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124「加勢」

太陽が天上に登る頃、私達はアルタイル王国の国境へ辿り着いた。

しかし、辺りの様子がおかしい。

いつもなら行商人達が集まっているのだが今は難民だらけ。

着の身着のままアルタイル王都から逃げて来たようだ。

国境のグルンベルグ王国側はゲートが閉ざされ警備兵が難民を追い返していた。


「ラクレス。グルンベルグ王国は難民を受け入れないつもりか?」

「手を差し伸べることは簡単だが、それでは何の解決にもならない。私達はグルンベルグ王国の人間だ。まず、グルンベルグ王国のことを第一に考えなければならない」

「何だよ、その頭でっかちな返答は。これだから軍人ってのは嫌なんだよ。困っている人がいたら手を差し伸べるのが人の道だ」


心情的に言えばガルドの言うことが最もだ。

”困っている人がいたら手を差し伸べる”

それはあたり前のことだ。

しかし、政治的に見れば、そうも言っていられなくなる。

難民が大量に押し寄せると治安が悪くなってしまう。

そればかりか仕事を奪われ、挙句、難民だけの街も出来上がってしまう。

そうなるとグルンベルグ王国としても管理が難しくなる。

思想も宗教も文化も違う国民どうしが手をとり仲良くすることは夢のまた夢なのだ。


「私達はアルタイル王国のクーデターを制圧することが使命だ。余計なことには首を突っ込むな」


ラクレスはいたって冷静にガルドを諭す。

ガルドは納得していなかったが、それ以上反発することもなかった。


私達が国境を通り抜けようとすると難民たちは縋るように訴えて来た。

幼子を抱えた母親もいれば、薄汚れた服を着ている老人もいる。

難民たちは食べるものさえ底をついているようで手を伸ばし馬車の行く手を阻もうとする。

すると、グルンベルグ王国の警備兵達が駆けつけて槍で難民を弾き飛ばす。

これが難民に対する扱いなのかと目を塞ぎたくなるが、これも現実。

その度にガルドは歯を食いしばって必死に我慢していた。


「おい、止まれ。ここからはアルタイル王国だぞ。通行許可証を見せろ」

「そんなことを言っている場合かよ」


アルタイル王国の警備兵に食いかかるガルドを制止てラクレスが告げた。


「私達はグルンベルグ王国の騎士団だ。アルタイル王国のクーデターを制圧しにやって来た。ここを通してもらいたい」

「マクミニエル国王様からは何も聞いていない。ここを通す訳にはいかない」

「お前もアルタイル王国の警備兵ならわかるはずだ。マクミニエル国王が打ち取られたら、この国は終わってしまうのだぞ」

「そ、それは……」

「迷っているのなら、私達を通せ。それがアルタイル王国を救う方法だ」


ラクレスの説得に考え込んでいた警備兵だったが、すぐさま後ろに下がり道を開けた。


「アルタイル王国を、マクミニエル国王様を頼む!」


私達は、その言葉を受け止めると先を急いだ。

アルタイル王都へ向かう最短のルートはナイルの街を経由してイスタルを迂回するルート。

馬車で1週間ほどの道のり。

しかし、時間をかければかけるほど状況は悪くなるので先発隊と後発隊に分けることにした。

機動力のある騎馬隊と私達、ラクレス、そして一部の魔術師、プリ―ストが先発隊に。

残りの者は全て後発隊に振り分けた。


先発隊は最短ルートを通ってアルタイル王都を目指す。

ナイルの街で補給と情報収集を済ませて先を急ぐ。

おかげで1週間かかる道のりを5日にまで縮めることが出来た。


ナイルの街で得られた情報はクーデターを起こしたのは若い騎士団長だと言うことだった。

もともとアルタイル政権はマクミニエル国王を支持する年老いた大臣達と反対派の若い騎士団長達とに分かれていた。

ことある度に両者は対立をしていたが圧倒的に大臣達の発言力が強く若い騎士団長達は煮え湯を飲んで来たのだと言う。

そしてサウスブルーの一件だ。

マクミニエル国王は派兵を見送り自分の身を守る決断を下した。

そのことに業を煮やした若い騎士団長達が決起したのだと言う。

残り僅かの人生に保守的になる老人達と良き未来を求めて挑戦しようとする若者達との対立だ。

どの世界にも往々に起こりうることだ。


