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104「最初の街」

久しぶりのニーズの街は以前と変わらず私達を迎えてくれる。

石造りで出来た門にいくつものレンガを組み上げて造った街並み。

街を取り囲むように流れている小川はお堀の役割を果たしている。

常に循環されていて夜になれば蛍が出るほど綺麗な水だ。

はじめてこの街に来た時は気づかなかったことも今ではよくわかる。


「懐かしいな」

「故郷に帰って来たみたいですね」

「俺は帰って来たぞー!」


ガルドは人目も憚らず両手を上げて叫ぶ。

それを受けて街の人達がこちらをチラチラと見はじめた。


「ガルド、ちょっと止めてよ。恥かしいじゃない」

「何を恥ずかしがることがあるんだ。俺達は帰って来たんだぞ」


ガルドに何を言っても無駄だろう。

既に故郷に帰って来た余韻に浸っているのだから。

それにしても街の人達の目が気になる。

声は潜めているが口々にヒソヒソ話をしている。

私達がそんなに珍しいのか。

それとも大声で叫んでいるガルドに驚いたのか。

すると、小さな女の子がガルドの所へやって来た。


「ねぇ、おじちゃんて勇者?」

「おいおい。24歳の青年を捕まえておじちゃんはないだろう」


小さな女の子はきょとんとした顔でガルドを見やる。


「おじちゃんは勇者じゃないの?」

「もちろん勇者だ。それもとびっきりのな」


ガルドは膝を折ると小さな女の子の頭を撫でてやる。

小さな女の子は頬を赤らめながら照れ笑いをした。


「ガルドもモテるじゃん」

「モテるってな。こう言うことを言うんじゃないんだ」

「照れるな、照れるな」

「誰も照れてなんかいない」


エリザの言葉にガルドは否定していたがまんざらでもない様子だった。

これでガルドも私の仲間入りだな。

モテは小さな女の子を大事にするいことからはじまるものだ。

すると、小さな女の子の母親が駆け寄って来た。


「すみません。この子が変なことを言っちゃって。ほら、行くわよ」

「勇者のおじちゃん、バイバイ」


小さな女の子は母親に手を引かれながら街の中へ消えて行った。


「勇者のおじちゃんだって。クスクス」

「何だよエリザ。その笑いは?」

「別に何でもないわよ」


ガルドは照れながら小さな女の子が見えなくなるまで手を振っていた。





私達はその足でギルドへ向かった。

もちろん情報収集と報酬を頂くためだ。


「ゴブリンロード100体にサーベルタイガー80体ですって!それは間違いないのでしょうね?」

「俺達が嘘を言っているって言いたいのか?」

「そうではありません。ゴブリンロードもサーベルタイガーもここ最近出没するようになったモンスターですから」


ガルドが凄むと受付嬢は慌てて説明をして来る。

周りにいた他の冒険者達にも聞こえたようで驚きの声を上げていた。


「それでいくらになるんだ?」

「ゴブリンロード1体につき1万ゴールドですから100万ゴールドです。それとサーベルタイガー1体につき3万ゴールドですから240万ゴールド。しめて340万ゴールドになります」

