表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/178

11「メデューサの涙」

まだいる。

あたり前なのだが、その姿を見るだけでも背筋が凍りつく。

前回の戦いのようなお粗末な戦いはもうできない。

エリザとルーンの命運は私達の手にかかっているのだ。

それに長いこと時間がかかれば、エリザ達の命も危うい。

メデューサの石化は体を蝕んで行く浸食型の呪いだからだ。

私とガルド、プリシアの三人はメデューサに気づかれないよう、ゆっくりと近づいて行った。


「タクト、これからどうすんだ?」

「鏡の盾は一つしかない。バラバラになって戦えば、すぐにメデューサの餌食になるだろう。だから、離れずに戦うんだ。プリシア、まず爆裂弾でけん制するんだ!」

「OK、任せていおいて」


プリシアは袋から爆弾を取り出すと、メデューサ目がけて投げつける。

その爆弾はうまくメデューサの足元に転がり、タイミングよく爆発した。

大きなダメージを与えるような爆弾ではないが、メデューサの気を引くことはできる。


「来るぞ!」


次の瞬間、メデューサは姿を消し、私達の背後に瞬間移動をする。

そして、例のごとく目を見開き石化光線を放った。

ガルドはすぐさま鏡の盾を翳し、石化光線を弾き飛ばしたが、メデューサにはヒットせず、後ろの壁に逸れた。


「くそっ、外れた」

「油断するなガルド。また、攻撃して来るぞ」


メデューサはを消し、背後から襲って来る。

ガルドは鏡の盾を翳しながら攻撃を弾き返した。

しかし、光線は空を切り大きく外れた。


「ちくしょー。また外れた」

「焦るなガルド。タイミングを合わせるんだ」


すぐさまメデューサは反撃をはじめる。

ガルドはタイミングを見計らって鏡の盾を翳した。

すると、メデューサの体をかすめ、メデューサの一部が石化する。


「当たった!やるじゃん、ガルド」

「だけど、動ける。次の攻撃が来るはずだ」


メデューサはこちらの攻撃を受けて反撃をして来る。

けっして先に攻撃はして来ない。

そして、瞬間移動をしてから光線を放つ。

ようやくメデューサの攻撃パターンが見えて来た。

次こそは確実に仕留めるぞ。

私達は神経を集中させ、次の反撃を待った。

すると、予想通り、メデューサは瞬間移動をし、背後から攻撃をして来る。


「今だ!」


そのタイミングを見計らってガルドは鏡の盾をメデューサに向けて翳した。

メデューサの石化光線は見事メデューサを捉え、メデューサはすっかり石化してしまう。


「やったー!」

「ベストタイミングだガルド!」

「タクトのアシストがあったおかげだよ」


勝利を確信したかのように歓喜の声を上げるプリシアの顔からは緊張が消えていた。

もちろん私とガルドも満面の笑顔で転げ回りながら喜ぶ。

これまでの戦いの中で、こんなに喜べた戦いはなかっただろう。

私達は気が晴れるまで勝利の余韻に浸った。


「ガルド、メデューサの涙を」

「わかった」


勢いよく剣を振り上げたガルドは、渾身の力を込めてメデューサの目玉を突き刺した。

すると、ひび割れた隙間から水が溢れ出て来る。

まるで、メデューサが涙を流しているような姿に、その名の由来を感じた。

そして、私は水袋を広げると、滴るメデューサの涙を袋いっぱいに掬い集める。


「これでエリザとルーンの石化が治せる。早く北の森へ戻ろう」


私達は地下神殿を後にすると、北の森へ急いだ。



メデューサの涙は手に入れた。

これでエリザとルーンを助けられる。

早速、北の森へ戻ると、シド老人にメデューサの涙が入った水袋を渡した。


「シド老人。これでいいのだろう。早く、エリザとルーンの石化を解いてくれ」

「そう慌てるでない。まずは準備が必要じゃ」


シド老人はエリザとルーンを奥の部屋に連れて行くと、床に大きく描かれていた魔法陣の中に座らせた。

魔法陣は魔力を高めるためのブースターの役割を果たす。

高位の魔法を使う時に、よく用いられている方法だ。


さっそくシド老人はメデューサの涙を聖水のように石化している患部に垂らすと、高位魔法の詠唱をはじめた。

聖水、魔法、聖水、魔法、聖水、魔法と何度か繰り返す度に、エリザ達の石化は薄れて行く。

さずがに疲れた様子を見せたていたシド老人だったが、なんとか一連の儀式は終えることができた。


