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117「プリム救出作戦」

プリム救出作戦の当日の深夜。

私達はサンドリア城の裏口へ辿り着く。

約束通りフクロウの鳴きまねをして合図を送った。

すると、裏口の扉が静かに開き、中から手引き役の警備兵が姿を現した。


「時間通りだな」

「それより早く中に入れ」


手引き役の警備兵に促されて城の中へ侵入する。

ルーンは脱出の馬車の見張りに残ってもらった。


「俺の後に着いて来い」


私達は手引き役の警備兵の後に着いて行く。

正面の入口は警備兵が見張りをしているので厨房の勝手口から中へ入る。

さすがに深夜帯は料理人がいないので辺りは真っ暗で静まり返っていた。


「厨房を抜けて右に行けば階段がある。階段を降りれば地下牢へ。階段を登れば宝物庫へ行ける。俺が案内できるのはここまでだ」

「何だよ、こんなところで置き去りか」

「仕方ないだろう。俺は下っ端の警備兵だから見張りは外って決まっているんだ。城の中で見つかればサボっていると思われっちまう」


まあ、無理を言っても仕方ないだろう。

ここまで侵入出来ただけでもよしとしないとな。

後は作戦通り私とエリザ、マリア―ヌは地下牢へ。

ガルドとプリシアは警備兵の注意を惹きつけてもらう。

念のためプリシアには麻酔弾と言う新しい必殺技を覚えてもらった。

麻酔弾はその名の通り爆発すると麻酔効果のある煙をまき散らす爆弾だ。

それ用のガスマスクも準備してある。

自分達が麻酔にかかったら目も当てられないからな。


「じゃあ行くぞ」


私は厨房の扉を細く開けて外の様子を確かめる。

辺りは警備兵の姿はなく静寂に包まれていた。


「言っておくが警備兵は巡回しているから気をつけろよ」

「わかってる」


私は壁にへばりつきながら息を殺して奥へと向かって行く。

それに続いてエリザ、マリア―ヌ、ガルド、プリシアと続く。

手引き役の警備兵は厨房を後にして城の裏口へ戻って行った。


「見張りはいるか?」

「大丈夫だ。こっちに来い!」


私は廊下の角まで来るとそっと顔を覗かせて通路を確認する。

そして忍者のように身を屈めながら走り抜けると階段の所までやって来た。


「ここから地下牢へ向かう。ガルドとプリシアはここで見張りをしていてくれ。警備兵に見つかったら他の場所へ誘導してくれ」

「わかったぜ」

「任せてよ」


私はガルド達と別れて階段を降りて地下牢へ向かう。

ここまでは順調に辿り着けた。

後は地下牢でプリムを見つけて救出するだけ。


「本当にこの先にプリムがいるんでしょうね」

「間違いない。ブレックス達が閉じ込めているはずだ」


エリザの心配をよそに階段を下って行くと監守部屋の前まで辿り着いた。

監守部屋からは煌々と灯かりが漏れていて人のいる気配がする。

私はそっと窓から監守部屋を覗く。

見ると監守がひとりいびきをかいて寝ていた。


「監守は寝ている。今がチャンスだ」


私は監守部屋の前を身を屈めて地下牢へ向かう。

エリザもマリアーヌも同じようにして通り抜けた。

しかし、地下牢の入口は鉄格子の扉で覆われていて鍵がかかっていた。


「エリザ、頼む」


エリザは指の先に魔力を集中させると冷気を放って鍵を凍らせる。

そして次いで炎の魔法を放って氷に亀裂を走らせた。

マリア―ヌが剣の柄で凍った鍵を叩くと粉々に砕け散った。

温度の激しい変化を加えて鍵を壊す作戦だ。

狙い通り鍵は壊れて扉が開いた。


「さすがはエリザだな」

「このくらい簡単よ」

「中へ入るぞ」


今度はマリア―ヌが先頭を切って地下牢の中へ入って行く。

すると、地下牢には驚くほど多くの罪人が囚われていた。

見るからに盗賊風情の輩が牢の中で身を潜めている。

すっかり怯え切っているようで声すら発しない。

それは拷問された形跡のある輩の姿を見たからだろう。

拷問を受けた輩は腕に小汚い包帯を巻いてぐったりとしている。

私達は目を背けながら地下牢の奥へと進んだ。


「プリム様!」

「誰?私の名前を呼ぶのは?」


マリア―ヌがプリムを見つけ叫ぶが辺りが薄暗くプリムは確認できないようだった。

すると、マリア―ヌが鉄格子を掴んで顔を押しつけながらプリムを呼ぶ。


「プリム様。私です。マリアーヌです」

「マリアーヌ?」


マリア―ヌの呼びかけにプリムはきょとんと小首を傾げる。

そして私達が姿を現すと飛びつくように鉄格子の顔を押し当てた。


「ダクト!タクトなの?」

「待たせたな。助けに来たぞ」

「タクト!本当にまたタクトに会えるなんて」


プリムは私の手を握りしめ目に涙を浮かべて喜ぶ。

よほど辛い目に合って来たのだろう。

プリムの着ている服は白のローブのみ。

裸足のままで足の裏には赤みがかり砂利がついていた。