「まあまあだな」


報酬金の金額を聞いて他の冒険者はさらに驚きの声を上げる。

それも仕方ない。

普通の冒険者は自分達が狩れるモンスター分だけ狩って、残りは逃がすことが多い。

だから、得られる報酬もそこそこの値段なのだ。

私達のように全てのモンスターを狩るのは珍しいことなのだ。

まあ、戦術でもなければ全てのモンスターを討伐できることは出来ないのだが。


「とりあえず50万ゴールドをもらっておくよ」


私は受付嬢から50万ゴールを受け取ると懐に仕舞う。

そして掲示板の所へ行って依頼に目を通した。

相変らずモンスター討伐の依頼が多かったが、その中に魔獣討伐隊の募集広告があった。


「魔獣討伐隊の募集だってよ」

「ダゼル国王も本腰を入れてきたよだな」

「しかし、いっかいの冒険者達で魔獣討伐隊が務まるものなの?」

「おそらく腕の確かな者達を集めて訓練をさせるのだろう。ヴェズベルト王国でも騎士団を募集する時にそうしていた」


なるほどな。

だからヴェズベルト王国は10万の兵がいるのだろう。

そのほとんどが女性で占められていることも凄いことなのだが。

大抵、騎士団は男性で構成される。

女性に比べて筋力でも体力でも勝る男性が重宝されるからだ。

しかし、ヴェズベルト王国では騎士団は女性ばかりだ。

女性のしなやかさや柔軟な考え方を尊重しているのだと言う。

一対一で戦えば男性の騎士が有利だが、集団になれば女性の騎士達の方が力を発揮する。

そこにアンナ女王は目をつけたのだ。

すると、話を聞いていた冒険者が声をかけて来た。


「あなた達はもしかしてサミトスの街を救った勇者様ですか?」

「勇者ではないがサミトスの街を救ったことはある」

「やっぱり!街で噂になっていたんですよ。勇者様が来たって。これでニーズの街も安泰だ」


冒険者は神でも崇めるかのように両手を合わせて感謝を示す。

以前とは全然違った対応だな。

弱小冒険者と馬鹿にされていたのだけど今では勇者扱いだ。

まあ、悪い気はしないが心地が悪い。


「私達は勇者でもなんでもないよ。それよりニーズの街が安泰ってのはどう言うことだい?」

「最近、モンスター達が街を襲撃するようになったんですよ。街を襲って破壊して。以前は行商人を襲うぐらいだったのに」


冒険者は大きな溜息をついてがっくり肩を落とした。

サミトスの街を襲撃した暴れ猿は魔獣キマイラの影響を受けていた。

魔獣キマイラに生息地を追われて下界まで逃げて来た。

そしてサミトスの街を襲撃して食料を得ていたのだ。

これも魔獣キマイラの影響なのかもしれない。

魔獣キマイラの力に触発されてモンスターが凶暴化しているとしたら。

ゴブリンロードやサーベルタイガーも同じなのだろう。

このままほっておいたら強力なモンスターが出現するようになる。


「全ては魔獣のせいだ。魔獣を討伐しなければはじまらない」

「あなた達も魔獣討伐隊に入隊するのですか?」

「いずれは、そう言うことになるだろう」


しかし、今優先しなければならないのはプリムのこと。

聖女と魔水晶の問題が解決しなければおちおち魔獣とも戦っていられない。

まずはグルンベルグ王都へ向かってダゼル国王に報告だ。


「とりあえず金も入ったんだし酒場でいっぱいやろうぜ」

「そうだな。酒場で作戦会議だ」


私達はギルドを後にすると酒場へ向かった。





「マスター、久しぶり」

「お前さんはあの時の策士」

「覚えてくれていたのかい」

「忘れる訳ないだろ。策士なんて滅多に出会えるものじゃないからな」


私はカウンターに腰を下ろしてマスターに酒を頼む。


「で、今までどこへ行っていたんだい?」


私は酒を飲みながら掻い摘んで、これまでのことをマスターに話した。

サンドリア王国へ行ったこと。

ヴェズベルト王国へ渡ったこと。

アルタイル王国からやって来たこと。

マスターはうんうん頷きながら話を聞いていた。


「と言うことはだ。隣にいる人達はあの弱小冒険者達なのかい?」

「そうだ。俺達が弱小冒険者だ」

「随分、見違えたね。全然気がつかなかったよ」

「まあな。俺達も何度も修羅場をくぐって来たからな」


ガルドの言う通り、これまでの戦いでガルド達は成長した。

それは経験だけでなく見た目も。

ガルドなんかは肉付きがよくなってさらに磨きがかかっている。

今のガルドを見れば誰も悪口なんて叩くものもいないだろう。


「ん?そちらの騎士さんははじめましてだよな」

「こちらはマリア―ヌ。元ヴェズベルト王国の第一騎士団長だ」

「ヴェズベルト王国だって!」


マスターはグラスを落としてマリア―ヌをじっくり見やる。


「私の顔に何かついているか?」

「いいや。すまない。ヴェズベルト王国っていったら女騎士団が有名だ。それの第一騎士団長なんてエリート中のエリートだから」


マスターが驚くのも無理はない。

ヴェズベルト王国の第一騎士団長が冒険者をやっているなんて誰も思わないからだ。

まあ、マリア―ヌの場合はアンナ女王の命を受けて冒険者に成り下がっているのだが。

アンナ女王は私達に隠しているが、それは全てわかっていることだ。

その上で私達は一緒に冒険を続けている。

マリア―ヌがヴェズベルト王国に戻ればまた、第一騎士団長に戻るだろう。


「これならば魔獣討伐も夢じゃないな」

「まだまださ。それよりダゼル国王は本腰を入れているようだな」

「最近、モンスターが凶暴化しているからな。集められた冒険者達は訓練目的で各地に配置されているよ。この街にも何名か送られて来ている。あそこで酒を飲んでいる連中がそうさ」