「クーデターは本当に止めるべきことなのか?」

「何だ、急に?」

「アルタイル王国の人間でないから勝手なことを言うが、アルタイル王国の未来を望むならばマクミニエル国王は退位したほうがいいのではないかと思ってな」

「タクトの言うことが正しかったとしてもクーデターは制圧しなければならない。力に頼った正義はいずれ崩壊するものだ」


ラクレスのまっとうな回答に何だかやるせない思いが胸をよぎる。

この世界の国王は王位継承でしか選ばれない。

王族は何世代渡っても王族であり、庶民はどこまで行っても庶民なのだ。

選挙方式で国王が選ばれるのならば、まだ民衆の声も反映させやすいだろう。

それは叶わない夢なのだ。

私がやるせない顔をしているとラクレスが注意する。


「戦争の前に余計なことを考えるな。迷いが生まれるだけだ。策士タクトは軍の指揮をとるのだ。指揮官が心を乱して入れば部下の命が危うくさせるだけだ」


その言葉に何も言い返すことは出来なかった。

そうこうしているうちに私達はアルタイル王都が見渡せる丘へ辿り着いた。

アルタイル王都の周りにはアルタイル軍が隊列を組んで攻撃を仕掛けている。

私達はグルンベルグ王国の戦旗を掲げながらアルタイル軍に近づいて行った。


「我はグルンベルグ王国第一騎士団長のラクレス・グランフォードである。貴殿達の応援にやって来た!」


ラクレスがアルタイル軍に駆け寄ると宣誓をする。

すると、それに応えるようにアルタイル軍の隊長が答えた。


「マクミニエル国王様からは何も聞いていない。ありがたい申し出だが受け入れることは出来ない!」

「ここでアルタイル軍が敗戦でもしたらマクミニエル国王は間違いなく処刑されるだろう。そうなってからでは遅いのだ!」


アルタイル軍の隊長は難しい顔をしながら考え込む。


「我らはクーデターを制圧することが使命だ。グルンベルグ王国の名にかけて使命を果たすと約束しよう!」

「……わかった」


アルタイル軍の隊長は撤退の信号弾を空に放つ。

すると、アルタイル軍は戦闘を止めて後退をはじめる。

そして作戦本部のある安全圏まで来ると隊列を組み直して整列した。





アルタイル王都から離れた場所に作戦本部がある。

ここまでは敵の攻撃は届かず安全圏内だ。

戦況を確認するためアルタイル軍の隊長達を呼び集める。

作戦本部はただならぬ雰囲気に包まれていた。

ラクレスは一歩前に出るとアルタイル軍の隊長に手を差し伸べる。


「私はグルンベルグ王国第一騎士団長のラクレスだ」

「私はアルタイル軍の指揮をしているドミニクだ」


ドミニクはラクレスの手をとり固く握手をする。


「それで戦況はどうなのか?」

「敵はアルタイル城に籠城している。自らは攻めて来ずに守りに徹している。こちらも何度か攻め込んでみたのだが難攻不落のアルタイル城を落とすのは難しい」

「さすがはアルタイル城ってとこだな」


ラクレスは関心しながらアルタイル城の地図を見やる。


「城の周りは堀で囲まれていて突入できる場所は正面の門からか……」

「しかし、正面の門は道が狭くて並ばなければ侵入出来ない。しかも、終始、敵の弓部隊が城の中から狙っているから前にも進めない」

「策士タクトよ。この局面をお前の力で打破してみろ」


突入できる場所は正面の門のみ。

正面の門の道は幅が狭くて広がって突撃は出来ない。

そして、弓部隊が侵入して来る者達を狙っているか。

さすがは難攻不落のアルタイル城と呼ばれるだけのことはある。

鉄壁の守りで一切の侵入を許さない。

しかし、持久戦に追い込まれれば鉄壁の守りも崩れ去る。

補給を一切受けられなければ敵は城の備蓄に頼るしかできない。

既にクーデターが起こってから10日ほど経っている。

そろそろ備蓄が切れるころだろうか。


「敵が守りに徹している以上、ここは持久戦に持ち込むのが懸命だ」

「最もな解答だな。しかし、それでは私達が来た意味がない」

「アルタイル城を陥落させよと?」

「そう言うことだ」


ラクレスは真剣な眼差しで言い切る。

私の策士としての技量を見極めようとしているらしい。

ならば、それに応えるのが策士としての使命だ。

