第一話 同僚2
続きます
俺がアイツに気づいたのは数年前だ。借りたオンボロのビルにある休憩室には、自販機とタバコを吸うスペース、そして休憩用のベンチと申し訳なさげに置かれた大型の観葉植物と何故か公衆電話が並んでいる。いつも通り自分の好きな飲み物を買ってベンチに座った時だった。この時間は誰もいないはずが、ベンチに座って休憩している男がいた。タバコも吸わず飲み物を買っているわけでもなく。ただその時は迂闊で、普段かけている眼鏡を自分のデスクに置いて来てしまっていて視界がかなり悪かったのだ。
「お疲れさん」
俺がそう言って隣に座ると、缶を開けた。なんとなく視線が痛いので男の方を見ずに飲み干す。
「そういえば見覚えがないヤツだな。ま、正直俺も全員覚えてるわけじゃないし眼鏡もかけてないし」
こちらからアプローチしてもコイツは何も喋ることがなかった。その日俺は沈黙に耐えられず早々に出ていってしまったのだった。
それから数日後、いつものを飲みたくなって休憩室に入った時だった。その日は眼鏡をしっかりとかけていたからようやく気づくことができたのだ。
「おわっ!お前なんでそんなところに入り込んでるんだよ!」
自販機とベンチの中間にある観葉植物。それと壁の隙間に男が突っ立っていた。チラリとこちらを一瞥すると再び正面を向いてしまう。
「おい、そんなところに入って何してるんだよ。顔色も悪いし、というか喋れよ」
そう言って俺は観葉植物を前に引きずり出した。その瞬間俺はたじろいてしまった。その男には足が存在してなかったのだ。もう一度こちらを見るとそのまま別の部屋に通り抜けていってしまった。それから俺が休憩室に行くごとに部屋のどこかにいた。ベンチに座っていることもあれば、自販機の前でジュースをぼんやりとした顔つきで眺めていることもある。公衆電話から恨めしそうにこちらを見てくることもあった。どうやら職場でコイツを見ることができるのは俺しかいないらしく、同僚が自販機の前で男と重なり合って変な位置から腕が飛び出しているのを見て飲み物を吹き出しそうになったこともあった。
同僚だと思い込んでいたアイツは幽霊だったのだ!早速この男の正体を調べるために調査を始めた。この人物はいったい誰なのか毎日調べていたが、答えにたどり着くことはなかった。俺が答えを見つけられずにパソコンや資料とにらみ合いをしていた時、とうとうコイツは俺にデスクまで来るようになっていた。パソコンを覗いていた男はチラリと俺を見てどうしたと思う?
笑いやがった。だから決めたんだ。記事として書くのは諦めて、ここに依頼しようと決めたんだ。以前友人から何かに役立つかもしれないとここのことは教えてもらっていたのだ。自分には必要のない情報だと高を括っていたが、まさか役に立つとは思っていなかった。だがなりふり構っていられない。
ということで俺からの依頼は、事務所の休憩室にいる男の正体をあぶりだしてほしい。よろしく頼んだ。