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140「帰還」

サンドリア王国に戻ったアラジンはブレックス国王から歓迎された。

それは約束通り聖槍グングニルを持って帰って来たからだ。

しかし、アラジンはクロードを問い詰めていた。


「聖女と魔水晶はどうしたのだ?お前達に預けたはずだぞ」

「聖女と魔水晶はグルンベルグ王国の手の者によって奪われた」

「グルンベルグ王国だと?」

「グルンベルグ王国の国境付近に盗賊の変死体が見つかった。その盗賊がグルンベルグ王国の紋章を持っていたのだ。おそらくダゼル国王の命令で聖女と魔水晶を奪いに来たと思われる」

「確かではないのだな」


アラジンがひと睨みするとクロードは口を噤んだ。

クロードの言う通りグルンベルグ王国が絡んで来る可能性も否定できない。

しかし、グルンベルグ王国の息のかかった盗賊が殺されたのならば、他の別の人間が聖女と魔水晶を奪ったと言うことになる。

それは誰だ。

ヴェズベルト王国の者達と奪い合いになったのだろうか。

今は考えてもわからない。

とにかく聖女と魔水晶はもうここにはないのだ。


「この責任をどうとるつもりだ、クロード」

「そ、それは……」

「グルンベルグ王国が介入していたことで済ませるつもりだったのか?」

「くっ……」


図星だったようだ。

クロードは顔をしかめたまま奥歯を噛み締めた。

しかし、聖女と魔水晶がなくなったのは大きな損失だ。

魔獣に対抗できる力を失ったのだからな。

すると、ブレックス国王が話題を変えて来た。


「それよりもアラジンよ。その手にしているものが聖槍グングニルなのか?」

「そうだ。こいつが聖槍グングニルだ」


アラジンは聖槍グングニルを包んでいた布を剥ぎ取る。

聖槍グングニルはキラキラと輝きながら、その姿を現した。

ブレックス国王は目を輝かせながら聖槍グングニルを見つめる。


「素晴らしい。さすがはアラジンだ。伊達に盗賊をして来ただけのことはない」

「私に任せておけばこんなものだ」


その横でクロードがしかめっ面を浮かべながら様子を見ていた。


「聖槍グングニルがあれば天下をとったようなものだ。世界の覇権は我がサンドリア王国が握る」

「そのためにも魔獣を討伐する必要がある。世界の脅威となっている魔獣を討伐すれば、その力を世界に示せることが出来る。天下統一はそれからの話だ」

「さすがはアラジンよ。抜け目がないな」


まあ、ブレックス政権も、これで終わることになるのだけどな。

その為にも厄介者を排除しなければならない。

先のサウスブルー侵攻作戦ではクロードの息のかかった騎士団長達は始末した。

残るはクロード、ただひとり。

クロードの息のかかった大臣達もいるがブレックス国王の傀儡でしかない。

実権もなければ、発言権も持ち合わせていない。

ブレックス政権を打倒した後で足で使ってやることにする。


「まずは魔獣ポセイドンを始末しに行く。クロードにはサンドリア軍を統率してもらいたい」

「何を企んでいるんだ、アラジン。私に軍を率いろだなんて、貸しを作ったつもりか?」

「どうとらえてくれても構わない。だが、名誉を挽回できるチャンスでもあるがな」


クロードには首を縦に振ってもらわなければならない。

嫌だと断っても強引に従わせるつもりではあるが。


「魔獣を相手にするのだ、サインドリア王国きっての手練れが必要になる。クロードは第一騎士団を率いて来ただけの実績がある。それを見込んでの話だ。悪くはないだろう」

「……」

「クロードよ、何を躊躇っているのだ。これは聖女と魔水晶を奪われた失態の責任をとるためのものだ。お前に選択権はない。アラジンと共に魔獣討伐に向へ」


ブレックスの決断でクロードのサウスブルー行きが決まった。

