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123「クーデター」

マクミニエル国王はアルタイル王都の郊外の別荘に隠れていた。

別荘と言っても堅牢な造りの小さな要塞を思わせるような建物だ。

クーデターが起きた際に秘密通路を抜けて、ここまで逃げて来たのだ。


「奴らは今どうしている?」

「人質をとりアルタイル城で籠城しています」

「どのくらいの数がいるんだ?」

「全部で8千ほどです」


8千ほどの騎士達がワシに牙を剥いたと言うのか。

若い騎士団長達が反発していることは知っていたがクーデターを起こすとは。

扇動した首謀者がいるはずだ。


「クーデターを起こした首謀者は誰だ?」

「それはわかりません。しかし、大臣達を人質にとっているのは若い騎士団長達です」

「アトスはいるか?」

「アトス様は行方知れずです」


こんな時に限って。

クーデターにでも巻き込まれたのか。

いいや、アトスはそんなに柔じゃない。

アトスがいれば事の収集などたやすいものだ。

何としてでもクーデターを制圧しなければならない。

このままの状態が続けば隣国が干渉して来るかもしれない。

そうなればアルタイル王国はじまって以来の恥じになる。

それだけは避けなければならない。

特にヴェズベルト王国の干渉は避けるべきだ。

先のカイザルの件で貸しを造っているだけに上げ足をとられるかもしれないからだ。


「派遣している騎士達を全て呼び戻すのじゃ!」

「既に手配済みです。明日には全て戻るでしょう」


アルタイル城は難攻不落の城じゃ。

それを取り戻すには、こちらも策を練らなければならない。

こちらの兵力は2万弱。

8千ほどの奴らよりも数では勝っている。

城の備蓄は僅かだ。

長期戦に持ち込めば、こちらに勝機は生まれる。


「アルタイル城を包囲して攻撃の機会を伺うのじゃ!」

「はっ!」


アルタイル王都にいたマクミニエル派の騎士達がアルタイル城を包囲する。

アルタイル王都はクーデターが起こったことでほとんどの住民は近くの街へと非難していた。

中には国外へ逃亡を図る者達もいる。

そのため現在のアルタイル王都はゴーストタウンと化していた。





アルタイル城の会議室に大臣達は監禁されていた。

手足は縛られて椅子に括り付けられている。

若い騎士団長達が集まり尋問を続けている。


「マクミニエル国王はどこへ行った?」

「ワシ達は知らない」

「嘘を言え。城に国王がいないことなどないだろう」

「本当に知らんのだ」


秘密の地下通路は城の中でも限られた者にしか知らされていない。

緊急用に造られた通路で郊外の別荘へと繋がっている。

なので大臣達が知らないのも無理はないのだ。

ちなみに第一騎士団長のアトスは知っている。


「既にサンドリア王国とヴェズベルト王国の戦いは終わっているんだぞ。今更、派兵をしてどうなる」

「そんなことはどうでもいい。私達はマクミニエル政権を打倒して新たな国を築くのだ」

「そんなことがうまく行くわけないだろ」

「それはマクミニエル国王次第だ」


太った大臣のひとりが泣き付くように縋りつく。


「金が欲しいのだろう。いくらでもやる。だから私は見逃してくれ」

「何を言っている。私達を裏切るつもりか」

「別に私はマクミニエル国王を支持している訳じゃない。たまたま国王だったから従っていただけだ」


ここへ来て大臣達は仲間割れをはじめる。

口々に不満を言って若い騎士団長達に媚びを売る。

反吐が吐きたくなるほどの無様な姿だ。

中には泣き出す者さえ出る始末。

そんな大臣達を見て若い騎士団長は切り捨てた。


「見苦しい奴らだ。こんな奴らに政権を任せていたなんてマクミニエルも腐っている」

