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138「新しい兵器」

一週間後。

関係者達が集まる中、移動式大砲の試射式がはじまる。

移動式大砲は訓練場に設置され試射の時を待つ。


「これが移動式大砲か。思っていたよりも小型だな」

「見た目は小型ですが性能はピカイチです。魔鉱石で造られた砲身なので非常に軽く丈夫なのが特徴です」


ダゼル国王にログが丁寧に説明をする。

この式典に集まった関係者はダゼル国王をはじめとするグルンベルグ王国の大臣達。

それに加え騎士団長達も集まっている。

私達はガルドを含めいつものメンバーで開発者達はログ、サイム、デルマトだ。


「それでは試射をはじめます」


ログがそう挨拶をするとデルマトが砲身に砲弾を込める。

そしてサイムが点火をして砲撃を開始する。

ドカンと大きな轟音と共に砲弾が勢いよく飛び出して行く。

砲弾は300メートル先まで飛んで行くと地面に着弾し大爆発を起こした。

その様子を見ていた関係者達の中からどよめきが湧き起る。

思っていた以上の成果ではなかったからなのかリアクションはまちまちだ。


「これでは普通の大砲と大差がないではないか」

「移動式大砲の最大の特徴は移動に向いていると言うことです。それに魔鉱石で造られているため非常に硬く耐久性が上がっています。そのため各種砲弾にも対応できます」

「各種砲弾とは?」


よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにデルマトが一歩前へ出る。


「各種砲弾と言うのはプリシアの爆弾を元にして開発した新しい砲弾です。酸を放つ砲弾、煙を放つ砲弾、光を放つ砲弾。そして雷を放つ砲弾です。今はまだこの4つですが、今後の開発次第でいかようにも増やせます」

「ほう、それは頼もしい。ぜひ、試射を見て見たい」


ダゼル国王は関心を寄せるような眼差して催促をする。


「では、煙を放つ砲弾の試射を行います」


そう言ってデルマトは砲身に煙を放つ砲弾を込める。

今度はプリシアが点火をして、


「デルマト、上手く行くかな?」

「上手く行くに決まっているよ」


と砲撃を開始した。

砲弾は轟音と共に飛び出し300メートル先の地面に着弾する。

すると、爆発と共に白い煙が辺りを包み込んだ。

歓声が関係者達の中から湧き起る。


「ご覧の通り、この砲弾は敵の視覚を奪うための砲弾です。攻撃の時も良し、撤退の時も活躍できるでしょう」

「素晴らしい。これだけの効果があるならば魔獣討伐の際も役立つと言うものだ」


ダゼル国王は拍手をしながらデルマトを称える。

ダゼル国王は他の砲弾の試射にも関心を寄せていたが、それは実戦で試すと言うことで断った。


「これはあくまで試作機です。そのため量産をするためにはまだまだ時間がかかります」

「時間はいくらかけてもいい。最高のものを造り出してくれ」

「畏まりました」


ログはダゼル国王に敬礼をして敬意を表した。

これで移動式大砲の量産化に成功できれば魔獣討伐の準備も整う。

後は移動式大砲を加えた戦術を考えて実行するだけだ。

試射式の後、私はラクレスに呼ばれて会議室へやって来た。

もちろん魔獣討伐の作戦会議をするためだ。

会議室には各騎士団長の他、魔導部隊の団長達が集まっていた。

魔導部隊と言うのは魔術師部隊とプリ―スト部隊の総称だ。


「移動式大砲の開発が進んだ今、対魔獣戦を考えて作戦を立てる必要がある。現在、魔獣キマイラが生息している場所はグルンベルグ王都から北に行った山間にあたる。この地方は万年雪に覆われていて非常に気候条件が悪い。なので苦戦が予想される」

