表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/178

137「特訓の成果」

グルンベルグ王都近くの巨大工場。

ドワーフのログ、サイム、デルマトが移動式大砲の製作に取り掛かっている。

設計はサイムがこなし、加工はログ。

デルマトはプリシアと一緒に砲弾の開発に勤しんでいた。


「開発は順調に進んでいるみたいだな」

「タクトさん。こんな巨大な工場を立ててもらったおかげですよ」

「ログ。タクトさんはよしてくれ。キミのほうが年上なんだから」

「そうですか。なら、これからはタクトと呼ばしてもらいます」

「そうしてもらえると助かるよ」


ログは私よりも6つ年上なのに律儀な性格のせいでですます口調だ。

年上なのだからもっと横柄に振る舞っていてもいいのだが。

それに比べてサイムは、


「おう、タクト。見物でもしに来たのか?まあ、そこに座って茶でも飲め」


やたらと馴れ馴れしい。

私はサイムに薦められるまま、ドラム缶の上に腰を下ろす。

ここは工場の中のためテーブルや椅子はない。

そこらへんに置いてある資材がテーブルセット代わりだ。


「で、移動式大砲はいつ完成するんだ?」

「あと、1週間ぐらいだな。でもまあ、最初は試作機だけどな」

「そうか。なら、1週間後に試し撃ちの準備をしておくよ」


サイムは設計図を広げながら進捗の説明をして来る。

今はちょうど大砲の部分を造っているようでログを中心に製作を進めている。

移動式の大砲は大きく分けると砲身部分と台車部分に分けられる。

砲身部分は魔鉱石を使い堅牢な造りに仕上げてある。

魔鉱石は他の鉱石よりも軽くて丈夫なので砲身に向いている。

一方、台車部分は木材を加工し軽くて丈夫な造りにしてある。

移動する大砲のためより軽くすることが一番の課題だなのだ。


「砲弾の方はどうなっているんだ?」

「砲弾はデルマトとプリシアが担当していますよ。二人は相性がいいらしく開発は順調みたいです」

「それならよかった。大砲は大砲も重要だが何より砲弾が戦況を左右するからな」

「ちょっと様子を見て行くか?」

「頼むよ」


私はサイムに案内されて砲弾を開発している小屋へ案内される。

砲弾を開発している小屋は巨大工場から少し離れた場所にある。

何せ火気厳禁だから工場と距離を置いて建設したのだ。


「デルマト、いるか?」

「サイム。何しに来たんだい?」

「タクトが進捗を見たいと言ってな」

「タクト!」


プリシアは勢いよく立ち上がると私を出迎えてくれる。

顔はすっかり煤けていて真っ黒だ。


「砲弾の方は順調か?」

「プリシアのおかげでいろんな種類の砲弾が出来たよ。あとは火薬の微調整が残っているけどね」


デルマトに褒められてプリシアは照れくさそうに顔をこする。

すると、真っ黒だった顔が余計に真っ黒になった。

デルマトの説明によれば砲弾は酸と煙と光、それと雷の砲弾が完成したと言う。

どれもプリシアの爆弾を元にして開発したそうだ。

これだけ順調に進んでいればもっと他の種類の砲弾も増やせるだろう。

上々だ。


「1週間後に試し撃ちをするから、それまでに準備しておいてくれ」

「わかったよ」

「それにしてもデルマトもプリシアも顔が真っ黒ですね」

「そうだな。それじゃあまるでクマのようだ」


プリシアとデルマトはお互いの顔を見合わせて笑いだす。

それだけ砲弾の開発に真剣に取り組んで来たのだろう。

仕事が終わったら二人にはゆっくり温泉でのんびりしてもらうつもりだ。

グルンベルグ王都は山岳地帯が近いため温泉が湧く。

山から温泉を引いて来てグルンベルグ王都の浴場に注ぎ込んでいる。

そのためグルンベルグ城で城下町でも温泉が楽しめるのだ。


