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妄想の帝国

妄想の帝国 その48 全感染(妄想の帝国編)

作者: 天城冴

ついに医療崩壊をおこし、感染者が大多数を占めつつあるO府。場当たり的政策をし続けた府知事やその所属政党メイジの党の面々が”全員感染すれば怖くない”という主張をする事態に、恐れをなして逃げ出した極一部の府民たちが府から逃げ隣県W県の県境にやってきたが…

妄想の帝国 その48 全感染(妄想の帝国編)


爽やかな風が吹く、某ニホン国O府の府境。若芽が芽吹き、葉が生い茂った木々に太陽が明るく照り付け、初夏をおもわせるような陽気だが、人気はほとんどない。林の中の道をとぼとぼと歩いているのは40代と思しき、スーツ姿の男性と10歳前後の女の子、それと妊娠7-8か月の女性。親子で新緑の山道を散歩中というような人物構成だが、会話の内容はとてもほのぼのとは言えなかった。

「ううう、テンさーん」

と涙ぐむ女性。

「仕方なかったんだ。ミンさん、感染者の、あの群れ。もし、テンさんが、体を張って駅の改札で感染者を食い止めてくれなかったら、アンタも、おなかの子も…」

とけだるそうにいう男性。ノーネクタイで、スーツもよれよれ、シャツも汗ばんで少し匂っている。それでもサージカルマスクは外さず、

「あ、セン、マスクずらしちゃだめだ!」

と、女の子に向かって注意する。センは少しすねたように

「だって、お父さん、この道には、私たちしかいないじゃない。府境だから。ふもとの町の人たちはみんなW県に逃げちゃったんでしょ、イリョウホーカイって言われた時に。新型肺炎ウイルスに感染した人はマトモなひとは家とかにいるし、マトモじゃない人は町の中で人を襲ってるっていってたでしょ。“みんな感染しちゃえ、そのほうがいいんだ!”って、とんでもないこと言う人が大勢いて、だから私たち府から逃げるんだよね、逃げてお母さんのところに一緒に行くんだよね」

「そうだ、やつらはO府民、新型肺炎ウイルスに全員感染しろ、いやニホン国民全員感染しろといってるんだよ。すごく危険なんだ」

「でも、治った人もいるんでしょ」

「そうだ、マトモに治療すればな。後遺症が残る場合もあるそうだが、それだってキチンとした治療をうければ、発症する確率が下がると…」

と話す男性のそばで、ミンが叫んだ。

「やっぱり、早くO府から引っ越せばよかった!“危ないから、どっか他所に行こう、関東でも私の地元のI県とか、T県の田舎なら、仕事もあるし、まだ少し安全だしなんとかなるかも”って言ってたのに、テンさんが、“友達もいるし、みんなO府の人だし”とかいって引っ越すの嫌がって。身重の妻と友人、どっちが大事なのよ!」

泣きじゃくるミンに

「し、ミンさん。ひょっとしたら、感染者がいるかもしれないんだ。まあ、あいつ等のほとんどはあの府知事と市長らのメイジの党を支持して、持ち上げてたような奴等だから、こんな田舎のほうに追いかけてくるような知恵はないだろうけど」

「そうだよ、ミンさん。きっと、いないよ。だって府知事とかがテレビでうがい薬とか雨合羽とかでウイルスが防げるとか言った人を信じたような人たちだし」

「まだ、テレビでやってんでしょ、“Y知事は素晴らしい、よくやってる“。感染広げて、医療崩壊で何がよくやってるよ、おかげで定期の検査にもいけない、お腹の赤ちゃんがどうなってるかもわからないし、病院で出産もできないのよ」

「それで逃げる決心をしたっていうのに、これじゃあな。テンさんが感染しても発病、重症化しなければ、いつかは」

「でもロンさん、後遺症が、もし脳とかやられたら、どうなっちゃうの?赤ちゃんと、ろくに働けない、動けない夫と抱えて、私どうすれば」

「ミンさん、と、とにかく生き残ろう。そう思って俺たち感染者から逃げて、町を脱出してわざわざW県の堺まできたんじゃないか」

「そうだよ、ミンさん。テレビではまだあの知事さんが“いっそ全員感染してしまえば、怖いことはないんです。インフルエンザみたいに感染が日常になればいいんです”とかバカなこといってるけど、W県とか他の県の人はまだまともだし、お医者さんにもかかれそうだよ」

「テンのいうとおり、W県やHSM県の知事なんぞは検査拡充、医療体制充実など真っ当な対策をたててるから比較的安全だよ、ミンさん。団扇会食なんぞいいだしたHYG県なんぞは似たり寄ったりだ」

「でも、首都も政府も滅茶苦茶じゃない、こんなんでホントに」

「地方で何とか、ウイルスが収まるのをまつ。中国とか抑え込んだという国もあるんだし。食料自給率とか高い県までいけば、結構なんとかなるんじゃないかと」

と、ロン、テン親子がミンを慰めながら歩いていると

「ん、何かあるぞ」

「お父さん、これなに?」

テンは道の両脇に取り付けられたモニターを覗き込んだ。

「これは、監視カメラか?ひょっとして府境に置かれた検問か!O府から危険人物がこないようにって、まさか」

「ロンさん、林の中、よく見ると、有刺鉄線が張られてるみたいよ!」

「やはり、簡単には通してはくれないか。O府民はあんな知事やらメイジの党の奴等を信じた危険なアホだと思われてるんだな。それも当然か、全感染とかいってるんだから。しかし、俺たちは、違うんだ!」