「これで大丈夫じゃ。後はゆっくりと休めば自然に石化は解けて行く」

「「ありがとう、シド老人」」


私と心を同じくしていたガルドとプリシアも声を揃えてお礼を言った。


ニーズの街へ戻った私達はメデューサ討伐の特別報酬をもらい、街から感謝状が贈られた。

これまでたくさんの冒険者の命を奪って来たモンスターだけに、街の人達の喜びようは半端ない。

街のあちこちに装飾が施され、まるでお祭りでもはじまったかのような賑わいだった。


「これで俺達を馬鹿にする奴はいなくなったな。あのメデューサを倒したのだから当然の話なのだが。せめて国王から栄誉勲章でももらえたら良かったのに」

「栄誉勲章なんて柄じゃないわ。私達はシド老人の力を借りてメデューサを倒せたのよ。もっと、感謝しなくちゃ」

「エリザの言う通りだ。私達の冒険は、これで終わりじゃない。またまだ、世の中には手強いモンスターが数多くいるんだ。その脅威から世界を救わなければならない」


一人前の策士となることが目的だった私の目標も、徐々にその目的が変化していた。

それは仲間との冒険の中で培われたものだったのだ。


「それより報酬も入ったんだし、ちょっとゆっくりしようよ。この所、戦いばかりで疲れちゃったし」

「それは良いですね。私達もまだ傷が癒えていませんし、冒険をはじめるのはまだ先で良いかと」


たんまりと金貨の入った袋を掲げるプリシアは爛々と目を輝かせる。

その横で少し苦しそうな表情をしていたルーンが患部を抑えながら提案して来た。


「わかったルーン。エリザとルーンの傷が癒えるまで冒険は中止にしよう。それまでは自由行動だ」


私の決断にプリシアとガルドは両手をあげ小躍りして喜ぶ。

まるで、久しぶりに夏休みが来た子供のようなはしゃぎよう。

それだけ冒険のストレスが溜まっていたことだろうか。


私達は宿に戻ると、それぞれの休日を満喫した。

ガルドは新しい武器の新調に武器屋へ。

エリザとプリシアは気分転換を兼ねてショッピングへ。

ルーンはひとり足し気に教会に通っていた。


「今日もルーンは教会へ出掛けるのか……ちょっと気になるな」


私はこっそりルーンの後をつけた。

ルーンが通っている教会は、はじめてルーンと出会った教会だった。

いつものお祈りかと思いきや、教会とは離れた墓地に足を運んでいた。


「だれのお参りだろう」


四角い石碑の下に花をたむけると、ルーンは両手を合わせてお祈りしている。

その目には寂し気な涙が滲んでいた。

私はルーンを驚かせないようにそっと近づくとおもむろに石碑の文字を読んだ。


「ウェルズ・クロース。ここに眠る。享年十八歳……」

「そうよ。ここはクロースのお墓。私がはじめてクロースと出会ったこの教会に埋葬したの」


寂し気で儚い眼差しを浮かべるルーンの顔には、後悔と切なさが溢れていた。

どれだけクロースのことを思っていたのかは、今のルーンを見れば一目瞭然だ。

私達が考えていてよりもルーンはひとり苦しんでいた。

その事に気づけなかった自分の愚かさを悔やんだ。


「クロースとは……」

「私達はお付き合いしていたわ。一番最初の戦いで私がモンスターにやられそうになった時、クロースは身を呈して守ってくれたの。嬉しかったわ。それまで私をそんなに大切にしてくれたのは、誰もいなかったから」


ルーンが過去の話をしてくれるのは、はじめてのことだ。


「私は孤児の生まれでね。両親はいないの。小さい頃から教会に育てられて。将来はシスターとして教会で働くつもりだったの。けれど、クロースと出会ったことでプリーストになることを誓ったわ。優しいクロースの力になりたかったから」


ルーンは少し頬を赤らませ幸せそうな顔を浮かべる。

その目は恋をするひとりの女性の瞳。

プリーストと言う職業をはぎ取ったまっさらのルーンがそこにいた。

これだけルーンに想われているクロースは幸せ者だ。

それだから故にあの時、クロースを助けられなかったことが悔やまれる。


「ルーン、私は……」

「言わなくていいわよタクト。私は、あなたを恨んでいないから。あれは仕方なかった出来事なのよ。クロースは私の中で生きているわ。だから心配しないで」


ルーンは薄っすら目を細めると遠くを見やり、溢れる涙を抑えた。

その言葉には一切の迷いもなく、すっきりと澄み渡る空の様だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