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136「名工ダウスの弟子」

他国の人達と交流を望んでいるドワーフだけど以外にも村を離れたくないと言う。

もともと自分が生まれ育った村なので離れがたい気持ちもわからないでもないが。

スカウトするドワーフ全てがそんな反応だと返って落ち込んでしまう。

私の考えが甘かったのだろうか。


「タクト、元気をだして。次はうまく行くから」

「そうだな。ありがとうな、プリシア」


私達はドワーフ村の出店のテラス席に腰を下ろす。

店員にお茶を注文するとテーブルの上に突っ伏した。


「プリシアのおじいちゃんは何で村を離れたいと思ったんだ?」

「おじいちゃんは好奇心が旺盛だったからね。自分の目で外の世界を見て見たかったのよ」

「確かに話だけでは満足できないからな。この村のドワーフ達も同じなんだけど」


やはり政権が変わったことが大きいのだろうか。

引き締めの政策から解放の政策に変わりわざわざ外に出なくても他の国の文化に触れられるようになった。

アトス政権の功績が大きいと言っても過言でない。

しかし、そうなるとグルンベルグ王国まで来てくれるドワーフがいなくなってしまう。


「お待たせしました。ダージリンティーとミルクティーです」

「待ってました。これがいいのよね」


そう言って店員からミルクティーを受けとるとプリシアはカップを口に運ぶ。

喉が渇いていたのか一息でゴクリと飲み干した。


「ぷはー。やっぱり紅茶はミルクティーに限るよね」


そんな様子を見て店員が注文を取り直す。


「もう一杯いかがですか?」

「お願い。いいよね、タクト?」

「好きにしてくれ」


プリシアがこんなにもミルクティーにハマっていたなんて初耳だ。

グルンベルグ城で提供される飲み物は紅茶が多かったからハマってしまったのだろうか。

まあ、ガルドのようにお酒にハマるのとは違うからほっといても大丈夫だが。

それにしてもドワーフもいろいろ仕事をこなすのだな。


「タクト、今、いやらしそうな目で店員さんのお尻を見ていたでしょ?」

「な、何言っているんだ。私はただドワーフもいろんな仕事をこなすんだなと関心していたんだよ」

「それってドワーフを馬鹿にしているってこと?」

「違うよ。ドワーフって言うと名工ダウスのような人物を想像するからギャップが凄いなと思ってさ」


ドワーフがみなダウスのような名工ではない。

他の国の人間と変わらずにいろいろな仕事をこなす。

酒場のマスター、ギルドの受付嬢、お店の店員。

数えきれば限りないほど様々な職業がある。

ドワーフ達は状況に応じて対応しているのだ。

ある意味、器用とも言える。

人間には得て不得手と言うものがあるが、ドワーフ達にはそれがないよう。

何でも着実にこなし定着させているのだ。


「プリシア、お茶を飲んだらまたスカウトをはじめるぞ。ここまで来たのだ。結果を残さないとな」

「あいあいさー!」


プリシアが陽気な性格で助かった。

これがガルドだとしたらすでにお手上げになっていただろう。

ガルドは好きなことにはとことんのめり込むけれど、関心のないものにはからっきしだからな。

今頃、クシャミでもしているだろうか。


お茶を終えた私達はその足でギルドへ向かった。

ギルドならば冒険者も集まっていて何かしら情報が得られるかもしれないと踏んだからだ。

以前来たよりもギルドの盛況ぶりは変わっていて多くの冒険者達が集まっていた。

その冒険者の多くは他の国から来た者達だ。

掲示板に張り出されている依頼書を舐めるように見ていた。


「ここは見違えるほど人が集まっているね」

「これもアトス政権の政策の賜物だろう」

「ねえ、タクト。見てよ、あの依頼書。提供者はアトス政権になっているわ」


よく見ればあっちにもこっちにもアトス政権が提供した依頼書が張り付けられている。

どの依頼書も交易路のモンスター駆除の依頼ばかりだった。

ここまで徹底できることは他の国では滅多にないことだ。

それだけアトス政権の求心力が高まっていることなのだろうか。

他の国も、この政策を取り入れたら交易がもっとスムーズになるかもしれない。

アトス政権は力だけではなく政策面でも他の国達よりも一歩前に出たようだ。


