101「ゴブリンロード戦」
リーンの森は他の森に比べて背が高い木が多い。
ほとんど広葉樹が占めており、枝葉が横に伸びている。
そのためか中は薄暗く太陽の光があまり届かない。
木の根元には苔が生い茂り、珍しいキノコがたくさん生えていた。
「本当に、こんな森にゴブリンロードが潜んでいるのか?」
ガルドの言葉通り、ゴブリンロードが潜んでいるとも思えないほど自然が豊かだ。
大抵、モンスターが潜んでいたら森が荒れているのが普通だ。
冒険者達がこぞってモンスター狩りにやって来るから森が戦場になる。
斬撃の痕や魔法の痕が樹々に残っているものだが。
その形跡すら、この森の中にはない。
ゴブリンロードの出現は最近だけに、まだ狩りに来た冒険者がいないのかもしれない。
「で、ゴブリンロードに出会ったらどんな作戦で戦うの?」
――ゴブリンロード――
種類:群れで行動する進化形の小鬼
全長:2メートル
知性:普通
耐性:なし
弱点:炎の魔法に弱い
特徴①:武器、魔法を使う
特徴②:武具を身に着けている
生息場所:リースの森
倒し方:首を刎ねる
「基本的にゴブリンと同じ戦い方でイケるはずだ」
ゴブリンの時はまずファイヤーウォールで逃げ道を塞ぎ、プロテクションで攻撃をかわした。
そしてアイスニードルで全体攻撃を加えて数を減らした後、個別に撃破して行った。
ただ、気をつけなければならないのがゴブリンロードは魔法を使うってことだ。
プロテクションは物理攻撃を防ぐことが出来るが、魔法は防げない。
ゴブリンロードがどの系の魔法を使って来るのかはわからないが、魔法対策は必要だ。
魔法攻撃を防ぐには同じ魔法を放って打ち消すか、それ以上の魔法でかき消すかの二通りしか方法はない。
あいにくエリザもルーンも大抵の魔法は習得済みだ。
ゴブリンロードの魔法攻撃にも対応できるだろう。
しかし、ゴブリンロードは群れで行動するモンスターだと言うことに留意しなければならない。
魔法を使うゴブリンロードがどれほどいるのかによっても戦局は変わって来る。
何と言っても、こちらにはエリザとルーンしか魔法が使える者がいないのだ。
「魔法を使うなんて、ちょっと厄介よね」
「先手をとれば、こちらの流れに巻き込める」
最初から全体攻撃を放って数を減らしたいのだが、それだと魔法を放つまでに時間がかかってしまう。
その間にゴブリンロードの攻撃を許してしまったら流れが変わる。
こちらは近接攻撃のガルド、マリア―ヌ、間接攻撃のプリシア、遠隔攻撃のエリザ、ルーンの体制。
ゴブリンロードも近接攻撃の剣士、間接攻撃の弓使い、遠隔攻撃の魔法使いの体制を組んでいる。
お互いの体制は同じだが、数で勝るゴブリンロードに分がある。
まあ、個別の能力では明らかに、こちらが上なのだが。
「まずはゴブリンロードの魔法攻撃を封じることが先決だ」
「なら、俺が先陣を切ってやる」
プリシアの間接攻撃で突破口を開いてガルドとマリアーヌで魔法部隊を殲滅する。
同時にエリザとルーンで後方支援をしつつ、プリシアがエリザとルーンを守る。
これで第一段階は突破できる。
「魔法部隊をあらかた殲滅したら、今度は全体攻撃で数を減らす」
それにはエリザとルーンの魔法が欠かせない。
遠隔攻撃を失ったゴブリンロード達は近接攻撃に変えるだろう。
ガルド、マリア―ヌ、プリシアで、それに対抗する。
決してエリザやルーン達の所へゴブリンロードを近づけてはならない。
詠唱中は無防備になるから狙われたら殺られてしまうからな。
これで第二段階は突破だ。
「残ったゴブリンロードは個別に撃破する」
「狩るのは得意だ。任せておけ」
