128「マクミニエル国王の死」
アトスはアルタイル城のテラスで戦況を見極める。
すでにほとんどの反乱軍は戦意を喪失している。
城門前で奮闘している騎士団も時間の問題だ。
少数にも関わらずよくやってくれたものだ。
と言うよりもアルタイル城の構造がそうさせたのだろう。
伊達に難攻不落のアルタイル城と言われている訳ではない。
しかし、これでいいのだ。
私の存在を知っている反乱軍の騎士達は始末しなければならないからだ。
それも全て合同軍が果たしてくれた。
騎士団長は全て殺され死体となっている。
今、下で奮闘している騎士はいっかいの騎士だけだ。
「さて、ここも潮時だな」
グラン率いる過激派が奇襲をかけたことで合同軍は追いつめられている。
過激派の銃撃の前に後退をせざるを得ない状況に追い込まれたようだ。
全てはアトスの狙い通りに状況は進んでいる。
「アトス様、どちらへ?」
「最終仕上げをしに行くのだ」
「しかし、指揮が」
「それはお前に任せた」
「任せたと言われましても、私なんかに務まりません」
「務まるのじゃない。務めるんだ」
アトスが念を押すように告げると騎士は不安げに頷いた。
「安心しろ。合同軍を抑えていればそれでいい。後は私がケリをつける」
そう告げるとアトスは部屋を後にした。
もちろん向かう先は秘密通路がある王室だ。
今は誰もおらず静まり返っていた。
アトスは手慣れた手つきで暖炉の上にある絵画を傾ける。
すると、秘密通路の入口が顔を出した。
「ここを抜ければ別荘に辿り着く。マクミニエル、待っていろよ」
アトスはランプに火を点けて薄暗い秘密通路の中へ入って行った。
マクミニエル国王は落ち着かない様子で部下の報告を聞いていた。
それを表すかのように酒を煽りながら話を聞いている。
酒の力でも借りなければ湧き上がる不安は抑えきれないのだ。
「奇襲をかけて来た過激派によって合同軍は追い込まれています」
「過激派の数は?」
「5千あまりです」
「その程度の数で何で合同軍が追い込まれるんだ」
「過激派は最新の武器を持ちだしてきたようです」
「ドワーフの奴らめ。ワシを裏切ったのか」
マクミニエル国王は勢いよくグラスをテーブルに置く。
手塩をかけて来たドワーフの裏切りにあっていたとは寝耳に水だ。
おそらくドワーフの奴らはアルタイルと過激派に武器を横流しして儲けていたのだろう。
「死の商人のつもりか!」
これ以上、ドワーフ達をのさばらせる訳にはいかない。
この戦争が終わったらドワーフ達に罰を与えよう。
主導していた者は見せしめに処刑をする。
反発する者もみな処刑だ。
逆らったことを後悔させてやる。
「ここの護衛に回っている騎士達を全て応援に向かわせろ」
「しかし、ここの警護が」
「ワシに同じことを二度言わせるつもりか!」
「畏まりました」
命令をされた騎士は慌てて部屋から出て行くとマクミニエルの指示通り護衛の騎士達を戦場へ向かわせる。
数にして5千。
騎士3千と魔術師とプリ―ストが千ずつだ。
それだけでも十分な戦力と言える。
合同軍は今や籠の中のとり状態に陥っている。
だから応援は喉から手が出るほど欲しいだろう。
しかし、全ての騎士を派遣したわけではない。
マクミニエル国王の護衛を外す訳にはいかないからだ。
残したのは騎士100ほど。
少し心もとないが、これも全てマクミニエル国王の指示なのだ。
「ここで合同軍には勝ってもらわなければならない。敗戦はワシの終焉を意味するからだ」
ダゼルの支援を受けているのは腹立たしいが、今となっては仕方ないだろう。
何としてでも反乱軍も過激派も殲滅しなければならない。
これはアルタイル王国はじまって以来の危機なのだ。
そこへ今まで行方がわからなかったアトスが姿を現した。
「アトス!今まで何をしていたのじゃ!」
アトスは冷たい視線を送りながら黙っている。
「何を黙っておる。今は我が国の危機なのじゃぞ」
アトスはマクミニエル国王に近づきながら剣に手を伸ばす。
そして、
「お別れだ」
ひと言呟くと迷いもなく剣を振り下ろした。
赤い血しぶきを上げながらマクミニエル国王の頭がゴロリと床に転げ落ちた。
マクミニエル国王の唸り声を聞きつけて騎士達が部屋に入って来る。
すると、目の前にマクミニエル国王の首を持ったアトスが立っていた。
