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130「エルフ王国」

各国がアルタイル王国の新政権の樹立に手を焼いていた頃。

アラジンはひとり船に乗り北に浮かぶブルム地方を目指していた。

ブルム地方は周りを海に囲まれた唯一の島国。

エルフしかいない国のためエルフ王国と呼ばれている。

エルフ王国のラギトスと言う港街はヴェールズと交易がある。

主に物資の輸送に使われているのだが、人の移動も時々ある。

各国と交易を断っていると表向きには言っているが、少しは交易をしているのだ。


「旦那。エルフ王国が見えて来ましたぜ」

「あれがエルフ王国か」


エルフ王国は中央に小高い山を抱えほとんど緑で覆われている。

国と言うよりも無人島のような雰囲気があるのが特徴だ。

それに比べてラギトスと言う街は発展しているようだ。

さすがは他国と交易をしているだけのことはある。


「にしても、わざわざエルフ王国に行こうだなんて旦那も変わっていますね」

「あそこにはちょっとした用事があるんだ」

「エルフ王国のエルフ達は部外者を嫌いますから気をつけてくださいね」


エルフ王国は諸外国と国交を持っていない。

なのでエルフ以外の人間と出会ったことのあるエルフも少ない。

世の中にはエルフしかいないのだと思い込んでいる者達も多いのだ。

そのためエルフ王国は発展していない。

今だ狩猟生活をしていると言う話も聞くぐらいだ。


船は港に横付けされると桟橋を渡り船長が降りて行く。

港では武器を持ったエルフ達が船の様子を伺っている。

これから荷物検査でもはじまるのだろうか。

船長はエルフ達と交渉しているようだ。

すると、船長の静止を振り切って武装したエルフ達が船に乗り込んで来た。


「荷物を改めろ!」

「だから、言っているだろう。これはただの穀物だって」


船長が必死になってリーダーらしきエルフに駆け寄るが無視される。

すると、エルフのリーダーは私の所へやって来た。


「お前は何者だ?」

「私は、この船の船員だ」

「船員の割には身なりがしっかりしているな」

「それはどうも」


エルフのリーダーはアラジンの体を触って武器を持っていないか確かめる。

こう言うこともあろうかと思って、予め武器は船室に隠しておいた。

しかし、船員ひとりひとりの荷物も確認する徹底ぶりはさすがだ。

それだけ異文化が流入することを恐れているのだろう。


「まあいい。お前達、何か怪しいものは見つからなかったか?」

「船長の言う通り穀物がほとんどです」

「よし。入港を許可する。荷を降ろしたら速やかに出航するのだぞ」

「おい、ちょっと待てよ。すぐに追い返そうってのか?一晩ぐらいゆっくりさせてくれよ」

「仕方がない。一晩だけだ」


そう言い残して武装したエルフ達は港へ戻って行った。


「すごい警戒ぶりだな」

「これがエルフ王国ですぜ」


船長はラギトスの街を見やりながらボソリとこぼした。


「それでこれから旦那はどうするんです?」

「とりあえず街の様子を一通り見てから決めるよ」

「なら、酒場にでも行きませんか?一杯おごりますよ」

「そうだな。情報を集めるにもその方が都合がいいな」

「なら、決まりで。おい、お前達、荷物を降ろしたら自由にしていいぞ!出航は明日だから、それまでには船に戻っておけよ」


船長は他の船員達に指示を出すとアラジンを連れてラギトスの酒場へ向かった。

ラギトスの酒場は他の国の港と同じような造りで違和感がなかった。

もちろん運営しているのは他の国からやって来た人間だ。

エルフ王から許可された人間達がラギトスで商売をしているのだ。

なので、エルフ達は基本的にラギトスの街にはおらずエルフ王国の村にいると言う。

そのためか酒場にいた客はほとんど他の船の乗組員ばかりだった。