数が減ればゴブリンロードも戦意を喪失させるだろう。
そうなればこっちのものだ。
後は狩って、狩って、狩るだけ。
これで私達の勝利は間違いない。
ただ気をつけなければならないことがある。
それは戦場はだだっ広い平原ではなく身を隠せる森の中だと言うこと。
恐らくゴブリンロード達は木陰に身を隠しながら攻撃を仕掛けて来るはずだ。
なので闇雲に攻撃してもかわされてしまう。
狙いどころを定めてから突破口を開く必要がある。
まあ、それは実際に戦いになってから判断することになるのだが。
「まあ、相手はゴブリンに毛が生えたような奴らだろ。余裕、余裕」
「それにしてもタクト。今回は念入りだな」
「これからの戦いは、今まで通りには行かない気がしてな」
「タクトは慎重だな。相手はゴブリンだぞ。そんなに警戒をするな……とぉっ!」
と、馬車の車輪が何かに乗り上げて大きく飛び上がる。
その拍子に大きな溝へ車輪がハマってしまった。
「何だよ、石にでも乗り上げたのか?」
私達は馬車から降りて車輪の所へ駆け寄る。
「こいつは?」
「何だよ、溝にハマったのか」
「違う。これをよく見てみろ」
溝は自然に出来たものではなく人為的に掘られたものだった。
罠か!
そう気づいた時には遅くゴブリンロードの群れに辺りを囲まれていた。
「ちぃ。用意周到な。罠まで仕掛けて来るとは」
「ただのゴブリンじゃないってことね」
「タクト」
「作戦通りに仕掛けるぞ」
周りを見渡すとゴブリンロード達は木陰に身を隠している。
左右の森に30ずつ。
正面と後方に30ずつ。
全部で120体だ。
その内の60体が剣士で30体が弓使い、30体が魔法使いだ。
魔法使いは正面と後方に15体ずつ。
魔法が放ちやすいように開けた場所を陣取っているようだ。
弓使いは左右の森の中に15体ずつ。
残りの剣士はバランスよく散らばっている。
まず狙うのは正面と後方だ。
「プリシア!爆裂弾で正面の突破口を開け!」
「わかったわ。あんた達になんかやらせないんだから」
プリシアが前に出て爆弾を投げようとすると左右の森から矢が飛んで来た。
「わっ!危ない、危ない」
プリシアはとっさに後ろに飛びのき攻撃をかわす。
そして這いつくばりながら馬車の影に身を隠した。
「タクト。これじゃあ攻撃できないよ」
こちらの攻撃を予測して攻撃を仕掛けて来たのか。
ゴブリンロードの弓使い達は木陰に身を隠して、こちらの様子を伺っている。
その可能性が高い。
無闇矢鱈と攻撃を仕掛けて来ないことから見てもそうなのだろう。
だとしたら、戦術を修正する必要があるな。
「ルーン。ガルドとマリアーヌにプロテクションをかけてくれ」
「わかりましたわ」
ルーンは両手を胸の前で組み詠唱に入る。
すると、ゴブリンロードの弓使い達がルーンを目掛けて矢を放って来た。
ガルドとマリアーヌがルーンの前に立ち塞がり弓矢を叩き落とす。
やはり、こちらの動きを見ながら攻撃をしている。
ゴブリンロードはただのゴブリンじゃない。
「プリシア。爆霧烈弾で私達の姿を眩ませてくれ」
「目の前を覆い隠せ!『爆霧烈弾!』」
プリシアが私達の足元に爆弾を投げつけると白い煙が辺りに立ち込める。
モクモクと膨らみながら私達の姿を覆い隠した。
これでゴブリンロードの狙いも定まらないだろう。
「タクトさん、準備はいいですわよ」
「頼む」
「天より降り注ぎし光、星光の束となりて、かの者を守らん『プロテクション!』」
ガルドとマリアーヌの足元に魔法陣が浮かび上がると光の壁が二人を取り囲んで行く。
ドーム状に光の壁が競り立つと二人を覆い隠した。
これで物理攻撃は防げる。
