141「遠征①」
お待たせしました。
今日はちょっと早めの投稿です。
サミトスの街に来てから一週間後。
あれだけ荒れていた天候はすっかり回復し、青空が覗いている。
大地は雪で覆われていたがグルンベルグ軍の駐屯地は無事だった。
タクトの考えたアイデアが功を奏したようでグルンベルグ軍はひとりも欠けることもなく寒さを乗り切っていた。
「これからアレギスタ連山へ向けて出立するのだが部隊を三つに分けることにした」
「部隊を分けるってどういう按配だよ?」
「雪山で大人数での移動は困難だ。だから部隊を三つに分けて小隊を編成するんだ」
「それはいいが、魔獣と出会った時はどうするんだ。ただでさえ戦力が弱いのに」
「これはあくまで魔獣の実力を図るためのものだ。危険とあらばすぐに撤退する。その上でも小隊の方が都合がいい」
ラクレスの判断は的確だ。
ただでさえ環境が悪い状況で戦闘をするのだ。
いざと言う時のことを考えて対策を立てていた方がいい。
小隊であれば機動力が期待できる。
それに統制もとりやすい。
ラクレスが選出した第一部隊のメンバーは次の通りだ。
「各騎士団から50名ずつ。魔術師部隊、プリ―スト部隊、弓部隊、槍部隊がそれぞれ100ずつの計750名だ」
「そんなちっぽけにして大丈夫なのかよ?」
「大丈夫だ。第一部隊は主力メンバーを加えるつもりだ」
2千700の部隊から考えれば3分の1程度だが、その方が都合がいい。
第二部隊は騎士団350名と魔術師部隊、プリ―スト部隊が100ずつ、弓部隊、槍部隊がそれぞれ200ずつの計950名。
第三部隊は残りの魔術師部隊、プリ―スト部隊300と弓部隊、槍部隊200ずつの計1000名だ。
第二部隊は後発隊として第一部隊の後を追ってもらう。
第三部隊は待機用員としてサミトスの街の残ることになった。
「主力ってことはもちろん俺のことだよな」
「剣士ガルドだけではない。魔法使いエリザ、プリ―ストルーン、爆弾使いプリシアにも加わってもらう」
「まあ、俺達を外したら作戦は失敗するけどな。ガハハハ」
ガルドは誇らしげに笑ってのけた。
ここへ来てのガルドの楽観的な態度には救われる。
ただでさえ魔獣を相手にすることに対して死を覚悟している者が多い。
部隊の空気は重くどんよりした雰囲気が漂っていた。
とりわけ第一軍に選ばれた兵士はみな暗い顔をしている。
昨晩は宴会ぶりが嘘のようだ。
「何、お前達、暗い顔をしているんだ。そんなんじゃ殺されに行くようなものだぞ。もっと気合を入れろ!」
「先生のおっしゃる通りです。皆さん気合を入れてください。今から尻込みしていたら勝てるものも勝てません」
「って。レイム、お前も第一軍に選ばれたのか?」
「はい!先生のおかげです」
ガルドは頭を抱えながら大きく項垂れた。
よりによってレイムが第一軍に選ばれるなんてラクレスの人選は間違っているのではないのかとさえ疑いたくなる。
ラクレス曰く、レイムは爆裂剣では他の者を追従しないほど極めているからのことだった。
まあ、いないよりマシぐらいに捉えておいた方がいいだろう。
ガルドもレイムの尻拭いをさせられそうな雰囲気だった。
「それでは第一部隊はアレギスタ連山へ向けて出立する!後発隊の第二部隊は明日の朝に出立してくれ」
ラクレスを先頭に第一部隊が移動をはじめる。
馬車は使わずに犬ぞりに荷物を運ばせる。
犬ぞりはサミトスの街で用意してくれたものだ。
騎士達はもちろん徒歩でアレギスタ連山へ向かった。
アレギスタ連山に差し掛かっても景色は白一色。
大地も樹々も山々も深い雪で覆われている。
第一部隊は山の麓をうねるように通りながら奥へと向かう。
さすがに雪深いだけに体力の消耗が激しい。
私達はこまめに休憩をとりながら奥へと進んだ。
「あれから一時間は歩いているけれど魔獣がぜんぜんいないじゃないか。俺達に恐れをなして逃げたのか?」
「一時間と言っても雪道だ。そんなに前へは進んでいないぞ」