「こいつらは生かしていても仕方がない。みんな始末してしまおう」

「それはマクミニエルの首を取ってからだ」


若い騎士団長達は見下すように大臣を蔑む。

そこへ部下の騎士が会議室に入って来る。


「アルタイル軍が城を包囲しました」

「こちらを包囲して圧をかけているつもりか。しかし、この難攻不落のアルタイル城を簡単には攻略は出来ないだろう」

「奴らは長期戦に持ち込むつもりだ」


アトスが会議室に入って来て確信したように告げる。


「城の備蓄はどれほどあるのだ?」

「1週間の備蓄しかありません」

「長期戦に持ち込まれればこちらの負けだ。明日には派遣していた騎士団達も合流する。短期決戦でマクニミエル政権を打倒するんだ」


マクミニエルのことだ、全戦力を持ってクーデターを制圧するつもりだろう。

派遣していた騎士団を呼び寄せたのも、そのためのものだ。

だから、こちらが先に動けば向こうとて対応せざるおえない。

マクミニエルの視点が城に向かっている隙にマクミニエルの首を討つ。

全戦力を城に向ければおのずと別荘の防御は落ちる。

そこがつけ入る隙になる。

過激派達に侵攻させてマクミニエルの首を取る。


「アトス、貴様が首謀者か?」

「そう言うことだ」

「マクミニエル国王の右腕とも呼ばれたお前が裏切るなど」

「裏切られる者が悪いんだよ」

「くぅ……」


大臣達はから正気が抜ける。

青ざめた顔をしながら命乞いをはじめた。


「アトス。私は見逃してくれ。お前達を支持する」

「私もだ。全財産譲ってもいい。だから見逃してくれ」

「私も」

「私も」


大臣達は涙目で縋りつくように食い下がる。

その様子を見てアトスは冷徹な眼差しで吐き捨てた。


「哀れな連中だ。お前達は私のことを知ってしまった。だから皆殺しだ」

「こいつらにはもう価値がないと?」

「そうだ。すぐに始末しろ」


アトスは会議室を後にすると自室へ向かった。

それはもちろんマクミニエル打倒の作戦を立てるため。

いくらアルタイル城が難航不落と言えど数多の兵を投入されたら攻略されてしまうからだ。





アトスは自室に籠りながらアルタイル城の地図を見やる。

アルタイル軍は既にアルタイル城を包囲している。

明日には派遣していた騎士団も合流し、さらに巨大になる。

真実を知る若い騎士団長達も一緒に始末しなければならない。

若い騎士団長達を前線に追いやって死亡リスクを高めるのだ。


まずは城の中から弓部隊でけん制攻撃をする。

そうすればアルタイル軍は散会するだろうう。

そこをついて騎士団に正門から進軍させる。

迎え撃つのは正門の通路でだ。

ここは幅が狭いうえに周りが堀で囲まれている。

その上、城の中から弓部隊が攻撃できる。

城に攻め込むためには列を作らなければならない。

そこをついてひとりずつ倒して行くのだ。

時間はかかるが効果的な戦術だ。

じわじわとお互いに戦力を削いで行ってくれれば都合がいい。


後は過激派達で一掃する。

過激派達には最新のドワーフ製の武器である銃を持たせている。

銃は弓ほどの飛距離を持ち、かつ直線状に飛んで行く。

遠距離攻撃に特化した武器だ。

難攻不落のアルタイル城と言えど銃の前には太刀打ちできないだろう。


「これでマクミニエル政権も終わりだ。マクミニエルの首は私自らがとろう。マクミニエルの驚いた顔が目に浮かぶようだ」


アトスはアルタイル王都を見やりながら不敵な笑みを浮かべた。





若い騎士団長達は大臣を始末してアトスの指示どおり正門に構えている。

城の中からは弓部隊がアルタイル軍へ向けて弓を構える。

いつでも攻撃を開始できる準備が整っていた。

アトスは正門を見渡せるテラスに陣取り作戦の指揮をとる。


「まずは弓部隊。アルタイル軍に向けてけん制攻撃を仕掛けろ!」


