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115「作戦会議」

久しぶりにやって来たヴェールズの街は以前と様子が違っていた。

サンドリア王国の騎士団が街の中をうろついていて辺りを警備している。

ヴェールズの街の入口にも周辺にも騎士団の姿があった。

私達はマルクに事情を聴くためにヴェールズの港へ向かった。


「おっ、いたいた。マルク―!こっちだ、こっち!」


マルクは港で船に荷物を運んでいた。


「久しぶりだな。元気にしてたか?」

「それはこっちのセリフだ」

「しばらく見ない間に男らしくなったわね」


見た目をエリザに褒められてまんざらでもない顔を浮かべるマルク。

マルクはすっかり小麦色の肌になっていて力コブもついている。

以前の色白のマルクとは見違えるくらい変化していた。


「それで何しに来たんだ?また、海にでも出るのか?」

「いや、私達は人探しをしていてな」

「人探し?」

「名前をプリムと言うんだがプリシアと同じぐらいの年齢の少女だ」

「名前だけ聞いてもな」


マルクは小首を傾げながら腕を組む。


「プリムは水色の髪をしていて身長はプリシアぐらいだ。首に白銀の十字架のネックレスを身に着けている」

「水色の髪ね……おっ、そうだ!」


マルクはふと何かを思い出して手をポンと叩く。


「何か心当たりがあるのか?」

「水色の髪をした女の子ならサンドリア王国の母艦に乗っていたぞ。白いドレスを身に纏っていて、戦場に向かうには似つかわしくない格好をしていたから覚えていたんだよ」

「それでプリム様はどこへ行った!」


マリア―ヌがマルクの胸ぐらを掴んで締め上げる。


「お、おい。何だよ、この姉ちゃんは?」

「マリアーヌ、落ち着け。マルクが話せないだろ」


私がマリア―ヌを制止するとマリアーヌは手を緩めた。

マリア―ヌが興奮する気持ちはわかる。

サンドリア王国に入ってやっと手に入れたプリムの情報なのだからな。

だからと言って、ここで急いていてもことは進まない。

まずは確実な情報を得る必要があるのだ。


「ゴホゴホ。まったく」

「それでプリムはどこへ行ったんだ?」

「サウスブルーまで行ったよ」


戦場に投入されたと言うことか。

ブレックス国王は惨いことをする。

戦いも知らないプリムを戦場に送るなんて。

聖女と言ってもプリムは普通の女の子だ。

聖女でなければマネチェの村で暮らしていただろうに。

聖女の力を使ってヴェズベルト軍を撃破するつもりなのか。


「それでサンドリア艦隊はいつ出港したんだ?」

「二週間前に出航して三日前に戻って来たよ。だけど戻って来たのは母艦だけで残りの軍艦5隻は戻って来なかった」


母艦だけ戻って来たと言うことは敗戦したのだろうか。

聖女の力を使ってもヴェズベルト艦隊を撃破できなかったのは驚きだが。

やはりプリムはまだ聖女として、その力を覚醒出来ていないのかもしれない。

三日前に戻って来たとなるとプリムは今、サンドリア城にいることになる。

だとするならば、プリムを救出するために作戦を考えなければならない。


「マルク、貴重な情報をありがとう」

「このくらい簡単だよ」

「それより、何でヴェールズにはこんなにも騎士団がうろついているんだ?」

「それは1週間前に盗賊団の襲撃を受けたからだよ。何が目的かわからないが、街を破壊して暴れて行った。すぐにサンドリア騎士団が駆けつけたから盗賊団を制圧出来たのだけどな」