「よし、ガルドは右の森のゴブリンロードを、マリア―ヌは左のゴブリンロードを殲滅してくれ!」
「待ってました。ガルド様の出番だ。覚悟しやがれゴブリンめ」
「さっくりやって来るさ」
ガルドは煙の中から飛び出ると右の森の中へ駆けて行く。
するとゴブリンロードの弓使いを守るようにゴブリンロードの剣士が立ちはだかった。
「まとめて片付けてやるぜ。必殺!『爆裂剣!』」
ガルドの太刀がゴブリンロードの剣士を捉えると爆炎が巻き起こる。
ゴブリンロードは炎に焼かれて、その場で悶える。
その様子を見ていたゴブリンロードが一瞬怯んだ。
すかさずガルドは次の剣士に向かって爆裂剣を放つ。
ゴブリンロードは剣でガルドの太刀を受けるが爆炎が体を覆い尽くした。
ガルドは雑草でも刈るかのような勢いで爆裂剣を連発して行く。
ほんの数分でゴブリンロードの半分を倒していた。
同時にマリアーヌが左の森のゴブリンロードへ向かい必殺技を放つ。
「可憐に決める『さざ波!』」
マリア―ヌが剣を振り払うと衝撃波がゴブリンロードの首を刎ねて行く。
それは海岸に打ち寄せる波の如く、重なりながらゴブリンロード達を襲った。
ゴブリンロードの剣士はかわすこともなくさざ波の餌食になって行った。
ガルドとマリアーヌの活躍で左右の森に隠れていたゴブリンロードを半数に減らすことができた。
その頃にはプロテクションの効果が切れて、白い煙も晴れていた。
それを狙ってゴブリンロードの魔法使い達がファイヤーボールを放ってくる。
エリザは、
「爆炎より生まれし炎、灼熱の炎となりて、大地に降り注げ『ファイヤーボール!』」
ファイヤーボールで対抗する。
しかし、ゴブリンロード達のファイヤーボールの数の方が上でやむなく防御に徹した。
「これじゃあ分が悪いわ。みんなで攻撃して来るなんて卑怯よ」
それはそうだが、そうも言っていられない。
ファイヤーボールは炎系の下級魔法。
詠唱時間も短くて連発出来る特徴がある。
その分、攻撃力は低いがまとめて放たれるとやりようがなくなる。
「まずはゴブリンロードの魔法使いの数を減らす。プリシア、ゴブリンロードの魔法使いを庇っているゴブリンロードの剣士達を打ち払ってくれ」
「さっきの借りを返してあげる。燃えちゃえ!『火炎弾!』」
プリシアが火炎弾を放つとゴブリンロードの剣士は剣で受け止める。
その瞬間、爆弾が破裂し四方八方に炎が飛び散ってゴブリンロードを襲う。
近くにいたゴブリンロードの剣士にも炎が飛び移り悶え苦しめた。
他のゴブリンロードの剣士達は炎に慄き後退しはじめる。
炎の魔法を使う割には炎に弱いなんてなんて皮肉な弱点だ。
まあ、いずれにせよ機運はこちらに向いて来た感じだ。
「エリザ、ファイアーオールでゴブリンロード達の逃げ場を塞いでくれ」
「わかったわ。今度はちゃんと受けてよね」
エリザは両手を前に翳して魔法の詠唱に入る。
すると、後方のゴブリンロードの剣士がエリザを狙って攻撃をして来た。
「させませんわ。天より降り注ぎし光、星光の束となりて、かの者を守らん『プロテクション!』」
エリザの足元に魔法陣が浮かび上がると光の壁が競り立って行く。
ゴブリンロードの剣士達はプロテクションに阻まれてその場に止まった。
ルーンが機転を利かせてエリザにプロテクションをかけてくれた。
私の気づかない所でルーンはゴブリンロードの攻撃を予想していたのだろう。
さすがはルーンだ。
「ありがとう、ルーン。まずはあなた達からよ。爆炎より生まれし炎、業火の壁となりて、世界を覆い隠せ『ファイアーウォール!』」
正面のゴブリンロードの足元に赤色の魔法陣が浮かび上がると炎の壁が競り立って行く。
