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132「聖槍グングニル」

深夜の森の中を駆け巡ること一時間。

アラジンにはどこをどう通って来たのかはわからない。

アラジンとミーナはマグフィニス洞窟の前までやって来た。

神器が奉納されていることだけあってエルフが警備をしている。

洞窟の外は目だって装飾されていることもなく自然で出来た洞窟といった感じだ。

この中に神器が奉納されているとは誰も気づかないだろう。


「アラジン。見張りがいるけどどうするの?」

「もちろん、あいつ等には眠っていてもらうさ」


アラジンは服の中に隠していた吹き矢を取り出す。

これもいざと言う時ように準備していたものだ。

針の先端に麻酔効果がある溶液をつける。

一滴でも体に入り込めばつぶさに眠ってしてしまうほどの威力がある。

なので溶液の扱いには気をつけなければならない。


「アラジンって何でも持っているのね」

「研究者ならあたり前のことだよ」


アラジンは毒針を筒の先端に取り付けるとエルフ目指して狙いを定める。

そして大きく息を吸い込むと毒針を発射した。

毒針はエルフの首元に突き刺さり、瞬間、エルフは意識を失って倒れる。

続くように隣のエルフも意識を失って倒れ込んだ。


「やったー!」


両手を合わせて喜ぶアラジンとミーナ。

倒れ込んだエルフに近づき意識を確かめる。

エルフは息はしているようだが眠ったままだ。

それを確認するとミーナは安心したように笑った。


「この先に聖槍グングニルがあるんだな」

「私も見るのははじめてだからドキドキする」

「よし、行くぞ」


アラジンはミーナの手を引いて洞窟の中へ進んで行く。

洞窟の中にはところどころに明かりをともす台があり蝋燭が煌々と照らしている。

さすがに灯かりは人工的に造られたものだが洞窟自体は自然に出来たものだ。

荒い岩肌がむき出しになっており足元もゴツゴツしていて歩きにくい。

洞窟に入ってから100メートルほど進むと大きな広間に辿り着いた。


「広ーい。ここはどこ?」

「おそらく洞窟の最深部だ」

「ねえ、アラジン。見てよ、足元。キラキラしているよ」

「これは魔鉱石だ」


魔鉱石は結晶となって所々に突き出している。

こんなにも純度の高い魔鉱石を見るのはじめてだ。

不純物が少ないからか黒紫色に輝いて透き通って見える。

これだけあれば相当量の武具に加工できるだろう。


「アラジン。あそこに何かあるよ」


ミーナが指を指した方を見やると祭壇が見えた。

祭壇は豪華な装飾が施されていて明らかに人工的に造ったものだ。

両脇には加工された魔鉱石が光りに照らされて煌々と輝いている。

その中央には白銀色に輝く聖槍グングニルの姿があった。


「こいつが聖槍グングニルか」


聖槍グングニルは鋭い切っ先が伸びていて鍵爪のような形状をしている。

柄の部分は豪華な装飾が施されていて金やプラチナが埋め込まれていた。

それはまさに聖槍グングニルに相応しい風貌をしている。

アラジンが聖槍グングニルに手を伸ばそうとすると後ろから声をかけられた。


「それは手にしてはならぬ」


振り向くとエルフ王ことドエル・ド・ミクスが立っていた。


「国王様!」


こいつがエルフ王か。

神秘的な白銀色の長い髪に豊かな顎髭。

瞳は見る者を突き刺すような赤い瞳で。

見るからに王様って感じの風貌をしている。


「エルフ王、直々のご登場とは恐れ入ったな」


アラジンは小剣を取り出して身構える。

もちろんこんなところで一戦を交えるつもりはない。

あくまで威嚇のためのものだ。

ミーナは小剣を構えているアラジンに言葉を失っていた。


「ミーナ。こっちへ来なさい」

「……」

「ミーナ」


優しく話しかけるように問いかけるエルフ王にミーナは我に返る。

その瞳は優しくも鋭い突き刺すような冷たい気配を感じたからだ。

それはエルフ王の心眼と言うべきか。

長い間、エルフ王として君臨して来たからこそ身につけたものだ。

今までに感じたことのない不気味な気配にミーナはたじろぐ。

そして、アラジンの後ろに隠れるとエルフ王に言った。


「国王様。アラジンは街の人達を助けるために聖槍グングニルの力を授かりたいだけなの。悪い人じゃないわ」

「悪い人じゃないかは見ればわかるだろう。そやつは我に牙を向けているのだ」


ここで意識を弱めたら一気にエルフ王に飲み込まれてしまうだろう。

そう、アラジンは警戒心を抱いて意識を集中させていた。


「あんたには悪いが聖槍グングニルはもらって行くぜ。待っている連中がいるんだ」