アトスの合図で弓兵部隊はアルタイル軍に向けて矢を放つ。

それは土砂降りのごとくアルタイル軍を襲う。

アルタイル軍はたまらずに散会して距離をとった。


「よし。狙い通りだ。次は正門を開いてアルタイル軍を待ち伏せよ!」


アルタイル城の重厚な正門は鈍い音を立てながら開かれる。

それを確認したのかアルタイル軍の騎馬隊が侵攻して来た。

力任せのマクミニエルがやりそうなことだ。

ごり押しで、この難攻不落のアルタイル城が落とせるものか。

アトスの狙い通りアルタイル軍の騎馬隊は列を作りながら正門に入る。


「進軍開始!」


アトスの合図に合わせて弓部隊が一斉に矢を射る。

合わせるように正門で待機していた騎士団も侵攻をはじめる。

アルタイル軍と騎士団は正門でぶつかった。

互いに剣を振りかざし攻撃を加えて行く。

騎馬から転げ落ちる者、騎士団に一撃を加える者など混戦模様に変わる。

互いに一進一退を繰り返しながら攻撃を繰り返す。

元は同じアルタイル軍であるから力も拮抗している。

混戦は30分ほど続いただろうか。

アルタイル軍は一旦対退却して反撃の機会を伺う。

騎士団から歓声が湧き起る。

まだ勝利はしていないのだが勝ったかのような騒ぎようだ。

この戦いで100名ほど犠牲になった。

アルタイル軍も同じ数だけ。

アトスは騎士団達に亡骸を片づけさせて次の攻撃に備えた。


「思っていたよりも戦力の損失は少ない。このままお互いに衝突しあっても少しずつ戦力が削がれて行くだけ。もっと効果的に戦力を削げる方法はないものか」


アトスは戦況を見守りながら新たな作戦を考える。

正門を飛び出して進軍しようものならばアルタイル軍に包囲されてしまう。

そうなれば数で勝るアルタイル軍に分があると言うものだ。

一旦正門の外へ進軍させてアルタイル軍と衝突させる。

そうしたらすぐに撤退指示を出してアルタイル軍に追撃させるのはどうだろうか。


しばらくするとアルタイル軍に動きがあった。

宮廷魔術師部隊を前面に押し出して侵攻して来た。

アルタイル軍の宮廷魔術師部隊は魔法圏内まで近づくと魔法の詠唱に入る。

すかさずアトスは弓部隊に指示を出して攻撃をさせる。

弓部隊の矢はアルタイル軍の宮廷魔術師を捉え倒して行く。

すると、フォローに重装備部隊が広範囲に展開した。

アルタイル軍の重装備部隊には弓部隊の矢は利かない。

厚い装甲に覆われて攻撃が弾かれてしまうのだ。

まるで人間防壁そのもの。

アトスはそれでも弓部隊の攻撃の手を緩めさせなかった。

すると、アルタイル軍の宮廷魔術師部隊の詠唱が終わり魔法を放つ。

赤い魔法陣がアルタイル城を取り囲むと炎の壁が辺りに競り立った。


「ファイヤーウォールか。火責めにして燻り出す作戦か」


アトスはすぐさま宮廷魔術師に指示を出して魔法を放たせる。

もちろんファイヤーウォールを無効化させるダイヤモンドダストだ。

お互いの魔法は拮抗し打ち消し合う。

すると、その隙を見てアルタイル軍の騎馬隊が再び侵攻して来た。


「騎馬隊を迎え撃て!けっして城内の侵入を許すな!」


再び正門前で騎士団とアルタイル軍の騎馬隊が衝突する。

先ほどと同じように一進一退を繰り返しながら拮抗する。

いくらやっても同じだ。

この難攻不落のアルタイル城の攻略は出来ない。

すると、またアルタイル軍の騎馬隊は撤退して行く。

第二波で犠牲になった者達は200名ほど。

アルタイル軍も同じ数だけ戦力が削がれていた。

再び騎士達の亡骸を片づけさせて次の攻撃に備える。


「このまま戦い続けてもお互いの戦力をじわじわと削いで行くだけだ。数で勝るマクミニエル国王軍に分があるだろう。それにこちらの備蓄は僅かしかない。時間をかければかけるほど不利になって行く。もう少し騎士団長達にも頑張ってもらわなければ」