ヴェズベルトへの侵攻に加えて、盗賊団の襲撃。

と言うよりもヴェズベルトの侵攻に合わせて盗賊団が襲撃して来たと見るべきか。

この2つには何か関連がありそうだ。

普通の盗賊団なら金品や宝石類を狙って来る。

街を破壊するためだけに襲撃して来るなんて前代未聞だ。

何かしらの意図が背景にあると考えるべきだろう。


「マルクはサンドリア王国の実情を知らないか?」

「俺には難しすぎてわからないよ。その辺のことは大人達に聞いてくれ」

「わかった。ありがとう、マルク。助かったよ」

「また、海に出ることがあるなら俺を尋ねてくれよな」


私達はマルクと別れて酒場へ足を運んだ。

もちろん酒を飲むためではなく、サンドリア王国の実情を探るためだ。

酒場にならいろんな人間が集まって来る。

酒場のマスターなら、その辺の情報を知っているかもしれないと踏んだからだ。





予想通りヴェールズの酒場はたくさんの客で賑わっていた。

まだ、太陽が高いのに、これだけの人が集まるのはヴェールズならでは。

中にはサンドリア王国から派遣された傭兵達の姿もある。


「まだ、昼間だと言うのに酒場に来るなんて、ご機嫌な奴らだな」

「私達だって同じじゃない?」

「俺達は情報を集めに来ただけだ。おい、マスター。ここで一番うまい酒をくれ」


言っている傍から酒を頼むなんて、さすがはガルドだ。

まあ、ガルドにしてみれば酒の一杯くらいは水と変わりないのだろう。

私達も同じものを頼むとマスターが一番うまい酒を持って来た。


「誰かと思えば、またあんたらか」

「俺達を覚えているのか?」

「覚えているとも。”ここで一番うまい酒をくれ”だなんていう客はあんたぐらいなものだからな」


ガルドは頭を掻きながら照れ笑いをする。


「それでヴェールズには何をしに来たんだい?うちの酒を飲みにかい?」

「それもあるが今日は情報収集だ」

「何が知りたいんだい?」

「サンドリア王国の内情を教えてほしい」


私がマスターに尋ねるとマスターは身を乗り出して小声で話して来た。

店内にいるサンドリア王国の傭兵達を気にしながら説明をはじめる。


「今、サンドリア王国はブレックス政権に反旗を翻す者達がいるんだ。その一人が第一騎士団長のクロード・バーンと言われている。クロードはブレックス国王の側近とも言える立場で唯一意見が言える。しかし、ブレックスは誰の意見も聞きたがらない性格だから意見を言っても却下されてしまうがな」

