親子
僕は、お母さんのお腹の中から生まれて以来ずっと、お母さんと一緒。
朝起きてから夜眠るまで、ご飯を食べるときも、ちょっと出かけるときも、僕のそばにはいつもお母さんがいる。
まるで僕を守っているみたいだ。
小さい頃は心強かったし、その優しさが嬉しかった。
でも最近、体が大きくなってきて、一人で好きなことをしたい、好きなものを食べたいっていう気持ちもわいてきたんだ。何度もその気持ちをお母さんに伝えたけれど、お母さんはその度にこう言った。
「外の世界は危ないから、自分勝手に行動しちゃダメよ」
「ご飯もお母さんが安全って言ったものだけ食べるのよ」
「いつまでも、どこまでもお母さんが一緒にいるからね」
だけどもう我慢できない。周りを見渡せば、僕と同じくらいの年の奴でも、誰の手も借りずに一人で生活してるやつがわんさかいる。最近姿を見ない仲間もいるけれど、きっとどこかで楽しく生きているはずだ。
それに・・・。それに、僕の周りのたくさんの「ご馳走」を我慢することが、もう限界になってきたんだ。幸いお母さんは自分の食事をしている。今がチャンスだ。
僕は周りの「ご馳走」に目をやる。ちょうど、すぐ目の前にエビが連なって並んでいる。こいつは美味しそうだ。
「ご飯もお母さんが安全って言ったものだけ食べるのよ」
お母さんの言葉が一瞬蘇ったが、意識の隅においやる。ええいと、一匹のエビにかぶりついた。瞬間、口内に激しい痛みを感じた。いまだかつて感じたことのない、何かがひっかかったような、鋭い痛み。そして、何かの力により上昇していく体。この事態に気が付いたお母さんが、必死の形相ですぐさまこちらに駆けつけてきてくれる。
お母さん、言いつけを守らなくてごめんなさい。朦朧とする意識の中で、僕と一緒に上昇していくお母さんの顔が、海の中で最後にみたものだ。
防波堤の上で、親子が楽しげに会話をしている。
「やったー、釣れたよ、お父さん!しかも2匹も!」
「お、その魚はウミタナゴだな。魚にしては珍しく、胎生なんだ」
「へえ、そうなんだ。見て、お父さん!この二匹、釣りあげられてもずっと一緒にいるよ。親子なのかなあ」