クロードは終始、納得していない様子だったが反論もしなかった。

それだけ聖女と魔水晶を奪われた失態が大きかったからだろう。

まあ、これで厄介者のクロードを始末出来る。

もちろん魔獣討伐には役立ってもらうが。


「先の敗戦の結果からわかるように戦力は最大限に増やさねばならない。サンドリア王国の総力を終結させてくれ」

「わかった。用意しておこう」


アラジンの要求にクロードは素直に応じる。

しかし、どことなく不信感を抱いていることは否めなかった。

その強く握られた拳がその証だ。

よほどアラジンに主導権を握られているのが許せないのだろう。

まあ、クロードはただの捨て駒でしかない。

せいぜい前線で奮闘してくれよ。

アラジンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。





クロードは自室に籠り、ひとり憤慨していた。

これが怒らずにはいられないだろう。

アラジンに出し抜かれたばかりか、主導権まで握られてしまった。

これも聖女と魔水晶を奪われたことがはじまりなのだが。

そもそもアラジンが聖女と魔水晶を奪って来なければなかった話なのだ。


「盗賊の分際で私に命令をするなど、あってはならない話だ」


アラジンの目的はブレックス政権を倒し、サンドリア王国を奪い取ることに違いない。

先のサウスブルー侵攻作戦でも多くの同士達が殺された。

今回もクロードを始末するために企てた作戦なのだろう。

このままではアラジンの思う壺だ。

ブレックス政権を討ち取るのはクロードでなければならない。

クロードは思考を巡らせて回避策を捻り出す。


「魔獣討伐でアラジンを始末する方法は……」


命令無視ではこちらが殺れてしまう。

先のサウスブルー侵攻作戦のように。

聖槍グングニルの実力がわからないうちは下手に手出しは出来ない。

ならば、魔獣討伐に向かう前にアラジンを始末するしかない。

今、アラジンはブレックス国王と祝杯を上げている。

酒に酔って眠り込んだところを一突きで殺るしかない。

クロードは引き出しから小型のナイフを取り出す。


「いくらアラジンと言えども、酔っぱらって眠っていては反撃は出来ないだろう」


部下にアラジンの暗殺を任せることもできるが、捕まった時のことを考えると自分で殺るのがいい。

それに確実にアラジンを殺した証明が欲しいからな。

アラジンのような不敵な輩は始末するに限る。

クロードは小型のナイフを月明りに照らしてニヤリと笑った。





アラジンは宴会を終えて自室のベッドで横になっていた。

久しぶりに飲んだ酒は至極体に染み入る。

重力に引かれるように意識がだんだんと遠くなって行く。

このまま眠りの落ちれば、朝まで起きないだろう。


「フッ、フフフ。フハハハ」


静かな部屋にアラジンの笑い声が響き渡る。

これが笑えずにはいられないだろう。

聖槍グングニルを手にして無事に戻って来たのだからな。

普通ならあり得ないことだ。

エルフ王に捕まり、国外へ出国されるはずだったのだ。

ミーナを味方につけたのは良い判断だった。

ミーナがマグフィニスの洞窟まで案内してくれたから聖槍グングニルを手に出来た。

あの時、エルフ王はアラジンがミーナを殺すと思ったのだろうか。

やけに素直に聖槍グングニルを手放した。

まあ、エルフ王が剣を振るってきたらなかった選択でもないのだが。

アラジンは窓の外に浮かぶ月に想いを馳せた。


それから一時間。

アルコールの回った体と脳はアラジンを深い眠りに誘い込む。

旅の疲れもあってかアラジンはすぐに眠りに落ちた。


そしてしばらくしてからアラジンの部屋の扉が静かに開く。

覆面を被ったクロードが静かに部屋に入って来たのだ。

クロードはベッドで休んでいるアラジンに駆け寄って行く。