「それじゃあ、プリシア。後は任せたぞ。私はガルド達の様子を見て来る」

「わかったよ。ガルド達によろしくね」


プリシアはこのところずっと小屋で寝泊まりしている。

なのでガルド達とも顔を合わせていない。

まあ、これまでずっといっしょっだったから気分転換になるだろう。

試作機の試し撃ちの時にはガルド達にも参加してもらう予定だ。

そこで少し成長したお互いを確認できるはずだ。

私はプリシア達に後を任せるとガルド達がいる訓練場へ足を運んだ。





ガルドは騎士達に必殺技を教える傍らひとりで奥義の習得に励んでいた。

騎士達はガルドから教えてもらった必殺技を使いこなせるようになって来ている。

完璧とまでは言い難いが実戦で使っても遜色ないぐらいには使いこなしている。

中でも突出していたのはレイムと言う騎士だ。

他の必殺技はともかくとして爆裂剣だけはガルドに匹敵するくらいになっていた。

ガルド曰く、レイムは強くなれる素質が他の騎士達よりもピカイチだったのだと言う。


「ガルド、特訓の方はどうだ?」

「みんな覚えが早い。いや、俺の教えがいいのだろう。おおかた必殺技を習得出来たぞ」

「それは心強い。これで大幅に戦力アップが期待できると言うものだ」


私とガルドが進捗状況を確認しているとレイムが声をかけて来た。


「あっ、タクトさん。こんにちは」

「おい、レイム。まだ訓練中だろう。持ち場を離れるな」

「違うんですよ、先生に爆裂剣を見てもらいたくて」


相変らずガルドはレイムから先生と呼ばれているようだ。

ガルドの方もまんざらでもない様子で素直に受け入れている。

この短期間のうちに二人の間には師弟関係が結ばれたのだろう。

それはそれで良いことだ。


「レイム、爆裂剣ばかり練習していてもダメだぞ。他の必殺技の特訓しろ」

「先生、僕は爆裂剣が好きなんです。爆裂剣だけは誰にも負けないようにしたいんです!」

「その気がいはいいが、爆裂剣だけでは魔獣に勝てないぞ」

「それは……」


レイムはガルドに諭されてしぶしぶ納得する。

そして練習場所に戻ると他の必殺技の習得に励んだ。


「昔のガルドみたいだな」

「俺はあんなに柔じゃないぜ」

「そうだ、ガルド。新しい奥義の習得の方はどうなっているんだ?」

「もちろん覚えたぜ。剣舞と乱舞を一つずつな」

「抜かりはないようで安心したよ」


ガルドが新たに覚えた奥義は大旋風と獅子奮迅。

大旋風は回転剣舞のひとつで、自らの体を回転させて旋風を放つ剣舞。

獅子奮迅は乱舞のひとつで、獅子の波動を放ち無数の刺突を放つ乱舞だ。

どちらも付属する属性はないが強力な奥義だ。

ガルドは今まで以上に頼りになれる存在になったようだ。


「それで移動式の大砲の方はどうなんだ?」

「1週間後に試作機が完成する。その時に試し撃ちをするからガルドも来てくれ」

「1週間後だな。楽しみにしておくぜ」


私はガルドと別れてエリザ達の所へ向かった。

ここは相変わらず和気藹々としていてお茶会も健在だ。

私が尋ねると魔術師達は合わせ技の訓練をしていた。

エリザから教わったように詠唱しながら両手に魔力を集中させる。

そして詠唱を終えると魔法を放つ。


「「漆黒の闇よりい出し赤色の、永遠に燃え尽きぬ暁となりて、その深紅の瞳で見続けよう『メテオスォーム!』」」


巨大な赤い魔法陣が大地に浮かび上がると空が鈍色の雲に覆われて行く。

そして空に雷鳴が轟くと轟音と共に真っ赤に焼けた隕石が降り注ぐ。

隕石はひとところに落ちると巨大なクレーターを造った。


「すごいじゃないか!みんなの息もあっているし何により威力が半端ない」

「でしょ!これも私の指導のおかげよ」


エリザは椅子に腰かけながら誇らしげに振る舞う。

だでにお茶会ばかりをしていた訳じゃないようだ。

