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122「マッドゴーレム戦」

アルタイル王国へ派兵された騎士団はサラス草原を抜けてドレッド渓谷まで差し掛かっていた。

リースの森を抜けるルートが最短ルートなのだが大所帯と言うこともあり迂回したのだ。

ドレット渓谷の底は馬車が余裕で通れるほどの広さがある。

しかし、両側には高い崖が競り立っており奇襲でも受けたらひとたまりもないだろう。


「ここまでモンスターに遭遇せずに来れたことは実に運がいいことだ。この分なら明日にはアルタイル王国の国境へ辿りつけるだろう」


先頭の騎馬に跨っているラクレスが告げる。

ラクレスは第一騎士団長と言うこともあり、この派兵の総責任者だ。

ダゼル国王から直々に命を受けている。

実戦がはじめての私達に配慮してラクレスが進言したのだと言う。

まあ、私達の実力をその目で確かめることが本題なのだろうが。


「はぁ~。それにしても暇だな。こうも平穏だと飽きて来るな」

「ガルドはいつでもそうでしょう」


大あくびをしながら寝ころぶガルドにエリザがツッコむ。

緊張感が抜けてしまうガルドの気持ちもわかる。

グルンベルグ城を発ってから1週間何事もないのだ。

あれだけいたモンスターのモの字も見えない。

私達に恐れて逃げて行ってしまったのだろうか。

まあ、武装している軍隊を襲撃して来るなんてよほどの馬鹿でない限りしないだろう。

最近、出没するようになったのモンスターも知性が上がっている。

モンスターも知性があがれば考えて行動する。

だから、むやみやたらと襲撃はして来ないはずだ。


「しかし、この渓谷は深いね。空があんなにも遠いいわ」

「太古の地殻変動によって出来た渓谷らしいからな。自然の力で出来た造形さ」

「タクトさんは博識ですね」

「策士にとって地の利を知ることも大切だからな」

「タクトがいっつも読んでいる本はエッチな本じゃなかったのね」


プリシアの冗談はさておいて、風が出て来たようだ。

風は渓谷を駆け抜けるようにこちらへ向かって吹いて来る。

その風の中に土ぼこり交じりの匂いを感じた。


「この風、土臭いいな」

「そう?私には普通の風に感じるけど」


いつもとは違う風の匂いに一抹の不安を感じた。

その時、先頭の馬車が急に停止して隊列が止まった。


「おっ、どうした。着いたのか?」


ガルドが体を起こすと先頭から騎士がラクレスの元へ駆け寄って来た。


「ラクレス様。モンスターが現れました」

「それでモンスターの数は?」

「マッドゴーレムが30体ほどです」


私が感じた予感はマッドゴーレムのことだったのか。

マッドゴーレムはドレッド渓谷を根城にしているモンスターだから出くわすのも必然。

しかし、マッドゴーレムも運が悪かったようだ。

5千もいるグルンベルグ軍と出くわしたのだからな。

すると、ラクレスが私に提案して来た。


「策士タクト。我が軍隊を率いてマッドゴーレムを討ち取ってみせよ。クーデターの制圧の前哨戦にはちょうどいいだろう」

「まあ、肩慣らしにはちょうどいい相手だな。いいだろう。私が指揮をとろう」


――マッドゴーレム――

特性:群れで行動する進化形の岩石怪物

全長:10メートル

知性:普通

耐性:衝撃耐性

弱点:動きが鈍い

特徴①:堅牢な装甲を持っている

特徴②:土魔法を使う

生息場所:ドレッド渓谷

倒し方:心臓を一突きにする


部隊は騎馬隊を先頭に槍隊、弓隊、魔術師、プリ―ストと続く。

前後に500ずつに分かれ隊列を組んでいる。

戦闘に参加させるのは前部の部隊で十分だ。

地形上、部隊を広げて展開することは出来ない。

両サイドは高い崖で覆われているからだ。

それはマッドゴーレムにとっても同じ条件だ。

なので先頭のマッドゴーレムから順序良く倒して行くしかない。


マッドゴーレムは衝撃耐性を備えているから物理攻撃のダメージが半減される。

そのうえ堅牢な装甲を持っているので騎馬隊や槍隊、弓隊の攻撃はほとんど利かないだろう。

まずはその装甲の防御力を落とすことからはじめる。