「そのようね。まだ、サミトスの街が見えるもの」
エリザが後ろを振り返ってみるとサミトスの街が小さく見えていた。
魔獣が潜んでいる場所はもっと山奥のはずだ。
でなければ今頃出会っていてもおかしくない。
それにしてもここまで来ただけですっかり兵士達は疲労困憊の様子。
これは思っていた以上に厳しい旅になりそうだ。
「なあ、エリザ。魔法でこの雪を何とかしてくれよ。これじゃあ歩きづらくて仕方がない」
「言っておくけどね、ガルド。私の魔法はそんなことに使うためにあるんじゃないから」
「エリザの言うこともわかるが、こんな所で魔法を使えば魔獣に、こちらの居場所を知らせるものだ。警戒されても分が悪い。まずは魔獣に気づかれずに近づく必要があるのだ」
エリザは怒りながらそっぽを向いている。
その横でガルドは不服そうな目で私を見やる。
そんな目をされても出来ないものは出来ない。
これだけの雪を解かすのにファイヤーウォールを何度もかけ続けなければならない。
一気に溶かそうと思ってエクスプロードを使った日には雪崩が起きるかもしれないのだ。
雪崩にでも巻き込まれたらひとたまりもない。
雪山は考えている以上に危険な場所なのだ。
すると、先頭のラクレスが歩みを止めた。
「あそこに何か見えるぞ!」
ラクレスの指を指した方向を見やると大きなこんもりとした雪山が見えた。
それは山と言うよりも巨大な生き物が雪に覆われているような姿をしている。
「あれが魔獣キマイラか」
「そう見て間違いないだろう」
「にしてもデカ過ぎやしないか?」
見たところ全長で50メートルはありそうだ。
雪を被って丸まったまま沈黙をしている。
体力を温存させているのか冬眠でもしているのか。
いずれにせよ近づくチャンスであることには変わりない。
私達は魔獣キマイラに気づかれないように静かに近づいて行った。
近づいてみると、その大きさがはっきりとわかった。
獅子の頭の上に双頭の龍の頭がついている。
体は山羊で尻尾は蛇だ。
幾つもの魔物の体を合わせて出来ているような不気味なフォルムに悪寒が走る。
私達は散会しながら魔獣キマイラに近づいて行く。
騎士団350を最前列に槍部隊、弓部隊と続く。
魔法部隊とプリ―スト部隊は後列に陣取っていた。
「策士タクトよ。戦術はあるか?」
相手がどんな攻撃をするのかわからない以上、戦術の立てようがない。
だから、けん制攻撃をしかけるのが懸命だろう。
敵の反撃を予想した隊列を組む必要がある。
この人数なら王の陣形が丁度いい。
王の陣形はその名の通り三列に兵を配置する陣形のこどだ。
まず、最前列は騎士団で決まりだ。
騎士団は鎧を身に着けているうえ防御力もそこそこある。
騎馬隊ほどの機動力はないが、カウンター攻撃にはすぐに反応できる。
両脇を固めるのは槍部隊だ。
騎士団よりリーチが長い槍部隊は間合いをとりながら攻撃できる。
敵の攻撃にも素早く対応できるだろう。
騎士団の後ろは魔術師部隊とプリ―スト部隊だ。
攻守ともに騎士団や槍部隊を支援できるだろう。
そして一番後方に弓部隊を配置する。
弓部隊は部隊の中で一番射程が長い。
後方からでも十分敵に攻撃できる。
私は考えた戦術をラクレス達に説明する。
すると、部隊はすぐさま王の陣形に並び変わった。
「まずは弓部隊でけん制攻撃をしかける。弓部隊、構え!」
「ちょっとタクト。それは私の仕事よ」
「ああ、すまない。つい力んじゃってな」
弓部隊の指揮をとっていた私にプリシアがツッコミを入れる。
そして、仕切り直してプリシアが指揮をとった。
「みんな、けん制攻撃を仕掛けるわよ。構えて」
プリシアの合図で弓部隊が弓を引く。
そして、
「放て!」
プリシアの掛け声と共に矢を放った。
矢はきれいな放物線を描いて魔獣キマイラに向かって飛んで行く。
しかし、矢は魔獣キマイラの固い装甲に弾かれてしまう。
「プリシア。普通の攻撃ではダメだ。矢に炎の魔法を帯びさせるんだ」
「わかったわ。エリザ、お願い」