これならば魔獣にも大ダメージを与えられると言うもの。

大幅な戦力アップにつながったようだ。


「それでエリザの魔法の習得の方はどうなんだ?」

「もちろん覚えたわよ。試し撃ちも何度もしているから使いこなしているわ」

「それは心強いな」


エリザが新たに覚えた魔法は風魔法の神の裁きと土魔法のデモンズハンド、雷魔法の天空の雷だ。

どれも最上級魔法で破壊力はエクスプロード並み。

神の裁きは空を切り裂くような旋風を巻き起こす魔法。

デモンズハンドは大地から生まれた巨大な手が敵を握りつぶす魔法。

天空の雷は神の雷を振り落とす魔法だ。

効果はそれぞれで戦況に応じて使い分けることになるだろう。


「エリザも、これで魔法をコンプリートだな」

「最強魔法使いの誕生よ。これからは賢者を目指そうかしら」


賢者とは魔法使いとプリ―ストの魔法を全てマスターした職業のこと。

しかし、現在のこの世界には賢者はいない。

聖戦が起こる前には存在していたようだが、聖戦を前後に消失してしまったのだ。

原因は魔法使いとプリ―ストが誕生したことに由来する。

攻撃に特化した魔法使いと支援に特化したプリ―ストに分かれることで発展して行ったのだ。

いわば魔法使いとプリ―ストは賢者から派生した職業なのだ。


「エリザ、1週間後に始動式の大砲の試し撃ちがあるから来てくれ」

「移動式大砲の開発が進んでいたのね。わかったわ。楽しみにしておくわ」


私はその足でルーンのいる訓練場へ向かう。

しかし、そこにはルーンの姿はなくプリ―スト達が蘇生魔法の自主練習をしていた。


「ルーンはいないのか?」

「ルーン様はグルンベルグ城の図書室に籠られています」

「図書室?」

「私達の蘇生魔法の習得に時間がかかっておりますから蘇生魔法を調べるために籠っているのです」


研究熱心なのことはいいが訓練生をほっておくなんて。


「ルーン様を攻めないでください。みんな私達のためにしていることなのです」


訓練生たちの信頼は買っているようだな。

それもルーンのひたむきな姿勢がそうさせたのだろう。

ルーンの教えは口だけではなく行動でも教えているようだ。

私はさっそくルーンがいるグルンベルグ城の図書室へ向かった。


図書室ではルーンがたくさんの書物を積み上げて真剣に調べごとをしている。

その雰囲気に声をかけるのが躊躇われるが先に進まないので私はルーンに声をかけた。


「ルーン。蘇生魔法の調べごとはどうだ?」

「あら、タクトさん」


ルーンはいつもはしていない大きな丸メガネを上げで私を見やる。

メガネひとつでルーンはまるで博識の学者のような雰囲気だ。

これはこれで似合う。

私がルーンに見とれているとルーンが尋ねて来た。


「皆さんから聞いたのですか?」

「訓練生たちが蘇生魔法の習得に苦労しているからルーンが調べごとをしているって」

「それもありまずけれど、調べごとをしていた理由は他にもあります」

「それは何だ?」


ルーンの説明によれば補助魔法の最上級魔法がないか調べていたのだと言う。

補助魔法はその名の通り付加価値をつける魔法だ。

例えばアシットレインやチャクラのように。

よく使うプロテクションも補助魔法に含まれる。

その効果は魔法ごとにことなり戦況に応じて使い分けている。

しかし、プロテクションもチャクラも中級魔法なのだ。

他の魔法に最上級魔法があるならば補助魔法にもあるとルーンは踏んでいる。


「上級魔法のスピカは見つかりました。けれど、最上級魔法が見つかりません」


ちなみにスピカと言う上級魔法は耐性効果を無効化する魔法である。

それだけでも十分成果があると思えるがルーンは最上級魔法にこだわっている。

それはプリ―ストの活躍次第で戦況を左右させることになると考えているからだ。