こちらの戦力はアルタイル王国と合わせて騎馬隊、重装備部隊、弓部隊、魔術師部隊、プリ―スト部隊。

それに対して敵の戦力は騎士部隊と弓部隊、魔術師部隊、プリ―スト部隊のみだ。

アルタイル城を陥落させるのに数の差はあまり関係がない。

まずはプロテクションで敵の攻撃を防ぎつつ魔術師部隊を進軍させる。

魔法圏内まで侵入出来たらサンドストームで視界を奪いつつ前衛の守備を払いのける。

それと同時に重装備部隊を突入させて壁を造る。

弓部隊で後方支援をしつつ騎馬隊を突入させる。

正面の門を破ればこっちもものだ。

一気に突入させてクーデターの首謀者を捕らえる。

首謀者さえ捕らえればクーデターは制圧できる。


「アルタイル城を落とすには正面突破しか方法はない」


私はラクレス達に戦術の概要を説明する。

すると、ラクレスが疑問を投げかけて来た。


「戦術はわかった。しかし、敵が反撃をして来たらどう対応するのだ」


こちらが攻撃を仕掛ければ自ずと最前衛に目が向く。

なので最前衛の守備に注目すればいい。

敵の弓部隊からの攻撃は重装備部隊で防げる。

重装備部隊は機動力は皆無だが防御力は高い。

ある程度の物理攻撃なら防ぐことが出来るだろう。

魔法で反撃を仕掛けて来たら場合は魔法で対抗する。

同レベルの魔法を放てば打ち消すことが出来るからな。


「さすがは策士タクトだ。戦術に抜けがない」

「策士だと!お前は策士なのか?」

「そうだが」

「そうか、策士か。策士が味方にいれば百人力だ」


ドミニクは急に表情を変えて勝利を確信する。

策士と聞いただけで、この変わりようはただならぬ期待を抱いているようだ。

まあ、この戦術は今までの経験を踏まえて私なりに考えた戦術なのだが。

どこまで通じるものかやってみないとわからない。

先のマッドゴーレム戦で前哨戦をしたことは今の自信に繋がっている。


「この戦術も私の指揮に従ってもらわないとうまくは行かない。だから勝敗が決するまでは私の指揮に従ってくれ」

「もちろんだとも!」


その場にいた隊長隊は異論を唱えることなく大きく頷く。


「それでは戦闘の開始だ!」


ラクレスの号令でアルタイル軍の隊長達はそれぞれの部隊に戻る。

そして作戦の大まかな内容を伝えて意志統一を図る。

突然のグルンベルグ軍の参戦に驚く者達もいたが、隊長の説明で納得した。

そして私達、合同軍と反乱軍との戦闘が繰り広げられる。





一方、アルタイル王都の外れの要塞に籠っていたマクミニエル国王はひとり苛立つ。

それは予期していなかったグルンベルグ軍の介入があったからだ。

国内情勢の不安で他国の力を借りるなど国力の低下を意味する。

そうなればますますマクミニエル政権の立場が危うくなる。

マクミニエル国王は勢いよく立ち上がると騎士達に指示を出す。


「今すぐにグルンベルグ軍を追い返すのじゃ!これは我が国の問題!他国の介入など許してはならぬ!」

「しかし、グルンベルグ軍は既に戦地に入っております」

「お主はワシに意見を言おうとするのか!」

「滅相もございません。すぐに手配いたします」


ダゼルめ、このワシに貸しを造るつもりか。

おこがましいことも甚だしい。

たかが5千の兵を寄こしたぐらいでいい気になるとは。

我がアルタイル王国は7万の兵力を誇るのだ。

他国の力を借りぬどもクーデターを制圧できる。

マクミニエル国王には自信があった。

自信と言うよりも意地だ。

それは長きに渡るアルタイル王国の政権を握って来た国王だから思えること。

しかし、自信は過信の裏返し。

今のマクミニエル政権に従えようとする者は半数と満たなくなっていた。

マクミニエル国王自身、そのことを痛感していたが断固として認めようとはしなかった。

マクミニエル国王も人の子。

己の終焉を迎えることが何より恐ろしかったのだ。


「させぬぞ、させぬぞ。ここはワシの国なのじゃ」


そんな意固地になっているマクミニエル国王に不安を抱いている騎士は数知れず。

ここでマクミニエル国王を警護している騎士でさえ既に見放している。

今はまだマクミニエル国王が権力を持っているから従っているだけだ。

政権が奪取されたら掌を返したように態度をかえるだろう。

アルタイル王国の未来を考えれば、その方がいいのだと誰もが思う。