ゴブリンロード達を取り囲むように逃げ道を塞いだ。
ゴブリンロードは炎に慄き戦意を喪失させている。
「よし、総攻撃だ!」
「俺がまとめて狩ってやるっぜ!必殺!『爆裂剣!』」
ガルドは炎の壁の中に入ると剣を振り回しながら爆裂剣を放つ。
ゴブリンロードは成す術もなくガルドの爆裂剣の餌食になって行く。
ファイアーウォールと爆裂剣の炎の前に戦う気力すら失っているのだろう。
ものの数分もしないうちにガルドは正面のゴブリンロードを全滅させた。
「まあ、俺にかかればこんなものよ」
残るは後方のゴブリンロード達だけ。
左右の森の中のゴブリンロード達はマリア―ヌが全て殲滅していた。
プロテクションの効果が切れてゴブリンロード達が自由になる。
すると、ゴブリンロードの剣士達が先手を打って来た。
「やらせん!」
マリア―ヌがゴブリンロードの剣士達の前に立ちはだかる。
ゴブリンロードの剣士達はマリア―ヌに的を絞り攻撃をはじめる。
「面白い。やれるものならやって見せろ」
ゴブリンロードの剣士達の連続攻撃を剣で受け流す。
鮮やかな太刀筋でゴブリンロードの剣士達を翻弄して行く。
さすがはマリア―ヌだ。
必殺技を使わずとも相手ではないのだから。
と、後方からゴブリンロードの魔法使いがファイヤーボールを放って来た。
「させないわよ。爆炎より生まれし炎、灼熱の炎となりて、大地に降り注げ『ファイアーボール!』」
すかさずエリザがファイアーボールで対抗する。
同時にルーンが、
「天空より溢れしし光、数多の閃光となりて、大地を貫け『レイ!』」
レイでゴブリンロードのファイアーボールに対抗する。
ゴブリンロードのファイアーボールはエリザとルーンの魔法に打ち消される。
それでもゴブリンロードの魔法使いは次のファイアーボールを放つ体制に入る。
もう、手の内がないのだろう。
これで終わりにしてやる。
「よし、みんな。ゴブリンロード達を殲滅しろ!」
「これでもくらいやがれ!必殺!『爆裂剣!』」
「可憐に決める!『さざ波!』」
「燃えちゃえ!『火炎弾!』」
ガルド、マリア―ヌ、プリシアの必殺技がゴブリンロードの剣士達を襲う。
ゴブリンロードの剣士達は必死に応戦するが必殺技の前にひれ伏す。
同時にエリザとルーンの魔法がゴブリンロードの魔法使いを襲った。
「爆炎より生まれし炎、業火の壁となりて、世界を覆い隠せ『ファイアーウォール!』」
「天空より溢れしし光、数多の閃光となりて、大地を貫け『レイ!』」
ゴブリンロードの魔法使いが放ったファイアーボールはエリザのファイアーウォール打ち消され。
ルーンの放ったレイで全身を貫かれた。
120体いたゴブリンロードは私達の活躍で全滅した。
「当初の戦術とは変わったがゴブリンロードを殲滅させることが出来た。これもみんなの活躍のおかげだ」
「まあ、今回は楽に勝てた方じゃないか」
「そうだな。大蛇に比べたらな」
「ルーンの機転が決め手になったわね」
「そんなにほめないでください、エリザさん。あれはたまたまですから」
「たまたまでもすごいことだよ」
「プリシアの言う通りだ。あそこでルーンが機転を利かせてくれなかったら、エリザは殺られていた。あらためて感謝するよ。ありがとう、ルーン」
私がルーンの肩に手を乗せるとルーンは頬を赤くして照れていた。
だんだんとみんなの戦術的思考が身に着いて来たようだ。
メインの戦術は私が立てるが、それがすべてをカバーする訳でもない。
実際に戦いになれば戦術通りにはことが運ばないものだ。
そう言った時に個々に機転を働かせてくれたら何より心強い。
私達は着実に成長していることを実感した戦いになった。