「報酬も、それなりに高い。これならばこぞって冒険者達も依頼を受けるな」

「何だかアトス政権ってすごいよね。アルタイル王国がガラッと変わってしまったくらい」


プリシアは感心しながら何度も頷く。

素直に喜べないがアトス政権の実力はひしひしと感じる。

所詮は過激派だと侮っていたが、それは間違いのようだ。


「それよりもスカウトをはじめるぞ」

「スカウトって言ったって、ここにはギルドの職員しかいないよ」

「違うよ。心当たりのあるドワーフがいないか尋ねてみるんだ」


私はさっそくギルドの受付嬢に事情を話す。

しかし、首を横に振るばかりで思わしい情報が得られない。

しいてあげて来たのは名工ダウスの名ばかりだった。

他のギルド職員に尋ねても同じ回答ばかり。

やはり名工ダウスに頼まないとダメなのかもしれない。

しかし、名工ダウスに頼んだとしても引き受けてくれるかどうかが問題だ。

何せ、名工ダウスはドワーフ村の顔とも呼べる存在なのだから。

私とプリシアは2週間もの間、スカウトに集中した。

その結果はなしの飛礫でひとりもスカウトできなかった。

そして期限の2週間を迎える。





私とプリシアが名工ダウスの工房を尋ねると名工ダウスが迎えてくれた。

注文したプリシアの新しい武器は完成していて名工ダウスが説明してくれた。


「こいつは腕に装着できるタイプのハンドバズーカだ。普通のバズーカよりも小型にしている分、射程は短くなる。だけど弓並みの射程は確保できるぞ。それになんて言ったって破壊力が抜群だ」


プリシアはのめり込むように新しい武器を眺めている。

その顔は満面の笑みを浮かばせて満足しているようだった。

プリシアはさっそくバズーカを腕に装着させる。

そして試し撃ちしていいか私に尋ねて来た。


「試し撃ちしていい?」

「こんなところでは止めてくれよ。工房が壊れっちまう」

「プリシア、外に出るぞ」


プリシアは弾丸をバズーカに装填すると右手を突き出して構える。

そしてタイミングよくハンドルを捻って弾丸を放った。

轟音が空を切り裂くと同時に放たれた弾丸が勢いよく飛んで行く。

それは音速を越えるような素早さで正面の大岩を捕らえた。

すると、大岩は粉砕して跡形もなくなる。

それを見ていたプリシアも信じられないような顔を浮かべる。

そして暫しの沈黙の後、私に抱き着いて来て喜んだ。


「タクト!この武器、すごいよ!一瞬で岩を粉々にしちゃった!」

「まあ、すごいのはこれだけじゃないぜ。バズーカを回してみてくれ」


言われた通りプリシアがバズーカの筒を捻る。

するとカチッと音がして何かが切り替わった。


「それは射程を調節する機能だ。遠くに飛ばしたい時は右に回して、近くに飛ばしたい時は左に回すんだ。的確な射程で撃った方が効果は絶大だからな」

「すごい!すごいよ、タクト!私、これ気に入った!」


プリシアはバズーカを掲げながら飛び跳ねて喜ぶ。

プリシアが気に入ってくれたのは何よりだ。

これでプリシアの戦力が強化された。

射程を調整できるなんて私が考えたモノよりもはるかに上を行っている。

さすがはドワーフ一の名工ダウスだ。


後は移動式大砲の問題だ。

移動式大砲を造るにはダウスの工房よりも大きな工房でなければならない。

そして何よりそれを実現するならばグルンベルグ王国に来てもらうことが条件になる。

ダゼル国王に頼めば工房のひとつやふたつすぐに用意してくるだろう。

私は名工ダウスにグルンベルグ王国に来ないか誘ってみた。


「ダウス、頼みがあるんだが」

「何だ?」

「私達といっしょにグルンベルグ王国に来てもらいたい」

「グルンベルグ王国にだと?」

「グルンベルグ王国は今、魔獣討伐に向けて動き出している。移動式大砲も魔獣討伐の時に用いるものもだ。だからグルンベルグ王国で武器の開発が出来ないかと考えている」


私の説明にダウスは難しい顔をして黙り込む。

ダウスの反応も最もだろう。

他のドワーフ達と同じで故郷を離れることになるのだ。

簡単に返事を出来るものでもない。

すると、ダウスは静かに口を開いた。


「俺はここからは動けない。俺はドワーフ村で生まれてドワーフ村で死ぬと決めているのだ。それに俺がいなくなればドワーフの技術も廃れてしまうだろう。ドワーフの技術は、このドワーフ村で生き続けなければらないのだ」

