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105「再会」

グルンベルグ城の門番にメダルを見せると、すぐに第一騎士団長のラクレス・グランフォードがやって来た。

肩まであるさらさらとした金髪に端正な顔立ち。

第一騎士団長を務める割りにはまだ26歳と若い。


「私はグルンベルグ王国の第一騎士団長ラクレスだ。お前が策士のタクトだな」

「そうだ」

「ダゼル国王がお待ちだ」


私達はラクレスに連れられて玉座の間へと向かう。

城の中は以前、来た時よりも騒がしい。

騎士達が急ぎ足で廊下を行き交っている。


「何かあるのか?」

「集まった魔獣討伐隊の候補生を訓練するための準備だ」

「へぇ~。騎士団もいろいろと仕事があるんだな」


ガルドは関心しながら辺りをキョロキョロと見まわしている。

騎士団の主な仕事は城の防衛と魔物討伐。

ヴェズベルト王国のように諜報活動にも携わる。

有事でなければほとんどの騎士団は城の防衛が多い。


騎士団は第一から第三に分かれている。

第一騎士団は城の防衛から魔物討伐、諜報活動の主要な部分を幅広くこなしている。

第二騎士団は魔物討伐がメインで、第三騎士団は諜報活動をこなす。

騎士団の他に宮廷魔導士団も編制されている。

宮廷魔導士団も第一から第三に分かれていて主に城の防衛と魔物討伐の任務に就いている。


「寄せ集めの部隊のままでは役に立たないからな」


騎士団と冒険者では全く戦い方が違う。

冒険者は自分達の経験から戦いをこなすが、騎士団は騎士団長の命令で動く。

騎士団にとって統制力が何より重要だ。

それがわからない冒険者は自分勝手な行動をとる。

勝ちに急ぎ過ぎて部隊の指揮を乱すのだ。

そんな候補生達を一から訓練するなんてダゼル国王の覚悟が見られる。

まあ、それだけ追い詰められていると言うことだな。


「それでどれくらい集まったんだ?」

「100名ほどだ」

「それは少ないな」

「みんな自分の命がおしいのだろう」


グルンべルグ王国は8万の兵力を誇る。

ヴェズベルト王国の10万に次いぐ兵力だ。

その内の3分の2にあたる5万が騎士。

残りの3分の1にあたる3万が宮廷魔術士だ。

それに比べて100名の冒険者は部隊を編制するには少なすぎる。

部隊を編制するなら最低でも1000名は必要だ。

ラクレスの言う通り金だけでは志願者を募れないのだろう。

名誉や栄誉を与えても集まるかどうか不透明だ。

ラクレスからいろいろ話を聞いているうちに玉座の間に着いた。

ラクレスは扉の前で敬礼をすると、ダゼル国王の元へ歩み寄る。

そして玉座の前で跪くと告げた。


「ダゼル国王様。策士タクトが戻りました」

「左様か。通せ」


私達は玉座の前に歩み寄ると跪いて敬意を払う。


「ダゼル国王様。お久しぶりでございます。ただいま戻りました」

「うむ。それで目的は果たせたのか?」

「サンドリア王国、ヴェズベルト王国、アルタイル王国と巡って来ました。その中で戦いの経験を積み戦力を上げました。旅立ちの時に比べたら随分と戦力を向上させられたと思います」


私の言葉に満足そうな笑みを浮かべてダゼル国王は頷く。


「では、魔獣討伐隊を率いて魔獣キマイラの討伐にあたってもらいたい。魔獣キマイラはまだ沈黙を保っているが、いつ動き出すかわからない。魔獣キマイラが動き出す前に討伐するのだ」

「いえ、ダゼル国王様。今は、まだ時期尚早かと思います。私達は強くなりましたが、魔獣と渡り合えるほど強くなったとは思っていません。それに今は他にやることがございます」