「聖槍グングニルは人間に扱える代物ではない。持って行っても何の意味を持たないぞ」

「それはどうかな。あんたは聖槍グングニルを手放したくないから、そう言っているのだろう」


アラジンは鎌をかけて言ってみるがエルフ王は難しい顔をしたまま。


「ここまで愚かな人間は見たことがない。ミーナよ、これが奴の本性だ」


ミーナは黙ったままアラジンの裾をしっかりと握りしめる。


「ミーナは私に賛成なようだぜ」

「お前は聖槍グングニルを手に入れて何をするつもりだ?」

「もちろん世界の覇権を握るためさ」

「愚かな。聖槍グングニルに、そんな力はない」

「だが、先の聖戦で魔獣を封じ込めたのだろう?」


アラジンの指摘にエルフ王は大きく頷く。

そして、


「確かに魔獣を封じ込めた。しかし、それは我が扱ったからだ。聖槍グングニルは選ばれた者にしか扱えない。ただの人間であるお前には使いこなせないだろう」


そうはっきりと断言した。

エルフ王が言ったことが本当であるならば聖槍グングニルを手にしたところで何も変わらない。

世界の覇権を握ることすら、魔獣を封じ込めることすら叶わないのだ。

しかし、もし偽りであったとするならばここで引く訳には行かない。

エルフにとって聖槍グングニルは神器そのものだ。

ならば誰にも奪われないように策を張り巡らせるはず。

エルフ王の言うことも嘘である可能性が高い。

アラジンはそう判断してミーナの腕をとる。


「使いこなせるかこなせなかは聖槍グングニルを手に入れてからだ。もし、お前が言うように人間に扱えないのならば聖槍グングニルは返してやる」

「お前がそう言うつもりならばそうすうるがいい。しかし、先は見えているがな」


アラジンは聖槍グングニルを手にすると洞窟を後にする。

もちろんミーナは国外へ出るための案内人として連れて行く。

エルフ王は終始、鋭い眼光をアラジンに向けていたがアラジンには効かなかったようだ。


「ねえ、アラジン。アラジンは街の人を助けたいから聖槍グングニルを持って行くのでしょ?」

「そうだな。まあ、それもあるか。魔獣は人間達にとって脅威でしかないしな。誰かが討伐しなければらない」

「私はアラジンのことを信じていていいのよね?」


不安げな眼差しで訴えかけるように言うミーナを見てアラジンは足を止める。

そして、


「もちろんだとも。ミーナが応援してくれれば百人力だ」


膝を折ってミーナの頭を優しく撫でた。

今はそうとしか言いようがない。

聖槍グングニルを持ちだして倒すのは魔獣なのだから。

魔獣を討伐すれば、その力を世界に示すことが出来る。

それがゆくゆくは世界の覇権を掴むことになるのだ。

聖槍グングニルには、その糧になってもらうだけ。

全ては我のために。


「さあ、ミーナ。ラギトスまで案内してくれ」


ミーナは小さく頷くとアラジンを連れてラギトスの街へ向かった。





ひとり洞窟に残っていたエルフ王は大きな溜息をこぼす。

またしても愚かな人間を造り出してしまったことに。

人間とは卑屈で愚かな生き物だ。

絶望に追い込まれると強大な力に縋りつく。

それが破滅を呼び込むものだとしても気づくことなく求めるのだ。

精神が弱い者がとりやすい行動に他ならない。

人間とは心弱き者の象徴とも言える。

知性は他のどの種族よりも長けているが、それが故に考え過ぎてしまうのだ。

考えは煮詰まれば煮詰まるほど頑なに考え方を固めて行く。

その決断が正しいかのように思い込んで。

今のアラジンに何を言っても無駄だろう。

エルフ王はアラジンとの問いかけの中で、そう判断していた。

まあ、聖槍グングニルを奪われても元の場所に戻って来るのだが。

すると、眠らされていたエルフの警備兵が目を覚ましてやって来た。


「国王様。なぜ、ここに?」

「おい!神器がないぞ!どう言うことだ!」

「神器は奪われた。あの男にな」


慌てふためく警備兵を横目にエルフ王は静かに告げた。


「あの男を捕まえるんだ!」

「慌てるでない。あるべきモノはあるべき場所にあるべきモノなのだ。聖槍グングニルは元の鞘に収まる」

「神器は戻って来ると?」

「そう言うことだ」


エルフ王に説得されて警備兵は落ち着きを取り戻す。

それでもどことなしかエルフ王の言葉を信じ切れずにいた。


「他の者達には、このことを黙っておけよ。それと他の者達をここに近づけさせるな」


神器がなくなったと知ったら混乱を起すだろう。

自分達が信仰している神が失われたことになるのだからな。

心の拠り所としているモノがなくなれば絶望を抱くものだ。

目の前の出来事を受け入れられずに事実を歪めて捉える者も現れるだろう。

神が我らを裏切ったとか、神からの天罰だとかと言った具合に。

