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134「特訓」

王都へ戻りラクレスへ報告を済ませる。

私は今回の訓練で気づいたグルンベルグ軍の弱点を説明する。


「訓練は無事終えたようだな。で、やってみた感想は?」

「さすがは鍛え上げられたグルンベルグ軍だけのことはある。統制もとれているし何より連携がうまい」


私の言葉にラクレスは誇らしげに笑う。


「ただ、弱点も見つかった」

「弱点?何だそれは?」

「個々の火力が弱いことだ。人間を相手にするならば今のままでも十分だが、モンスターを相手にするならば火力が弱い。斬撃や狙撃では魔獣には到底敵わないだろう」


ラクレスは手を顎に当てると難しい顔をして納得する。


「確かに火力が弱いな。騎士団長クラスになれば爆裂剣などの必殺技は使えるが、ただの騎士となれば斬撃しか使えない。これは問題だな」

「修業が足りないんだよ、修業が。普段から鍛えている俺なんて奥義まで使えるんだぞ」


ガルドは誇らしげに胸を張るとラクレスに自慢してみせる。

すると、その様子を見ていたエリザが思いもかけないことを言って来た。


「なら、ガルドが教えてあげたら?」

「へっ?」

「それはいいアイデアだ。歴戦を潜り抜けて来たガルドならば適任だ」

「そうですわ。ガルドさんなら皆さんのいいお手本になります」

「そうなるとガルドが先生ってことね」


プリシアはムフフと笑いながらガルドを見やる。


「プリシア。何だよ、その目は」

「何でもない」


プリシアは明らかにガルドを馬鹿にしているようだ。

まあ、ガルドが先生なんて似つかわしくないことこの上ない。

剣術の腕は確かだが、それより先に酒の楽しみ方を教えそうだ。

プリシアも、きっと同じことを考えているのだろう。


「剣士ガルドが教えてくれるならば心強い。我が騎士団を鍛えてやってくれ」


ラクレスは真面目な顔でガルドと握手をする。

ガルドもまんざらでもない様子で応えていた。


「火力を上げるならば魔術師やプリ―スト達の強化もしておいた方がいいだろう」

「そうだな。より上の魔法が使えるようにしておいた方がいいな。できれば最上級魔法を」

「覚えるのはいいが使いこなせるかどうかはわからないぞ」

「できればモンスター討伐に向かわせて実戦で経験値を積むのが手っ取り早いのだが」


私の提案にラクレスは頷きながら応える。

騎士団もモンスター討伐をすることはあるのだがごく希だ。

モンスター討伐は冒険者達の仕事で、騎士団は城の防衛や諜報活動がメインになっている。

なので入団したての若い騎士などはモンスターと戦ったことがない。


「さっそく手配をしよう。このところ強いモンスターも増えてきているからちょうどいい」


ラクレスはさっそく寄宿舎へ向かうと訓練の内容を説明した。

騎士団ごとに騎士を分けてガルドの指導のもと、訓練を行う。

魔法使いやプリ―ストはエリザ達が教えることになった。

ひとり残ったプリシアは私と一緒に訓練を見て回ることに。

それとどんなモンスターと戦うのか選別も忘れていない。

強力な必殺技や魔法を覚えたからと言っていきなり強いモンスターと戦ったら負けてしまう。

まずは手頃なモンスターと戦って必殺技や魔法を馴染ませることが必要なのだ。





翌日。ガルドの厳しい特訓ははじまった。

騎士団ごとにガルドの特訓を受ける日取りを決めて、繰り返し特訓を受ける仕組み。

騎士団は全部で7部隊あるから月曜から日曜までちょうど埋まる。

ガルドは休日返上で特訓を行うことになるが、栄養補給に酒を与えておけば十分だろう。


「いいか、お前ら。剣術ってのはな」

「そんな話なら聞き飽きたぜ。説明はいいから早く教えてくれよ」

「俺達は初心者じゃないぞ」


