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109「それぞれの動き」

辺りはすっかり静まり返り鈴虫の音色が響き渡る頃。

空には煌々と月明かりが照り夜の城を照らしている。

この時刻になると城の警備兵の数も少なくなる。

それを見計らって私達は脱出計画を立てた。


「誰かいるか?」

「いや、誰もいない。今がチャンスだ」


客間の扉を少し開けてガルドが廊下を確認する。

辺りには警備兵の姿はなく静まり返っていた。


「よし、行くぞ」


脱出計画は単純明快。

警備兵が少なくなる夜を待って城を抜け出す。

あらかじめ昼間のうちに馬車を用意して城の外に待機させてある。

さすがに城の庭で馬車に乗る訳にも行かない。

すぐに警備兵に見つかって捕まるのがオチだ。

狙い通り城内の警備兵は少なくなっていた。

さずがに王室の前には常駐の警備兵がいるが客間にはいない。

それが幸いして簡単に部屋を出ることが出来た。


「おい、あそこに門番がいるぞ」

「こっちはダメだな。裏口に回ろう」


私達は正面から出ることを諦めて裏口に回り込む。

裏口は茂みに隠れるようにあって正面からではよく見えない。

緊急用の隠し扉の役割を果たしているので目立たなくでも問題ないけれど。

普段は誰も裏口を使うことがないので見張りもいなかった。


「畜生、鍵がかかっているそ」

「エリザ、炎の魔法で鍵を溶かしてくれ」

「わかったわ」


エリザは鍵に手を翳すと魔力を掌に集中させる。

すると、エリザの掌の前に赤々とした炎の塊が浮かび上がった。

その炎の塊をさらに圧縮させてエネルギーを集中させる。

こうすることで炎の塊は高温になり鍵を溶かすほど熱くなるのだ。


「鍵が外れたわよ」

「さすがはエリザだ。よし、外に出るぞ」


城の外に出て馬車を待機させていた場所まで走って行く。

あいにく巡回兵が通った後だったので見つからずに馬車のところまで辿り着けた。

私達は素早く馬車に乗るとサンドリア王国へ向けて旅立つ。

サンドリア王国までは順調に行けたとしても3週間はかかる。

航路もあるのだが、そちらはグルンベルグ王国の軍艦が配備されているのでダメだ。

また、以前のように陸路でサンドリア王国に渡るしかない。

まあ、一度通ったルートだから問題はないが。

それよりもサンドリア城に着くまでにサンドリア王国が戦争を起こすかが問題だ。

戦争になれば間違いなくプリムは戦場へ派遣される。

そうなれば嫌でも聖女の力を使わなければならなくなる。

戦いすらまともにして来なかったプリムに戦争を経験させるのは酷なことだ。

自らの力で多くの兵士達が死んで行くのだからな。

その惨状を目の当たりにしたらプリムは立ち直れないかもしれない。

その前にプリムを救出しなくては。


「夜の王都は静かだな。酔っ払いがちらほらいるだけだ」

「こうして夜に旅立つことはなかったから余計に静かに感じるのよ」

「それよりも急げよ。プリム様が待っているんだからな」

「わかってる」


待っていろよプリム。

私は祈るように心の中で呟いた。





虫の知らせを受けてラクレスはタクト達がいた客間にやって来ていた。

ラクレスはこのところのタクト達の動きを把握していた。

城の外に馬車を待機させていたことも城の脱出計画を立てていたことも。

それは長年の騎士団長の経験が下地になってラクレスに注意を促していたのだ。


「やはり城を抜け出したか。行先はもちろんサンドリア王国だろう」


ラクレスは窓辺に立ち望遠鏡で王都の街を見やる。

すると、大通りを駆け抜けていく一台の馬車を目に止めた。


「フッ。今から旅立ったところでサンドリア城までは3週間。その間に戦争は起こっているだろう。さて、どうする策士タクトよ」


ラクレスはタクト達の馬車を見送るとダゼル国王の元へ向かう。

ダゼル国王は寝室で休んでいるところだった。


「ダゼル国王様。策士タクトが動きました」


ダゼル国王はベッドから起き上がりガウンを羽織る。

そして王室に入ると椅子に腰を下ろした。


「で、タクト達はどこへ向かったのだ?」

「おそらくサンドリア王国でしょう」

「聖女を救出しにか?」

「そうです」


ダゼル国王は両手を組み大きく息を吐いた。

ダゼル国王も、このことは予測していたはずだ。

しかし、タクト達が動いたとなると聖女暗殺はしにくくなる。

聖女の暗殺は魔獣討伐隊の候補生達に一任してあるが。

タクト達と鉢合せたら最悪だ。

皆殺しにされるかもしれない。

