第4話 白の生徒
第4話
「ってことが昨日あったんだよ」
「…………ついに現実と妄想の違いがつけられなくなったんかよ」
「ですよね〜」
吸血鬼フッツを、覚醒した巨人『太陽』の超覚醒形態『駆け昇る太陽』でブライと協力して宇宙に行き、フッツを直接太陽に叩き込んできた話をしていた時だった。
「ねぇ、聞いた?」
「もちろん聞いたわよ、あの話でしょ?」
なんか周りの女子たちが騒がしい。
嬉しさというかワクワクというか、まあ、そんな感じを含む声があちらこちらから聞こえてくる。
「なあ、金剛」
「なんだ?」
「今日なにかあんのか? 主に女子たちにとってのイベントで」
「ああ、あれだな。転校生だよ、なんでも今日からこのクラスに入るらしい」
「え? そんな話、俺初めて聞いたぞ?」
「俺も詳しくは知らないけど、急に決まったとか決まらないとかって話だよ」
転校生か……まあ、確かに珍しいと言えば珍しいなあ。すっごい美少女だったらいいんだけど、たぶん女子たちの反応からすると……、
「イケメン転校生か……」
「おっ、よくわかったな。担任から聞いていたんか? なんでも金髪に青い瞳を持った白人って話よ」
「え!? ちょっと待って! そいつ、たぶん俺の知っているヤツ! 昨夜、協力して生死をかけたバトルを一緒にしたヤツ!」
「は? だからそれはお前の妄想だろ? まだ顔も知らない他人を巻き込むなよ。厨二病扱いされるだけだぞ?」
金剛が、やれやれみたいな顔をする。
いや、でもタイミング的にブライしか思い浮かばないんだけど!? え、なに!? アイツ、『門』を潜って元の世界に戻ったんじゃないの!? もしかして戻れなかった!? だから取り敢えず、こっちの世界で知り合った俺に近くために摩訶不思議なパワーでこのクラスに転校生としてやって来た的な!?
「お〜い、全員席につけ〜。HR始めるぞ〜」
気怠げな声の担任が入ってきた。その瞬間、クラスの女子たちが一気に盛り上がる。
「先生、イケメン転校生は!?」
「どうせ廊下にいるんでしょ! 早く紹介しなさいよ!」
「こっちは四十代の独身中年より十代のイケメンを待っているの!」
まるで有名アイドルのライブコンサートのような熱気に押し負け、担任はこの現状に若干ひきながらも廊下に向かって話した。
「と、いう訳だ。入ってこ〜い」
「はい、失礼します」
そう言って、教室の扉を開けて入ってきたのは金髪の青目の超イケメン。日本人が考える白人のイメージの見本のような少年だった。
その少年が入ってきた瞬間、女子たちのボルテージがうなぎ登りに上がった。
「みなさん、初めまして。僕の名前は白井聖斗と言います」
ニコッ、と爽やかに笑う彼を見てら俺は、
「誰だよっ!!」
想像とは全然違う人物の登場に思わず叫んでしまった俺に、クラス中の視線が突き刺さった。
女子たちの反応から、この後に転校生への質問マシンガンが発射されると察知したのか、担任は白井を紹介して早々にHRを終わらせると、すぐに教室から出て行った。
そして案の定、少し離れた白井の席には黄色い声を上げながら囲む女子たちの姿があった。柔らかな物腰の白井は周りから降りかかる質問に爽やかスマイルで答えていた。
「ねぇねぇ、白井君って外国人だよね? なんで思いっきり和名なの?」
「ははっ、まあこの見た目だから勘違いしちゃうよね? 実は僕は産まれも育ちも日本なんだよ、もちろん国籍もね。ただ祖父がこういう見た目でね、メンデルの法則っていうのかな」
「へぇ〜、白井君って顔だけじゃなくて頭もいいのね〜♪」
また、女子がキャーキャー騒ぎ出す。
そんな光景を、俺は羨まけしからん!! と思いながら負の念を送っていた。
ちっ、さり気なく勉強できるアピールしやがって。俺だってメンデルのなんとかをこないだ理科で習ったよ。あれだろ、豆のしわがどうのこうのってヤツ。そんだけで女子たちからモテやがって! 結局、顔じゃねぇか!