そして小型のナイフを取り出すと力いっぱいベッドに突き刺した。

小型ナイフから当たりの感触がない。

クロードは布団をはぎ取って中を確認した。


「いない!」

「寝込みを襲うなんて、随分物騒じゃないか」


アラジンは暗がりから拍手をして姿を現した。


「これがサンドリア王国のやり方なのか?クロードさんよ」


アラジンの指摘にクロードはたじろぎながら後ろに下がる。

そして小型ナイフを構えて体制を整えた。


「ふーん。私を殺ろうってのかい?いいだろう、相手になってやる」


アラジンはテーブルの上にあった果物ナイフを手に取って構える。


「どこからでも来い」

「……」


クロードが踏み出し小型ナイフをアラジンに切りつける。

アラジンはひょいと身をかわしてクロードの攻撃をかわす。

そして、すぐさまクロードの懐に入ると首元に果物ナイフを突きつけた。

ものの数秒の出来事だった。


「勝負あったな」

「くぅ……」


観念したのかクロードは小型ナイフを手放す。

そしてアラジンは床に落ちた小型ナイフを足蹴に弾き飛ばした。

サンドリア王国の第一騎士団長の割には弱過ぎる。

寝込みを襲うこともさることながら、剣術もしかりだ。

まあ、暗殺なんて騎士団では行わなかったのだろうが。

それにしてもお粗末だ。

失敗した時のことを考えなかったのだろうか。

それよりも考える余裕すらなかったとも言える。

よほどアラジンを脅威に思っているのか。

アラジンはゆっくり果物ナイフを引き離すと告げた。


「今夜のことはなかったことにしてやる。その代り魔獣討伐では十分に働いてもらうからな」


クロードは奥歯を噛み締めてそそくさと部屋を後にした。

これでまたクロードに貸しが出来たと言うもの。

しかし、クロードが素直に命令に従うのかは怪しい。

先のサウスブルー侵攻作戦のように命令無視をする可能性もある。

そうなったらそうなったで殺してしまえばすむ。

使えない手駒はとっとと排除すべきものなのだ。





翌朝。

サンドリア城の会議室で作戦会議が開かれた。

参加したのはクロードをはじめとする新しい騎士団長達とブレックス国王。

此度の作戦はサンドリア王国あげての戦いになるので国王も参加したのだ。


「これから魔獣ポセイドン討伐の作戦会議をはじめる。まず、こちらの戦力を教えてくれ」

「サンドリア軍の勢力は軍艦が10隻と母艦が1隻です。軍艦には騎士団2000と魔術師2000、プリ―スト1000の計5000です」

「内訳は騎士団の軍艦が4隻と、魔術師の軍艦が2隻、プリ―ストの軍艦が2隻になる訳だな」


アラジンはサウスブルー領域の海図を見ながら作戦を考える。

魔獣ポセイドンは先の戦いから遠隔攻撃をすることがわかっている。

トライデントから水龍閃と言う水流を放つ。

その威力は一撃で軍艦に穴を開けるほどのものだ。

迂闊に近づいても魔獣ポセイドンの思う壺だ。

ならば八角宝珠の構えで陣形を組むべきか。

八角宝珠とは偉い僧が持っていた杖のこと。

その杖の断面が八角状だったことから名前がついた。

八角宝珠の構えとは八角状に軍艦を配置する。

中心になる母艦を守る構えのひとつなのだが、四方八方からの攻撃にも強いのが特徴だ。

前線の2隻にプリ―ストの軍艦を配置する。

そして両サイドに魔術師の軍艦を4隻。

後方は騎士団の軍艦を4隻配置だ。

中心に母艦と騎士団の軍艦を2隻ずつ。

これで八角宝珠の構えは完成する。

陣形はこれでいい。

後は魔獣ポセイドンの水龍閃対策だ。


まず、プリ―スト部隊にプロテクションをかけて進軍させる。

プロテクションで水龍閃を防げるのかはわからないが、これしか対抗手段もない。

そして魔術師部隊に炎系の最上級魔法であるエクスプロードを放ってもらう。

魔獣ポセイドンが水の属性を持つのならば大ダメージが期待できる。

