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102「公開処刑」

ヴェズベルト王国の玉座の間にて。

アンナ女王は玉座に座り床に伏せているカイザルに問いかける。


「プリムはどこへ連れて行ったのですか?」

「俺がただで喋ると思っているのか」


エミリアはカイザルの首根っこを掴み床に押し付ける。


「女王様の前だ。無礼な言動は慎め」

「けっ、気の強い女だ。女ってのはな慎ましくしている方がモテるんだぜ」

「こいつ!」


アンナ女王は右手を小さく上げてエミリアに合図をする。

エミリアは手の力を緩めてカイザルの顔を上げた。


「正直に話してくれたらあなたを解放しましょう」

「じょ、女王様!」

「いいのです。私は何よりもプリムが戻ってくれればいいのですから」


この男は根っからの悪党のようだから脅しは効かないだろう。

それよりも飴を差し出して口を割らせる方が得策だとアンナ女王は考えていた。

まあ、アンナ女王がカイザルを解放したとしても、安全に国外に出られる保証はないのだが。


「けっ。そんな話、誰が信じるかよ。俺を解放したとたん首を切り落とすつもりだろう。その女ならやりそうだ」


カイザルはエミリアを睨んで言葉を吐き捨てた。


「そんなことはさせませんわ」

「権力者が約束を守ることなんてないんだよ。俺は話さないからな」

「なら、一生牢獄で暮らせ!」


エミリアは騎士達に合図をするとカイザルを牢獄へ連れて行かせる。

カイザルは頻りに喚いていたが、その言葉はアンナ女王には届かなかった。


「これでは話になりませんわね」


アンナ女王は大きな溜息を吐く。

せっかくマクミニエル国王にまで頭を下げてカイザルを引き渡してもらったのに。

何も情報が得られないのではやり切れない。

マクミニエル国王に借りを造っただけになってしまう。

どうにかカイザルの口を割らせる方法がないものか。

アンナ女王はエミリアに視線を送る。


「やはり拷問をしましょう。あの男にはそれくらいやらないとダメです」

「そのようですね。プリムの命がかかっているのです。すぐに拷問の準備をしなさい」

「はっ!」


カイザルの太ももの傷を見ればアルタイル王国で拷問されたことがわかる。

おそらくカイザルは全てを話しただろう。

そうなれば既にマクミニエル国王には聖女のことが知られていると見た方がいい。

身柄引き渡しに法外な金銭を要求して来たのも、そのことがあったからだろう。

だからと言ってアルタイル王国が表立って行動することはない。

今は過激派の鎮圧で手いっぱいだから、それどころではないのだ。

マクミニエル国王はとりあえず放っておいても問題ない。

それよりも問題なのはカイザルがプリムを引き渡した相手だ。

騎士達に諜報活動をさせているが一向に情報が集まらない。

どこかの国から派遣された人物でないとすると盗賊の類だろうか。

しかし、いっかいの盗賊が聖女を奪ったところで何が出来ると言うのか。

聖女をどこかの国へ売り渡すつもりなのか。


「女王様。拷問の準備が整いました」

「行きましょう」


アンナ女王はエミリアと一緒に拷問室へ向かった。





カイザルは拷問部屋で手足を縛られて磔にされている。

丸い回転する台に張り付けられて身動きが取れない。

この回転台を回すとカイザルが一回転して水の中に顔が埋まる仕組み。

簡単な拷問器具のひとつだ。


「俺を張りつけやがって。お前達後で覚えていろよ。全員犯して嬲りものにしてやる」

「やれ!」


エミリアが騎士達に指示を出すと騎士達は回転台を回す。

カイザルの頭は水に浸かり水中でもがき暴れる。


「ハァハァハァ。畜生。好き勝手やりやがって」

「話す気になったか?」

「誰が話すかよ」

「やれ!」


騎士達は回転台を回してカイザルを溺れさせる。

カイザルは激しく暴れながら必死にこらえていた。


「ハァハァハァ」

「どうだ?話す気になったか?」

「誰が」

「やれ!」


再びカイザルは水の中で溺れさせられる。

たまらす水を飲み込んでしまい激しく咳き込む。


「ゴホッ。グググ。ゲホゲホゲホ」

