121「助け舟」
プリム達がグルンベルグを発ってから2週間ほど経ったある日。
ダゼル国王の元に想いも寄らぬ報せが入った。
いつも冷静なラクレスが慌てながら駆け寄る。
「ダゼル国王様。アルタイル王国でクーデターが起こりました。首謀者は若い騎士団の模様で大臣達を人質にとりアルタイル城へ籠っています」
「首謀者は過激派ではないのか?」
「過激派は沈黙を保ったままです」
ダゼル国王は難しい顔をしながら考え込む。
マクミニエル国王はいったい何をしているのだ。
今は人間同士で争っている場合ではない。
すでに2体目の魔獣も目覚めたのだ。
時期に3体目、4体目と目覚めて行くはず。
我々、人間達には猶予は残されていないのだ。
しかし、このままアルタイル王国をほっておくこともできない。
国内情勢が不安定になればグルンベルグ王国に飛び火することも考えられる。
それだけは避けなければならない。
「アルタイル王国へ派兵の準備をするのだ」
「しかし、それでは内政干渉になってしまいます」
「そんなことを言っている場合か。マクミニエル政権が打倒されたら、それどころではなくなるのだぞ」
「すぐに手配いたします」
派兵だけでは不十分だ。
難民がグルンベルグに避難して来ることが予想される。
国境の警備を強化して難民の入国を拒否しなければならない。
人道的な立場から見れば難民の受け入れ拒否は非道に見えるかもしれないが。
受け入れる方にも多大な負担が強いられるのが現実だ。
そもそも国民達が難民受け入れを反対するだろう。
グルンベルグ王国としては国民達が納得する行動をとらなければならない。
「それと国境の警備を強化しろ。難民の受け入れは拒否だ。ただし物資の支援は行え。そうすれば世間の目も和らげることが出来る」
「承知しました!」
ダゼル国王の指示にラクレスは敬礼をして応えた。
マクミニエル国王もほとほとついていないな。
過激派に政権を狙われているかと思えば、今度はクーデターだ。
アルタイル王国が尽きるのも近いのかもしれない。
まあ、そうなればそうなればで今後の対応も変わるのだが。
ダゼル国王は目を細めて遠くを見やる。
聖女問題が解決したかと思えば、今度はアルタイル王国の内戦。
人類の問題は尽きることがないな。
改めてダゼル国王は降りかかる厄災を実感した。
その頃、タクト達はグルンベルグ王都の宿屋に宿泊していた。
ダゼル国王からは城に留まるように言われていたが、慣れない雰囲気のため断ったのだ。
城で拘束されているよりも街で自由にしていた方が気持ちが楽だ。
もちろん、その間にモンスターの討伐はしていないかったが。
部屋の中でお茶をしていると外が慌ただしくなる。
「何だか街が慌ただしいな。何かあったのか?」
「おおかた魔獣討伐隊の訓練だろう」
「それにしてはグルンベルグ城へ向かって騎士達が駆けて行くぞ」
「どうせ暇なんだしグルンベルグ城に行ってみたら」
「そうだな。直接、ダゼル国王に聞くのが早いな」
私は嫌がるガルドを連れてグルンベルグ城へ向かった。
エリザ達女性組は部屋で留守番。
一応誘ってみたのだが揉め事はごめんだと断られてしまった。
「俺も留守番の方がよかったな」
「今更、言ってもはじまらないだろう。もう、城の前まで来たんだし」
ガルドはブツクサ文句を言っていたが結局、私と一緒に来た。
エリザ達といっしょに残っても昼寝だけしているつもりのようだったから連れ出したのだ。
城の前では騎士達が慌ただしく行き交っている。
有事を思わせるかのような慌て振りだ。
やはり、何かあったと見るべきか。
私はひとりの騎士を呼び留め尋ねてみた。
「何かあったのか?」
「何かあったじゃないよ。アルタイル王国でクーデターが起こったんだ」
「クーデターだって!その話、詳しく聞かせろ」
ガルドが思わぬ反応を見せて騎士に掴みかかる。
「何でも騎士団が反旗を翻したようでアルタイル王国は内戦状態になっているんだよ」