それにはプリシアの酸倍弾とプリ―ストのアシットレインが効果的だ。

マッドゴーレムの防御力を落とした後で魔術師達に全体攻撃をしてもらう。

魔法はダイヤモンドダストが効果的だろうか。

そしてマッドゴーレムの動きが止まったところで騎馬隊、槍隊、弓隊で総攻撃してもらう。

機動力のある騎馬隊は背後に回り込ませて槍隊が正面から攻める。


気をつけなければならないのはマッドゴーレムは土魔法を使うことだ。

どんな土魔法を使うのかはわからないから、こればかりは実戦で確かめないとならない。

最初に弓隊でけん制攻撃を仕掛けてマッドゴーレムの反応をみよう。

私はガルド達に作戦を説明し各部隊を率いてもらうようにした。

ガルドには槍隊、プリシアには弓隊、エリザには魔術師、ルーンにはプリ―スト。

本当はガルドには騎馬隊を率いてもらいたかったのだが、ガルドは馬に乗れないから諦めた。

私は騎馬に跨り先頭へ向かうと指揮をとる。


「弓隊を前へ。けん制攻撃をしてマッドゴーレムの反応をみるんだ」

「みんな前へ出て」


プリシアの掛け声で弓隊達が隊列を組みながら前に歩み出す。

そして間合いを計ってから弓を大きく引く。

その様子を確認してから私は手を翳してから振り下ろす。


「放て!」


弓隊が放った矢がマッドゴーレムに向けて勢いよく飛んで行く。

その数は500。

矢は弧を描きながら土砂降りのようにマッドゴーレムに降り注ぐ。

すると、マッドゴーレムは両手を地面に着けて土魔法を放った。

マッドゴーレムの前に土の壁が勢いよく競り立つ。

そして飛んで来た無数の矢を土の壁で弾いた。


「アールウォールか!」


モンスターにしては中々上等な魔法を使って来る。

アースウォールと言えば正面に向かって来る物理攻撃も魔法攻撃も防ぐことが出来る。

いわば盾のような魔法だ。

使い方次第ではアースウォールで敵を閉じ込めることが出来る。

しかし、マッドゴーレムにはそこまでの知性はないだろうが。


「タクト、あんな魔法を使われたんじゃ攻撃が効かないよ」

「大丈夫だ、プリシア。作戦は考えてある」


プリシアの酸倍弾はアースウォールで弾かれてしまうがアシットレインは別だ。

アシットレインは上空から酸の雨を降らせる。

アースウォールでも防ぐことは出来ないだろう。


「ルーン。プリ―スト達を前へ!」

「わかりましたわ。みなさん、出番です」


ルーンの合図でプリ―スト達が隊列を組みながら前に出て来る。


「アシットレインでマッドゴーレムの防御力を削ぐんだ」


ルーン達、プリ―ストは両手を組んで祈るように魔法の詠唱に入る。

そしてものの数分もしないうちに詠唱を終えると魔法を放った。


「「大いなる大地に降り注ぐ雨よ、蒼き酸の飛礫となりて、かの者を洗い流せ『アシットレイン!』」」


ルーン達、プリ―ストの足元に金色の魔法陣が浮かび上がると空に鈍色の雲が立ち込める。

そして酸の雨が土砂降りのようにマッドゴーレムに降り注いだ。

さすがに、これだけの数のプリ―スト達が一斉に魔法を使うと圧巻だ。

普通ならシトシト雨のアシットレインも豪雨のように変わっている。

マッドゴーレムはアシットレインの直撃を受けて堅牢な装甲を爛れさせた。


「次いで魔術師を前へ!」

「みんな出番よ。ちゃっちゃとやって終わらせましょう」


エリザの合図で魔術師達が隊列を組みながら前に出る。


「ダイヤモンドダストでマッドゴーレムの動きを封じるんだ」


エリザ達、魔術師は両手を前に突き出して魔法の詠唱に入る。

すると、それまで様子を伺っていたマッドゴーレム達が進軍して来た。

もちろん魔法の詠唱に入っているエリザ達を狙っているのだろう。

私はすぐさまガルド達に指示を出した。


「騎馬隊は両サイドから展開。ガルド達槍隊は正面からマッドゴーレムを攻撃せよ!プリシア率いる弓隊は後方支援を頼む!エリザ達、魔術師に近づけさせるな!」

「やっと俺の出番かよ。待ちくたびれたぜ。みんな行くぞ!」


ガルドは槍隊を率いてマッドゴーレムに立ち向かって行く。

両サイドからは騎馬隊が展開しマッドゴーレムを挟み撃ちにする。