マスターが指を指したテーブルを見やると冒険者達が酒を飲んでいた。

見た感じは冒険者と言うよりも荒れ暮れ者に近い。

魔獣討伐隊の報酬目当てで入隊したのだろう。


「おい、マスター。酒を持って来い!」

「俺様達は魔獣討伐隊だぞ!」

「お前達の街を救ってやるんだ。ありがたく思え!」


冒険者達はテーブルに足を乗せながら暴言を吐く。

仕方なくマスターが酒瓶を運ぼうとすると、ガルドがマスターを止めた。


「俺に任せておけ」


ガルドは酒瓶を持ってテーブルに近づいて行く。

そして、酒瓶をテーブルに叩きつけて言った。


「お前達が魔獣討伐隊だと?ふざけるな。お前達のような輩にモンスターが倒せるものか!」

「何だお前。俺達に喧嘩を売っているのか?」

「売っているんだよ!」


ガルドは冒険者の胸ぐらを掴みあげる。


「離せ、この野郎」


冒険者は天井近くまで持ち上げられてヒイヒイ言っている。

ジタバタ手足を振りながら必死に抵抗していた。

これでは喧嘩をするまでもない。

ガルドの勝ちは見えている。

いっしょに酒を飲んでいた他の冒険者達も腰を抜かしてビビッていた。

ガルドはおもむろに冒険者を降ろして言った。


「行け!」


冒険者達は慌てて店の外に逃げ出して行く。

財布も忘れるくらいの慌てようだ。

ガルドは財布を手に取ると酒代を抜いて外に放り投げた。


「助かったよ」

「こんなの当然のことだ」

「最近、ああいう連中が多くて困っていたんだ」

「このことはダゼル国王に報告しておくのがいいな」

「そうしてもらえると助かるよ」


いくら魔獣討伐隊を欲しがっているからと言って腕の無い無法者を集めてもダメだ。

統制がとれないばかりか、いざという時に逃げられる。

報酬金目当ての冒険者達を弾くような仕組みが必要だ。

一旦、魔獣討伐隊に入隊させてからモンスター討伐に狩り出す。

そこで実力を図って振るいにかける。

それだけでなく魔獣討伐隊としての意識も大事だ。

あいつ等のように素行が悪い者は否応なく弾く。

そうしなければ魔獣討伐隊が出来ても国民の理解は得られないだろう。

国民は魔獣の討伐を願っているが、同時に部隊の活躍も期待している。

勇者と称えられるくらいの振る舞いをしなければ意味がないのだ。


「今日は俺のおごりだ。たらふく飲んで行ってくれ」

「それじゃあお言葉に甘えて」


私達はマスターが薦めて来た酒を煽る。

それはニーズの街でも一番のうまい酒だった。


「それでタクト。グルンベルグ王国に行ったらプリム様のことを報告するつもりか?」

「ダゼル国王の力を借りるには、全てを話さなければならない」

「そうすればヴェズベルト王国とグルンベルグ王国の関係にヒビが入るぞ」


マリア―ヌの言いたいことはよくわかる。

聖女の問題はダゼル国王には伏せておきたい事柄だ。

アンナ女王は聖女を使って軍事力を強化させようとしているのだから。

グルンベルグ王国とは隣接していないけれど、世界のパワーバランスが崩れる。

ただでさえ10万の兵力を持っているヴェズベルト王国がさらに力を着けたとなれば。

アルタイル王国もサンドリア王国も黙っていないだろう。

サンドリア王国はすぐさま兵を出し戦争を起こすかもしれない。

そうなれば魔獣討伐なんてところではなくなる。


「それでもダゼル国王には伝えなければならない」

「タクトの意志は変わらないようだな」


マリア―ヌは苦い顔をしながら酒を煽った。

そして、グラスを掲げながら、


「ダゼル国王の動きしだいでは私は敵になることもある」


軽い脅しをかけて来た。

私は俯いたまましばし考えに更け込む。

マリア―ヌの目を見ても冗談でないことがわかる。

心の底から覚悟を決めている目だった。

私はグラスの氷を転がしながら、


「そうなったら私がマリア―ヌを打つ」


はっきりと断言した。

マリア―ヌは無言のまま酒を煽った。


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