得意気に剣術の極意を説明しようとしたガルドの鼻がへし折られる。

ここに集まっている騎士団はグルンベルグ王国あげての騎士達ばかりだ。

子供だましの説明では満足しないのは目に見えている。

ガルドはブツブツ文句を言いながら大剣を振りかざす。


「なら、見せてやるぜ。焼き尽くせ!『爆裂剣!』」


ガルドは手前の空間に敵を思い描くと大剣を大きく振り下ろす。

同時にガルドの大剣が炎で包まれると爆炎が巻き起こりあたりに広がった。

その様子を見ていた騎士団が関心の声がこぼれる。

ガルドは騎士達の顔を確認すると口元を緩ませた。


「これが爆裂剣だ。お前、やってみろ」


ガルドは手前に座っていた細身の騎士を指名する。


「お、俺?」

「レイム、見せてやれ。グルンベルグ騎士団の実力を」


レイムはおどおどしながら立ち上がると剣を抜いて構える。


「なんだ、そのへっぴり腰は。もっとこう腰を入れるんだよ」

「こうですか?」

「違う。こうだよ。よく見ろ!」


ガルドは様になっていないレイムにお手本をして見せる。

しかし、レイムは中々うまく構えられずに手こずっている。

すると、ガルドがしびれを切らして先へ進めた。


「構えはもういい。それより爆裂剣を打ってみろ!」


レイムは見よう見まねで剣を大きく振り下ろした。

……。

一瞬、辺りが静まりかえると、一呼吸おいて爆笑が湧き起った。


「マジかよ。レイム。スカって何だよ」

「ハハハ。ウケる。さすがはレイムだ」

「……」


レイムを馬鹿にしながらお腹を抱えて爆笑する周りの騎士達。

はじめからレイムに出来ないと踏んで押したようだ。


「ヤダね、ああいう奴らって」


プリシアの言う通り、あの手の輩はどこにでもいるものだ。

人を小馬鹿にすることが楽しみのひとつになっていているから質が悪い。

すると、様子を見ていたガルドが怒りだした。


「何、笑ってやがる、お前ら」

「だってよ。スカだぜ。これが笑わずにいられるかってんだ」

「じゃあ、貴様がやってみろ!」


ガルドは爆笑していた騎士の胸ぐらを掴みあげる。


「そんなの俺がやるまでもないぜ。爆裂剣ぐらい簡単だ」


飄々としながら笑っていた騎士はガルドの腕を振りほどくと剣を抜いて構える。

そしてガルドのお手本通り剣を大きく振り下ろす。

同時に剣の周りを小さな爆炎が巻き起こり周りに広がった。

騎士は誇らしげにガルドを下目に見やる。


「これがグルンベルグ騎士団の実力だ」

「まだ、それでは爆裂剣とは言わないな」

「レイムよりもまともだったろ?」

「同じだな」


ガルドはいい気になっている騎士の鼻をへし折った。

この程度でいい気になられていては先が思いやられると言うもの。

ガルドにしてはいい判断をしたようだ。


「さあ、お前達。全員、立て。爆裂剣の練習だ!」


ガルドの号令で気怠そうに立ち上がる騎士団。

そして、ガルドの掛け声に合わせて剣を振り下ろす。

一から鍛え直さなければならないようだ。

まあ、時間もあることだしきっちり特訓してもらおう。


「レイム。お前には本気モードの爆裂剣を伝授してやる」

「本当ですか!」

「お前は強くなる素質があるからな。すぐに俺みたいになれるさ」

「先生に着いて行きます!」

「俺の特訓は厳しいから覚悟しておけよ」

「はい!」


ガルドはレイムに昔の自分を重ねたのだろう。

元弱小冒険者であるガルドもレイムと同じような境遇だった。

冒険者達からは馬鹿にされ嘲り笑われていた。

だからレイムが仲間達から馬鹿にされているところを見てグッと来たものがあったのだろう。

ガルドらしい判断だ。


「ガルド、気合入っているね」

「はじめて人に剣術を教えるのだからな。気合も入るだろう」

「あの騎士達はガルドみたく強くなるかな?」