「独裁者ならではの特徴だな。それでクロードは政権の奪取を狙っているのか?」

「そう見て間違いないだろう。他の騎士団長や大臣達に根回しをているって話だ。それとブレックス国王が退位する噂話もある」


独裁者のあるところには必ず反対派がいるものだ。

ブレックス国王は輪にかけたように力に固執する。

独断で政権を運営しているから反発する者を生み出しやすい。

これではアルタイル王国と同じ状況に陥っていると言える。

違うのはブレックス国王がまだ若いと言うことだ。

ブレックス国王が自ら退位することは考えにくい。

だから、クロード達反対派はブレックスの退位を狙っているのだろう。


「どこの国も同じなのだな」

「だがな、最近、サンドリア王国にとある男がやって来たんだ。名前をアラジンと言ったか」

「アラジンだって!」


私が驚いて大きな声を上げると酒場の客達が一斉にこちらを見た。

私はおどけながら何事もなかったかのように振る舞う。

すると、マスターは一段と声を潜めて話して来た。。


「そのアラジンて奴がブレックスに取り入るために、聖女と魔水晶をヴェズベルトから奪って来たらしいんだ」


黒幕はアラジンだったのか。

カイザルが言っていた”私の知っている男”と言うヒントもアラジンのことを指していたようだ。

しかし、アラジンと言えばヴェールズを乗っ取ろうとしていた盗賊団のリーダー。

それが何故、サンドリア王国に入り込んでいるんだ。

しかもブレックスに取り入ろうだなんて。

アラジンの狙いはサンドリア王国か。

そう考えれば盗賊団の襲撃も納得がいく。

自らはサンドリア軍として戦争に出向き、部下達には街を襲撃させる。

戦時中を狙ってサンドリア王国を混乱に陥れればブレックスの首をとるチャンスが生まれる。

大きく出たな、アラジンよ。


「だけど、戦争は敗戦したのだろ?」

「母艦だけしか戻って来なかったらしいからな。噂では魔獣ポセイドンが出たらしいぞ」

「魔獣だって!」


私は大きな声を出そうとなり慌てて口を押える。

ここへ来て新たな魔獣の復活は私達にとって大きな痛手だ。

まだ、魔獣に対抗する力を得ていないのにも関わらず魔獣が目覚めたとなれば。

私達もうかうかしていられない。

このことはダゼル国王にも報告しておこう。


「まあ、魔獣が出たのはサウスブルーだからな。俺達、サンドリアには関係ないよ」


マスターは他人ごとのように話し終えると仕事へ戻って行った。


「クロードにアラジンに魔獣。やることは山積みだ」

「これで魔獣は2体、目覚めたってことね」

「4体全て揃えば聖戦は避けられないですわね」

「それよりも今はプリム様の救出が第一だ」


マリア―ヌの言葉が悩んでいた私達を現実に引き戻す。

サンドリア王国の内情はだいたい把握できたから隙を見出せるだろう。

私達はプリム救出作戦を立てるため酒場を出て宿屋へ場所を移した。





宿屋での部屋でプリム救出作戦を立てる。

宿屋であれば他人の目も気にしなくてすむ。

どこで誰が聞いているのかわからないから用心に越したことはない。


「遅くなって済まない」


マリア―ヌが遅れて部屋に入って来る。

手には大きな筒状のものを持っている。


「マリアーヌ。その手に持っているのは何だ?」

「サンドリア城の見取り図を手に入れて来た」

「どこでそんなものを手に入れて来たんだ?」


ガルドの質問にみんなの視線がマリア―ヌに集中する。

マリア―ヌは軽く咳払いするとテーブルについた。

まあ、マリア―ヌの様子から見ればヴェズベルト王国の人間から入手したのだろう。

サンドリア王国は敵対している国だけに城の構造も把握しているようだ。

マリア―ヌはサンドリア城の見取り図をテーブルの上に置く。


「プリムが囚われているのはどこだ?」

「おそらく牢獄だろう」


プリムは聖女クラスだから本来なら王族と同じような待遇を受ける。

しかし、ここはサンドリア王国だ。

しかもアラジンによって浚われて来たのだ。

ブレックス国王はプリムのことを奴隷扱いして投獄させるはずだ。

その方が何かと都合がいい。

下手に待遇を良くして裏切られたら目も当てられないからな。


「牢獄なら地下にあるな」

「プリムの居場所はわかったけれど、どうやってサンドリア城に侵入するの?」


そこが一番の問題だ。

城門前には警備兵が配置されているだろう。

もちろん、城の中にも警備兵が巡回しているはず。

その警備網を掻い潜ってプリムを救出するには準備が必要だ。

まずはどこにどれだけの警備兵が配置されているのか把握する必要がある。


「マリアーヌ。警備の配置なんてわかるものなのか?」

「さすがにそこまでの情報は得られない。なにせサンドリア王国は敵対国だからな」

「そうなるとすると他の方法を考えないければならない」


かと言って、どうやって警備状況を把握するかだ。

城へ侵入することが出来れば情報も得られるのだが。

冒険者である私達が行っても城の中には入れてくれないだろう。

ならば、城に自由に出入りできる人物に聞き出すしか方法がない。

金でも積めば情報を提供してくれそうな人物を見つけるのが先か。

はたまた強引に脅して吐かせるか。

それはマリア―ヌが得意そうだ。


「よし、まずはサンドリア城の情報を集めることからはじめる。ガルドとプリシアはサンドリア城の周辺の状況を確認して来てくれ。エリザとルーンは逃走するための馬車の手配を頼む。私とマリアーヌはサンドリア城に自由に出入りしている人物に接触する」