「あんたら、エルフ王国ははじめてかい?」

「わかるのか?」

「長年、この街で商売をしているとすぐに見分けがつくよ。これは駆けつけの一杯だ。お代はいらんよ」


酒場のマスターは小さなグラスを二つカウンターに置くと酒を注いだ。

その酒は少し白く濁った色をしたとろみのある酒。

アラジンはグラスを取って香りを楽しむと一口で飲み干した。

すると喉が焼けるように熱くなり、甘い花の香りが鼻から抜けた。


「これは強いな」

「それはエルフ王国で採れる植物の種を発酵させて造った酒だ。ここでしか飲めない上等な酒だぞ」

「確かに、この味じゃあ他の国では流行らないな」


船長は顔をしわくちゃにしながら感想を言った。


「それであんたは何をしに、この街へ来たんだ?」

「私はただの船員だよ」

「嘘を言っちゃあ困る。あんたが只者ではないことは見てわかったよ」


さすがは長年この街で酒場を経営して来たことだけのことはある。

一目見てアラジンの正体を見抜くとは。

しかし、本当のことを話すことは危険だ。

酒場のマスターがエルフと手を結んでいるかもしれない恐れがあるからだ。


「私は、こう見えても植物学者でな。エルフ王国にある植物の研究に来たんだよ」

「学者か。俺の見たとおりだ。しかし、植物を研究して何になるんだ?」

「回復効果のある薬草を繁殖させて世界に広めるんだ」

「なるほどね。それなら一山あてれば大きいな」

「まあ、私は研究が第一だけどな」


アラジンの言葉を信用したようで酒場のマスターは関心しながら話を聞いていた。


「まあ、エルフ王国は未開拓の地だから、いろんな植物があるだろうぜ」

「それは助かる」

「でも、エルフ王国の入国は規制されているのだろう。どうやって入国するんだ?」


船長の指摘に酒場のマスターは黙り込む。

そして、しばらくすると小声で話して来た。


「それはもちろん密入国をするんだ。捕まったら処刑だけど、中に入るにはそれしか方法はない」

「命がけで密入国をするのか。大変だな」


ラギトスの街は高い塀が築かれていて中からも外からも出られないようになっている。

エルフ王国に続く出入口は武装したエルフ達に守られていて隙がない。

なので密入国するには高い塀を越えなければならないのだ。

しかし、酒場のマスターにはあてがあるようでアラジンに話を薦めて来た。


「密入国するならば俺にツテがあるが、どうする?」

「それなら頼むよ」

「よし、契約成立だ。報酬は1万ゴールドでいいぞ」

「ちゃっかりしているな」

「これも商売だからな。その代り、エルフ王国の地図もつけてやる」


アラジンは酒場のマスターに1万ゴールドを払いエルフ王国の地図をもらった。

そして約束の時間になると街外れの東の壁に向かう。

そこには酒場のマスターが手配した密入国の斡旋業者が2人待っていた。

斡旋業者の2人はアラジンがひとりでいることを確認すると、壁のレンガを動かして小さな穴を造る。

その穴は大人一人が何とか通れそうなものだった。


「ここを通り抜けるのだな」


斡旋業者の2人は何も言わずに頷いて答える。

そしてアラジンを通り抜けさせると壁のレンガを元に戻した。


「ここからは全て自分の責任だと言うことだな。聖槍グングニル、必ず手に入れてやる」


アラジンは地図を見ながら薄暗い森の中を駆けて行った。





どのぐらい森を進んだのだろうか。

空が明るくなる頃には開けた湖まで辿り着いた。

ここまでの間、エルフ達に出くわすことはなかった。

そればかりかモンスターにさえ出会わない。

運が良いと言えばいいのか助かったことには変わらない。

アラジンは手で湖の水を両手で救って口に運ぶ。

さすがに人の手が入っていないせいか、湖の水は底が見えるくらい透き通っていた。


「ふー。ここはどのあたりだろうか」


酒場のマスターからもらった地図に目を通す。