「アトス様、いったい何を」
「見ての通りだ。マクミニエル国王はお亡くなりになられたのだ」
騎士達は剣を引き抜くとアトスに切っ先を向ける。
「いくらアトス様でも許さんぞ」
すると、アトスはマクミニエル国王の首を突き出して言った。
「これ以上、お前達が戦って何になるのだ。もう、マクミニエルに従えることもない。これからは私がこの国を変える」
そう、これからのアルタイル王国は私達、過激派が統べる。
力任せの強引で窮屈なマクミニエル政権とは違う新しい政権を樹立する。
それは全てのアルタイル国民に幸せをもたらせるように。
マクミニエル政権の大臣達もクーデターを起こした騎士団長達も始末した。
私の策略を知るものはいない。
全てはアルタイル王国のために。
アトスはマクミニエル国王の首を翳しながら別荘を後にする。
同時に乾いた銃声が2発、高らかに響いた。
マクミニエル国王の護衛をしていた騎士は全て過激派の手によって殲滅されていた。
アトスは過激派を連れてアルタイル城までやって来る。
そして高らかに叫んだ。
「双方の者、戦闘を止めい!」
アトスの言葉を聞いて全ての者達は攻撃の手を止める。
そしてアトスの方を見やった。
アトスはマクミニエル国王の首を掲げて宣言する。
「マクミニエル国王は亡くなられた。この国は私達が統べる。全ての者達よ、喪に服せ!」
「マクミニエル国王が亡くなったって。どう言うことだよ、タクト」
「私に聞かれてもわからない」
確かにあの男の言う通りあの首はマクミニエル国王に間違いない。
だとするならばマクミニエル国王はあの男に討たれたと言うことか。
「ガルド、あの男を仕留めるぞ」
「そうこなくっちゃ」
「待て!」
私とガルドが突撃しよとするとラクレスが制止した。
そして冷徹な顔を浮かべながら静かに口を開く。
「マクミニエル国王が亡くなったのならば、このまま戦いを続けることに意味はない。私達は撤退するぞ」
「いいのかよ。敵は目の前にいるんだぞ」
「私達の使命はクーデターの制圧だ。国盗りに来たわけじゃない」
「しかし……」
戸惑う私にラクレスは告げる。
「ここからはアルタイル王国の問題だ。私達が口出しすることもない」
ラクレスの言うことは間違っていない。
一国の王が討ち取られたのならば戦いは、これで終わりだ。
それ以上、戦いを続けても意味がない。
しかし、敵を目の前にして逃げることは受け入れがたいのも事実だ。
あの男の首をとればマクミニエル国王の敵はとれる。
けれど、そうしたところでアルタイル王国は滅亡する。
次の国王が樹立されなければ自然と国は滅びるだろう。
「ラクレス……」
「戦争とはそう言うものだ」
ガックリ肩を落とす私の肩に手を当ててラクレスは告げた。
「よし、グルンベルグ軍は撤退する!」
ラクレスの指示でグルンベルグ軍の兵士達は撤退をはじめる。
この戦いでこちらにも多くの被害が出た。
騎馬隊が500、槍隊が100、魔術師が300、プリ―ストが100、弓使いが50だ。
そのほとんどが過激派の銃撃によるものだ。
あの武器は今後、警戒しなければならなくなるだろう。
戦場に投入されれば脅威となることがわかったのだから。
アトスは撤退して行くグルンベルグ軍を冷ややかな目で見やる。
クーデターを制圧しに来たつもりが私の策略の糧になったのだからな。
まったくごくろうなことだ。
「アトス様、やりましたね。これでアルタイル王国も生まれ変われる」
「これからが本番だ。グランよ、私について来てくれるか?」
「もちろんです。アトス様の行くところへならばどこまでも」
アトスは集まった過激派達に宣言する。
「これからは我々の時代だ!この時よりアルタイル王国は生まれ変わる!全てはアルタイル王国のために!」
「「アルタイル王国のために!」」
アトスの宣言に呼応するように過激派達は叫んだ。
数日後。
アトス達、過激派は激務に追われることになる。
新たな国王の樹立と政策を掲げなければならない。
同時に戦争の後始末と破壊された正門の修復もこなす必要があるからだ。
クーデターを起こした首謀者は不明と言うことで処理された。
従っていた兵士達の処罰はすることなく正門の修復の作業員として働かせる。