「だよな。返事はわかっていたよ。村の他のドワーフ達に話を持ちかけても同じ答えが返って来るばかりだったからな」


私はガッカリと肩を落として俯くとダウスが思いがけないことを言って来た。


「俺は動けないが、弟子なら大丈夫だ」

「弟子がいるのか?」

「普段はそれぞれの工房で仕事をしているからな。出会わなくても以外じゃない」

「それで弟子は何人いるんだ?」

「手塩にかけて来た弟子は3人いる。ひとりはログと言う手先が器用なドワーフだ。俺に続く器用さを持ち合わせている。もうひとりはサイムと言う設計が得意なドワーフだ。アルタイル城の設計図も1日で書き下ろしてしまったくだいだ。最後のひとりはデルマトと言う爆薬の扱いに長けているドワーフだ。アトス政権の式典の時の花火はデルマトが取り仕切ったほどだ」

「それは心強いな」

「年は若いが腕は確かな連中だ。俺は前々から弟子たちには外の世界へ出てもらいたいと思っていたんだ。技術は新たな知識が結びつくと思いもかけないほど発展するからな。ドワーフの技術を守るためにはもっと外の世界のことを知る必要があるんだ」


ダウスは力説しながら自分の考えを伝えて来る。

それはダウスだけでなく他のドワーフも感じていたことだろう。

長らくマクミニエル政権に制約をかけられて来たから余計に外の世界への関心が高まったのだ。

今ではドワーフ達の顔は生き生きとしている。

以前、出会った時よりもドワーフらしい表情だ。


「でも、その弟子たちに返事を聞かなくても大丈夫なのか?」

「俺がご指名しているんだ。嫌だと言っても追い出すさ」


ダウスは豪快に笑い飛ばす。

それは冗談ではなく本気だからだろう。

しかし、手塩にかけて来た弟子がいなくなっても大丈夫なのだろうか。

また、新しい弟子をとって修業を積ませるには苦労も絶えないだろう。

私は確かめるようにダウスに尋ねてみた。


「そんな大事な弟子を外に出してもいいのか?せっかく今まで育てて来たのだろう」

「いいのさ。それがドワーフの発展に繋がるならな。弟子はまた新たしくとればいい。ここはドワーフ村なんだ。弟子になりたいと言うドワーフはたくさんいる」


その言葉を聞いてホッと胸をなでおろす。

私のワガママで手塩に育てて来た弟子を奪うのは心苦しいからな。

でも、これでドワーフ村とグルンベルグ王国の関係は良い方向へ向かうだろう。

ドワーフの技術を受け入れるかわりにダゼル国王から支援があるかもしれない。

アトス政権の手前、表立って資金援助は出来ないが物資の支援ならできるだろう。

私達はさっそく弟子を紹介してもらうためにダウスの工房を後にした。





まず、はじめに訪れたのは弟子のログの工房だ。

ダウスの工房と同じような造りで主に金細工を手掛けている。

工房に飾られている装飾品の数々はログが仕上げたものだ。


「ログ、いるか?」

「親方。珍しいですね。私の工房にやって来るなんて」

「今日はお前に会わせたい奴がいてな。策士のタクトだ」


ダウスが私を紹介するとログは目を見張った。


「策士ってまだいたんですか!。はじめて見る。私よりも若いじゃないですか。本当に策士なのですか?」

「本当だ。クーデター制圧の時に合同軍を指揮していたのもタクトだ」

「紹介にあがった私が策士のタクトだ。よろしくな」


私は右手を差し出してログと握手をする。

ログは歓迎した様子で笑顔を向けて来た。


「それで私とタクトさんを合わせて何かあるんですか?」

「お前にはタクト達といっしょにグルンベルグ王国に行ってもらいたい。グルンベルグ王国は今、魔獣討伐に向けて動いているらしい。そこで使用する移動式大砲を造ってもらいたいのだ。俺の工房では狭すぎて造れそうにない。それにグルンベルグ王国まで運ぶのにも一苦労だ。だから、グルンベルグ王国に渡って、そこで造るんだ」