私は後ろを振り返りマリア―ヌを見やる。

マリア―ヌは覚悟を決めたようにじっとダゼル国王を見つめる。

聖女のことをダゼル国王に話したらマリアーヌは敵に回るかもしれないと言っていた。

しかし、プリムの行方を掴むにはダゼル国王の支援が必要だ。

私達だけでは力不足。

時間がかかればそれだけプリムが遠ざかる。

果たして聖女のことを聞いてダゼル国王がどんな反応をするかが一番の問題だが。


「他にやることとは何だ?」

「私達は今、人探しをしています」

「人探し?」


ダゼル国王はいぶかし気な顔で私を見やる。


「名をプリムと言います。その者は聖女の力を持った人物です。若干、15歳とまだ幼いですが魔力は本物です」

「ヴェズベルト王国より奪われたと言うことか?」

「魔水晶といっしょにカイザルと言う男の手によって奪われました」


ダゼル国王は顎に手をあててしばし考え込む。


「カイザルと言う男は拘束されヴェズベルトに引き渡されましたが、既に聖女と魔水晶は他の者の手に渡っており行方知れずです。プリムは私達の仲間です。だから私達の手で救い出したいのです」


ダゼル国王は黙ったまま私達を見やる。

そして、


「話はわかった。私が力を貸そう」

「本当ですか、ダゼル国王様」

「ヴェズベルト王国とは友好関係を築いているからな。我がグルンべルグ王国は協力を惜しまない」


すると、マリア―ヌがおもむろに立ち上がってダゼル国王に尋ねた。


「それはヴェズベルト王国に貸しを作ると言うことでしょうか?」

「勝手に発言をするな!」


ラクレスがマリア―ヌの肩を掴み跪かせようとする。


「まあよい。それでそなたは?」

「私は元ヴェズベルト王国、第一騎士団長マリア―ヌ・クレスフォーン」

「元とはどう言うことか」

「除隊して今はタクト達と冒険を続けています」


ダゼル国王は関心しながら大きく頷く。


「なるほど。アンナ女王は、そなたに聖女の救出を一命したのだな」


マリア―ヌはじっとダゼル国王を見つめる。

その視線を見つめ返しながらダゼル国王が告げた。


「曇りなき良い目をしている。覚悟を決めた者の目だ。私の返答次第では敵に回ろうとしていたのだろう」


マリア―ヌが剣に手をあてると、ラクレスも剣に手をかけて構える。

一触触発の緊迫した空気に包まれる。

マリア―ヌ、早まるな。

ここでダゼル国王を打っても何もならないぞ。

マリア―ヌは捕まり処刑される運命が待っているだけだ。

今は堪えろ。

私は心の中で叫んだ。

すると、ダゼル国王がおもむろに立ち上がり告げた。


「聖女の存在は我が国でも脅威となることに違いはない。ヴェズベルト王国が何の目的で再び聖女を祀り立てようとしているのは知れないが。しかし、世界のパワーバランスが崩れれば、再び戦争が起こる。そうなっては我が国も知らぬ顔をしていられない。これは一国の問題ではなく世界の問題なのだ」

「ヴェズベルト王国が聖女を祀り立てたら敵に回ると言うことか」

「場合によってはあるかもしれない。だが、今は人間同士で争っている場合ではない。魔獣が目覚めたのだ。今はまだ魔獣キマイラしか目覚めていないが、いずれ他の魔獣も目覚めるだろう。そうなってからでは遅いのだ。聖戦は避けなければならない」