プリシア率いる弓隊は前に出て後方を支援をする。


「やらせないからね。みんな、やっちゃって!」


プリシアの合図で弓隊達がマッドゴーレムに向かって矢を放つ。

無数の矢は弧を描きながらマッドゴーレムに降り注ぐ。

アシットレインの効果もあってか矢はマッドゴーレムに突き刺さった。

しかし、マッドゴーレムは、その足を止めない。

エリザ達に向かって真っすぐ駆けて来る。

その前にガルド達、槍部隊が立ちはだかる。


「ここから先には行かせないぜ。食らいやがれ『爆裂剣!』」


ガルドは高く飛び上がると大剣を大きく振り払う。

マッドゴーレムを捉えると爆炎が巻き起こり飲み込んで行く。

すると、マッドゴーレムの体に大きな亀裂が入った。


「よし。利いてる利いてる」


ガルドに続くように槍隊達が槍をマッドゴーレムに突き立てる。

しかし、硬い装甲に弾き返されてしまう。

さすがに通常攻撃では効果はないようだ。

だが、今は時間を稼ぐだけでもいい。

すると両サイドから攻めて来た騎馬隊がマッドゴーレムを挟み込む。

騎馬隊は剣を翳してマッドゴーレム達を切りつける。

こちらも硬い装甲に弾かれてダメージを与えられずにいた。

狙い通りマッドゴーレム達は足をとめガルド達を対峙している。

そしてエリザ達、魔術師の詠唱が終わった。


「「零氷が紡ぎし雫、氷雪の飛礫となりて、空間を切り裂け『ダイヤモンドダスト!』」」


マッドゴーレムの足元に青い魔法陣が浮かび上がると空気中の水分が冷気を放つ。

そしてパキパキと音を立てながらマッドゴーレム達を氷で覆い尽くして行く。

さすがに500程の魔術師で一斉に唱えたのでダイヤモンドダストの効果が上がっているよう。

マッドゴーレム達を全て氷像と化し、辺り一帯を氷の世界に一変させた。


「後は総攻撃だ!心臓を一突きにするんだ!」

「心臓を一突きだな?それならこれだぜ。凍て尽せ『氷霜剣!』」


ガルドは切っ先をマッドゴーレムの心臓に向けると冷気を帯びた刺突を放つ。

ガルドの大剣は氷を砕きマッドゴーレムの装甲を貫く。

そしてマッドゴーレムの心臓を一突きにした。

すると、マッドゴーレムの体は砕け粉々に散って行った。

ガルドは一体、また一体と確実にマッドゴーレムを仕留めて行く。

負けじとプリシアは爆裂弾を放ってマッドゴーレムの装甲を破る。


「私だって負けていられないわ。粉々に砕け散れ!『爆裂粉砕!』」


マッドゴーレムの心臓辺りの装甲を中心に破壊して行く。

そして槍隊と騎馬隊がとどめを刺す連携プレイだ。

ガルド、プリシア達の総攻撃でマッドゴーレム全てを殲滅させることが出来た。


「素晴らしい。さすがは策士タクトだな」

「こんなの朝飯前だよ。なあ、タクト」


ラクレスは拍手をしながら私を歓迎するとガルドが割って入って来た。

ガルドは自分の実力を魅せつけられたようだから得意気になっている。

終始、豪快に笑いながらグルンベルグ軍を見やっていた。


「それにしてもグルンベルグ軍は必殺技も使えないの?」

「必殺技なら多少は習得済みだ。だが、私達はほとんど人間を相手にする。だから強力な必殺技など覚えていなくてもいいのだ」

「使えないわね。それじゃあ魔獣討伐をする時にどうするのよ?」

「数と頭で戦うんだ。戦と言うものは個の力で勝つものではない。数と戦術がモノを言うのだ」

「難しいことはわからないけれど、タクトの力は必要ってことね」


ラクレスは諭すようにエリザに説明する。

ラクレスが連れて来た部隊はグルンベルグ軍でも一級の騎士や魔術師ばかり。

いく戦もの戦いを経て来た強者ぞろいで必殺技も取得していると言う。

今回の戦いで必殺技を使わなかったのは私達の力を試すためだったらしい。

ちなみに習得している必殺技は騎馬隊が斬撃、槍隊が刺突、弓隊が狙撃だ。

どれも初歩的な必殺技で経験を積めば誰でも習得できるものだ。

対人間戦を想定しているので、この程度の必殺技でもいいらしい。

騎士団長クラスになればより強力な必殺技を習得しているのだが。


ラクレスが言うように私達は今まで個の力で戦って来た。

戦術は立てていたとはいえ、数で戦う戦いには不慣れだ。

