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135「エルフ王陰謀説」

その頃、巷ではある説が話題を呼んでいた。

その説と言うのは”エルフ王が魔獣を蘇えらせた”と言うものだ。

根拠となっているのはエルフ王が聖槍グングニルを保有しているからだと言う。

聖槍グングニルと魔獣復活とどう言う関係があるのかわからないが、民衆達はエルフ王陰謀説を信じているらしい。

世の中が混乱に包まれるとどこからともなく陰謀説が生まれるものだ。

アルタイル王国の滅亡に加え魔獣の復活と世界は混沌としている。

人々の不安は拭われることなく恐怖だけが募って行く。

その中で定説が崩されると陰暴論が創り上げられるのだ。


”エルフ王が魔獣を封印させる”と言う定説は今や崩された。

エルフ王が聖槍グングニルを独占しているから魔獣を封印出来ないでいるのだ。

そんな混乱の中、新たな考え方が生まれはじめる。

”聖槍グングニルにはもう魔獣を封印できる力はなくなった”

”聖槍グングニルは既に失われてしまった”

”諸悪の根源はエルフ王だ”

”エルフ王が聖槍グングニルを隠し持っている”

など、さまざまな誤情報が人を伝って巷を賑わせていた。

その後情報が都合のいいように組み合わされて新たな説を創ったのだ。

今や世界の民衆達はエルフ王陰謀説で盛り上がっている。

それはここグルンベルグ王国でも同じだった。


「エルフ王が魔獣を復活させたらしいぜ」

「やっぱりな。前から怪しいと思っていたんだ。聖槍グングニルを独占しているからな」

「世界の支配が目的だろうか」

「世界を支配してエルフの国を創るのかもしれない」


酒場のテーブルで酔っ払い達が物騒な話で盛り上がっている。

他の客達もエルフ王陰暴説で盛り上がっていた。


「おい、タクト。あいつら物騒な話をしているぞ」

「今、巷で流行っているエルフ王陰謀説だ。何でもエルフ王が魔獣を復活させたとか言う話だ」

「それは本当のことなの?」

「あくまで説だよ。世の中が混乱に陥るとどこからともなく生まれるものなんだ」


私の説明に納得できなかったエリザは不安げな顔をしている。

まあ、実際にエルフ王に会ったこともないからエルフ王の実像はわからない。

噂通りの人物ならば傲慢で強欲な人物像が浮かび上がるのだが。

それにしても冷静に考えればすぐにわかるエルフ王陰謀説に疑いもしないなんて民衆の心理は不安定のようだ。


仮にエルフ王陰謀説が正しいとして考えてみれば。

魔獣を復活させても聖槍グングニルの力でコントロールできる保証はない。

エルフ王が魔獣を復活させても制御できないだろう。

魔獣は暴走してエルフ王国を滅ぼすかもしれない。

そんな状況で果たしてエルフ王は魔獣を復活させるだろうか。

魔獣は人間にとってもエルフにとっても脅威でしかない。

300年も生きているエルフ王と言えどもそこまで愚かとは思えない。


エルフ王陰暴説はあくまで人々の不安を埋めるためのものでしかない。

それが正しくなくても、信じられればそれでいいのだ。

世界の情勢が不安定なように人の心理も不安定なものだ。

その人達が集まれば不安はより巨大なモノへと変わる。

不安と言う闇は集まれば集まるほど大きくなり世界を覆って行く。

その闇の中で陰謀説は一縷の星のように輝きを増す。

人々は自然と陰暴説を求めて信じるようになる。

それが陰謀説の正体だ。


エルフ王陰謀説も人々の不安が創り出した産物でしかない。

その説が崩されるのは魔獣と人々との戦いによって証明される。

魔獣と戦いになれば世の中は不安定な状況に陥る。

そうなればまた新しい陰謀説が生み出されるだろう。

何を信じればいいのかわからなくなったら自分が実際に見て感じたことを信じればいいのだ。


「タクトさんは冷静ですね。エルフ王陰謀説なんか信じていない様子」

「策士たるものいつでも冷静に判断をできなければならないからな。まあ、エルフ王陰謀説は説として興味はあるが」

「でも、エルフ王って謎の人物だね。先の聖戦で魔獣を封じ込めた救世主と言われているけど」

「私も実際に会ったことはないからな。謎の人物さ」