「何で私が?」

「お前だけではない。サイムとデルマトにも行ってもらうつもりだ」

「しかし、それでは親方の工房が」


ログは不安そうな顔でダウスを見やる。


「俺の工房は心配しなくてもいい。新しい弟子はいくらでもいるからな。それにお前達には外の世界を知ってドワーフの技術を高めてもらいたいと考えているんだ。マクミニエル政権化のドワーフ村は制約のため衰退の一途をたどっていた。しかし、アトス政権になってことで制約が解かれたことで息を吹き返しつつある。しかし、それでも発展の進捗は遅いだろう。だからお前達に託すのだ。お前達ならドワーフの技術をさらなる領域に高めてくれると信じている」

「親方!」


ログはダウスの説得に感銘を受けたようだ。

そこまで信頼されていたら断る訳にも行かないだろう。

もしかしたらダウスも、それを狙ってオーバーに言っているのかもしれない。

いずれにせよ私達にとってはありがたいことなのだ。


「親方がそこまで考えてくれていたなんて嬉しい限りです。私はタクトさん達といっしょに行きましょう」


こうして私とログの契約は成立したのだ。

同じようにしてサイムの工房とデルマトの工房に足を運んで説得をすると。

サイムとデルマトも同じように同意してくれた。

これはダウスの功績と言ってもいいかもしれない。

ダウスの弟子を思う気持ちとドワーフの技術を思う気持ちが説得を成功させたのだ。


そして私は一足先に伝書鳩を飛ばしてダゼル国王に報告を済ませる。

いきなり行って驚かれてもいけないし、何より工房を造ってもらわなければならない。

移動式大砲を造れるくらい大きな工房である必要があるのだ。

工房と言うよりも工場に近いだろうか。

出来ればグルンベルグ王都から近い場所がいい。

王都の防衛力も上がるし、何より魔獣キマイラのいる場所から近い。

移動式大砲を魔獣キマイラのいる山岳地帯まで運べるのかは難しいのだが。

工房の大まかな設計はサイムに一任した。

素人があれこれ手を出すよりもプロに任せた方が上手く行くからだ。

サイムは半日足らずで工房の設計図を書き上げた。

さすがはドワーフ一の設計の達人だけのことはある。

ダゼル国王宛ての手紙と一緒にサイムの書き上げた設計図を一緒に伝書鳩に括り付けた。

伝書鳩は頭上で一回りするとグルンベルグ王国目指して飛んで行った。


「これで準備は大丈夫だ」

「後はグルンベルグ王国に戻るだけね」


翌朝、私とプリシアはダウス工房の前までログ達を迎えに来ていた。

ログ達とダウスは名残惜しそうに別れの挨拶をしている。


「これまで俺について来てくれてありがとうな。お前達のおかげで俺の工房も繁盛出来たよ」

「親方。そう言ってもらえると嬉しいです」


ログはダウスと抱き合いながら別れを惜しむ。


「サイム、お前の設計の腕はピカイチだ。グルンベルグ王国に渡っても活躍してくれよな」

「今の俺があるのも親方のおかげだ。グルンベルグ王国に渡っても世界一になってやるよ」


ちょっと強気なサイムはダウスに豪語してみせる。

仕事の繊細さとはまったく逆のイメージに驚く。

これもサイムの魅力のひとつなのだろう。


「それからデルマト。お前の爆薬の知識はこのお嬢ちゃんの役に立つ。しっかり面倒をみてくれよな」

「僕で力になれるなら全力を尽くして支援します」


デルマトはプリシアを見やると手を差し伸べた。


「何だか、改めて紹介されると照れるね」

「デルマトです。プリシアさんのために働きます。これからよろしくお願いします」


プリシアは頬を赤らめながら照れくさそうに握手をする。

まんざらでもない様子に少し安心した。

これでプリシアの関心がデルマトに移ってくれれば私も解放されると言うもの。

けっしてプリシアの好意が嫌なわけではないがエリザとのこともあるしで。

でも、そうは言っても私がエリザに好意を寄せている訳でないのだが。

プリシアもエリザもルーンも偏りもなく好きだ。

それは仲間としての好意でしかない。

しかし、私の気づいていない所でそれぞれの想いが進行していたようだ。

そのことに気づくことはもっと後のことになる。


そして私達はログ達を連れてダウスの工房を後にした。

ダウスはお土産として魔鉱石の塊をいくつかくれた。

それはもともと私達が魔窟で採掘してきた魔鉱石の残りだと言う。

移動式大砲を開発する時に役立つだろうと言うことでダウスが手配したのだ。

何から何までダウス様様である。

これも私達の地道な活動が身を結んだ結果だろう。

私達は先の未来に期待をしながらグルンベルグ王国へ戻った。


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