「喜ぶのは後にしよう。今はここから脱出することが先決だ。エリザ、頼む」

「わかったわ。プリム、離れていて」


エリザはさっきと同じように氷の魔法で鍵を凍らせてから炎の魔法で熱を加える。

凍った鍵に亀裂が入ったところでマリアーヌが剣の柄で小突く。

すると、鍵は粉々に砕け散った。


「よし、プリム。逃げるぞ。歩けるか?」

「うん。大丈夫」


私が手を差し伸べるとプリムはしっかりとした足取りで立ち上がった。

これならば逃げられそうだ。

私達は来た道を戻って行く。

すると、拷問を受けたらしい輩が私の裾を掴んだ。


「こ、これを」

「何だ?」

「こ、これをアラジン様に渡してくれ」

「アラジン!」


その言葉に驚いた私達をよそに、その拷問を受けたらしい輩は告げる。

力ないか細い掠れた声で。


「使命は果たしました。我々はアラジン様といっしょですと」

「お前の名は何だ?」

「ド、ドミトス」


私はドミトスが差し出したネックレスを受け取る。

すると、ドミトスは力尽きて、その場に倒れ込んだ。

ネックレスはひし形をした形状で中央に三日月が刻まれている。

恐らくアラジンが指揮していたナイトメアの紋章だろう。

しかし、アラジンはドミトス達に何を指示したのだ。

サンドリア城の地下牢に閉じ込められるくらいだからサンドリアに反発したぐらいのことは想像できる。

地下牢に閉じ込められているのは30名ほど。

そのほとんどが正気を失い倒れている。

肌はボロボロになり頬がすっかりとこけている。

ここ何日も飲まず食わずでいたのだろう。

牢屋の隅でネズミ達がごちそうを目の前にチューチュー鳴いていた。


「タクト、行くぞ」


私はドミトスから受け取ったネックレスを懐に仕舞うと地下牢を後にした。





タクト達と別れた後。

ガルド達は宝物庫の前まで足を運んでいた。


「ねぇ、ガルド。あそこに魔水晶があるのよね」

「だろうな。見張りの警備兵がいるからな」


プリシアとガルドは廊下の角から顔を覗かせて様子を伺っている。

見張りの警備兵は2人だけ。

これならばプリシアとガルドで十分倒せる。

ここでポイントを稼いでおけばタクトも見る目も変わるかも。

プリシアはそう考えてガルドに提案した。


「ガルド。魔水晶を奪いましょう?」

「だけど、タクトは見張りだけ頼んだんだぞ。余計なことをして大丈夫か?」

「私達だけでもやれるってことを見せればガルドの評価も変わるかもよ。ガルド、言っていたじゃない。もっと俺の頑張りを認めろとさ」

「それもそうだな。魔水晶を奪ってタクトの鼻を空かせてやろう」


釣れた釣れた。

ガルドって単純だから扱いやすい。

バカとハサミは使いようって感じで。

タクトもこのくらい単純だと攻略しやすいのだけど。

そんなくだらないことを考えているとガルドが言った。


「けど、どうするつもりだ。見張りがいるんだぞ」

「そんなの簡単。この麻酔弾で眠らせてあげるわよ」

「そうか。そいつがあったな!」


プリシアは見張りの警備兵の足元に麻酔弾を放り投げる。

麻酔弾はコロコロと警備兵の所へ転がって行き炸裂した。

扉の前を中心に白い煙が立ち込めると警備兵達が麻酔効果で倒れ込んだ。


「よし!それじゃあ私達も行くからガスマスクをして」

「わかった」


プリシアとガルドはガスマスクを着けて宝物庫の前まで堂々と歩いて行く。

しかし、宝物庫の鍵は施錠され開かなかった。


「どうするんだ、扉があかないぞ」

「そこまで考えていなかった」


エリザでもいれば魔法でちょちょちょのちょいなのに。

今はガルドしかいない。

ガルドの剛腕をもってしても、この扉は空かないだろう。

何せ宝物庫の扉は鉄製で頑丈に造られている。

仕方ない爆弾で……。

プリシアが袋から爆弾を取り出そうとするとガルドが止めて首を横に振った。


「こんなところで爆弾を使ったらすぐにバレるだろ。ダメだ」

「けど、目の前に魔水晶があるのよ。諦めろとでも言うの」

「仕方ないだろう。プリムの救出が最優先なんだから。行くぞ」


立ち去ろうとするガルドをよそにプリシアは警備兵達の服を漁る。


「何やっているんだ!」

「鍵があるかもって思って」

「仕方ない奴だ。一発だけだぞ。それも火薬を少なめにしてだからな」

「わかってるって」


プリシアは嬉しそうに爆弾の中から火薬を取り出す。

そして、扉の鍵の所へ流し込むと火薬に火を点けた。

火薬は爆発して小さな爆発音を立てる。

すると、扉の鍵が壊れて下に転げ落ちた。


「ガルド。空いたよ!」

「本当か!よし、ここからは俺の出番だな。プリシア、辺りを見張っていてくれ」

「OK!」


ガルドは鉄の扉に両手をあてて腰を入れて力いっぱい押し開く。

鉄の扉は鈍い音を立てながら少しづつ開いて行った。