「炎の魔法ね。了解。みんな行くわよ!」
エリザ達は弓部隊に向かって両手を前に突き出し詠唱に入る。
武器に魔法を帯びさせることは死神戦で実証出来ている。
しかも魔鉱石を使った矢ならなおのこと相性がいい。
ログ達に大砲を造る傍ら兵士達の武器を鍛え直してもらったのだ。
もちろん純魔鉱石製ではなく武器の上から魔鉱石を被せるような造りになっている。
魔法を帯びさせることが目的なので、それでも十分なのだ。
まだ、弓部隊の矢しか鍛え直せていないが、本番では全て揃える手はずになっている。
「「爆炎より生まれし炎、灼熱の炎となりて、大地に降り注げ『ファイヤーボール!』」」
エリザ達魔術師部隊の足元に赤い魔法陣が浮かび上がると赤く滾った火球が両手の前に現れる。
その火球を空に掲げてから私に合図を送るエリザ。
「準備は出来たわよ」
「よし、プリシア。弓部隊に火球を貫くように矢を放て。そうすれば矢に炎の魔法が宿る」
「みんな聞いたわね。火球を貫くように矢を放つのよ!」
プリシアの合図で弓部隊は魔術師部隊が造り出した火球に照準を合わせる。
そして一斉に矢を放った。
弓部隊が放った矢は火球を貫くと炎を纏いながら魔獣キマイラに向かって飛んで行く。
炎を纏った矢は魔獣キマイラに直撃すると炎を辺りにまき散らす。
そして魔獣キマイラを覆っていた雪を溶かし魔獣キマイラの獅子の顔が露わになった。
「あれが魔獣キマイラの素顔か」
すると、ゴゴゴと鈍い地鳴りと振動が足元を揺らし、魔獣キマイラが立ち上がる。
それまで雪像と化していた魔獣は目覚めて私達に覇気を放って来る。
それは背筋を瞬間に凍らせるような恐ろしい覇気だ。
兵士達はその覇気に押されて思わず後ずさりした。
「魔獣が目覚めたぞ!」
「オロカナニンゲンタチ。ココヘナニヲシニヤッテキタ」
「魔獣が喋ったぞ!」
魔獣キマイラは大地を揺すぶるような低い声で問いかけて来る。
兵士達からどよめきが湧き立ち、混乱しはじめる。
やはり予想していた通り魔獣は人語を理解しているようだ。
すると、ラクレスが一歩前に出て魔獣キマイラに話しかけた。
「我が名はラクレス・グランフォード。グルンベルグ王国の第一騎士団長だ。そなたの存在は我々人間にとって脅威でしかない。だから、その命もらいうける!」
「コリナイレンチュウダ。ワガチカラノマエニメッセ」
魔獣キマイラの獅子が口を開くと業火に焼ける炎を吐き出す。
その炎は辺りの雪を溶かし前衛の騎士団へ向けられた。
ガルド率いる騎士団はたまらずに後退をはじめる。
私は部隊全体を後退させて間合いをとった。
「何だよあいつは。炎を吐くのか!」
「恐れるな。以前、魔窟で戦った火竜と同じだ。ただ、規模がデカいだけの違いだ」
「規模がデカいって。あんなの反則だぜ」
ガルドは魔獣キマイラの吐き出した炎を尻目に弱音を吐く。
確かに全長50メートルほどある魔獣から吐き出された炎だ。
一個小隊を一瞬で焼き尽くせるほどの威力はある。
しかし、怯んでばかりもいられない。
まだ、戦いははじまったばかりなのだ。
「ルーン。プロテクションで魔獣キマイラの炎を防ぐんだ!」
「わかりましたわ。みなさん、行きましょう!」
ルーン達プリ―スト部隊は胸の前で両手を組むと詠唱に入る。
プロテクションでどの程度、魔獣キマイラの炎を防げるのかはわからない。
魔法攻撃ではないのでプロテクションが有効なのだが、強度が持つかわからない。
なにせ部隊を三つに分けたからプリ―ストは100名しかいない。
1×100倍のプロテクションでいけると踏んでいるが。
念には念を入れておいた方がいいだろう。
私は次いでエリザ達に指示を出した。
「エリザ。ダイヤモンドダストで魔獣キマイラの炎を打ち消せ!」
「そんなこと出来るの?」
「やれるかやれないかじゃない。やるんだ!」
「もう、強引なんだから。みんな行くわよ!」
エリザ達魔術師部隊は両手を前に突き出しながら詠唱に入る。