主を失った兵士達など恐るるに足りないからだ。
間違えて反旗を翻す者が現れた時は処刑をして見せしめにする。
恐怖政治のやり方だが、出来立ての国家には重要なことなのだ。
そして新たな国王の樹立なのだが。
こちらはアトスが就任することで話はまとまった。
アトスぐらいの策略を練れる者は他にはいないことと第一騎士団と過激派をまとめて来た功績を買ってのことだ。
誰も不服を申し立てる者はいなかった。
アトスは国王の座につくとすぐに大臣達を選出した。
過激派を率いて来たグランは第一騎士団長へ昇格させ、大臣達も過激派から選出した。
過激派に大臣が務まるのか不安を抱く者もいたが、政策はアトスが主導することで納得させた。
そして残るは政策の樹立だ。
アトスはマクミニエル政権と反するような政策を考えていた。
一つは、交易の自由化だ。
マクミニエル政権ではドワーフの技術流出を恐れて交易に制限をかけていた。
国境の検問を厳しくさせ、出入りする他国の行商人達をとり締まっていた。
荷物検査からはじまり身分確認、入国料の引き上げなど。
規制を上げれば数知れず。
それ故に不正を働く者も多かったのだ。
一つは、税の引き下げだ。
マクミニエル政権化では税金は引き上げられていた。
我々過激派の制圧に力を注ぎ過ぎて国民より金を巻き上げていた。
もちろんそのほとんどが軍事力強化に使われたことは他でもない。
税は国民にとっては枷になるものだが、使われ方次第では国民の生活を潤すものへと変わる。
アトス政権がど言う方向に資金を投入するかによって国民の判断も分かれるだろう。
一つは、入出国者の規制の緩和だ。
マクミニエル政権では行商人だけの入出国を認めて他の者達の入出国は制限をかけていた。
それももちろんドワーフの技術の流出を恐れてのことだ。
物資が世界に流出しなくても知識として人を介して流出してしまえば取り返しがつかなくなる。
マクミニエルはとことんドワーフを囲うことで技術流出を守って来たのだ。
しかし、それはドワーフの技術を衰退させることにつながる。
技術と言うのは新しい考えや意見が加わってはじめて昇華できるものなのだ。
「私はマクミニエルとは同じ轍を踏まない。アルタイル王国を豊かな国に変えてみせる!」
アトスの宣言に集まっていた大臣達は立ち上がって拍手で応えた。
そして国王の紹介式を迎える。
アルタイル城の正門はすっかり元の姿に修復され、城には多くの国民が集まった。
アトスは国民に近い国王であることを示すために、身分関係なしに国民を招待した。
もちろん貴族階級の者達が多かったが、中には街で商売をしている店主、酒場のマスター、子供達まで顔を見せている。
アトスはアルタイル城のテラスから集まった国民達を見やる。
「私を歓迎するために多くの者達が集まったな。喜ばしいことだ」
「この者達はアトス国王を支持している者達ばかりです」
「そうだな。私は国王になったのだな」
アトスは金色の王冠を身につけ煌びやかなローブを纏っている。
そこにいるアトスは以前のアトスと見違える姿だった。
第一騎士団長に昇進したグランはアトスの傍に仕えている。
これからはアトスの右腕として活躍してもらうのだ。
アトスはテラスの先に行くと国民達に高らかに挨拶をする。
「皆の者、此度は私の国王紹介式に参加してくれて感謝する。私が新アルタイル王国の国王、アトス・ゲシュタルトだ!」
アトスの言葉を聞いて国民達から歓声が湧き起る。
惜しみもない拍手と歓声で辺りが轟いた。
続けてアトスは国民達に告げる。
「私は前マクミニエル政権とは違う政策を打ち出す。これはアルタイル王国を豊かにするためのものだ!」
国民達は一斉に黙り込んでアトスの言葉を待つ。
「一つに交易の自由化。一つに税金の引き下げ。一つに入出国の規制の緩和だ!」
アトスの言葉に国民達が歓声と拍手が沸き起こる。
それは国民達が望んで来た政策だったからだ。
国民達はマクミニエル政権に虐げられて来た。
だからこそ新政権の樹立を望んでいたのだ。
アトスは国民達に約束する。
「私は国民達に約束しよう。アルタイル王国は豊かになると!」
国民達は歓声を上げながら新たな王の樹立に賛同する。
その歓声は世界に広がるかのように空に鳴り響いて止むことはなかった。