そして魔獣ポセイドンが怯んだところを騎士団で総攻撃だ。

騎士団の攻撃がどの程度効くのかはわからないが、目いっぱい働いてもらおう。

後は聖槍グングニルでとどめを刺すだけ。

はじめから聖槍グングニルを使う方法もあるが、それではつまらない。

クロードには活躍してもらわなければならないからな。

アラジンは考えた戦術を詳しく説明して聞かせた。


「さすがはアラジンだ。先の二の舞は踏まないだろう」

「しかし、なぜ聖槍グングニルを最初から使わないのだ?聖槍グングニルがあれば魔獣を封印させることができるのだろう?」

「聖槍グングニルとて万能ではない。魔獣に効かなければ、こちらが全滅することになることも考えられる。だから、まずは魔獣を弱らせることが肝心だ」


アラジンの説明に騎士団長達は唾を飲み込む。


「八角宝珠の構えは本当に効果的なのか?先のサウスブルー侵攻作戦では全滅したのではないのか?」

「確かに先のサウスブルー侵攻作戦では全滅させられた。しかし、それは陣形を崩されたからだ。突然、出現した魔獣ポセイドンに対応できなかったことが敗因だ」


本当はアラジンが味方を全滅させたのだが。

それを知る者はアラジン以外誰もいない。

だからどんな嘘を言ってもまがり通るのだ。

まあ、魔獣と戦った経験がないため本当に八角宝珠の構えが効果的なのかはわからない。

しかし、今与えられた条件で考えられる最高の戦術であることには違わないのだ。


「お前達、心配するでない。アラジンは策士だ。戦術をアラジンに任せておけば勝利は見えたのも同じ。魔獣とて敵わないだろう」

「この戦術がうまく行くかはお前達の手にかかっている。私を信じてついて来てくれ」


アラジンが騎士団長達に同意を求める、と。

暫しの沈黙の後、騎士団長達から声が上がった。


「これは我がサンドリア王国をあげての戦いだ。勝利は我々の手にあるのだ!」

「そうだ。魔獣ポセイドンを討伐してサンドリア王国の強さを示すのだ!」

「これからは我がサンドリア王国が世界の覇権の握る!」


騎士団長達は声高に思い思いのたけを叫ぶ。

すぐにやって来る絶望に気づくこともなく。


「我々は世界の覇権を手にする。それはサンドリア王国の明日を創ることになるだろう。皆の者、我に従え!」


気合を入れるアラジンに応えるように騎士団長達は意志を統一した。

そんな騎士団長達を尻目にクロードは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

アラジンはそんなクロードを横目に見ながら確信を持った。

これでサンドリア王国の騎士団達の心は掌握出来た。

後は戦場で散りとなって働いてくれるのを待つだけ。

ひとり反発しているクロードも戦いの中で飲まれて行くだろう。

大きな波には逆らえないものだ。


「これで世界の覇権を手にする日も近い」


アラジンは歓声が湧き起る中、ひとり勝利を確信した。

サンドリア王国を乗っ取り世界の覇権を手に入れる。

それはアラジンの掲げた大きな目標だ。

それを果たすことでこれまで犠牲になって行った者達が救われる。

戦場に散った盗賊団もドミトスも。

勝利は犠牲の元に成り立つものだ。

今回の戦いでも多くの犠牲者が出るだろう。

しかし、それは世界の覇権を掴むための犠牲でしかない。

クロード達、サンドリア軍達は、その糧になるだけ。

人の反発を買いそうな言い分だが、それは変えられぬ心理。

勝者がいれば敗者がいる。

その敗者になるのはアラジンの策に溺れたブレックス国王。

そして、サンドリア軍なのだ。

全てはアラジンのもとに帰す。


今週はワクチンの副反応につぶれていました。

貯金が底をついたので毎日更新できなくなります。

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