ちょうどラギトスの街はエルフ王国の最南端の位置にある。

アラジンはラギトスの街を抜け出してから真っすぐに北へ来たつもりだ。

しかし、地図には北に湖らしきものは記されていなく東に記されていた。


「間違って東に向かっていたようだ」


しかし、地図にはエルフ王国の首都らしきものは記されていない。

代わりに大きな山が島の中央に聳え立っているだけだ。

酒場のマスターが適当な地図を渡したのか。

それともエルフ王国の首都が移動していると言うことなのか。

移動しているならば地図に記載されていなくても納得できる。

そうなると探すのが厄介だ。

アラジンは木にもたれかかりながら天を仰いだ。

すると、パキっと木を踏みにじる音が聞えた。


「誰だ?」


辺りを見回すが何も見えない。

しかし、何かがいる気配だけは感じとれた。

アラジンは警戒態勢ととりながら森の奥を見やる。

すると、森の中からひとりの幼いエルフが出て来た。

見た感じ10歳ぐらいだろうか。

肩まで伸ばした金色の髪を後頭部で結んでいる。

手に弓を持っていて背中に矢を背負っている。

狩りにでも来て迷い込んでしまったのだろうか。

アラジンは両手を前に出して何も持っていないことを見せながら話しかけた。


「私はアラジンだ。植物学者をやっている。キミはエルフ王国から来たのかい?」


エルフの少女は黙ったままアラジンを見やる。

警戒しているのだろうか、持っていた弓をギュッと握っている。

ここで敵意を見せれば仲間を呼ばれる可能性がある。

それだけは避けなければならない。

アラジンは腰を下ろしてエルフの少女と同じ目線にする。


「私のやって来た国は貧しくて街の人間が病気で亡くなっているんだ。私は回復効果のある薬草を集めて街の人達を救うためにこの国へ来たんだ。けっして怪しい者ではない」


すると、エルフの少女はゆっくりとアラジンの所へ近づいて来た。


「私はミーナ。エルフ王国のミーナよ」

「私はアラジンだ」


アラジンは手を差し出すとミーナと握手をする。

それに安心したのかミーナはニコリと微笑んだ。

アラジンはミーナの信頼を勝ち取るため嘘の説明を吹き込む。

疑うことも知らない幼いミーナは、それを信じでアラジンを受け入れた。

そしてアラジンはミーナに連れられてエルフ王国の王都を目指すことに。





エルフ王国は高い樹木に覆われていて、ほぼ森だ。

樹々の間から差し込む木漏れ日が神秘的な雰囲気を作り出す。

素人が入り込んだらすぐに迷い込んでしまうような深い森だ。

ミーナはどこを歩いているのかわかっているようでスタスタと歩いて行く。

アラジンはミーナを見失わないように後を追う。


「この森にモンスターはいないのか?」

「もちろんいるわよ。けれど、エルフ達が定期的に狩っているから比較的少ない方ね」

「エルフ王国の王都のエルフ達は普段、何をしているんだ?」

「お祈りをしたり、狩りをしたりかな」


噂通りエルフ達は狩猟生活をしているみたいだ。

王都と言っても他国のような発展はしていないと予想される。

だから定期的にモンスターを狩って安全を確保しているのかもしれない。

これならば簡単に王都に入り込めそうだ。


「王都に城はないのか?」

「城って何?」

「城は城だ」

「国王様がいる場所は大きな大きな樹の上よ」


ミーナは両手を広げてジェスチャーして来る。

その様子から見てもかなり大きな樹らしいことは伝わって来た。

まあ、この森の樹木は他の大陸の樹木よりも大きいから、かなり大きいのだろう。

しかし、城が樹木だなんて太古的な暮らしぶりが伺える。

おそらく石造りの建物はなく木の小屋で生活しているのかもしれない。


「この国には政治はあるのか?」

「政治って?」


アラジンの質問にミーナは訳が分からない様子で小首を傾げる。

10歳ぐらいの子供に質問をすることではなかったか。

