10「北の森」
石化と言う現象は見たことのない私は、ニーズの街の図書館で治し方を調べていた。
古い文献によると石化は薬草でも治せるようだが、かなりの時間がかかるらしい。
その他に石化を解く魔法もあるらしいのだが、今では数えるだけの魔法使いしか使えないと言う。
策士と同じように、この魔法も廃れて行ってしまったようだ。
私は古い古文書から、とある魔法使いの居場所をつきとめた。
その魔法使いは北の森に住んでいると言う。
私はガルド達を連れ北へ向かう馬車に乗り込んだ。
「タクト、石化を解ける魔法があるってのは本当か!」
「本当だ。北の森に住んでいると言われる魔法使いなら解けるそうだ」
「よかったな、エリザ、ルーン」
ガルドは嬉しそうな顔をするとエリザとルーンの肩を叩いた。
「どうしたルーン。浮かない顔をして?」
「私はタクトさんに不信感を持っています。あのモンスターは、その戦術帳に載っていなかったのでしょう。だから、あんな強引な作戦を立てた。違いますかタクトさん?」
ルーンの鋭い指摘に、私は言葉を詰まらせる。
ルーンは私より優れた洞察力を持っているようだ。
「ルーンの言う通りだ。あのモンスターは戦術帳に載っていなかった。だから、経験から戦術を立てた」
「それがこう言う結果に繋がった。私達はタクトさんに命を預けているのですよ。もっと、自覚してもらわないと、おちおち背中を預けられませんわ!」
事実を認めた私にルーンは声を荒げて食いかかって来た。
「ルーン。何もそこまで言わなくても」
「エリザさんはいいんですか?タクトさんにとって私達はただの駒なんですよ。これじゃあ亡くなったクロースが浮かばれませんわ!」
止めに入って来たエリザにもルーンは当たり散らす。
それはルーンの中でクロースの死が大きかったためだろう。
クロースの事は私自身、身に染みて悔やんでいた。
「ルーン、すまない。エリザやルーンに怪我を負わせたのも、クロースを死なせたのも、私の不甲斐なさからだ。策士としては、まだ、未熟な私だ。それでもついて来てくれるか?」
私はルーンに頭を下げながら、返事を待った。
「それは今後のタクトさん次第ですわ!」
それでもルーンは声を荒げていたが、どことなく許しているかのようにも見えた。
「はい。喧嘩もそこで終わり。せっかくの旅なんだから楽しくしましょう」
プリシアがいつもの調子で割って入って来た。
場の緊迫感が解け、ゆったりとした空気に包まれる。
それはプリシアの天真爛漫な性格と、のどかな風景がそうさせていた。
外を見れば街はすっかり小さくなり、大きな牧場が景色を彩っていた。
「そう言えばプリシアってドワーフだったよな。ドワーフってみんなそんな恰好をしているのか?」
「んなわけないでしょ。この服は私の一張羅。特注なんだから」
プリシアノ服は羽織のようはな上着にスリットが入った珍しいデザイン。
ガルドがセンスのない質問をするのでプリシアは吹き出しながら答えた。
「ドワーフと言えばミッドガル地方の山岳地帯に住んでいる話を聞いたことがあるが、プリシアもそこから来たのかい?」
「私はサラーニャ地方にある小さなクルと言う街。父さんは根っからのドワーフだったんだけど、人間の母さんと結婚をして街に住むことになったの。そして私が生まれた。だから、私はドワーフと人間のハーフなの」
これがお手本と言わんばかりに私が質問をすると、プリシアは鼻を鳴らして得意気にしゃべりはじめる。
よほど嬉しいのか遠くの故郷に思いを馳せるように目を細めた。
「ハーフか。そう言えばクロースもそんなこと言ってったけ」
「ちょっと、ガルド!」
「あっ……」
ガルドの無神経な発言にエリザが注意をする。
と、ルーンがもう気にしていないと言わんばかりに言った。
「みなさん気になさらないでください。クロースとは昔のことですから」
「クロースって?昔のことって?」
要領を得ていないプリシアは興味津々で尋ねて来た。
「クロースは昔の仲間さ。ゴブリンとの戦いで戦死してね」
「ごめん……知らなかった」
ガルドが真相を話すとプリシアは急にシュンとする。
その様子を見てエリザがフォローした。
「気にしなくていいのよプリシア。クロースは私達の胸の中で生きているから。そうよね、ルーン?」
「そうですわ、私達の中でずっと生き続けますわ」
胸に手をあてながら答えるルーンの目元には薄っすら光る物が見えた。
私達を乗せた馬車は北へ北へと向かい、北の森の入口で止まった。
「お客さん、ここでいいんですかい?」
「ここまでで十分だ」
「そうですかい。それじゃあ、アッシはこれで。そうそう、この森に住む魔法使いは、随分、気難しい人物だと言う話だよ」
「貴重な情報をありがとう」
私達は北の街へ向かう馬車を見送ると、さっそく森の中へ足を運んだ。
森の中は一本道が走り、人が歩けるぐらいの道幅。
木々は鬱蒼と茂り、森の中から小鳥のさえずりが響き渡っていた。