「何で騎士団が反旗を翻すんだ?」
「そんなこと俺に聞かれたってわからないよ」
まあ、当然のことだ。
いっかいの騎士が他国の情勢に精通している訳がない。
諜報活動でもしていれば別だが、それでも機密情報扱いになるだろう。
「それでグルンベルグ王国は派兵するのか?」
「もちろんだ。ダゼル国王が指示を出したらしい。ラクレス様が慌てて騎士団長を招集していたからな」
アルタイル王国に派兵することになれば内政干渉になる。
それを承知の上で派兵を決めたなら、それだけマクミニエル政権が追い詰められているとダゼル国王は判断したことになる。
私達に何も情報がないから詳しいことはわからないが。
「もう、いいよな。俺も騎士団長に呼ばれているんだ。遅れたら怒鳴られてしまう」
「助かったよ。ありがとうな」
騎士は急いで寄宿舎の方へ走って行った。
「アルタイル王国でクーデターだってよ。俺達も行くか?」
「ガルドにしては面白いことを言うじゃないか」
「このところ暇を持て余していたからな。体が鈍っちゃってよ。ひと暴れしたい気分なんだ」
暴れまわるのはいいが相手は人間になるのだぞ。
ガルドはそのことを承知しているのか。
相手がモンスターならば思いっきり戦えるかもしれないが。
人間となればそうもいかないだろう。
だが、しかし、これも戦力をアップさせるいい機会になるはずだ。
「わかった。ダゼル国王に掛け合ってみよう」
「そうこなくっちゃ」
私達は警備兵連れられて応接室へ案内された。
ダゼル国王はラクレス達に指示を出しているところらしい。
テーブルの上に置かれた紅茶に手を伸ばして一息つく。
ガルドは部屋の壁にかけられていた歴代の国王の肖像画を眺めながらうんうん唸っていた。
すると、応接室の扉が開きダゼル国王が中に入って来る。
「待たせたな」
「いえ、私達も今来たところです」
ダゼル国王はテーブルの向かいにおもむろに座ると尋ねて来た。
「それで何か用か?」
「私達もアルタイル王国へ同行させてほしいのです」
「知っておったのか。これは遊びではないのだぞ」
「もちろん承知しています。しかし、これは私達の戦力を強化できるチャンスでもあります。今まではモンスターを相手にして来ましたが、対人間戦の経験を積んだ方がより強くなれることは間違いないはずです」
ダゼル国王は難しい顔を浮かべてしばし考え込む。
「俺達が強くなれば魔獣討伐にも役に立つんだぞ。いいだろ、国王」
「ならば交換条件がある」
「交換条件?」
私が小首を傾げるとダゼル国王は真っすぐに私を見て告げた。
「それは策士の力でクーデターを制圧してもらいたいことだ」
「私の力で?」
「そなたは対モンスターの策士であることは承知しておる。だが、策士として大成するなばら対人間にでも通用する策を持っていなければならないはず。そなたの力を私に見せて欲しいのだ」
ダゼル国王の指摘は最もだ。
陽派の策士である私は対モンスターには強い。
少数精鋭で敵の弱点をついて策を立てる。
しかし、魔獣討伐ともなれば、それだけの力量だけでは不足だ。
何せ大部隊を指揮しなければならないうえ、魔獣と戦わなくてはならない。
陰派の策士が持っている技量も身に着けておく必要があるのだ。
「わかりました。作戦の指揮は私がとりましょう」
「そうと決まれば皆に紹介する必要があるな。今、寄宿舎の大広間で作戦会議が開かれている。そこへ向かうぞ」
私とガルドはダゼル国王に連れられて応接しつを後にする。
ガルドは終始、やる気を漲らせていたが、私はそうでもなかった。
ダゼル国王の願いと言うこともあり承知してしまったが、正直不安がよぎっていた。
なにせ大部隊を指揮したことなど経験がないのだ。
ニーズの街を救う時にいっしょに戦った冒険者達を指揮したぐらいの程度である。
しかし、この経験も魔獣討伐へ向けた糧になることは間違いない。
それだけが私の決意を後押ししていた。