「それはガルド次第だろう」


まあ、ガルド程とは言わずとも爆裂剣ぐらいは覚えておいてもらいたいものだ。

斬撃程度では魔獣にダメージを与えることは難しいだろう。

剣術は魔法と違って個々の力がモノを言う。

魔法のように合わせれば合わせるほど大きくなるものではない。

故に必殺技を使いこなせる騎士が大量に必要になるのだ。


「エリザはどうしているかな?」

「時間もあることだしちょっと覗いてみるか」


私とプリシアはガルド達のいる訓練場を後にして敷地面積の広い訓練場へ向かった。





魔術師部隊は和やかな雰囲気で特訓をしている。

特訓と言うよりも……お茶会だ。

シートを広げて楽しそうにおしゃべりしながらお茶をしている。


「楽しそうね」

「楽しいことは良いことだけど、もっと特訓の方に力を入れてもらわないと」


半目の私の視線に気づいてエリザが声をかけて来る。


「何よ、その目は?私達はちゃんとやっているわよ」


そう言うエリザの後ろでは女子の魔術師達がお菓子をつまんで。

エリザを疑う訳でもないけれど、これは特訓じゃない。

ただのお茶会だ。

こんなのでは先が思いやられる。

呆れ顔の私を見てエリザが慌てた様子で、


「じゃあ、みんなにお手本を見せてあげるわ」


両手を前に翳して魔法の詠唱に入った。

そして魔力を両手に集中させながら説明する。


「ここがポイントよ。両手に魔力を集中させるの」


そして、大地を目掛けて魔法を放つ。


「漆黒の闇よりい出し赤色の、永遠に燃え尽きぬ暁となりて、その深紅の瞳で見続けよう『メテオスォーム!』」


赤い魔法陣が大地に浮かび上がると空が鈍色の雲で覆われる。

空を裂くような轟音と共に業火に焼かれた隕石が降り注ぐ。

ひとつ、ふたつと大地に落ちると大きなクレーターを造った。

すると魔術師達から歓声が湧き起る。

エリザは照れくさそうにしながらも誇らしげに胸を張った。


「魔力は集中させれば集中させるほど魔法の威力は高まるの。その効果は無限大とも言われているわ」

「さすがはエリザ様ですわ。私達にも出来るでしょうか?」

「もちろん出来るわよ。そのための特訓でもあるからね。さあ、みんな立って」


エリザが急かすとお茶会を楽しんでいた女子の魔術師達が立ち上がる。


「じゃあ、はじめはひとりずつ見て行くわね」


ひとりの女子魔術師が一歩前に出ると両手を前に突き出して詠唱に入る。

エリザは傍で囁くようにアドバイスをする。


「魔力の流れを感じながら両手に集中させるイメージで」

「はい!」


すると、女子魔術師の両手に魔力が収束されて行く。

それは赤い閃光を発しながら具現化する。

そしてメテオスォームを放った。

空から赤々とした熱い隕石が大地に降り注ぐ。

それは地震のごとく激しく大地を大きく揺るがした。


「私とまでは行かなかったけれど、すごいじゃない!前より威力が各段に上がっているわ」

「やったー!私にも出来るんですね」


魔法を放った女子魔術師は飛び上がって喜んでいる。

自分でも、こんなに強い魔法を放てることは信じられなかったのだろう。

女子魔術師は興奮しながら他の魔術師達と喜び合っていた。


「この調子ならひとまず大丈夫か」

「あーあ。私も誰かに教えたかったな。必殺の爆弾技を」


それは皆無だろう。

なんて言ったって爆弾使いは珍しい職業なのだ。

世界を見渡しても数得るほどしかいない。

策士に匹敵する希少性だ。

まあ、ドワーフ村に行けば活躍の場もありそうだが。


「次いでだ。ルーンの様子も見て見よう」

「しっかり者のルーンなら心配ないんじゃない?」


私とプリシアはその足でルーンが特訓をしている訓練場まで向かった。

ルーンが特訓をしている訓練場はエリザのところから隣にあたる。