「この風景、何だか懐かしいな。私が住んでいた街にも緑が生い茂っていてさ。夏になると小川で魚を捕まえたり、蛍を追い駆けたり。夜になると空に星がいっぱいですごく奇麗なんだ」
「随分、素敵な所なのね。私の住んでいた街は工業が発展していて、いつも空が曇っていたわ」
懐かしそうに故郷を思い出すプリシアとエリザの街には、かなりの格差があるように思えた。
この世界は大きく五つの地方から成り立っている。
北のブラム地方、東のグラハム地方、西のノーベン地方、南のサラーニャ地方、そして中央のミッドガル地方。
私達が今いるのは北のグラハム地方のシリウスと言う森の中。
どのくらい歩いただろうか、道なりに進んで行くと大きな巨木のある広場へ出た。
「随分、でかい樹だな」
「あれはユグラドシルと呼ばれる魔精を産む樹だ。こんな所で出会えるなんて」
私達は前の前に悠然と聳え立つユグラドシルに見惚れながら立ち尽くしていた。
すると、ユグラドシルの樹の上から誰かが話しかけて来た。
「こんな所に客人とは珍しいな。そんな所に立っとらんで上がって来なさい」
見ると大きな三角帽子を被ったいかにも魔法使いらしき姿の老人がいた。
豊かな白い髭を蓄え、少し曲がった腰を伸ばすように手招きをしている。
私達は老人に促されるまま、樹の梯子を登り上部にあった家らしき建物の中に入った。
「おじいさんが北の森に住んでいると言われる魔法使いですか?」
「そうじゃ。ワシが大魔法使いシドじゃ」
シドは照れる様子もなく自信たっぷりに自慢をする。
自称だから、どこまで本当かわからないが、本人が言うのだからそうなのだろう。
「お主達がここへ来たと言うことは、ワシに何か用があってのことじゃな」
「そうなんです。仲間がメデューサの攻撃で石化してしまって。石化を解ける魔法を使えるのは、シドさんだと古文書に書いてあったので訪ねて来ました」
「メデューサじゃと!メデューサは100年も前にとある勇者に封印されたとあったが……」
エリザとルーンの症状を見せながら私が説明すると、シド老人は目をむき出しにして驚いた様子で言った。
「石化の特殊能力を持っているモンスターと言えば、メデューサ以外考えられません。現代にいるのは何故だかわかりませんが」
「何かのきっかけで封印が解かれたのかもしれないのじゃ。メデューサが復活したのなら、厄介なことだ」
大抵のモンスターは特殊能力を持たない者が多い。
強くなればなるほど耐性を持ったり魔法を使ったりするモンスターも存在するが、石化能力はメデューサ固有の特殊能力だ。
「シド老人。魔法で仲間の石化を解いて下さい」
「石化を解くには魔法だけでは無理なのじゃ。メデューサの涙が必要じゃ」
「メデューサの涙?」
シド老人の口から出た言葉はあまりに衝撃なひと言。
私達はすっかり棒になってしまった。
「メデューサの涙って、もしかしてあの怪物を倒さないといけないと言うことか?」
「さよう。メデューサの目玉に剣を刺し、溢れ出る涙を集めるんじゃ」
シド老人に食い掛かるガルドは興奮しながら言うと、シド老人はさらりと答えた。
「メデューサを倒すなんて私達には無理よ。五人で力を合わせても勝てなかったし。それにいなくなったと思ったら、急に私達の目の前に現れたり、何か他にも特殊な能力を持っているのよ」
「それは瞬間移動じゃ。メデューサはモンスターには珍しく空間を移動できる特殊能力を持っている。それに合わせて石化光線じゃ。厄介と言うに他ならない」
「そんなの最強じゃない。とうてい私達には敵わない相手だわ」
シド老人の言葉を受けて、周りにいたメンバーみんなが諦めモードになっていた。
すると、シド老人が部屋の奥から大きな箱を持ちだして来る。
「これは鏡の盾じゃ。これでメデューサの石化光線を弾き返せる」
「そんなもので本当に弾き返せるのかよ?何だかすぐに壊れてしまいそうなくらい古いぞ」
シド老人が抱えている鏡の盾を持ち上げるとガルドは埃を払いながら、鋭い目で品定めをした。
「馬鹿を言うでない。その鏡の盾はメデューサを封印した勇者が使っていたものじゃ。とても価値のある物なのじゃぞ」
失礼なことを言うガルドの頭を軽く杖で叩くと、シド老人は神妙な面持ちで言って来た。
「その盾を使えばメデューサを倒すことができるんですね?」
「さよう。メデューサの光線を跳ね返して、逆に石化させてしまうのじゃ」
なるほどと言わんばかりに私達は大きく手を打って答えた。
「わかりました。メデューサ討伐には私とガルド、プリシアの三人で行きます。シド老人、エリザとルーンのことを頼みます」
「そんなの無茶よ、タクト!五人で戦って勝てなかった相手よ。三人でだけだなんて」
私の決断にエリザは不安げな顔を浮かべる。
「エリザ、心配するな。私達なら大丈夫だ。そうだろ、ガルド、プリシア?」
「おうよ!」
「任せといて!」
私達、三人はエリザ達を心配させないように強がって見せた。
それでもやらなければならない戦いなのだ。
私達はシド老人にもらった鏡の盾を手に、地下神殿へと向かった。