寄宿舎の大広間には各騎士団長達と宮廷魔術師団長達が集まっていた。
ラクレスが指揮をとり作戦会議をはじめている。
そこへ私達を連れたダゼル国王がやって来た。
「国王様、なぜここに?」
「皆に紹介したい者がいるのでな」
ダゼル国王が壇上に登り合図をすると私とガルドはダゼル国王の隣に並ぶ。
「この者は策士のタクトである。この度の作戦の指揮をとることになる」
ダゼル国王の言葉に騎士団長達はどよめく。
本当にあんな若造に指揮が務まるものなのか。
先行きが不安だ。
などの言葉が飛び交う。
「国王様、本気ですか?」
「無論だ。ラクレスは補佐に回ってほしい」
さらなるダゼル国王の言葉に騎士達が口々に不満を漏らす。
ラクレス様が補佐だってよ。大丈夫なのかグルンベルグは。
グルンベルグはじまって以来の出来事だぞ。
などの言葉が耳に届いた。
そんなダゼル国王の無茶振りにも反論せずラクレスは同意を示す。
「わかりました。策士タクト、後は任せたぞ」
私はラクレスから作戦書を受け取ると一通り目を通す。
作戦書にかかれていたのは部隊の展開方法だった。
派兵される部隊は騎士団が3千と宮廷魔術師団が2千の合わせて5千。
騎士団はさらに騎馬隊と槍兵、弓兵に分かれている。
それぞれ千ずつとバランスが良い。
宮廷魔術師団は魔術師千5百とプリ―スト5百。
攻撃に特化させた配分となっている。
アルタイル城は堀に囲まれているので防御力は高い。
アルタイル城へ籠っている若い騎士団達もそのことを重々に理解している。
それが故、他の騎士団は王都周辺のマクニミエル政権と対峙している。
まずは、王都周辺の騎士団達の殲滅。
クーデターを起こしている騎士団も戦力を削がれて行けば、おのずとアルタイル城へ集まって行く。
そうしたらアルタイル城へ籠っている騎士団を包囲して一網打尽にするのだ。
ただ、問題は大臣達が人質になっていること。
むやみやたらと侵攻しようものならば間違いなく人質は殺害される。
そうなってしまえば元もこうもない。
クーデターを制圧してもマクミニエル国王は責任を負わされて断罪されてしまう。
人質を殺されずにクーデターを制圧する必要がる。
それはこれまでにない難しさだ。
問題はアルタイル城を包囲してからの展開だ。
小回りの利く少数精鋭で城内へ侵入する必要がある。
その役割にうってつけなのはガルド達だ。
これまでの戦いの経験がある。
ガルド達ならば大臣達の身の安全を確保してくれるだろう。
私は部隊の指揮があるから本隊から離れられない。
城へ侵入してからはガルド達の判断になる。
まあ、エリザもルーンもいるから無茶なことはしないと思うが。
大臣達の身の安全を確保したら全部隊で騎士団達を制圧する。
これで内戦は終わりを告げるはずだ。
「まずは各地で内戦を起している騎士団を制圧する。その後、アルタイル城で籠城している騎士団を制圧する」
「しかし、大臣達が人質に取られているんだろ。見殺しにするのか?」
「それなら問題ない。人質の救出にはガルド達に任せる」
「俺?」
ガルドはきょとんとしながら私を見やる。
「そんな奴に任せても大丈夫なのか?」
「ガルド達はこれまでに多くの戦いで勝利を収めて来た実績がある。先の聖女救出作戦でも実力を見せてくれた。ガルド達ならば人質を無事救出してくれるはずだ」
私の言葉を受けてガルドは誇らしげな顔をする。
しかし、一抹の不安は過激派がどう動くかと言うことだ。
内戦を黙って見ているとは思え入ない。
ここぞとばかりにマクニミエル政権打倒を打って来るはず。
ならば三つ巴の戦いになると予想される。
アルタイル城には騎士団達、王都周辺にはマクミニエル政権派、アレクロスには過激派達が陣取っている。
ラクレスの情報によればマクミニエル国王は王都の外れの別荘に潜んでいると言う。
騎士団の襲撃の際に秘密通路から逃げしたのだ。
ご高齢故、監禁されなかっただけでも救いだろう。
私が沈黙を保っているとラクレスが指摘して来た。