「ダゼル国王の意志はわかった」


マリア―ヌは納得したのか跪いて敬意を払う。

さっきまでの緊張感がなくなりホッとため息をこぼす。

ラクレスも剣から手を離し跪いてダゼル国王に敬意を払っていた。


「それでどんな支援が欲しいのだ?」

「プリムはまだグラハムにいるかもしれません。国境での検問と各街の情報収集をお願いしたいです」

「左様か。わかった。すぐに手配させよう」


ダゼル国王は手を上げてラクレスに合図をするとラクレスは急いで玉座の間を後にする。


「情報が集まるまでには時間がかかる。それまで城でゆっくりして行ってくれ」

「そうさせてもらいます」


私達は立ち上がると玉座の間を後にする。

その背中をダゼル国王は難しい顔で眺めていた。





ダゼル国王は応接室の机に座りひとり考え込んでいた。

タクト達の手前、全面協力を約束したが心中は穏やかでない。

ヴェズベルト王国が再び聖女を祀り立てれば間違いなく戦争が起こる。

仕掛けて来るのはサンドリア王国。

アルタイル王国は自国の問題でそれどころではないからな。

戦争が起こればグルンベルグ王国もただではいられない。

戦火は飛び火しないだろうが鎮圧のため兵を派遣しなければならない。

そうなれば魔獣討伐隊の戦力が削がれてしまう。

ただでさえ厄介な魔獣を相手にするのにだ。

もし、魔獣が動き出したらグルンベルグ王国は壊滅してしまう。

それだけは絶対に避けなければならない。


「アンナ女王も困った問題を投げかけて来たものだ」


ダゼル国王が大きなため息を吐くと応接室の扉がノックされた。


「第一騎士団のラクレスです」

「入れ」


ラクレスは扉を開けて机の前まで来る。


「手配の方は済みました。2、3日もすれば情報が集まるでしょう」

「そうか。ラクレスはどう思う?」

「どう思うとは?」

「聖女のことだ」

「ヴェズベルト王国が聖女を手にしたら戦争が起こるでしょう。ヴェズベルトの狙いは間違いなく軍事力の強化でしょうから」

「お前も私と同じ見方だな」


ダゼル国王は両手を組んで難しい顔を浮かべる。

聖女を無事に救出したとしてもアンナ女王に引き渡すのは憚れる。

それは戦争の発起になりかねないからだ。

かと言ってグルンベルグ王国が聖女を囲っていればアンナ女王から非難を受けかねない。

グルンベルグ王国が軍事力を強化させるために聖女を奪ったと思われる。

それが事実でなくとも、公にはそう思われるのがオチだ。

友好関係にもヒビが入るだろう。

そればかりではない。

ヴェズベルト王国が侵攻して来るかもしれない。

聖女を取り戻すための大義名分があれば簡単に戦争は起こせるのだ。


「いかがしたものか」


ダゼル国王はますます難しい顔をして考え込む。

すると、ラクレスが冷ややかな目を浮かべながら言って来た。


「聖女を亡くなったことにすればいいのではないでしょうか」

「殺すと言うことか?」

「聖女がいなくなれば戦争を回避できます」


ラクレスの言う通り聖女が亡くなれば問題は解決できる。

聖女がいなくなればヴェズベルト王国も引き下がらざるをえない。

軍事力の強化もできなくなるし戦争は避けられるし一石二鳥だ。

暗殺部隊を派遣して暗殺すれば済む。

それにはタクト達よりも先に聖女を見つけることが必要だ。

タクト達にはしばらくこの城にとどまってもらおう。


「ラクレス。集まった情報は先に私に知らせよ」

「はっ」


これで全ての問題は解決できる。

ダゼル国王は強かに笑った。





私達は城の客間に通されて寛いでいた。

城の客間だけあって豪華な家具が備え付けられている。

デーブルに置かれたお茶セットも金の装飾が施されている。


「それにしてもマリア―ヌが剣に手をかけた時はヒヤッとしたぞ」

「私も。あのラクレスって騎士も睨んでいたしね」

「私は国王の命を奪うほど愚かではない」


マリア―ヌは澄ました顔でさらりと言った。


「でも、ダゼル国王の支援を得られたことはよかったな。これでプリムの情報は集まる」