「もう止めなさい」


拷問の様子を見ていたアンナ女王が拷問を止めさせる。

この程度の水責めでは効果がないようね。

もっと苦しみを味わうような方法でないと効果がないかも。

アンナ女王はナイフを取り出すとカイザルの右腕を目掛けて突き刺した。


「うゎっ!ち、畜生。何をしやがる!」


カイザルの右腕から血が溢れ出す。

アンナ女王はカイザルを冷ややかに見やりながら問いかける。


「話す気になりましたか?」

「うっ、うっ。誰が話すかよ」


すると今度はカイザルの左腕にナイフを突き立てる。


「うゎぁぁっ!」


拷問室にカイザルの乾いた悲鳴が鳴り響く。


「気が変わりましたか?」

「こ、この。冷酷な魔女め。ロクな死に方はしないぞ」


そんなこと女王に君臨した時から覚悟していたことだ。

女王の座に就いてからは政権を安定させるため、ありとあらゆることに手を染めて来た。

それは人には話せない汚いことも全て。

そうでもしなければ女性が王位の座に君臨することはできないのだ。

男性優位の、この世界では多くの女性が虐げられている。

アンナ女王は、その世界の仕組みを変えるために女性を大臣に起用しはじめた。

それはヴェズベルト王国にとって画期的なことだった。

女性の大臣は国民達からの指示を勝ちとり今の体制が出来上がったのだ。

騎士を招集すれば多くの女性たちが名乗りを上げて騎士団になってくれた。

おかげでヴェズベルト王国の軍事力は10万にまで膨れ上がった。


「あなたは女性を下蔑し過ぎているわ。だから盗賊でしかないのよ」

「女は男の言うことだけ聞いていればいいんだよ」

「残念な人ね」


アンナ女王はカイザルの腕に刺したナイフをぐりぐりと動かす。

その度にカイザルの乾いた悲鳴が拷問室に鳴り響いた。


「ハァハァハァ。ち、畜生」

「素直に話せば楽になれるわよ」

「だ、誰が」


アンナ女王は大きなため息を吐いてエミリアを見やる。

すると、エミリアが奥の部屋から赤く焼けた鉄の棒を持って来た。

アンナ女王は焼けた鉄の棒を受け取るとカイザルの顔に近づける。


「お、おい。何をするつもりだ?」

「あなたには罰が必要のようね」


アンナ女王は焼けた鉄の棒の先をカイザルの右目に近づける。

鉄の棒の先端は赤くオレンジ色に焼けて白い煙を上げている。

余熱がカイザルの顔を刺激する。


「お、おい。止めてくれ。話すから、目は止めてくれ!」

「もう、遅いわ」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


拷問室にカイザルの悲痛な乾いた声が鳴り響く。

それは拷問室を越えて城の中まで響き渡るくらいだった。

横にいた騎士達は目を塞ぎ顔を背けていた。


「話す気になりましたか?」

「は、話す。だから解放してくれ」

「いいでしょう。話しなさい」


カイザルの目の前に立っている女王は血も涙もない冷酷な魔女だった。

カイザルは酷く怯えて震えた声で伝えた来た。


「プリムと魔水晶はアラジンと言う男に引き渡した」

「アラジン?」

「俺が知っているのはそれだけだ」


アラジンと言えばサンドリア王国にいる盗賊団のリーダーだ。

ヴェールズの街を襲撃して失敗したと言う情報は得ているが。

それが何でまた聖女と魔水晶を奪ったのか。

やはりブレックス国王に売り渡すと見た方が妥当だろうか。

ブレックス国王は先のサウスブルーでの敗戦が痛手になっている。

ヴェズベルト王国から聖女と魔水晶を奪うことで軍事力の低下を狙う。

それに加えて聖女と魔水晶を自軍に取り込むことで軍事力を強化させる。

一石二鳥の作戦を立てたのだろう。

ブレックス国王の考えそうなことだ。

となればサンドリア王国が再び領海侵犯して来ることは目に見えている。


「エミリア、各方面に散らばっている騎士団を呼び戻しなさい。戦の準備をはじめるのです」

「はっ、仰せのままに」

「それとこの男を公開処刑にしなさい」

「お、おい。俺を解放してくれる約束じゃないのかよ」

「そんな約束はしていませんわ。あなたは重罪を犯したのです。その罰は受けてもらわないと」


