第二話 アタシのカレシ3
「どうだった?アタシ絶対幽霊だと思うのよね~崇境さんはどう思う?」
「真由さんがそう思うのならば幽霊なのですよ。例えば深夜に風の音を聞いて、風の音と感じるか幽霊の唸り声と感じるか人それぞれですからね」
小野田は首をかしげながら言った。
「つまり……崇境さんにはどっちかわからないってこと?」
「そうですね。本当に顔色の悪い女性だった可能性がありますし、本当にこの世のものでない可能性もありますから。で、依頼の解決の方に入ってもよろしいですか?」
ずるい!と怒っている小野田を尻目に黒電話を取りに行く。黒電話を見て、ポカンと口を開けた。
「なにこれ?」
「えっ?黒電話を知らないのですか?」
衝撃発言に動揺を隠せなかった平原は、抱えていた黒電話を落としかけて慌てて体勢を立て直した。カウンターに置くと、小野田は受話器を持ち上げたりぐるぐる回して遊んでいる。平原は微笑ましい光景だなぁと思いながら眺めていたが、このままではいつまで経っても返してくれないと察して話し始めた。
「じゃあ真由さん、そのヨシアキ君に繋げられそうな連絡先って知ってるかな?」
「スマホの電話番号消すの忘れてて入れたまんまになってるけど、これで良いの?」
眩しいスマホ画面に書かれた電話番号を見ながら平原が回しだした。不思議そうな顔をしてその行動を見ている。
「これって線で繋いでなくて大丈夫なの?それにもうヨシアキいないのに繋がらないよ?」
平原はすべて回し終えると、細くて節がはっきりとわかる綺麗な指先を唇に押し当てて、静かにしてとポーズをとった。そのまま顔を伏せるようにして黒電話を眺めている。竹串なら余裕で乗りそうなほど伸びた睫毛の隙間から、真剣なまなざしが見えた小野田は顔に熱が上ったのが自分でもわかった。
「うーん…繋がらない。真由さんはヨシアキ君が何コールくらいで電話を取るかわかる?」
突然視線を向けられた小野田は顔を赤く染めながら緊張したように言った。
「ヨシアキは電話なかなか取ってくれないから、何コールもしないと駄目だよ…です……」
最初は正面から目を見て話していたが、少しずつ顔をそらしてしまい、最後の言葉を発するときには既にほぼ反対を向いていた。そして中途半端に敬語になっている。
平原はいきなり変わった対応について質問しようとした時だった。
『もしもし?』
あからさまに嫌そうな声が電話口から聞こえてきた。聞こえたと言おうとした瞬間に受話器を取られた。
「ヨシアキ!」
嫌そうな声が一瞬で明るい声になった。
『真由!良かった~最近誰かに連絡取ろうとしても全然電話取ってくれなくてさ』
平原と小野田は見合わせて首を傾けてしまう。
「もしかしてヨシアキ……気づいてない?」
『ん?何のこと?』
二人は確信した。ヨシアキは自分が既にこの世の人間でないことに気づいていないのだ。
「ヨシアキ本当に気づいてないなら言うね……アタシと一緒に帰っていて逃げた日があったでしょ?その時に死んだのよ」
しばらくの無言の後、突然豹変した。
『クソッ!は~~もうどうでも良いわ。ふざけるなよ……全部キコのせいだ!アイツが!』
罵声の嵐にこちらから声をかけられない。
『で、何?真由は何で俺に連絡取ってきたの?』
「あのね……どうしてあの日に逃げちゃったのか気になって」
そう聞いた途端、笑い声が聞こえてきた。
『それはキコが悪いんだ。キコが俺たちについてき―』
音が途切れた。砂嵐のような音が聞こえる。初めてのことに困惑する平原と、壊したのではないかと焦る小野田。その時だった。
『わタし……あナタのこトマもレタ?』
知らない女の人の声に変わってしまった。半音上がったり下がったりとかなり不安定な声をしている。いきなりのことに小野田は受話器を投げてしまう。
『あノひトニはせきにンがアルから……ツぐナワせル』
平原は持ち上げると、電話の相手に話しかけた。
「もしもし、良ければお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
『わたシはキコ。ワたしのオハなしキきたイデすカ?』
そう言ったキコはおもむろに過去を話し始めた。