しかし、魔法は広範囲の場所が必要なので隣と言っても歩いて20分ほどもかかった。





ルーン達の訓練場は静粛に包まれていた。

人の気配はあるのだけれどルーンを中心に集まっているプリ―スト達は口を噤んでいる。

と言うよりもルーンの蘇生魔法に驚愕していたようだ。


「これが蘇生魔法のリザレクションです。私も初めて使ったのですがうまく行ったようです。皆さんにも習得してもらいますのでよろしく」


ルーンの蘇生魔法で蘇った小鳥はチュンチュンと鳴いている。

胸を貫いていた傷跡も消え、まっさらになっている。

私も蘇生魔法を見るのははじめてだが、ここまでとは。

この魔法をグルンベルグ軍のプリ―スト達が習得してくれれば心強い。

魔獣討伐へ向けても弾みがつくと言うものだ。


「この蘇生魔法は人間にでも有効なのですか?」

「もちろんです。生きとし生けるものすべてに有効な魔法です。ただし、死後まもないものでなければなりません。死後から離れれば離れるほど蘇生の効果は薄くなります。なので時間が勝負です」


ルーンの真剣な眼差しにゴクリと唾を飲み込むプリ―スト達。

辺りが静寂で包まれている中を私が割って入る。


「ルーン。特訓は上々だな」

「タクトさん。まだ、はじまったばかりですわ。みなさんに蘇生魔法を覚えてもらうには時間がかかりそうですけれど」

「ルーンなら大丈夫だよ。そうだよね、タクト?」

「ああそうだ。ルーンならやれるよ」


私がルーンの肩にそっと手を置くとルーンは少しはにかんだ。


「それじゃあ、みなさん。蘇生魔法の特訓をはじめましょう」

「ルーン様。死体がありません」

「この子には悪いけど、標本になってもらいましょう」


そう言うとルーンは蘇ったばかりの小鳥の心臓をナイフで一突きにする。

小鳥はピピピと苦しそうな鳴き声を上げながらパタリと死んでしまう。

顔色もひとつ変えずに大胆な行動をするルーンに背中がブルッと震えた。

これがルーンの本性なのでは。

だとするならばルーンを敵に回さない方がいいな。

そしてルーンは大地にそっと小鳥の死体を置く。


「さあ、蘇生魔法をかけてみてください。時間が経てば経つほど蘇生の効果は薄まりますから手早くお願いします」

「そう言われると余計にプレッシャーが生まれますわ」

「実際の戦場ではプレッシャーを感じている暇もありません。蘇生魔法は戦況を左右させるほど重要なものですから。そうですよね、タクトさん」

「ルーンの言う通りだ。蘇生魔法次第で勝利も敗北も変わる。魔法の要と言ってもいいくらいだ」


プリ―スト達にはプレッシャーになっただろうか。

終始、お互いの顔を見合わせながら目の前の現実を受け止めようとしている。

しかし、これも試練のひとつだ。

この程度のプレッシャーに打ち勝ってもらわなければ蘇生魔法の意味もない。

実際の戦場では考えている暇もないくらい激しい。

目の前にある現実に対応して行くだけでも一苦労だ。

そんな状況下で的確に蘇生魔法を使いこなさなくてはならないのだ。


「ルーンの指導に従えば、みんなも使えるようになる。それは私が保証しよう」

「私も保証する。ルーンはパーティーの中では優秀だからね。それに今まで何度もルーンに助けてもらって来たからね」

「プリシアさん。そんなに褒めないでください」


ルーンは照れながらも恐縮していた。

ルーンがこの調子なら大丈夫だろう。

ガルド、エリザ、ルーンの特訓は3ヶ月間みっちり続いた。

騎士達は爆裂剣をはじめ複数の必殺技を習得。

魔術師達は最上級魔法を習得。

プリ―スト達は蘇生魔法を中心に習得した。

そしてグルンベルグ軍の戦力はこうして強化されて行ったのだ。


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