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第一話 同僚5

『これで…僕の話は終わり……です。満足して……いただけました…か?』

門前のあまりにも酷い最期に、西山も盗み聞きしていた平原も言葉が出なかった。

「なぁ門前さん。二つ質問があるんだが良いか?一つ目はどうしてオマエがうちの事務所にいるかを教えてくれ。そして二つ目はアンタの因縁の相手は生きているかどうか」

一瞬の沈黙ののち門前は言葉を紡いだ。

『あの休憩スペースこそ…僕が最後に倒れていた場所……なんです。だからあそこ……にいると身体が安定して…楽なんですよね。そして二つ目…の質問ですが、アイツは確か…に捕まりました。でも今は奥さんも……子どももいる一般家庭の父親として…のうのうと暮らしていますよ。こっちは……未練たらたらで成仏できない…ってのに』

刺されたのが原因なのか呼吸が浅く話すのが難しそうだ。

「そうか、教えてくれてありがとうよ。この事は記事に書かせてもらえないらしいからな!じゃあ切らせてもらうぜ」

『ええ……こっちも話したら…少しだけ楽になりました。久しぶりに…実家に帰ろうと……思います。姉の子どもを…久しぶりに見に……行ってきますね。では…失礼します』

通話が切れて、黒電話は再び線の切れたただのガラクタになってしまった。西山は無言で平原に黒電話を押し返した。

「西山さん、どうでしたか?彼の一生は」

「自分ではしょうもないとか言ってたが、あまりの壮絶さに声が出せなかったな。そういえば俺が調べていた時に笑った原因について聞くのを忘れてた。これはもう一度電話をかけたりはできないのか?」

平原は困ったように笑うと、申し訳なさそうに言った。

「申し訳ございません。一度のみの電話ですのでこれ以上はお断りさせていただいております。ただ彼の性格上考えられるのは、自分の事を調べても大したことが出てこないから時間を無駄にしているぞ…なんてことを思っていたのかもしれませんね。これもあくまでも僕の憶測ですけど」

「間違いねぇや、なんかスッキリしたぜ。」

西山は帰る支度をしながら、ふと平原に顔を見た。

「そういや平原さんは何歳なんだ?」

「僕ですか…?今年で25になりました」

ふうん、と興味なさそうに答えると、荷物をもって手をひらひらさせながら店から出て行ってしまった。あっけなく出て行った事に西山は驚くと同時に質問の意味を必死に考えたが、どうしてあのようなことを聞かれたのか見当もつかなかった。

「記事に使いたいと粘ってくるかと思ってましたが、変な人ですね」

黒電話を元の位置に戻すと、話を聞きながら磨いていたグラスに手を伸ばした。ずっと磨いていたのでかなりピカピカになっている。

「今日はこの辺にしとこうかな」

ポツリと呟く。その言葉は誰にも聞かれることがなく闇の中に言葉が掻き消えたのだった。

これで第一話は完結です。

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