エルフ王が表舞台に立つことはあまりない。

と言うより皆無と言ってもいいだろう。

普通、国を治める者は表立って行動するものだ。

そうすることで自分の知名度をあげて民衆に知らしめる。

自分がいる国の国王の顔をしらないのでは不安でしかないからな。

国王と言うのはその国の顔でもある。

見た目も去ることながら、その中身も大事だ。

どんな政策を打ち出して国のかじ取りをするのか民衆は心待ちにしている。

かじ取りを誤れば容赦もなく非難を受けて粛清されるだろう。

それだけ国王と言う存在は偉大なのだ。


「ダゼル国王に頼んでエルフ王国へ入国するのは出来ないのか?エルフ王の協力を得られないのなら、せめて聖槍グングニルだけでも手にできればいいんじゃないのか?」

「ダゼル国王と言えども、それは難しいだろう。なにせエルフ王国は他の国とは交流を持っていないからな。入国さえ難しいだろう」

「それなら勝手に行っちゃえば。黙って入れば大丈夫なんじゃない」

「それでは密入国と同じじゃないですか。捕まったら罰を受けますよ」


エルフ王国が密入国者に対しどんな対応をするのかわからないが、普通の国ならば処罰にあたいする行為だ。

交易を規制していた元アルタイル王国では密入国者は見せしめのために処刑されていたらしい。

国によって対応はまちまちだが処罰の対象になる行為であることは同じだ。

そんなことをすればダゼル国王にも迷惑がかかる。

グルンベルグ王国とエルフ王国の間に亀裂が生まれるかもしれない。


「とりあえず、聖槍グングニルのこともエルフ王陰謀説のことも棚に置いておこう。私達は私達に出来ることをするんだ」

「そうだな。まだまだグルンベルグ軍の強化は出来るしな」


ガルドは納得した様子でグラスを手に取り酒を煽る。


「ところでガルド。騎士団の強化はどこまで進んでいるんだ?」

「よくぞ聞いてくれました、タクト君。俺の血のにじむような特訓で爆裂剣、紅蓮剣、氷霜剣、閃光剣をを習得させた。あとは奥義の習得だが、これにはもっと時間が必要だ」


ガルドは腕を組んで誇らしげに報告をして来る。

この短期間で4種の必殺技を習得出来たことは大きい。

これで騎士団の戦力は大幅にアップ出来たことになる。

願わくば奥義の習得をしてもらいたかったが、仕方ないだろう。

奥義はそんじょそこらの特訓だけじゃ習得できない。

実戦を積み重ねてこなければ習得をするのは難しいのだ。


「エリザの方はどうだ?」

「一応、最上級魔法まで習得させたけれど、使いこなせるかは別ね」

「合わせ技の方はどうだ?」

「依然と比べれば見違えるほど息が合って来たわ。これなら魔獣戦でも実力を発揮できそうよ」


最上級魔法まで習得出来たことは大きい。

それに合わせ技のタイミングが一致して来たことも重要だ。

魔獣は魔法耐性を持っている可能性があるから魔法を強化できたことは大きい。

魔法が半減させられたとしても大ダメージを期待できる。

後とは経験を重ねて自分のものへと昇華させて行くだけだ。

そのためにもモンスター討伐訓練は欠かせない。


「ルーンはどうなっている?」

「蘇生魔法はみなさん習得できました。ただ、まだ定着していないようで効果がまばらですけれど」

「他の魔法は?」

「光系の魔法も時系の魔法も最上級魔法の習得は出来ていません。何せ私がまだ習得していませんから」


蘇生魔法が全員使えるようになったことは大きい。

効果にまばらがあるのは否めないが。

蘇生魔法は合わせ技が出来ない魔法に部類する。

合わせても効果が強化されないことが原因である。

他にもスピカやチャクラなども合わせ技が出来ない。


「それぞれの強化は順調なようだな。後はガルド達自身の強化だけだ」

「俺達も特訓をするのか?」

「あたり前でしょ。ガルドは今の自分に満足しているの?」

「満足なんてするものか。俺はまだまだ強くなれるからな」


エリザの言葉を受けてガルドは胸を張って言い切る。

そうでなくては面白くない。

ガルド達はまだまだ強くなれる余力を残しているのだ。


「ガルドには新たな奥義を習得してもらいたい。エリザは習得していない属性の最上級魔法の習得。ルーンも同じだ」

「新たな奥義の習得か。腕が鳴るぜ」

