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139「サミトスの街、再び」

先発達は1週間をかけてサミトスの街までやって来た。

相変らずサミトスの街は雪で覆われていて凍えるほどだ。

先発隊の全てを収容できないので寄宿舎は街の隣に建設。

作戦本部だけサミトスの街の宿屋の大広間を利用させてもらった。


「相変わらず、ここは寒いな」

「今はちょうど寒気が流れ込んで来ているんだよ」


ガルドは暖炉の前にでガクガク震えながら暖をとる。

宿屋の主は外から運んで来た薪を暖炉の横に置いた。


「だとすると山は荒れているってことか?」

「アレギスタ連山は暴れ山として有名な所だ。すぐに天候が変わって旅人を迷わせる。地元の人間でも不用意に近づかない危険な山だ」

「だから、魔獣が封印されたのだな」


不安げに外を見やりながら話す宿屋の主。

話の通り風が強くなりはじめ風が窓ガラスを叩く。

ラクレスは確かめるように宿屋の主を見やった。


「そうだ。あんたら本気であの山に行くのかい?」

「もちろんだ。魔獣を野放しにしてはおけない」

「騎士様達は大変だな」


宿屋の主は暖炉の前の椅子にドカリと腰を下ろす。


「で。どのくらいで天気はよくなりそうなんだ?」

「そうだな。1週間はかかるかな」


私の質問に宿屋の主は窓から外の様子を見ながら答えた。


「こんなところで1週間も足止めかよ。勘弁してくれ」

「こんなところで悪かったな。お前さんが思っているよりも、この街はいいところだ。外は寒いが人が温かい。それに温泉もあるし料理も極上だ」


それは私達もよく知っている。

以前、来た時に満喫したからな。

街の復興も手伝ったし復興祭も楽しんだ。

今では私達はこの街の英雄なのだ。

けれど、宿屋の主は私達のことを知らないようだ。


「この街は以前、モンスターに襲われたんだろ?」

「そうだ。だけど、とある勇者様達がモンスターを討伐し街を救ってくれたんだ。街の復興まで手伝ってくれてな」

「おい、おっさん。それは俺達のことだぜ」

「本当か?」


ガルドの突然の告白に宿屋の主は目を丸くする。


「まあ、巷ではそうなっている」

「それは済まなかったな。あの時、私は街を出ていたから気づかなかったよ」

「仕事をほったらかして、ひとりで逃げてたのか?」

「違うわい。商談でニーズの街まで行ってたんだ。こう見えても私は交易もやっているんだ。宿屋だけじゃ儲からないからな」

「ちゃっかりしてやがるぜ」


指で算盤を弾く仕草をしている宿屋の主を見てガルドが呆れた顔を浮かべる。


「しかし、一週間も足止めとなると予定も変わって来るな」

「この極寒の中で兵士達を外に出しておくのは問題だしな」

「かと言ってサミトスの街の宿屋には入りきれない」


私とラクレスは腕を組んで熟考する。

大人数の兵士達を寒さから守る方法と言えばまず温泉が考えられる。

しかし、温泉で体を温めても、その場しのぎに過ぎない。

すっと温泉に入ってられる訳でもない。

もっと効果的に寒さから体を守るには……獣に習うのが一番だ。

冬山に生息している獣たちは穴蔵で寒さを凌ぐ。

ならば、大人数が隠れられる巨大な穴を造る方法が考えられる。

温泉が湧くと言うことは地下に温泉が流れていること。

地面に穴を掘れば地熱で温まれるはずだ。


「寄宿舎の近くに間欠泉はないか?」

「あるがどうするつもりだい?」

「間欠泉の近くに穴を掘って地熱で温まるんだ」

「それはいいアイデアだが、みんなで穴を掘るつもりなのか?」


私は人差し指を立てて横に振ってニヤリと笑う。


「家には穴掘り名人がいるからな」


そう言ってエリザに視線を送る。


「何よ、その目は?また、私に何かやらせるつもり?」

「エリザのメテオスォームで地面に穴を開けてもらいたいんだ」

「やっぱり。私の魔法はそんな使い方をするものじゃないのよ!」


エリザはプリプリ怒りながら顔を背けた。

それをなだめるようにルーンがエリザのご機嫌をとる。


「まあまあ、エリザさん。タクトさんも悪気はないのですよ。皆さんを助けるためですから」

「そんなことわかってるわよ。けれど、いっつも私ばかりに頼むものだから」

「それだけエリザさんが信頼されているってことですわ」


ルーンのナイスなフォローでエリザの顔が少しだけ緩む。


「策士タクトは全く予想外の所を行くな。関心するよ」

「これも今までの経験がものを言っているだけさ。ところでプリシアはどこへ行ったんだ?」

「プリシアさんなら、先ほど大通りの方へ行きましたわ」

「どこをほっつき歩いているんだ。ちょっと見て来る」


外は真っ暗闇で激しいほど雪が吹き荒んでいる。