「過激派の対策はどうなんだ?こんなチャンスを逃す奴らじゃないだろう」
「そうなったら作戦は大幅に修正しなければならない」
過激派達は王都目指して侵攻して来るはずだ。
各地に散らばっているから、どれだけ集まるのかわからない。
三つ巴の戦いとなればどちらを優先すればいいのかも変わって来る。
地理的に見れば先に騎士団を殲滅する方が打倒だろう。
アルタイル城さえ取り戻せばいくらでも対応が出来る。
「過激派は王都目指して侵攻してくるはずだ。だから、まずは騎士団の殲滅を優先させる。アルタイル城さえ取り戻せば過激派の対応は可能だ」
「過激派の侵攻が早かったらどうするのだ?」
ラクレスの指摘は最もだ。
騎士団を対峙している時にでも攻め込まれればひとたまりもない。
混戦状態になり敵か味方かの判断も危うくなる。
戦場に近づかれないように弓なりに宮廷魔術師団を配置して対抗するのが得策だ。
魔法で過激派達の侵攻を止めることが出来れば時間を稼げる。
その間に騎士団を殲滅する作戦だ。
「その時は宮廷魔術師団で対抗をする。魔法で止められれば時間稼ぎが出来るだろう」
「となると我々の投入できる兵力は3千と言うことになるな」
「それだけいれば大丈夫だぜ。なんて言ったって俺がいるんだからな」
ガルドはガハハと大笑いしながら場の空気をかき消す。
すると、張り詰めていた緊張が解けて騎士団長達に笑顔が戻る。
「あんたの作戦は本物だ。これならマクミニエル政権を守れるはず」
「人質を救出してクーデターを制圧するんだ」
「俺達なら出来る。なんて言ったってグルンベルグ騎士団だからな」
騎士団長達は勢いづいて思いのたけを叫ぶ。
その様子を見てラクレスも追及の手を緩めて私の作戦に賛同して来た。
「国王様の見立て通り、お前は出来るようだ。この作戦の指揮を任せたぞ」
「期待に応えてみせるよ」
私とラクレスは固く握手をして決意を表明した。
度肝を抜かれたのはエリザ達だった。
宿へ帰るなり事情を話すと無下に反対された。
エリザが言うには自分達にはそれだけの大役をこなせる自信がないと言うことだった。
ルーンも同様で、私の立てた作戦に疑問符を抱いていた。
そんな中、プリシアだけは賛成してくれた。
何でもおもしろそうだと言う理由からだった。
「エリザ、ルーン。これはもう決まったことなんだ」
「そんなことを言われたって私達の知らないとことで決まったことじゃない。私は嫌だからね」
「と言うことはエリザはアルタイルの国民を見捨てるってことか?」
「別にそんなことを言っていないわよ」
ガルドの切り返しに言葉を詰まらせるエリザ。
難しい顔をしながら俯いて黙り込む。
すると、黙って話を聞いていたルーンが口を開いた。
「タクトさん、私達はモンスターとしか戦って来なかったのですよ。その刃を人に向けるなんて私には出来ません」
「だけど山賊達と戦ったよな」
「それは……」
「ルーンの気持ちもわかるが、これは戦争なんだ。嫌でも人が死ぬ。見て見ない振りをしていればもっと多くの血が流れることになるんだ。しかし、私達ならば犠牲を小さくできる。その為にアルタイル王国へ向かうんだ」
それでもルーンは不服そうな顔で黙り込んだ。
本来ならばこんなお願いをすることは避けたいのが本音だ。
しかし、これも私達の戦力をアップさせることに繋がるのは見逃せない。
これも魔獣討伐へ向けて私達の試練なのだ。
「私はどこまでもタクトに着いて行くわ。エリザ、嫌なら着いて来なくてもいいわよ。邪魔者がいなくなればタクトと二人っきりになれるし」
「わかったわよ。行けばいいんでしょう」
プリシアの挑発にまんまと乗っかって来たエリザ。
本人は納得していないようだがプリシアに出し抜かれることの方が嫌なのだろう。
動機は不純だがチームが分裂しなくてよかった。
ルーンも仕方なく了承してくれた。
こうして私達はアルタイル王国へ向かうことになる。




