たグルンベルグ軍の第一騎士団長だけのことはある。

絶望にも似た空気に包まれていた兵士達の気持ちを一瞬で変えてしまった。

これだけの統制力は私も見習うべきものがある。


「策士タクトよ。戦術を頼む」


さっきまでの考えを修正しなければならない。

1×100倍のドラゴンブレスをもってしても一時的に動きを止められただけだ。

他の最上級魔法を使っても同じ結果になるのは目に見えている。

ならばディレイで動きを完全に封じるのが有効的かもしれない。

そうすれば全員を連れて安全に撤退出来る。

しかし、ディレイをかけるプリ―スト達が残されることになる。

あくまで全員の撤退が目標だ。

プリシアの爆裂霧弾で視界を奪う方法も考えられるが三つの頭を持つ魔獣キマイラの視界を奪うのは至難の業だろう。


「タクト、さっきから難しい顔をして。考えるまでもないだろう。ここであいつを殺っちまうんだよ」

「ガルドはいつも無茶なことばかり言うわよね。タクトが困っているじゃない」

「無茶なことなんかあるか。俺達はそれで乗り切って来ただろう」

「ですけれど、それは私達だけでしたからそうできたのですわ。今はみなさんが一緒なんです」

「ガルドの負けだね。それでタクト、作戦は?」


もう一度、ドラゴンブレスを放って動きを止めるしかないか。

しかし、同じ攻撃が効くとは限らない。

知性の高い魔獣キマイラなら何かしら対策を立てて来るはず。

それでも。


「よし。もう一度、ドラゴンブレスを使う。ルーン、さっきと同じようにプロテクションの壁を創ってくれ。その代りプロテクションを張るのは50名に押さえる。残りの者はスピカをかけてくれ」

「スピカと言えば耐性を無効化する魔法ですね」

「そうだ。魔法耐性効果を無効化できれば凍結の効果も長くできる。その間に全員で撤退する」


問題は1×50倍のプロテクションでどこまで魔獣キマイラの攻撃を防げるかだ。

さっきの半分ならすぐに打ち破られてしまうだろう。

そのためにもガルド達がいる。


「なら、俺達は魔獣キマイラを引きつけておけばいいんだな」

「理解が早いじゃないか、ガルド」

「タクトとは付き合いが長いからな」


ガルド達が魔獣キマイラを引きつけてくれればエリザ達の詠唱時間を稼げる。

しかし、何の支援もない上での戦闘だ。

ガルド達の危険度は上がる。


「私達はガルド達を支援すればいいのね」

「そうだ。攻撃は弾かれてしまうだろうが狙いを変えれば効果は期待できる」

「目を狙うんでしょ?」

「勘がいいじゃないか、プリシア」

「タクトの考えそうなことくらいわかるわ」


ここに移動式大砲がないことが悔やまれる。

移動式大砲があればプリシアももっと活躍できただろう。

それは本番に取っておくとして。

今は目の前の課題に取り組むだけ。


「それじゃあ、みんな頼む!」

「任せておけ」

「私達なら出来るわ」

「タクトさんの考えた戦術ですもの」

「信じているからね」


ガルド達が私の戦術に賛同してくれる。

すると、その様子を見ていたラクレスが告げた。


「策士タクトは名手だな。こんなにも仲間達から信頼されているのだからな」

「ラクレス程ではないよ」

「私も、この槍に誓おう。必ず生きて帰ると」


ラクレスはそう言うと魔獣キマイラと向き合う。

その隣にはガルド。

続くように騎士団も槍部隊達も武器を構えた。


「再戦の開始だ!」


私の合図と共にガルド達が魔獣キマイラに向かって行く。

それを後方から支援する形でプリシア率いる弓部隊が矢を放つ。

その後ろでルーン達プリ―ストとエリザ達魔術師部隊が魔法の詠唱に入った。

これで志雄が決するはずだ。

生き残るのは私達か魔獣キマイラか。


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