「なら、風と雷と土系の魔法ね」

「私は光と時の魔法ですわ」


これでガルド達自身の強化できれば戦いの幅も広がる。

今までは力押しでやっていたこともより戦術的に組み直せる。

魔獣相手に力押しは効かないだろうからな。

すると、ひとり取り残されていたプリシアが拗ねてみせる。


「タクト、私を忘れないでよ。私だって活躍できるんだから」

「もちろん忘れてないさ。プリシアも新たな必殺技を習得してもらいたい。それと新たな武器の調達だ」

「新たな武器?」

「プリシアの爆弾は効果絶大だが飛距離がない。だからドワーフにプリシア専用の新しい武器を造ってもらうんだ。構想としては大砲を小さくしたような武器だ」

「大砲を小さく?面白そう」


プリシアの欠点は遠隔攻撃が出来ないと言うことだ。

クーデター制圧の時に過激派が使っていた銃と言う武器の技術を使えば可能だと踏んでいる。

プリシアが遠隔攻撃を出来るようになれば弓部隊との相性も良くなる。

ついでに移動式の大砲を何門か開発してもらおうかとも考えている。

反乱軍の大砲の前には合同軍も撤退を余儀なくされた。

そのことから考えても大砲は魔獣戦で大きな力を発揮するに違いない。

それに砲弾をプリシアに造らせれば様々な効果を持った大砲も打てると言うものだ。

新生アルタイル王国が交易の自由化を認めた今がチャンスなのだ。

できればドワーフの何名かをグルンベルグ王国に招き入れたい。

そうすればわざわざアルタイル王国に行かなくても済むからな。


「へへへん。私、期待されているようね」

「期待しているさ。これからの戦いはプリシアが左右することになるかもしれないからな」


プリシアは満足気にニコリと笑うとグラスの酒を口に運んだ。


「それじゃあ明日から猛特訓だな」

「私も全力を尽くせるように頑張ります」

「大船に乗ったつもりでいてよ」


ガルド達は胸を張って自信を見せる。

それはこれまでの経験が背景にあるからだろう。

心強いことだ。


「それじゃあ私とプリシアはアルタイル王国のドワーフ村まで行って来る。ドワーフに武器の開発を依頼しないといけないからな」

「二人っきりで出掛けるなんて。プリシア、抜け駆けはダメからね」

「へへへ。どうしようかな。タクトと二人っきりになれるし、襲っちゃおうかな」

「何を馬鹿なことを言っているのプリシア。そんなことしたら許さないから」


エリザは何の心配をしているのか。

いい加減プリシアの冗談になれろと言うものだ。

そんな風に思っているとプリシアが絡んで来る。

私の腕を組んでくっつくとエリザを挑発する。


「どう許さないって言うの?」

「ちょっと離れなさい、プリシア。本気で怒るわよ」

「みなさん、仲がよろしいことで。クスクス」

「また、タクトかよ」


じゃれあっている私達を見やりながらルーンが小さく笑う。

その横でガルドは不満そうにぼやいた。

そんなこんなで私達の宴会は夜遅くまで続いた。

久しぶりに骨を休めただけあってみんなのストレスもなくなったようだ。

そして翌朝、私とプリシアはアルタイル王国を目指して旅立つのだった。





アルタイル王国とグルンベルグ王国の国境まで来ると状況は一変していた。

以前いた多数の警備兵はいなくなり通行チェックも簡素化している。

国境にはたくさんの行商人と冒険者、観光客で賑わっていた。


「以前とは比べものにならないくらい雰囲気が変わったね」

「これもアトス政権の賜物なのだろう。快く受け入れがたいが」

「そうね。あんなやり方で政権をとるなんて普通じゃ考えられないもの」


それだけマクミニエル政権に虐げられて来たのだろう。

これも全てマクミニエル国王が招いたことなのだ。

自業自得とまでは行かないが、それに近いものがある。

討ち取られるべきして討ち取られたのだ。

すると、警備兵が私達の馬車へやって来た。


「観光ですか?仕事ですか?」

「観光です」

「ちょっと荷物を検査させてもらいますね」


丁寧な物腰で警備兵は荷物のチェックをはじめる。

そして一通り確認をすると通行証に印鑑を押した。


「ゆっくり楽しんで行ってください」

「前と全然違う応対ね。政権が変わるだけでこんなにも変わるものなの?」