私が考えた作戦はこうだ。

人目につきにくい深夜帯を選んでプリム救出を実行する。

金で雇った警備兵にサンドリア城の侵入の手引きをしてもらう。

そして私とマリアーヌとエリザで地下牢へ向かいプリムを救出。

その間にガルドとプリシアに警備兵の注意を惹きつけてもらう。

ルーンは外で脱出の手配だ。

魔水晶はこの際だから捨てておこう。

あくまでプリムの救出が優先だ。

とにもかくにもまずは情報収集をしなければ。


「それじゃあ夜に落ちあおう」


私達は宿を出ると、それぞれの持ち場へ向かった。

ガルドとプリシアには時間帯によるサンドリア城周辺の様子の違いを、くまなく確認して来るように頼んだ。

何せプリム救出は夜に実行する予定だから、夜の状況の把握が必要になるからだ。

ガルドはあまり要領を得ていなかったようだがプリシアには念を押しておいた。





「ところで、タクト。サンドリア城に自由に出入りしている人物とは警備兵のことか?」

「それが一番手っ取り早いだろう。城内のことから警備状況まで把握している」

「しかし、警備兵が簡単に口を割るとは思えないが」


マリア―ヌの心配もわかる。

警備兵と言えどもサンドリア王国の騎士だ。

騎士たるもの自国を裏切るような行為はご法度だ。

それに騎士として働いているから国から支払われる給金もそれなりに高いだろう。

どれだけの金を積めば情報を得られるのかはわからない。

しかし、こちらにも考えがある。

それはマリア―ヌだ。

マリア―ヌに尋問させればすぐに情報を吐き出すだろう。

なんて言ったって尋問はマリア―ヌの得意とするところだからな。

そのためにこの役割分担にしたのだ。


「もしかして、私に尋問をさせる気か?」


私はニコリと頬を膨らませると大きく頷く。

そして、


「マリアーヌはそう言うの得意だろ?」


当然のことのように言い放った。

マリア―ヌは不服そうな顔を浮かべていたが、


「タクトもやるようになったな」


そう言って頷きながら関心した。

少しずつだがマリアーヌの使いどころがわかって来たような気がした。

すると、城の周りを歩きながら暇そうに欠伸をしていた警備兵を見つける。


「いいカモを見つけたな」

「あの手の輩ならすぐに落ちる」


マリア―ヌは自信ありげにニンマリと笑う。


「おい、兄さん。聞きたいことがあるんだが」

「何だぁ?」


私が声をかけると警備兵は眠そうな目をこすりながら振り返った。


「聞きたいことってなんだ?」


本当にこいつはサンドリア王国の騎士なのか。

警戒心の欠片もない。

普通ならすぐに追い払われてしまうものだが。

まあ、マリア―ヌの見立て通り口を割りやすいカモなのだろうな。

すると、マリア―ヌが問い詰めるように警備兵に質問をする。


「サンドリア城の警備体制はどうなってる?」

「そんなことを聞いてどうするつもりだい?」

「もちろん城に侵入するためさ」


おいおい、マリア―ヌ。

そんなことまで話したら逆に疑われるだろう。

不安気な顔を浮かべる私を見てマリアーヌは軽く頷く。


「城に侵入するって、もしかして宝物庫に保管されている魔水晶を狙ってか?」

「それもあるが」

「なら、地下牢に閉じ込められている聖女が目的か?」


マリア―ヌもマリアーヌだが、この警備兵も警備兵だ。

城の機密情報をペラペラと話してくれる。

緊張感のなさそうなふ抜けた顔からは騎士の欠片も見えなかった。

騎士の中にもいろいろなタイプがいるのだな。

まあ、勝手に情報を提供してくれる分には構わないが。


「宝物庫には常時2名の警備兵が見張っているし、地下牢にも監守が24時間付きっ切りだからな。奪おうだなんて無理な話だよ」

「なるほど」

「もしかして図星か?止めておけ。そんなことをしても捕まるだけだ」


すると、マリア―ヌが懐から金の袋を取り出し警備兵に差し出す。


「協力者がいれば話は別だろう?」

「それって、俺に言っているのか?」

「無論だ。お前の腕を見込んでの頼みだ。どうだ?」

「止めてくれよ。いくら俺が気前がいいからって投獄の手助けなんてする訳ないだろ。捕まったら国家反逆罪で処刑だぞ」


警備兵は青い顔をしながら首を横に振る。

マリア―ヌは私の懐から金の入った袋を取り出し警備兵の手の上に乗せる。


「これでは足りないか?」


警備兵は目の前に差し出された金の袋をマジマジと見つめる。

掛かったな。

金の袋は2つ合わせて50万ゴールドはある。

この警備兵がいくら頑張って働いても手に出来ない金額だ。

なんて言ったってクラーケンを5体分にも達するのだから。

その金の重さに魅了されたのだろう。

警備兵のゴクリと生唾を飲み込む音がはっきりと聞こえた。


「何をすればいいんだ?」

「お前にはこの城の警備状況を教えてもらいたい。それと城へ侵入する手引きだ」


警備兵はサンドリア城の警備状況を細やかに教えて来た。

宝物庫の警備体制は2名だが1時間ごとに交代すると言う。

宝物庫は施錠されていて騎士団長でなければ開けられないらしい。

一方で地下牢の監守は24時間体制で8時間ごとに交代する。

一日に3回交代する訳だが、ほとんど居眠りしていて地下牢の巡回はしないようだ。

食事は朝と晩に配給されているが、馬のエサのような残飯で食えたものではないと言う。

しかし、それは一般の罪人だけで聖女のプリムは特別扱いされている。

食事は3食配給され、わざわざ騎士団長が運んでくると言う。


「宝物庫はともかくとして地下牢は攻略できそうだな」

「無論。それだけが私の狙いだ」


私達は投獄の段取りを話し合い警備兵に手引きの日時を伝えた。

プリム救出作戦の決行日は明後日の深夜。

フクロウの鳴き声を合図に城の裏口から侵入する予定だ。

一抹の不安はこの警備兵が裏切らないかと言うことのみ。

マリア―ヌが言うにはこのタイプの男は目先の利益にしがみつきやすいから安心だと言っていた。

その言葉を信じて私達はガルド達と落ち合い、プリム救出作戦の準備に取り掛かった。


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