さすがは怪力の持ち主のガルドだ。

その体についた隆々の筋肉は伊達じゃない。


「開いたぞ」

「それじゃあ中に入りましょう」

「ちょっと待て。何か仕掛けとかしていないよな」

「あったり前じゃない。ここはお城の中なのよ。そんな危険なものを配置していたら具合悪いじゃない」


そう豪語していたプリシアだったが宝物庫に入る時には忍び足で中に入る。

それはガルドの言葉を受けて慎重に判断をしたからだ。

ここで罠にかかっても何の得にもならない。

それにせっかくタクトの考えた作戦が水の泡になってしまう。

そんな心配をよそに宝物庫の中には何の仕掛けもなかった。


「魔水晶があったわ」


魔水晶は宝物庫の中央の台座の上に置かれていた。

宝物庫の中にはサンドリア王国の宝物がたくさんある。

ガルドは宝物庫の中に飾ってあった剣を眺めていた。


「魔水晶を盗ったらブザーが鳴るとかないわよね」


プリシアは恐る恐る魔水晶を持ち上げる。

すると……何も起こらなかった。


「ビックリさせて。何もないじゃない」


プリシアは持っていた袋に魔水晶を仕舞う。

これでタクトも私のことを見る目も変わって来るはず。

”プリシア、お前ならやれると思っていたよ”だなんて言っちゃって。

キャハ。

プリシアはひとり妄想に耽っていた。

すると、廊下からタタタと駆けるような足音が聞えて来る。

その足音はぐんぐんと近づいて来て宝物庫の前で止まる。


「おい、しっかりしろ!」

「誰にやられた!」


すかさずガルドとプリシアは物陰に身を潜める。

駆けつけた警備兵達は宝物庫の中に入り中を確かめる。


「いるのなら出て来い!」

「もう、逃げられないぞ!」


駆けつけた警備兵達はガルド達の方へ近づいて来る。

そんなことをよそにガルドとプリシアは小声で口喧嘩をしていた。


「プリシアが魔水晶を盗りに行くって言ったからこうなったんだぞ。どうするんだ」

「ガルドだって賛成したじゃない。今更、文句を言われたって困るわ」


すると、プリシアが聖光弾を取り出し構える。


「私が合図したら一斉に飛び出すのよ」

「わかった」


プリシアは近づいて来る警備兵達の気配を感じながらギリギリまで近づける。

そして、タイミングを見計らって飛び出すと聖光弾を投げつけた。

聖光弾は警備兵達の足元で炸裂して眩い光を発する。

警備兵達はたまらずに目を抑えて塞ぎ込んだ。

その隙をついてガルド達は宝物庫を出て行く。

そして、鉄の扉を閉めて警備兵達を閉じ込めた。


「逃げるわよ」

「合点承知!」


ガルドとプリシアは来た道を戻り階段を駆け下りて行った。





その頃、ルーンは城壁の外でタクト達が戻るのを待っていた。

城壁の周りを巡回している警備兵に見つからないように森の中に身を潜める。

あいにく城壁の周りを囲むように森が茂っている。


「タクトさん達、遅いですわね」


ルーンが森の中から裏口を見やると人影を捕らえた。


「悪い悪いルーン。少し遅くなってしまって」

「タクトさん。プリムさんは?」


タクトの後ろからプリムが顔を覗かせる。

危害を加えられていないようですっきりとした顔をしている。

けれど、靴は履いておらず素足のままでところどころ赤くなっていた。

ルーンはすぐに回復魔法をプリムにかける。

すると、プリムの足の赤みはまっさらに戻った。


「ありがとう、ルーン」

「この程度、お安い御用ですわ」

「それより、ルーン。ガルド達はまだか?」

「ガルドさん達はまだ戻って来てませんわ」

「何をしているんだ、ガルド達は」


タクトは不安そうに城の方を見やる。

すると、裏口から人影が2つ出て来るのが見えた。


「待たせたな」

「何をしていたんだ、ガルド」

「これよ」


プリシアは後ろから魔水晶の入った袋を差し出す。


「何だそれは?」

「魔水晶よ」

「魔水晶だって!」


タクトは驚きの声をあげて袋の中を見やる。

そしてガルド達に向き直ると詰問をした。


「この作戦はプリムを救出することだけだぞ!もし、作戦が失敗したらどうするんだ!おおかたみんなにいいところを見せようと思ってしたことだろ!」


プリシアとガルドは気まずそうな顔で俯く。

タクトさんの心配を最もですわ。

もし、作戦が失敗して捕まりでもしたらみんな処刑されてしまう。

そうなってしまったら本末転倒ですもの。

けれど、今はここから逃げ出すことが先。


「タクトさん、早くここから立ち去りましょう」

「そうだな。警備兵に捕まっては元もこうもない」


すると、城の方が騒がしくなる。


「不味い。気づかれたみたいだ。みんな馬車に乗れ!」


タクト達は隠しておいた馬車に乗るとサンドリア城を後にした。


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