こんな中、プリシアはどこまで行ったのか。

私はオーバーを羽織るとランプを持ってプリシアを探しに出掛けた。





プリシアは雪の吹き荒ぶ中、ひとり大通りを歩いていた。

商店は既に閉店しており、カーテンの隙間から明かりが漏れている。

プリシアは店の軒先まで来ると雪を払って風を凌いだ。


「ニックに会ったのって、この店の前だったんだけどな。もうお店は閉まっちゃってるし」


プリシアがニックと出会ったのは偶然だった。

あの時は復興祭の最中で街が人だかりで溢れかえっていた。

プリシアはパレードを見ようと駆けていたところをニックとぶつかってしまう。

よそ見をしていたプリシアが悪いのだけれどニックは怒りもしなかった。

それどころかプリシアの手を引いてパレードが良く見える場所まで連れて行ってくれた。

二人はすぐに意気投合し復興祭を満喫する。

パレードを見たり、ダンスを踊ったり、買い食いをしたり。

タクト達と冒険をはじめてから久しぶりのお祭りだけにプリシアは心行くまで満喫した。

そしてグルンベルグ王都へ戻る当日。

ニックはお小遣いで買ったネックレスをプリシアにプレゼントした。

それは友達の証とまた会おうと言う願いが込められていた。

ネックレスには小さい文字でお互いの文字が刻まれている。

しかし、まだプリシアはそのことに気づいてはいない。


「ここにくればニックに会えると思ったんだけどな。やっぱり昼間じゃなきゃダメか」


プリシアは途方に暮れてその場にしゃがみ込む。

すると、雪を踏みしめながら近づいて来る人物がいた。


「プリシア?プリシアだよね?覚えている?」


プリシアは顔を上げて声の主の顔を確かめる。


「ニック!」

「覚えていてくれたんだね」

「久しぶり。会いたかったよ」


プリシアはニックに飛びついてギュッと抱きしめる。

ニックは頬を赤らめながらプリシアをそっと抱きしめた。


「プリシアは相変わらずだね。その無鉄砲なところ」

「へへへ」

「こんな雪の夜、僕に会えると思っていたの?」

「この店の前にくれば会えるんじゃないかと思ってさ。私達が出会ったのもここだったし」


照れくさそうに話すプリシアを見てニックはニコリと笑った。


「もしかして僕が来なかったら、ずっとここで待っているつもりだったの?」


プリシアは頬を赤らめて小さく頷く。

そんな無邪気なプリシアにニックの心は大きく揺れ動いた。


「こんなところも何だし、僕の家に来てよ」

「いいの?」

「もちろん。プリシアなら大歓迎さ」


そう言ってニックはプリシアの手を引いて自分の家に向かった。




数分後、行違うように私は装飾店の前へやって来た。

既に雪が降り積もりプリシアがいた形跡を覆い隠している。


「ここにもいないか。プリシアの奴、どこへ行ったんだ?」


辺りを見回すが人の気配はなく雪が吹き荒んでいる。

しだいに雪は大粒になり深々と積もって来た。

こんなに雪が降っているならプリシアも宿屋へ戻っただろう。

宿屋以外に行く場所はないし、酒場に入り浸っているとも思えない。

ここは切り上げて宿屋へ戻るのが一番か。


「うー、寒ぶっ」


私は肩を竦めながら小走りに宿屋へ向かう。

その帰路もプリシアがいないか確かめながら駆けて行った。





ニックの家は豪華さもなく、少し古びたこじんまりとした家だった。

食卓にはニックのお父さんがいて、お母さんは料理を用意していた。


「ただいま」

「遅かったな、ニック」

「そちらの方は?」


ニックのお母さんはプリシアを見やりながら小首を傾げる。

プリシアは服の雪を払いのけると畏まりながら自己紹介した。


「プリシアです。ニックのお友達をやらせてもらっています」


すると、ニックのお父さんはにこやかに笑いながら冗談を言う。


「そうか。ニックにもやっと彼女が出来たのか。これはめでたい。母さん、酒を頼む」

「お父さんったら。ごめんなさいね」


ニックはテーブルにプリシアをエスコートして椅子をスッと後ろに引く。

プリシアはすんなり椅子に腰かけると目の前の料理に目を輝かせた。

ニックのお母さんの手料理は家庭的でほっこりとするものばかり。

プリシアは料理に漂う匂いを胸の中まで吸い込む。

すると、とても温かで幸せな気分になった。


「それじゃあまずお祈りからだ」


ニックのお父さんがそう言うと両手を合わせて静かに目を閉じる。

ニックもニックのお母さんも同じようにする。

プリシアもそれに習って両手を合わせて静かに目を閉じた。


「森の神さま、大地の神さま、雪の神さま。今宵も私達に森の恵みをお与え下さりありがとうございます。父さん、母さん、ニック、そして小さなお客さん。みんないっしょに食卓を囲めることに感謝します」