「魔獣が動くまで待つのも手じゃないのか?」

「それではいつになるかわからないぞ」

「戦場は雪深い場所だ。移動式大砲は投入できるのか?」


その心配は最もだ。

いくら移動式大砲が軽いとは言え雪深い場所に持ち込めるとは限らない。


「皆の心配は最もだ。移動式大砲は我が軍の新兵器だから戦場に投入したい気持ちはわかる。けれども、環境が悪い状況では無理と判断できる」

「新兵器が投入できないんじゃな。先が思いやれれる」

「しかし、我が騎士団もガルドの特訓を受けたから戦力はアップしている。以前の騎士団とは違うぞ」

「それは我が魔導部隊も同じことだ。最上級魔法の習得まで終わっているからな」


しかし、一番の問題は環境だろう。

万年雪の降り積もる寒い環境で戦いをこなすことは一苦労だ。

兵達の疲弊も早くなるだろうし、暖をとらなければ凍え死んでしまう。

魔獣と戦ったとしても短期決戦で決着をつけなければならない。


「やはり一番は環境か」


ラクレスのため息交じりの言葉に会場が静まりかえる。

暫しの沈黙の後、魔導部隊の団長が口を開いた。


「炎の魔法で周りの雪を溶かしてしまうのはどうだろうか?合わせ技を使えば辺り一帯の雪は溶かせるはずだ」

「しかし、それは無駄に魔力を消費するだけではないか?」

「戦いの準備だと思えばなんて言うことない」


その判断はごり押しの考え方だ。

確かに炎の魔法で雪は解かすことが出来るが、その場しのぎでしかない。

雪は次々と空から降って来る。

魔獣と戦っている間に雪に埋もれてしまうのがオチだ。

議論は拮抗状態に陥る。

うまい解決策も見いだせないまま一時間が経った。

すると、ラクレスが会議の終了を告げた。


「今日の会議はここまでだ。魔獣討伐への作戦はそれぞれの課題とする。次回の会議までに何か良いアイデアを生み出してくれ」


各騎士団長や魔導部隊の団長達が会議室を後にする。

その背中を見送るとラクレスは力なさげに腰を下ろした。


「策士タクトよ。何かよいアイデアはないものか?」

「こればかりはない」


人間がいくら鍛えたからと言っても環境を変えるだけの力は持てない。

それは神のみぞなしえる所業なのだ。

それに魔獣がどの程度のものなのかわからない現段階では策を立てようがない。

まずは、魔獣の実力を確認することからはじめなければ。


「まずは先発隊を組んで魔獣を確認することからはじめるべきではないのか?何せ魔獣と言うばかりでその大きさも力もわからないのだからな」

「確かにそれは言えるな」


おそらく魔獣は幻獣麒麟よりも大きなものだろう。

幻獣麒麟でさえ20メートルもあったのだからそれ以上と言うことになる。

それに各耐性を持っているはずだ。

魔獣クラスのモンスターが何の耐性を持ち合わせていないことは考えられない。

知性は非常に高いだろう。

幻獣麒麟のように人語を話すかもしれない。

後はどんな攻撃をして来るかだ。


「策士タクトのアイデアは受け入れよう。次の会議までに先発隊に加えるメンバーを決めておく。策士タクトは戦術を考えておいてくれ」


そう言ってラクレスは魔獣キマイラがいる場所の地図を差し出す。

私は地図を受け取ると会議室を後にした。





客間に戻るとガルド達がお茶をしながら雑談をしていた。

訓練を一通り終えて今は各自で休息をとっている。

訓練生たちは個々に自主練習に励んでいる。

時たま、ガルド達が様子を見に行く程度になっていた。


「おっ、タクト。戻ったのか」

「会議はどうだったの?」

「先発隊を派遣することになりそうだ」

「みんなで行かないの?」

「魔獣の実力がわからないうちは全軍で侵攻するのは危険だ。それに戦場の環境が悪い。まずは魔獣の実力を確認することからはじめることになりそうだ」


私がテーブルに腰をかけるとルーンがお茶を入れてくれる。

そのカップをとって一口お茶を飲む。


「先発隊って誰が行くことになるんだ?」