アンナ女王は冷徹な目でカイザルを見やると拷問室を後にした。

エミリアはカイザルの腕からナイフを抜き取ると騎士達に応急処置をさせる。

それは処刑の日まで生き残らせていなけらばならないからだ。

処刑前に死んでしまえば公開処刑の意味がなくなる。

カイザルは拭えない後悔を抱きながら処刑の日を待つことになるのだった。





公開処刑当日。

カイザルはヴェズベルト城の処刑場にロープで吊るされていた。

ヴェズベルト王国の処刑方法は罪の重さによって異なっている。

一番の重罪が首を刎ねる処刑方法。

この処刑方法は観衆達にも多大なる心理的影響を与える。

なので見せしめのため大臣達の裏切り行為などで行われることが多い。

二番目の処刑方法は火責め。

これは処刑者の悲鳴が聞えるので最も惨殺な処刑方法と言われている。

国家反逆罪などの罪に問われたものを処刑する時に選ばれる処刑方法だ。

三番目の処刑方法はくし刺し。

処刑台に張り付けられた処刑者に槍を突き刺す処刑方法だ。

一突きで仕留めないと処刑者が悶え苦しむことになる。

しかし、この処刑方法は一般的に用いられている。


カイザルは国家反逆罪にあたるので火責めによる処刑方法。

カイザルの纏っている囚人服には予め油が染み込ませてある。

途中で燃え尽きて死体が残るよりも骨になるまで焼かれた方が後の処理がしやすい。

罪人の遺骨は埋葬されることもなく、ゴミ捨て場に放置される。

よく野良犬が骨を加えて歩いているのをよく見かける。

罪人は遺骨になってまでも人として扱われないのだ。


「畜生。アラジンの頼みなんて受けるんじゃなかった」


今さら後悔しても遅い。

時間を戻せるならアラジンに出会わない時まで遡りたい。

そう心の中で思いながら処刑の時間を待った。


「女王様。処刑の準備は整いました」

「そうですか」


アンナ女王は城のテラスから集まった民衆達に語りかける。


「この者は我がヴェズベルト王国から聖女と魔水晶を奪った罪を犯しました。聖女と魔水晶は我がヴェズベルト王国にとってかけがえのない宝です。この者に罰を与えます!」

「「その者に罰を!」」


観衆達の間から掛け声が巻き起こる。

その声は大きな声援と変わり執行者の勇気を奮い立たせた。

カイザルに罰を与えることは、その場にいた誰もが納得している。

この女王の意志を国民と共有する力がアンナ女王のカリスマ性なのだ。


「それでは死刑執行を!」


アンナ女王が右手を天に翳すと執行者達が松明の火を灯す。

そしてカイザルの目の前まで行くとカイザルの服に炎をつけた。

炎はみるみるうちに燃え広がりカイザルを飲み込んで行く。

その中にカイザルの断末魔が鳴り響いていた。

観衆達は目を背ける者、耳を塞ぐ者、拍手をする者と反応は様々だ。

それでも公開処刑を行うことによってアンナ女王の権力は誇示できる。

カイザルと同じように国家に逆らったら処刑をされる。

そんな考えを観衆達に抱かせることも処刑の目的のひとつだ。


カイザルのうめき声が聞こえなくなると木製で出来た処刑台は焼けて地面に落ちる。

それでも炎は消えずカイザルの肉と血を焼き払って行った。





小一時間は過ぎただろうか。

炎が消えると、そこにはカイザルの遺骨が人型を成して置かれてあった。

執行人達はカイザルの頭蓋骨を掲げる。

すると、アンナ女王が観衆達に告げた。


「処刑は無事に執行されました。これで、その者の罪も晴れたことでしょう。我がヴェズベルトのために!」

「「ヴェズベルトのために!」」


観衆達がアンナ女王の言葉を繰り返す。

その声は大きな声援となり拍手が沸き起こった。

指笛を吹いて喜びを表す者達もいる。

公開処刑は国民にとってイベントのようなものなのだ。

アンナ女王は観衆達に手を振りながら城の中へ戻って行く。

エミリアはアンナ女王にローブをかける。


「女王様、終わりましたね」

「いえ、これからはじまるのです。我がヴェズベルトと敵国サンドリアとの戦いが」


アンナ女王はキリッと姿勢を正すと城の中に消えて行った。


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