今、アルタイル軍は正門前に全部隊を展開させている。

ならば城の裏口から部隊を侵攻させて奇襲をかける作戦もある。

それには奇襲をかけるタイミングが重要だ。

アルタイル軍の騎馬隊が侵攻して来てからが奇襲のタイミングだ。

アルタイル軍の騎馬隊を包囲し一網打尽にする。

そうしたらすぐに撤退させて城に籠城する。

城の外に長居させれば追撃を受けてしまうからな。

アトスは新たな作戦を記述したメモを騎士に渡すと騎士団長まで届けさせた。


しばらくするとアトスの指示通り騎士団長が部下を引き連れて裏口へ向かう。

そして堀に沿って両脇から部隊を正門近くまで進軍させる。

数にして騎馬隊が400。

これならば十分に奇襲をかけられるだろう。

そして再びアルタイル軍が侵攻して来る。

今度は弓部隊を前面に押し出して、その前に重装備部隊が人間防壁を築く。

こちらの弓部隊の攻撃を意識しての対応だ。

お互いの矢が雨のように飛びさかる中、アルタイル軍の騎馬隊が侵攻して来る。

三度、正門前で騎士団と衝突をする。

十分にアルタイル軍の騎馬隊を引きつけたところで奇襲をかけた。


城の両脇から騎馬隊が侵攻をするとアルタイル軍の騎馬隊を包囲する。

するとアルタイル軍の騎馬隊が混乱をはじめる。

その隙に乗じて馬上から攻撃をはじめた。

お互いの騎馬同士は激しくぶつかり合いなぎ倒して行く。

奇襲をかけたこちらに分があるようで、次々とアルタイル軍の騎馬隊を翻弄して行った。

そしてあらかたアルタイル軍の騎馬隊を倒すと部隊を撤退させる。

こちらの犠牲は100程度だったが、アルタイル軍の犠牲は300にも至った。

アトスの奇襲作戦が功を奏したようである。


「これでアルタイル軍の戦力を大幅に裂くことが出来た。その上、心理的に不安を抱かせることも出来た。流れは、こちらに向いている」


だが、奇襲作戦はこれっきりだ。

奇襲作戦は2度も3度も通じるものではない。

再び次の作戦を練らなければならないのだ。


これでアルタイル軍の闇雲に侵攻して来なくなる。

むやみやたらと侵攻させれば、再び奇襲にあってしまうからだ。

恐らくだが包囲しているだけで侵攻して来ないのかもしれない。

こちらの備蓄が底をつくのを待つ作戦も考えられる。

そうなってしまえば、こちらの負けだ。

過激派達が到着するまではもってもらわなければならない。

ならば補給をするのが必須だ。


「裏口から補給部隊を走らせよ。アルタイル王都にある備蓄を奪取して来るのだ」


アトスの指示を受けて騎士団が荷馬車を引き連れて王都へ向かう。

それは日没を待って辺りが暗くなってからのことだ。

視界が奪われる夜には戦闘が一時的に止まる。

それはお互いに仕掛けても苦戦を強いられるからだ。

その間に兵士達は食事を済ませたり休息をとったりする。

アトスの思惑通り騎士団達は荷馬車いっぱいに物資を運んで来る。

それは1週間ほど持ちそうなくらいの物資だった。


「これでもう1週間は時間を稼げる。それまでには過激派も到着する。決戦の日は近い」


アトスは夜の闇に浮かぶ満月を見やりながら勝利を描いた。


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