まあ、そのための候補生達ではあるが。

所詮、候補生達は捨て駒にしかないのだ。


「聖女の暗殺を急がせよ。タクト達の手に渡る前に暗殺するんだ」

「はっ!」


ラクレスは敬礼をして応える。


「それと軍艦の派遣の方はどうなっている?」

「順調に進んでおります。明後日には出航できるかと」

「そうか。ならばよい」


航路を使ってもサウスブルーに辿り着くのは2週間ほどになるだろう。

北よりのサンドリア王国を迂回するルートを選んでも南よりのヴェズベルト王国を迂回するルートを選んでも時間的には変わらない。

地理的にグルンベルグとサウスブルーは対角線上にある。

なので移動には時間がかかるのだ。

その間に戦争が終わっていることも考えられる。

しかし、それはそれで問題はない。

大事なのは仲裁のためにグルンベルグ王国が動いたと言う事実だけだ。

それを世界に示すことで発言力を増せることに繋がるのだから。

世界の主導権を握るのはグルンベルグ王国だ。


「その後のサンドリア王国の動向はどうなっている?」

「一昨日、ヴェールズを出港したようです。サウスブルーに辿り着くのは1週間後になるかと」

「それで戦力は?」

「大型艦が一隻と軍艦が8隻です」

「随分、少ないな。それでヴェズベルト王国とやり合うつもりなのか」

「聖女の力に頼っているのかもしれません」


聖女の力をもってすれば軍艦一隻は簡単に落とすことが出来る。

戦況を左右させるほどの力を有している聖女がいっしょならばサンドリア王国にも勝機はあるだろう。

しかし、それはヴェズベルト王国も承知のはず。

無闇矢鱈と進軍して来ることはしないだろう。

おそらく睨み合いが続くことになるはずだ。


「サンドリアとヴェズベルトが睨みあいになったら、どちらが有利だ」

「港に近いヴェズベルトに分がありますが、サンドリアも対策は講じているはずです」

「いずれにせよ我が軍の仲裁が必要だと言うことだな。準備は首尾よく行えよ」

「はっ!」


ラクレスは敬礼をして応えると港に足を運ぶ。

ダゼル国王の命令を伝えるためと準備をするためだ。

仲裁と言えども戦場に赴くことになる。

それなりの装備はして行かなければならない。

場合によっては戦闘になることもあるからだ。


「砲弾と食料は多めに積んでおけ!」


ラクレスは甲板の上から作業員達に指示を出す。

作業員達はランプの明かりを頼りに積荷を船に搬入する。

それそれの軍艦へ必要な荷物を選り分ける。

グルンベルグ王国の軍艦は全部で5隻。

攻撃艦が4隻と補給艦が1隻。

人員は騎士が1500名と魔術師が1000名。

戦闘になれば圧倒的に不利だが、あくまで仲裁が目的だから問題ないだろう。

もちろん、指揮をとるのはラクレスだ。

仲裁と言う重責をになえるのは第一騎士団長のラクレス以外にいない。


「これで風は我々に吹く。グルンベルグが世界の覇権を握る日も近い」


ラクレスは込み上げる喜びを胸の中で噛み締めた。





その頃、ヴェズベルト王国のシグの港にも軍艦が停泊していた。

アンナ女王の命令で港は騎士団が掌握している。

シグの街の人達も狩り出されて軍艦に荷を運んでいた。


「決戦の時は近い!作業は怠るなよ!」


エミリアが港で作業員達に気合を入れる。

ヴェズベルトの軍艦は全部で14隻。

攻撃艦が12隻に補給艦が2隻。

シグの港には全部入れないので沖合に何隻か停泊している。

兵力は全部で7000で騎士団が5000名と魔術師が2000名。

ウェズベルトの総兵力の10万に比べればわずかな兵力だが第一艦隊はそれでいい。

何せ総兵力が3万のサンドリア王国を相手にするのだ。

ただ、注意しなくてはならないことがある。

それは聖女と魔水晶を手にしていると言うことだ。

間違いなく、この戦いに投入して来るだろう。

聖女の力は他の誰よりもヴェズベルト王国がよく知っている。

だから、こそ警戒が必要なのだ。


「エミリア様。アンナ女王様がお呼びです」

「わかった。すぐに行く」


エミリアは作業員達のリーダーに指示を与えてからヴェズベルト城へ戻る。

王室にはアンナ女王が紅茶を飲みながらエミリアが来るのを待っていた。


「エミリアです」

「入りなさい」


エミリアは王室の扉を開けて敬礼をすると部屋の中に入って行く。


「エミリア。首尾はどうです?」

「着々と整いつつあります。明後日には出航できるかと」

「そうですか」


アンナ女王は机に肘を乗せて前のめりになる。


「それでマリア―ヌから連絡はありましたか?」

「マリアーヌ様はグルンベルグ城に滞在しているようです」