同程度のランクの魔法ならばお互いに打ち消し合うことも可能だ。
しかし、魔獣キマイラの炎は魔法ではない。
その上かなりの破壊力だ。
1×100倍のダイヤモンドダストで打ち消せるのかは実験してみないとわからない。
これはあくまで魔獣キマイラの力を確かめるための戦いであることは忘れてはならない。
ガルド達騎士団は魔獣キマイラの炎にたじろぎながらも剣で威嚇をしている。
それはラクレス率いる槍部隊も同じであった。
「タクト。これじゃあやられっぱなしだぜ。何か策はないのかよ!」
「ガルド。今は耐えてくれ。必ずチャンスを創る」
「そう言うことだ。剣士ガルドよ。ここは我らの底力を見せる時だ!」
ラクレスが剣を気合を入れると槍部隊達の士気が上がる。
さすがは第一騎士団長だけのことはある。
不利な状況に陥れば士気は必然と下がるものだが、ラクレスは槍部隊の士気をがらりと変えてしまった。
それだけラクレスが兵士達から信頼されている証拠だろう。
ガルドにも少しは見習ってもらいたいところだな。
するとルーン達プリ―ストの詠唱が終わり魔法を放った。
「「天より降り注ぎし光、星光の束となりて、かの者を守らん『プロテクション!』」」
ガルド達騎士団の足元に金色の魔法陣が浮かび上がると巨大な光の壁が競り立つ。
その光の壁は幾重にも重なり強度を増して行く。
そして魔獣キマイラの吐く炎を弾き返す。
しかし、魔獣キマイラの炎が強くて光の壁が激しく振動している。
「大丈夫……なのか?」
1×100倍のプロテクションでも、この威力。
ただのプロテクションならば一瞬でかき消されていただろう。
けれど、長くは持ちそうにもなさそうだ。
魔法を放っているルーン達プリ―ストも全力で魔力を注ぎ込んでいる。
次いでエリザ達魔術師が魔法を放つ。
「「零氷が紡ぎし雫、氷雪の飛礫となりて、空間を切り裂け『ダイヤモンドダスト!』」」
魔獣キマイラの足元に青い巨大な魔法陣が浮かび上がると空気中の水分が氷に変わりはじめる。
パチパチと音を立てながら白い冷気を放ち足元から魔獣キマイラを氷像へと変えて行く。
魔獣キマイラが吐いていた炎も形をとどめて氷と化す。
すると、兵士達の中から歓声が湧き起った。
「やったぞ!魔獣キマイラを凍らせられた」
「これで俺達の勝利だ!」
その中でラクレスだけは冷静に状況を見極める。
「まだ喜ぶのは早い」
魔獣キマイラを覆っていた氷に亀裂が入ると一瞬で氷が弾け飛ぶ。
そして魔獣キマイラは何事もなかったかのように姿を現した。
「やはり100倍のダイヤモンドダストでは効かなかったか」
「これじゃあ埒が明かない。おい、お前ら脇から回り込むぞ!」
ガルドは私の指示を待たずに勝手に騎士団に指示を出す。
光の壁を避けながら魔獣キマイラの側面へと回り込む。
そして大剣を振りかざしながら魔獣キマイラに切りかかって行った。
「これでも食らいやがれ『爆裂剣!』」
ガルドの爆裂剣が魔獣キマイラの足元を捉える。
しかし、硬い装甲に阻まれて弾かれてしまう。
「ちぃ。何て硬い装甲だ」
追従するように騎士団も爆裂剣を放つ。
数多の爆炎が魔獣キマイラの足元を捉えるが全て弾き返されてしまった。
やはりただの爆裂剣ではこの程度か。
すると、魔獣キマイラが反撃をして来る。
両肩の双頭の龍が大きな口を開けて毒ガスを吐き出す。
「うわっ!何だ、これは?」
毒ガスを吸い込んだ騎士達は激しく咳き込みはじめる。
そして大量の油汗を流して青い顔に変わると、その場に倒れ込んだ。
他の騎士達は混乱をはじめて光の壁の内側へと逃げ戻る。
ガルドは倒れた騎士を担ぎながら逃げ帰って来た。
「炎の攻撃に毒ガス攻撃。魔獣キマイラに死角はないのか」
私は底知れぬ魔獣キマイラの力に一抹の不安を覚えた。
「タクト+グルンベルグ軍VS魔獣キマイラ」と「アラジン+サンドリア軍VS魔獣ポセイドン」のどちらを先に書こうか迷ったのですが、「タクト+グルンベルグ軍VS魔獣キマイラ」を先にしました。