暫しの間、沈黙が続く。

プリシアは我慢できずに薄目を開けて周りを確かめる。

すると、ニックのお父さんが顔を上げて、


「いただきます」


大きな声でいただきますをした。

ニックのお母さんが大皿から料理をとり分ける。

まずはお客様であるプリシアの前に差し出された。

見るとお皿にもられて鶏肉のクリームスープが湯気を上げている。


「お口に合うかしら?」


プリシアは木のスプーンでスープを掬って口に運ぶ。

すると、熱々のクリーミーなスープが口の中を満たす。

ハフハフしながら鶏肉を食べるとホロリと身が解けた。

はじめて食べる料理なのだけど、どことなく懐かしい。

そう。それは、まるでお母さんの手料理のようだった。


「美味しいです」

「そう。よかった。たくさんあるからもっと食べてね」


プリシアの素直な言葉に気を良くしたのかニックのお母さんは満面の笑みを浮かべた。

ニックはお手本を示すようにパンにクリームスープを乗せる。

そして大きな口でパクリと食べた。

それに習ってプリシアもニックの真似をする。

パンの触感とスープの味が混ざりあって口の中を幸せに変えた。


「ところで、プリシアさんは見たところドワーフみたいだけれど観光でやって来たのかい?」

「お父さん、プリシアはこう見えても冒険者なんだよ。世界各地を渡り歩いているんだ」

「冒険者だって!ニックとそう変わらない年齢なのにか!」


驚いた様子で尋ねて来るニックのお父さんに小さく頷いて答えるプリシア。

よわいプリシアはまだ15歳だ。

普通なら学校に通って青春を過ごしていてもおかしくない。

それが冒険者をやっているだなんて驚く方が正直なのだ。

ちなみにニックの家庭は貧しいので学校へは行っていない。

その代りお父さんの猟師の仕事を手伝ったりしている。


「まだ小さいニックが働いているんだし、私が冒険者をやっていてもおかしくないよ」

「それはそうだが。それにしてもな」

「お父さん、今の若い女性は逞しいのよ。みんな守られてばかりじゃないわ。でしょ?」

「はい」


プリシアはニコリと笑みを浮かべながら大きく頷いて答える。

男性が狩りに出て女性が家を守る。

そう言う時代もかつてはあったが今は違う。

働ける者は働き、戦える者は戦うのだ。

そこに男女の違いは全くない。

プリシアもまた戦える者のひとりなのだ。


「これはニックもおちおちしていられないな」

「からかわないでよ、お父さん」

「それでニック。もう、アタックしたのか?」


ニックは真っ赤に顔を染めながら照れる。


「ニックからネックレスをもらったよ」

「やるじゃないかニック。見直したぞ。ガハハハ」


プリシアがニックからもらったネックレスを見せるとニックのお父さんは満足したように笑った。


「それじゃあ日取りを決めないとな」

「やめてくれよ、お父さん。まだ、そこまでは行っていないよ」


ニックとニックのお父さんはふたりで盛り上がる。

そんな様子を呆れ顔で見やりながらニックのお母さんが言って来た。


「いっつもこうなのよ」


その家族の団欒にプリシアはどことなく寂しさを覚えた。

それはミグの街にいる両親のことを思い出したからだ。

今はタクト達といるから寂しくはないけれど、ときどき胸がキュンとなる。

それはいつも決まって楽しそうにしている家族を見た時だ。

プリシアは立派な冒険者だけれど両親に甘えていてもおかしくない年頃でもある。

普通の女の子をしていたら今頃、家族の団欒を楽しんでいた。

それは大きな幸せの形だけど、今の状況にも満足している。

かけがえのない仲間達とドキドキハラハラの大冒険を出来るからだ。

ときどき死にそうにもなるけれど、それはそれで楽しいのだ。

プリシアは料理を楽しんでからおもむろに立ち上がった。


「ごちそうさま。料理、とっても美味しかったです」

「それはよかったわ」

「もう、行くの?」

「待ってくれている人達がいるの」


ニックは急に寂しそうな目をして見つめて来る。

ここでニックの家族といっしょに寛いでいるのはとても楽しい。

まるで実家に帰ったようで懐かしくもあるのだ。

しかし、タクト達がプリシアの帰りを待っている。

そう思うとプリシアは帰らずにはいられなかった。


「プリシア!また会えるよね?」

「もちろん決まっているじゃない」

「約束だよ」

「うん」


ニックの差し出した小指に小指を絡ませてプリシアは再会の約束をした。


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