今回、マッドゴーレムを倒せたのもガルド達の力のおかげであることが大きい。

ガルド達がいなければ苦戦を強いられていたのは目に見えている。

これからは数で戦う戦術も磨かなければならないようだ。


「さて、マッドゴーレムも倒したことだし近くの街で報酬をもらおうぜ」

「それはできない。軍で倒したモンスターはカウントされない仕組みになっている」

「なんだよそれ。ただ働きってことか?」

「そう言うことだ」


ラクレスの説明によると軍でモンスターを倒すと冒険者達が倒すモンスターが減ることになる。

なので、報酬をもらえるようにしておくと冒険者達の取り分が減ってしまう。

そうなれば冒険者達はモンスター狩りを諦めるようになってしまうのだと言う。

冒険者がモンスターを狩らなければ軍の仕事が増えることにもなる。

だから、ギルドから報酬をもらえない仕組みにしたのだと言う。

まあ、軍は国から給金を得ているのだからギルドからもらわなくてもいいだろう。


「さて、おしゃべりはここまでだ。先を急ぐぞ」


私達は隊列を整えるとアルタイル王国の国境を目指して進んだ。

マッドゴーレムの討伐で時間を食ってしまったが、予定通り明日の朝には国境に到着できると言うことらしい。





軍隊がドレッド渓谷を抜ける頃になると太陽が西に傾いていた。

軍隊は開けた大地に停車すると野宿の準備をはじめる。


「今夜も野宿かよ。クラルスの街も近いんだし宿屋へ行こうぜ」

「何を言っているんだ。これだけの数を泊められる宿屋はないだろう。クラルスの街へ行くのは補給部隊だけだ」

「ちぇっ。街に行けば酒が飲めると思ったんだけどな」

「酒が飲みたいのか?」

「あるのか?」

「ない」


ガルドが詰め寄るとラクレスは切り捨てるように吐き捨てた。

それも仕方ないだろう。

これから戦いに行くのに酒を持って行く奴はいない。

しばらくの間は禁酒生活が続くようだ。

酒好きのガルドには悪いが、これも戦いなのだ。


「ガルド、残念ね。私達は温泉に入って来るから」

「何で温泉はありで酒はなしだんだ。不公平じゃないか」


ガルドは不平不満をぶちまけながら恨めしそうにエリザ達を見やった。


「しかし、魔法で温泉を造るだなんて考えたものだな」

「これも長い旅のおかげかな。ヒントになったのは暴れ猿の討伐だったけどな」

「策士タクトも歴戦を乗り越えて来たのだな。心強いことだ」

「まあ、私達がこれまでに戦って来たのはモンスターだ。対人間同士の戦いはしていない。果たして本当にクーデターを鎮圧出来るかどうか」

「策士タクトでも不安を感じることはあるのだな。まあ、私がサポートをするから安心しろ」


歴戦を乗り越えて来たラクレスの補助を受けられるのならば心強い。

グルンベルグ王国の第一騎士団長を務めるくらいだから腕も確かなのだろう。

ダゼル国王から絶大な信頼を得ていて右腕とまで揶揄されるくらいだ。

ラクレスが本気を出したらどれくらい強いのだろう。

ガルドと渡り合えるほどだろうか。


「ラクレスは第一騎士団長になって長いのか?」

「そうだな。もう、5年ほどになるだろうか」

「随分、若い時から騎士団長になったんだな」

「私はもともと騎士の家系だったから自然と騎士になることは決まっていた。幼い頃から騎士としての英才教育を受けて来たから16歳になったらすぐにグルンベルグ騎士団に入った」


私と同じような道を歩んで来たのか。

なんだか親近感が湧く。

最初はとっつき難さを持っている奴だとは思っていたが。

それも騎士団に入ってから身についたものだろう。

騎士は常に冷静で沈着でいなければならない。

騎士道精神に外れないように普段からの立ち振る舞いも正す。

そんな習慣がラクレスの印象を変えたのだろう。


「少しだけラクレスを信用してもいいと思ったよ」

「それはありがたい。作戦の成功には信頼関係が不可欠だからな」


私達は雑談をしながら長い夜を越した。

その時間は瞬く間に過ぎ、夜が明けると再び国境を目指して旅立った。


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