そして最もな理由を創り出して全ての責任をなすりつける。

現実を受け入れるために事実を歪めてしまうのだ。

エルフ達もまた人間達と同じように心が弱い生き物なのだ。

エルフは300年生きると言われているが、その程度では人間とさほど変わらない。

1000年生きるエルフ王でさえ、同じことが言えるのだ。


「あの男は聖槍グングニルの力に取り込まれるだろう。それは変わらない未来だ」


エルフ王はマグフィニス洞窟を後にすると王都へ戻った。





アラジンはミーナの後を追いながらラギトスを目指す。

夜はすっかり明けて空からは太陽の光が降り注ぐ。

枝葉からこぼれる木漏れ日にホッと安堵感を覚える。


「追っては来ないようだな」


と、急にミーナが足を止めたのでアラジンはぶつかってしまった。


「どうした、ミーナ?」

「アラジンは悪い人なの?」

「……」

「みんなが追っかけて来るって。それは悪いことをしたからでしょ?」


その答えはもちろんYESだ。

聖槍グングニルを奪ったことは悪いことだ。

しかし、それは世界を救うために必要なこと。

エルフ側から見れば悪いことでも人間側から見れば必要なことなのだ。

立場が変われば見方も変わる。

子供であるミーナに説明してもわからないだろうが。


「ミーナも大人になればわかる。周りの反対を受けても立ち上がらなければならないこともあると」


ミーナは訳も分からずに小首を傾げる。


「ミーナ。先を急ぐぞ」


アラジンはミーナの腕をとって先を急ぐ。

すると、ミーナは抵抗するように立ち止まる。


「どうした、ミーナ?今の説明じゃわからなかったのか?」

「違うよ。そっちはラギトスの方向じゃないだけ」

「そうか。なら、ミーナが先に案内をしてくれ」

「こっちよ」


ミーナは先頭を切って森の中を進んで行く。

アラジンは迷わないようにミーナの後を追い駆けた。

だんだんと森が深くなって行き辺りが薄暗くなって行く。

ミーナが本当にラギトスへ案内してくれているのか疑問が浮かぶ。

もしかしたらアラジンを迷わすために別の場所へ向かっている可能性も否定できない。

それはミーナはしょせんエルフのなのだから。

しかし、今のアラジンにはミーナに着いて行くことしかできない。

こんな深い森にひとり放り出されたら間違いなく迷ってしまうからだ。

そんなアラジンの不安に気がつくこともなくミーナはどんどん前へと進んで行く。


「ミーナ。本当に、この先にラギトスがあるんだよな」


ミーナは何も答えない。

ただ足を前へと前へと進めるだけ。

その小さな背中にアラジンは一抹の不安を覚える。

すると、ミーナが足を止めて振り返って言った。


「ラギトスの街が見えたわ」


ミーナが指を指した方を見やるとラギトスの街が見えた。

その瞬間、アラジンが抱いていた一抹の不安がスッキリと晴れ渡った。

聖槍グングニルを奪って来たことで少し不安に駆られていたようだ。

ミーナはアラジンを信じてくれている。

だから裏切るなんてするはずがない。

大人のエルフと違ってミーナは純粋な子供のエルフなのだ。

しかし、人間とエルフと言う立場の違いだけで疑いを抱いてしまっていた。

アラジンもまたただの人間なのだ。


「出入り口には警備兵がいる。裏に回ろう」


ラギトスの街の出入り口からは入れないので抜け出して来た防壁へと回り込む。

防壁の根元には大きな岩がおいてあり穴を隠している。

ラギトスの街から抜け出して来た時に穴を隠しておいたのだ。


「ここを通り抜ければラギトスだ」

「アラジンとはここでお別れね」

「ミーナ、いろいろとありがとうな」


アラジンは手を拭ってミーナの前に差し出す。

ミーナは小さな手を差し出すとアラジンと握手をした。


「アラジン。また会えるよね?」

「もちろんさ。その時は私は今よりも大きな存在になっているがな」

「アラジン。無茶はしないでね」

「約束する」

「約束だからね」


アラジンはミーナを抱き寄せるとそっと包み込むように抱いた。

こうして抱擁して別れを惜しむなんて、今までになかったことだ。

ミーナの温もりは小さくて優しくアラジンの乾いた心を潤してくれる。

それはこれから旅立つアラジンに強い勇気を与えてくれた。

そして、名残惜しそうにミーナを離すとアラジンは穴を通り抜けてラギトスの街へ入って行った。


「アラジン……」


しばらくの間、ミーナはその場に立ち尽していた。

もう、アラジンに会えないような気がして不安だったのだ。

そしてその不安は現実のこととなる。


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