「それは次回の会議で決まる。私はそのための戦術を立てるのことが宿題だ」


そう言ってテーブルの上に戦場の地図を広げる。

ガルド達は覗き込むように地図を見やる。


「魔獣キマイラがいる場所は万年雪に覆われた寒い地域だ。その上で戦わなければならない」

「寒いだなんてサミトスの街を思い出すわね」

「あの時は苦労したからな。暴れ猿の討伐に」

「タクトの意外な戦術で倒したのよね」

「暴れ猿の弱点が温泉だったことだけさ」


そのおかげでエリザの魔法で温泉を造ることが生まれたのだ。


「にしてもさ。寒いなんてヤダな」

「そうね。ファッション的にも問題アリだわ」

「そう言えばプリシアはサミトスの街に知り合いがいたよな?」

「ニックのこと?」

「そうそうニック」


確かプリシアのことが好きとか言っているのを聞いたことを覚えている。

プリシアは今でもニックからもらったプレゼントを大事にしているのだろうか。


「何、タクト。もしかして妬いているの?」

「そんな訳あるか!」

「フフフ。タクトってば照れちゃって」


プリシアの冗談はさておいて、今度もサミトス経由で戦場へ目指すことになるだろう。

魔獣キマイラが目撃された場所はサミトスの街から北に行ったところにある。

周りは高い山で覆われていて、その場所へ行くには麓を通らなければならない。

山は重なるように聳えているから山間を縫って行くような感じだろう。


「道順はわかったところで、後は戦術だ」


ラクレスが選出する先発隊はどの部隊がどれほど選ばれるのかわからない。

あくまで予想だが兵の数は3千ほどになるだろう。

内訳は騎士団が千、魔導部隊が千、槍部隊が500に弓部隊が500と言ったところだろうか。

戦場は山に囲まれた盆地。

まずは弓部隊でけん制攻撃をしかけつつ魔獣の出方を見る。

魔獣が反撃して来たところでプリ―スト部隊のプロテクションをかける。

反撃が物理的攻撃なのか魔法攻撃なのかはわからないが物理攻撃なら防げる。

そして魔術師部隊で魔法攻撃をしつつ、騎士団、槍部隊を進軍させる。

魔術師部隊の魔法は土魔法は厳禁だ。

雪崩が起こるかもしれないからだ。

あくまでこれは魔獣の実力を図ることが目的だ。

けっして討伐しようとは思わない方がいい。

そのことは先発隊には徹底しておかなければならない。


「大まかな戦術はこんな感じだろうか」

「タクト。私達にもわかるように説明してよ」


私は頭の中で考えた戦術をガルド達に説明した。

ガルドは相変わらず要領を得ていないようだがやる気は人一倍。

今すぐにでも飛び出して行きそうな勢いだ。

それだけ修業の成果を確かめたいのだろう。

すると、ルーンが不安げに質問をして来た。


「魔獣の実力がわからないのでは作戦も立てようがないのではないですか?」

「それはもちろんだ。この戦術はあくまで私のシュミレーションでしかない。実際に戦闘になったら大幅な修正が必要になるだろう」

「ルーン、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。タクトも、これまでいろんな経験を積んで来たんだからさ」

「そうですわね。これまでの経験がありますものね」


プリシアの説得でルーンは安心したように頷く。

まあ、それでも用心に越したことはない。

考えられる戦術を列挙しておくべきかな。

私はひとり地図を睨みながら考えられる戦術を組み立てた。





そして次の会議の日を迎える。

会議室に集まったのはこの前、会議に参加した面々。

あの後、ラクレスに言われた通りアイデアを考えたようだが、皆いいアイデアが浮かばなかったようだ。

ラクレスは会議のはじめに私と考えた作戦を説明する。


「策士タクトとの会談で先発隊を派遣することに決まった」

「先発隊?」

「魔獣の実力がわからない内は戦術の立てようがない。その為、魔獣の実力を確かめるため先発隊を派遣するのだ。あくまで魔獣の実力を知るためのものだから討伐をしようなんて思ってはいけない」