プリシアが驚くのも無理はない。

以前のような威圧的な態度もなければ厳重な荷物チェックもない。

それだけアトス政権が打ち出した政策が徹底されているのだろうか。

友好的な態度をとられるとこちらも友好的な気分になる。

もしかしたらアルタイル王国は本当に豊かな国へと変わるのかもしれない。


ドワーフ村まではモンスターに遭遇することもなく順調に来られた。

それもアトス政権が定期的にモンスターンの駆除を行っているかららしいのだ。

交易の自由化はアトス政権が掲げた政策のひとつ。

故に交易の要となる交易路の管理は必須なのだろう。

それは交易だけでなく観光客にも恩恵を与える。

だだし、冒険者にとってはありがたくないが。

それも考えてか、アトス政権はモンスターの駆除を冒険者達にやらせている。

多額の報酬金をかけてモンスターを駆除させる。

ギルドにも情報を流して協力させると言う徹底ぶり。

さすがは政権をとるだけの人物であると言える。


「でも、モンスターがいないのもつまらないものだよね」

「まあ、モンスターがいないのは交易路だけだから、交易路から外れればモンスターがわんさかいるさ。それよりも名工ダウスの工房へ行こう」


私達はドワーフ村に辿り着くと名工ダウスの工房へ足を運んだ。

工房の中からはダウスが刀鍛冶をしている金属音が聞えて来る。

カンカンカンとリズムよく刻む音に懐かしさを覚えた。


「ダウス、いるかい?」

「ほっ?何だあんたらか」


私が声をかけるとダウスが刀鍛冶を止めて驚いたように振り返る。

その顔は煤けていて朝から刀鍛冶をしていたようだった。


「久しぶりだな。変わりはなかったかい?」

「俺のところは変わらないよ。変わったのは政権だけどな」


ダウスの話によればアトス政権が誕生した後、アトスが自ら足を運んできたのだと言う。

それは表向きは視察と条例を伝えるためだったのだが、独立を企んでいる村長達を自制させに来たのだ。

村長達とアトスは武器の密輸で繋がっていたから企みまで知っている。

それが故にアトス政権に反旗を翻さないような条例を突きつけて来たのだ。

条例はいくつかあったが主だったものにドワーフと他国の者達の交流を妨げないと言うものがあった。

それは若いドワーフ達が望んで来たこともあってすぐに受け入れた。

しかし、そのことで若いドワーフと村長達との間に揉め事が起こった。

村長はあくまでもドワーフ国の制定を望んでいるらしく、仲間を集めている。

そのほとんどは年寄りばかりのドワーフ達で少数派だ。

やむなく村長達の企みは挫かれ今に落ち着いたのだと言う。


「ところでこんなところまで何しに来たんだ?」

「これを造ってもらいたくて」


私がプリシア専用の武器の図面を見せるとダウスは覗き込むように見やる。

そして自慢の顎鬚を撫でながら感心したように何度も頷く。


「こいつはお前さんが描いたのかい?」

「そうだ。造れそうか?」

「もちろん造れるとも。こんな精密な設計図があれば造るのは簡単さ」

「そうか。それはよかった。で、どのくらいかかりそうだ?」

「そうだな。2週間もあればできるよ」


私は金と設計図をダウスに渡すとダウスは設計図だけ受け取った。


「おいおい、金はいらないのか?」

「後払いでいい。こんな面白いものを造れるんだからなちょっとは楽しまないとな」


そう言ってダウスは豪快に笑い飛ばす。

さすがは名工だけのことはある。

腰が据わっていて竹を割ったような性格のようだ。

ついでに移動式大砲の設計図も見てもらった。

それも造れると言うことだったが、そのためにはもっと大きな工房ではないとダメだと断られてしまった。

まあ、移動式大砲のことは後で考えるとしてプリシアの専用武器の制作に取り組んでもらうことにした。

その間、私とプリシアはドワーフ村で滞在することになる。

それを利用してグルンベルグ王国に来てもらうドワーフをスカウトすることにした。

あてはないが、2週間も時間があれば見つかると踏んでいた。

しかし、その甘い考えはすっぱりと挫かれることになったのだ。


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