アラジンは改めて質問の内容を易しくする。


「何かを決める時、みんなで話し合うのか?」

「そうだよ。でも、最後に決めるのは国王様かな」


一応、政治らしいものはあるようだが、エルフ王の独裁国家と言っていいだろう。

噂によればエルフ王は300年の時を生きていると言う。

エルフ族は長寿と言われているが300年も生きるのは希だ。

慧智に優れ経験も豊富ならば必然的に求心力が生まれるだろう。

エルフ王はなるべくしてなった国王のようだ。


「ミーナは知っているか?聖槍グングニルのことを」

「おとぎ話に出て来る槍ね。知っているわよ」

「おとぎ話?」

「そうよ。おとぎ話。お母さんが教えてくれたわ」


ミーナは鼻の下をこすると得意気におとぎ話を教えて来る。

ミーナの話によれば、聖槍グングニルはエルフ王国の誕生のきっかけにもなった神器だ。

エルフ王国がまだ王国として成り立っていなかった頃、エルフ王国には少数のエルフしか住んでいなかった。

エルフ達はモンスターに追われて山のふもとにある洞窟で細々と生活をしていた。

ある大嵐の夜、森からモンスターが押し寄せて来てエルフ達は虐殺されてしまう。

その時、暗黒の空に雷鳴が轟き、天から白銀の大きな槍が降って来て大地に突き刺さった。

すると、モンスター達は全て炎に焼かれて灰と化したのだと言う。

エルフ達はその槍は神が与えてくれた力だと信じ、神器として祀る。

そして神の力を手にしたエルフ達は活気好き、徐々に勢力を強めて行ったのだ。

今でも聖槍グングニルは神の対象で大切に祀られているらしい。


「聖槍グングニルは神様、そのものなの」

「なるほどな」


聖槍グングニルが何故、エルフ王国に落ちて来たのかはわからない。

それに誰が創ったものなのか。

ミーナのおとぎ話のように神が創造したモノなのか。

それは非現実的な考え方だが、他に説明はつかない。

いずれにしても聖槍グングニルを奪取することは簡単に行かなそうだ。


「それで聖槍グングニルはどこにあるんだ?」

「……これは言っちゃいけないことなんだけど、アラジンには教えてあげるよ」


ミーナは口に手を当ててアラジンの耳元で囁く。


「聖槍グングニルはマグニフィスの洞窟の中よ」

「マグニフィス?」

「おとぎ話に出て来た洞窟のことよ。キリスレア山の麓にあるわ」


ミーナが何故アラジンに秘密を教えたのかはわからない。

けれど、それはそれでアラジンにとって都合がよかった。

わざわざ自分の足で探さずとも聖槍グングニルの場所がわかったのだから。

ミーナの言っているキリスレア山はエルフ王国にある山のことを指しているのだろう。

アラジンはエルフ王国の地図を広げながらキリスレア山の場所を確かめる。

すると、ミーナが首を伸ばして地図を覗き込んだ。


「これよ、これ。地図にある、この山がキリスレア山よ」

「やっぱりそうか」

「王都も、この辺りにあるの。この森を抜ければ見えるわ」


ミーナはアラジンの手を引きながら森を駆けて行く。

アラジンは地図を丸めてバックに仕舞うとミーナの後を追う。

そして走ること10分ぐらいするとパッと目の前が開けて青い空が現れた。


「あそこに見えるのが王都よ」


キリスレア山が高く聳え立っている麓に王都らしき集落が見えた。

王都と言っても森の中にちらほら建物が見えるだけ。

目を凝らしてよく見ないと見落としてしまいそうだ。

一番目立っているのはエルフ王がいると言う大樹だろうか。

王都の中央に聳え立っていて枝葉が王都を覆い隠している。

その根元は水に浸かっていてぐるりと湖が広がっていた。


ようやくここまで辿り着いた。

あそこに聖槍グングニルがある。

アラジンは湧き上がる興奮を抑えながら拳を天に翳した。


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