「プリム様が、この国いればの話だがな」


その指摘は否めない。

グルンベルグ王国に入国してから14日程経つ。

その間に出国でもしていたら手がかりが掴めない。

そうでないことを今は祈るだけだ。


「マリアーヌはプリムがグルンベルグにいないと思っているの?」

「そう見るのが妥当だろう。なんて言ったってプリム様は誰かに連れ去られて逃亡しているのだからな」


確かに。

逃亡者がグルンベルグ王国にとどまってうろついていることは考えにくい。

捕まるまいと仲間のいる所へ向けて急ぐはずだ。

マリア―ヌはプリムがサンドリア王国に渡ったと考えているのだろうか。

だとしたら黒幕はブレックス国王だと思っているはずだ。

私も同じ考えだ。

ヴェズベルト王国と対立しているサンドリア王国ならヴェズベルト王国が軍事力を強化させることを嫌うはずだ。

その前に聖女と魔水晶を奪って自分達の軍事力に組み込む方がいい。

おそらくブレックス国王はそう判断したのだろう。

力に固執するブレックス国王が考えそうなことだ。


「なら、プリムは今どこにいるんだ?」

「サンドリア王国だ」


マリア―ヌが答えるとガルド達はお互いの顔を見合わせた。


「サンドリア王国に渡っていたら、いくらダゼル国王と言えども手は出せないだろう。そんなことをしたら内政干渉として取られて外交問題に発展しかねない」

「なら、どうするんだよ。プリムを諦めるつもりか?」

「もちろん私達で救出するんだ」


冒険者の私達なら簡単にサンドリア王国へ入国できる。

アルタイル王国より検問は厳しくないから大丈夫だろう。

それよりもサンドリア城からプリムを救出する方が問題だ。

警備はもちろん厳しいだろうが、それはサンドリア王国に牙を向けると言うこと。

私達は重罪を犯すことになる。

捕まれば間違いなく処刑だ。


「サンドリア城に侵入するのか?」

「それはあくまでプリムがサンドリア城にいることがわかってからだ。今はプリムの情報が集まるのを待とう」

「私はいつでも覚悟が出来ているがな」


マリア―ヌは冷ややかな目で私を見やる。

その言葉に嘘はないだろう。

プリムを救出できなければブレックス国王と刺し違えるつもりのようだ。

マリア―ヌのように忠実な部下はアンナ女王にとって強みだろう。

どこまで行っても裏切らない自信を持てる。

それは国政を担う者にとって、この上の無い力だ。


しかし、カイザルが言っていたあの男とは誰だろう。

私の知っている男と言っていた。

ブレックス国王はあくまで黒幕だ。

ブレックス国王の命令に従う人物と言うことになる。

サンドリア王国の騎士と言う線が濃厚だが。

私はサンドリア王国の騎士に知り合いはいない。

ならば誰だ。


「また、タクトったらひとりで難しい顔してる」

「考えごとだよ」

「それより一息ついたら。せっかく美味しいお茶があるんだし」


エリザ達は侍女達が用意した紅茶と茶菓子をつまんでいる。

その横でガルドは酒を探しながら戸棚を物色していた。


「お前らはお気楽だな」

「ここで焦っていてもしかたないじゃない。今は情報が集まるのを待つのが正解よ」

「そうですわ。皆さんが頑張ってくださっているのですから。きっとプリムさんの情報が集まりますわ」


呆れ顔で言うマリア―ヌにエリザとルーンは、紅茶を飲みながら言い返した。

私はプリシアに薦められるまま紅茶を一口飲む。

爽やかな味わいで深みがある。

ハーブを使っているのだろうか。


「どう?美味しいでしょ?」

「ああ、美味しいよ」

「マリアーヌも、そんなところで突っ立ってないで飲んだら?」

「私はいい」


マリア―ヌはサンドリア王国の方角を眺めていた。

どこまで行っても騎士であることを捨てないマリア―ヌには見上げたものだ。

しかし、一息つくことくらいしないといずれ行き詰ってしまう。

私はそんなことを考えながら午後のお茶を楽しんだ。


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