その狙いは間違いでない。

プリ―スト達の支援がなければガルド達もその力を存分に発揮できないのだ。

対モンスターともなれば余計にそれが言えるだろう。


「文献に載っていないってことは存在しないのではないか?」

「それも考えられますけど。私は存在していると思います。もっと古い文献になら載っているのではと」


確かにこの図書館にある文献は聖戦の後に記されたものばかりだ。

それ以前の文献は残っていない。

かつては賢者がいたくらいだから、もしかしたらルーンの言うように支援魔法の最上級魔法があるかもしれない。

ならばダゼル国王に聞いてみるのがいいだろう。

私とルーンは図書室を後にして王室へ向かった。


ダゼル国王に直接尋ねてみたが古い文献は聖戦の時に失われてしまったと言う。

しかし、ニーズの街の北の森にいる魔法使いシドなら知っているかもしれないと言うことだった。

シドと言えばエリザとルーンの石化を解いた時にお世話になった魔法使いだ。

あの時は鏡の盾を借りてメデューサの涙を手に入れることに成功した。

シドは昔のことに詳しいから知っている可能性が高い。

私とルーンはグルンベルグ城を後にするとニーズを経由して北の森へ向かった。


北の森は相変わらず平和そのもので小鳥達のさえずりが森の中に響いている。

何でもユグラドシルが魔精を放出しているのでモンスターも近づけないのだ。

森の中央まで来ると立派なユグラドシルが目に入った。


「シド、いるかい?」

「誰じゃ、ワシを呼ぶのは?」


シドはユグラドシルの木の上から顔を覗かせた。


「お主らは以前ここに来よった輩じゃないか」

「シドに聞きたいことがあって来たんだ」

「待っておれ。下に向かう」


シドはそう言って梯子を伝って下に降りて来る。

見た目はお年寄りだが体は元気そのもの。

梯子も難なくスタスタと降りて来た。


「それで聞きたいことって何じゃ?」

「プリ―ストの補助魔法の最上級魔法は何かってことだ」

「何じゃ、そんなことかい。それならワシが持っている文献に記されておるわ」

「その文献を見せてもらえませんか?」


ルーンが食らいつくようにシドに迫る。

その勢いに押されシドは少し後ろにたじろいだ。


「何じゃ、そんなに目を輝かせおって。今、持ってくるから待っておれ」


そう言うとシドは梯子を登って部屋に戻って行く。

そしてしばらくすると埃の被った古い文献を持って来た。


「これじゃ」


ルーンはシドの手から文献をはぎ取るとページをめくり出す。

その度に埃が舞うのでルーンは口を押さえながら文献を確かめた。

すると、補助魔法について記されていたページを見つける。


「ありましたわ」


文献によると補助魔法の最上級魔法はサイレンスで敵の魔法を封じる効果があるのだ。

もちろん一定の時間しか封じ込められないが合わせ技を使えば時間を伸ばせるらしいと言うことがわかった。

習得するのは簡単だが正確に効果を発揮できるようになるまでは何度も試さなければならない。

それは他の魔法と同じだった。


「これで謎が解けましたわ。シドさん、この文献をしばらく借りてもいいですか?」

「ワシには必要ないからお主が持って行け」

「ありがとうございます!」


ルーンは丁寧に頭を下げてお礼を言う。


「いつも助けてもらうばかりで悪いな」

「困った時はお互いさまじゃ。まあ、今度来るときは上等の酒でも持ってきてくれればチャラにしてやるがな」


シドはガルドと同じようなことを言って来る。

まあ、こんな平和なところにいたら酒ぐらいしか楽しみがないのだろう。

私はシドと約束をしてルーンと一緒にグルンベルグ城へ戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