マクミニエル国王は、そこまで追い込んでしまっていたのだ。





そんなマクミニエル国王の考えとは裏腹にグルンベルグ軍はアルタイル軍と合同宣戦を組み、クーデター制圧を侵攻させようとしていた。

そこへマクミニエル国王からの伝令を持った騎士がタクト達の前に立ち塞がる。


「マクミニエル国王より伝令だ!」


ラクレスは騎士から伝令を受け取ると文章に目を通す。


「なんて書いてあるんだ?」

「マクミニエル国王はよほど追い詰められているようだ。クーデターを制圧しても政権は持たないかもしれない」


難しい顔をしているラクレスから伝令を受け取り目を通す。

文章にはグルンベルグ軍の早急な撤退と内政干渉による制裁を行う用意があると言う脅しともとれる文章が記されている。

字体からはマクミニエル国王の直筆と言うことがわかった。

それがマクミニエル国王の意志ならば無視をする訳にもいかない。


「どうするつもりだ、ラクレス?」


ラクレスはしばし沈黙しながら考え込む。

ここでマクミニエル国王の伝令を無視すれば両国の間に亀裂が生まれるのは必須。

ただでさえ両国の間には交易以外の関係は築いていないのだ。

歴史的に見ても対立こそないが友好関係を築くこともなかった。

お互いに内政には干渉し合わない姿勢が今の関係を築くことに繋がっていた。

しかし、それはマクミニエル政権が樹立していてのことだ。

政権が代われば関係性も変わって来る。

ましてや反乱軍にでも政権を奪われたとなっては今後の関係性にも大きな変化が生まれるだろう。

ラクレスはダゼル国王から一任されている。

全ての責任も判断もラクレスの手にかかっていると言っても過言ではない。

すると、ラクレスが静かに告げた。


「我らはクーデター制圧作戦を実行する」

「貴様!マクミニエル国王様の指示を無視するつもりか!」


伝令を伝えに来た騎士がラクレスの胸ぐらを掴みあげる。

しかし、ラクレスは顔色ひとつ変えることなく言い放った。


「ここでクーデターを制圧しなければマクミニエル政権は終わる。そうなれば伝令もくそもないだろう。それに既にマクミニエル国王に従えようと思っている者達は少ないのだろう?」

「そ、それは……」

「お前も騎士ならばわかるはずだ。今、一番優先しなければならないことを。騎士は国王のためにあるのではない。民のためにあるのだ。民の未来を守れなければアルタイル王国に未来はない」


ラクレスの言葉に伝令を伝えに来た騎士は手を緩める。

ラクレスの言う通り騎士は民のためにあるのだ。

民が支持してくれるから騎士は国を守ることに専念出来る。

それは国が変わっても同じだ。

保守的になっているアルタイル王国と言えども同じことなのだ。

民が騎士を支持し、騎士が国を守り、国王が全ての責任を負う。

国王は騎士達をまとめる司令塔としての役割が大きいのだ。

権力の象徴とされる王位は全ての責任を持つことにもなる。

それが故に国王には民からも騎士からも信頼されることが重要なのだ。

クーデターを起こした者達に、それだけのことが出来るのかは不透明だ。

アルタイル王国内は混乱を極めて国外へ避難する難民が増えるだろう。

間違ってもクーデターを起こした者達に政権をとらせてはならない。

たとえマクミニエル政権が終焉を迎えることになってもだ。


「マクミニエル国王に伝えてくれ。我がグルンベルグ軍はクーデターを制圧するとな」

「わ、わかった」

「それでこそ、ラクレスだ。グルンベルグの誇りを見せてやろうぜ」


ガルドはラクレスの判断を褒めながら仲間達を鼓舞する。

それを受けてグルンベルグ軍の騎士達は歓声を上げた。


「負けてはいられない。我らアルタイルの誇りを見せてやるんだ!」


すると、ドミニクも対抗するように自軍の騎士達を鼓舞する。

呼応するかのようにアルタイル軍の騎士達も歓声を上げた。

いい感じでお互いの士気が高まって来たようだ。

マクニミエル国王には悪いが私達はクーデターを制圧する。

クーデターを制圧してアルタイル王国の未来を勝ちとるのだ。

それが私達に示された道なのだ。


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