「しかし、それなら予想以上に魔獣が強かったらどうするのだ?」

「もちろん撤退する」


ラクレスの言葉に皆が納得を示すが同時に不安も頭をよぎった。

それは先発隊が全滅しないかと言う心配だった。

現段階では、その可能性は否定できない。

魔獣の実力を図りに行って逆にやられて帰って来るだけになることもある。

その為、先発隊の選出が重要だ。


「私なりに先発隊を選出したから発表する。まず各騎士団から100名ずつ。全部で7部隊あるので全700名だ。次に魔導部隊から魔術師500とプリ―スト500名だ。そして槍部隊から500、弓部隊から500ずつ。全部で2千700名だ」


おおかた予想した通りの人選だ。

後は各部隊の団長が誰を選出するかによって変わる。

まあ、実力のない者を選ぶことはないのだが。

すると、第七騎士団長が質問をして来た。


「騎士団を700名と言うことはわかるが、それぞれ100名ずつってのが気になる。実力の上では第一騎士団から順に並んでいるのだから第一騎士団から選出した方がいいのではないのか?」

「それも考えた。しかし、これは各騎士団に経験を積ませることも目的としている。せっかく特訓で覚えた必殺技を使えないようなら勿体ないからな」


ラクレスの選出が確かなことは現段階ではわからない。

ラクレスの言うように経験を積ませることも大事だ。

しかし、危険が伴うことも事実。

軽い気持ちで挑むことは出来ない。


「他に質問のある者はいないか?」

「私からひとつ。実際の戦闘をシュミレーションをして戦術を組み立ててみたがあくまでシュミレーションであることを覚えておいてくれ。戦場の環境は厳しいから戦術の大幅な修正も必要になるだろう」

「そんなので大丈夫なのか?」

「策士タクトに任せておけば大丈夫だ。策士タクトはこれまでに幾つもの戦いを制して来たのだからな。だろ?」

「まあ、そんなところだ。全員の無事を約束は出来ないが、極力最大限の力を注ごう」


私の言葉に各部隊の団長達は一瞬不安げな顔をするが、すぐに切り替えて賛同して来た。


「我らはグルンベルグ軍だ。魔獣相手に怯むことはない。我々の力を見せてみようぞ!」

「そうだ。その気持ちが大事なんだ。みんなやるぞ!」


ラクレスが気合を入れると各部隊の騎士団長達は拳をあげて応えた。

先発隊にはもちろんラクレスも参加する。

各部隊の統率だがガルドは騎士団を、エリザは魔術師部隊を、ルーンはプリ―スト部隊を、プリシアは弓部隊を担当することになった。

ちなみにラクレスは槍部隊を指揮することに決まった。

そして私達は魔獣戦に向けて準備をはじめる。


ラクレスが用意したのは戦闘用馬車30台。

馬車には食料や武具、防寒具などの荷物を積んで。

その他の部隊達は徒歩で戦場へと向かう。

途中にあるサミトスの街に作戦本部を構えることになった。


サミトスの街でもダゼル国王からの伝令が届きグルンベルグ軍を受け入れる準備をはじめている。

後は無事にサミトスの街に向かうだけ。

私達はラクレスに許可をとり酒場で前祝いをすることにした。


「これから魔獣討伐に向けて旅立つ。これからの戦いは厳しいものになるだろう。みんな気を引き締めて取り掛かってくれ」

「おうよ。俺は覚えて奥義を使えるってだけでワクワクするぜ」

「私達も強くなったからね。だだでは転ばないわ」

「私も補助魔法で皆さんを支援しますわ」

「この私がいるんだから大船に乗ったつもりでいてよ。この新武器が唸っているわ」


プリシアは腕に装着させたバズーカを撫でる。

そして私達はグラスを取り立ち上がると、


「「私達の勝利のために!」」


グラズを合わせて乾杯をした。

これからの戦いが本番になる。

魔獣は人類にとって強敵だ。

簡単には倒せそうにないが、犠牲も最小にしたい。

それは全て私の戦術にかかってくるだろう。

グルンベルグ王国の明日のために。

世界の人々の未来のために私達は戦場へ赴くのだ。

そして夜更けまで宴会は続いた。


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