「それ、どうやって説明すればいいの?W県の担当者の人とかとどうやって話せば…」

「お父さん、この画面から、W県の人に話せないの?」

「そうだな、テンやってみよう」

三人は液晶画面の前に立ち、一人ずつ話しかけた。

「もしもし、私たちO府から逃げてきたんです」

と、ミン。

「お願いです、W県にいれてください!」

と、テン。

「俺たちはO府知事らには反対です。W県の検査拡充などの対策を全面的に支持します、遅いけど住民票も移行して住民税を払います、所得税も。お願いです、せめて通過する許可だけでも!」

と、ロンが叫ぶと画面が切り替わり

『O府民は集団免疫をつけるため、いったん全員感染するという初の試みに…』

と、O府知事の顔が映し出された。

「Y、Yぃいいいい!このドアホがああああ、何言ってやがる、そのせいでえ、医者の妻はあ!ヨンは過労でぶっ倒れてええ、実家のS県で入院中だ!おまえのせいでええ!医療崩壊、家庭崩壊だあ!」

恨み骨髄といった感じで、叫びながら画面を素手で叩きだすロン。

「あ、モニタが…」

「壊れちゃった」

「す、すまん」

ロンがわれに返った時は、画面はすでにひび割れ、真っ暗になっていた。

「素手で壊すなんて」

「お父さん、すごい…。けど、どうしよう」

「わああ、俺は何てバカなことを!こ、こうなったらテン、ミンさん、アンタたちだけでもW県にうけいれてもらうんだ!」

「お父さん!」

「…。テンちゃん、進みましょう、ロンさん、ごめんなさい」

「い、いいんだ。ミンさん、テンをたのむ。S県のヨンのところへ連れて行ってやってくれええ」

「いやだああ、お父さーんと一緒じゃないといやだああ」

泣きだすテンをひっぱっていこうとするミン、涙をこらえながら見送ろうとするロン。

山道でドラマティックな展開が繰り広げられているころ、数十メートル離れた監視小屋では、別の監視カメラから、W県職員が三人の様子をうかがっていた。

「映画みたいでおもしろいが、そろそろいってやるか。放っておくと変なことをやりかねん、まあ、虹彩の検査では陰性で感染はしていないようだし、全員受け入れても大丈夫だろう。もちろん、PCR検査や抗体検査も併用し、診断を受けさせ隔離はするが」

「メイジの党の支持者でもなさそうですよ、隊長、あんなにYの顔を殴ってるんですから。しかし、O府から逃げてきた人間が増えたんで、有刺鉄線はったり、検問もうけたりしましたが、案外、感染した脱府者は少ないですね。踏み絵代わりにモニター画面に府知事の会見流したりしてみたけど」

「ま、感染して動きまわってるのは、あの府知事の支持者がほとんどだから、府から動きゃしないだろ。あの会見をみて帰る奴もいただろ?あの府知事の言うことを信じて、全員感染したほうがいいとか思ってるんだろうよ。重症化して自宅で、そのままってのもあるだろうが。支持者以外で逃げようって感染者は一応医療機関を通そうとするからな」

「まっとうに手続き踏むなら、医者の紹介で転院とかですよね。入院してないから転院じゃないか、紹介状かいてもらっていく、とか?」

「それだって、府からうごけなきゃどうしようもないだろ。電車に乗ってくるのも、自動車でもかなり大変だろ、県境ならともかく。もっとも逃げてきた県境の町民やら村民は感染者ゼロだったしな。大都市のO市とかは、そもそもほとんど来ない、今回でやっと10人目かな?」

「人口から考えれば、かなり少ないですね。他の府県ににげてるのかな?K府とか」

「K府も似たり寄ったりの状況だろ、観光客も多いし、だいたいマン防だかの対象じゃなかったのか。HYG県て、手もあるが、あっちに近い奴等は大変だよ、あそこに逃げても同じことだしな、団扇会食なんて知事が推奨してるんだから、対策もボロボロ。外国船も発着する港のある大都市のほうが、田舎とか揶揄されたW県より対策がオカシイなんて笑えるけどな」

「あそこは金満腐敗国会議員を何度も出したようなとこでしすねえ、隣のHSM県はマシなのにね」

「ま、アホな首長を選んだ報いかな。もっとも我々だって老害議員をだして非難されてるけどな」

「あの爺さんに批判的な人間も増えてますからね、この騒ぎで。わが県もアホな連中は駆逐されるんでしょう。近隣からマトモな人間がやってきますしね」

「そうだな、ではウイルス全感染のトンデモナイ自治体から逃げてきたマトモな人々を受け入れに行くか」

と、隊長は防護服を着始めた。


どこぞの国の府では毎日のように感染者最多更新し、ナンタラ宣言を要請しているようですが、それだけで大丈夫なんですかねえ。だいたい一部の都府県で実施されたとしても、都府県の方々が隣県に押し寄せてくるだけなんで、取り締まるなら店側より客側のが効果ありそうですけどね。どっちにしろ基本的人権に抵触しそうですが。人権なんて抑制しまくっていい、という危険なお考えの方もいますが、皆さん検査やりまくって、陰性の人だけは出し、そのほかはひたすら平等に金配った方がいいような気がしますが。

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