「ダゼル国王ね」


アンナ女王は大きな溜息を吐く。


「グルンベルグとは友好関係を築いています。ダゼル国王に働きかければ支援が得られるのでは?」

「それでは聖女のことを話すことになるわ。それでは私達に都合が悪い。まあ、でも既に情報は掴んでいるでしょうけれどね」

「グルンベルグも参戦して来ると?」

「それはないわ。ダゼル国王も、それほど愚かではないでしょう。おそらく戦争の仲裁に入って来るわ」

「戦争を仲裁して発言力を得ることでしょうか?」

「それは間違いないわ。グルンベルグはヴェズベルトに次ぐ大国だから世界の覇権を狙っている。この戦争がいい機会と考えているのでしょう」


ダゼル国王がそう言う考えだと今後の両国の関係も変わって来る。

これまでは一番の大国であるヴェズベルト王国が発言力を有していた。

自由貿易協定も平和条約も、すべてヴェズベルト王国から提案したものだ。

発言力がグルンベルグ王国に渡ったとしたら協定も条約も変わってしまうかもしれない。

そうなれば世界の流動が変わって来る。

ブレックス国王と違ってダゼル国王は経験を積んでいるから無茶な提案はして来ないだろうが。

それでも警戒することに越したことはない。

できれば今の状態のまま戦争に勝つことが出来ればいいのだが。


「グルンベルグに出し抜かれることなく戦争に勝つ方法はないのでしょうか?」

「それはないわね。サンドリアが攻めて来る以上、私達は対抗しなければならない。せめてプリムがここにいるのならば話は変わったでしょうけど」

「プリム様を救えるのはマリアーヌ様だけと言うことですか」

「マリアーヌに任せておけばやってくれるはず。今は報せを待ちましょう」


アンナ女王は思ったよりも落ち着いている。

プリム様を奪われた時は酷く狼狽していたが。

さすがはヴェズベルト王国を統治する女王だ。

窮地に追いやられてもすぐに冷静さを取り戻す。

女王の座に就いてから幾度の難局を乗り越えて来た経験が背景にあるからだろう。

エミリアは心の底からアンナ女王に仕えていることを喜んだ。





その翌日、マリア―ヌが飛ばした伝書鳩がエミリアの元へやって来た。

足にはマリア―ヌからの手紙が括り付けられてある。

エミリアは手紙を外して中を確かめた。


手紙にはこう記されていた。

”グルンベルグ城を経つ。

プリム様はサンドリア王国に囚われているもよう。

サンドリア王国に乗り込みプリム様を救出する”


「マリア―ヌ様らしい行動ね。マリアーヌ様に任せておけばプリム様は大丈夫でしょう。少し安心したわ」


エミリアは返事の手紙をつけて伝書鳩を空に放つ。

伝書鳩は空で一回りするとサンドリア王国の方向へ飛んで行った。


「マリア―ヌから返事が届いたのね」

「アンナ女王様」

「それで手紙にはなんと?」


エミリアはマリア―ヌからの手紙をアンナ女王に渡す。

アンナ女王は手紙を読みながらコクリと頷く。

そして、


「マリアーヌがいれば安心ね。マリア―ヌ達が動きやすいように手配しなさい」


そう命令して来た。

アンナ女王の手配と言うのはサンドリア王国の注意を惹きつけることだ。

過激派のように表立って街を襲撃するのではなく、偽の情報を流して混乱させる。

街が混乱すればサンドリア王国も鎮圧に動かざるを得ない。

そうすれば幾分かサンドリア城の警備は薄くなる。

そしてマリア―ヌ達が城内に侵入しやすい環境を整えるのだ。

この方法は戦争を起こすよりも難しい。

何せ偽の情報をサンドリアの民衆に信じさせなければならないのだ。

突拍子もない情報だと民衆は信じない。

だから、現実味がある情報を創り上げる必要があるのだ。

一番いいのはブレックス国王の退任情報あたりか。

戦争の敗戦を受けて責任をとるかたちで国王の座を退く。

ブレックス政権に虐げられてきて民衆は大手を振って喜ぶはずだ。


「この戦争には勝利しなければなりません。エミリア、指揮は任せましたよ」

「はっ!アンナ女王様の仰せのままに」


エミリアはアンナ女王に忠誠を示すと城を後にした。

4日後の出港に向けて着々と準備をはじめる。

エミリアにとって、これが初陣になる。

戦術は嫌と言うほど騎士団で習って来た。

後は、それを実行に移すだけだ。

アンナ女王は勝利以外は認めないだろう。

それはプリム様救出が背景にあるからだ。

マリア―ヌ様のためにもサンドリア軍を打ち破る。

エミリアは改めて心に決めた。


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