「白井君って、彼女はいるの? それとも募集中?」
「お恥ずかしながら募集中かな。今まで転校が多いせいか彼女がいたことがなくてね。出来れば欲しいものだよ」
「え!? 本当に!? 私、立候補してもいいかな!?」
「ずるいわよ、私! 絶対私!」
「何をこのブスたちは騒いでいるのかしら? 私以外に白井様に釣り合う高貴な美女がいまして?」
「ちょっと、何勝手にキャラ作りしてんのよ!」
私だ私だ、と女子たちが彼女候補権を巡って掴み合いの乱闘が始まった。
そんな彼女らを、白井は相変わらずの爽やかスマイルで眺めていた。
白井聖斗がこのクラスに転校してきて一週間が経った。
「なあ、金剛」
「なんだ?」
「白井の周り、女子がいなくなったな」
転校初日とは打って変わって、今の彼の周りには女子が一人もいなかった。
「お前が男を気にするなんて珍しいな。もしかして、いつになっても彼女が出来ないから恋人ならもうこの際、男でもいいと? やめておけ、日本は未だにゲイに対する偏見があるんだからよ」
「バーカ、なに勝手に変な解釈してんだよ。そうじゃなくて、あんなに転校初日はモテていたのに、今だと……ほら」
白井が爽やかスマイルで近くの女子に声を掛けようとした時、その女子は彼とは目を合わせないように下を向きながら教室から出て行ってしまった。
白井は爽やかスマイルのまま、困ったような顔をしながら自分の席へと戻って行く。その光景を金剛に見せた俺は、
「な? 転校初日から一週間経ったんだから人気が落ち着くのはわかるけど、だからと言って避けることはないだろ?」
あんな柔らかな物腰の爽やかスマイルのイケメンが女子たちから避けられるって、相当なことだ。この一週間で何かがあったに違いない。
「確かに気になるよな……よし、少し調べてみるよ」
「よっ! 探偵金剛!」
「プロレスラーだ。探偵はファミレスの店長の後だよ」
満更でもない表情の金剛は、白井の席へと足を運んで行った。
「…………じゃあ、今のうちにラグビー部に入って、その後に柔道始めなくちゃ駄目じゃね?」
結局、最後はプロレスラーに戻るんだな……。
「こうやって話すのは初めてですね。こんにちは。僕は白井聖斗と言います」
「……金剛、これはどういうことだ?」
昼休み。俺は金剛、白井と共に机を囲んでいた。
「これって?」
「この状況だよ!」
「どの状況だよ!」
「逆ギレしてんじゃねーよ! いい加減治せよそのクソマイペースへっぽこエセ探偵が!!」
「俺はプロレスラーだ!」
「金稼いでねーくせにプロを名乗ってんじゃねーよ! いい加減気付け!」
ったくよ、それにしてもどこの世界に人探しでもないのに調査対象と依頼人を直に会わせる探偵がいるんだよ! それともあれか? 謎は謎を呼ぶって言うし、なら直で話した方が早いってことなのか?
まあ、こうなってしまったものはしようがないと、俺は考えるのをやめて話を進めることにした。
「俺は円戸津だ。知っているかもしれないが、こっちの筋肉ダルマが金剛力ってんだ」
「はい、よろしくお願いします。僕は白井聖斗と言います」
女子たちに避けられるようになった現在でも、爽やかスマイルは相変わらず健在だった。
「白井、今から何個か質問してもいいか? 別に答えたくなかったら答えなくてもいいから」
「えぇ、いいですよ。なんでしょうか?」
即答だった。転校が多いと言っていたし、質問慣れしているんか?
俺は単刀直入に聞く。
「なんでこの一週間で全くモテなくなったんだ?」
白井のことが気になってから少し観察してみたが、誰とでも分け隔てなく柔らかな物腰に爽やかスマイルで話す彼には嫌われるような点は見られなかった(単に俺が気付かなかっただけかもしれないが)。本当に女子に避けられている理由が分からない、野郎とは普通に話せてんだけどなあ……。
俺が聞くやいなや、白井は困ったように頭を掻き始めた。
「いや〜、お恥ずかしい話、僕はどうにも嘘をつけない性格でして……どうしても本当のことして言えないんです」
その言葉に嘘はないようで、本当に恥ずかしがっているのか、元々色白の白井の顔が赤く染まっていくのは、一瞬で見て取れた。
白井は続ける。
「だからですかね、彼女たちからの質問にも正直に答えていたら嫌われてしまったんです」
「まあ……嘘つきよりはいいんじゃないか?」
「おい、なんでこっちを見るんだよ。俺はれっきとしたプロレスラーだぞ」
「だから金を稼いだこともないやつがプロを名乗るなってぇの」
自慢の筋肉をボディビルダーのやるようなポーズを決める金剛を、俺は横目で睨む。
金剛はポーズを崩すことなく言う。
「でも正直者だからって、それだけで女子全員嫌われるか? もちろん女子にもグループが存在するよ。そのグループに嫌われるってだけなら、わからんでもないが、クラス中の女子全員ってヤバくね?」
まあ、確かにそれもそうだなあ……。
「なあ白井、女子たちからの質問ってどんなのだ?」
「はい、例えば……趣味とか聞かれましたね」
「趣味? もしかしてドン引きされるようなことでも言ったのか?」
「自分の切った爪を瓶に入れて集めるとかよ」
「いいえ、そんな吉良吉影みたいな趣味は持っていませんよ。僕の趣味は昼寝です」
昼寝…………まあ、引かれるような趣味じゃあないなあ。じゃあ、
「他には?」
「はい、彼女はいるのかいないのか、ということを聞かれました」
「ああ、それは聞いたな……他には?」
一週間前に、その答えでクラス中の女子たちの乱闘騒ぎが起こってしまったのは記憶に新しい。
「えぇ〜他にですか…………」
白井は少し考えたような仕草をする。
ここまで白井と話して、こいつのことが少しわかった。
こいつはただのイケメン転校生だ。周りの女子たちに距離を置かれているのだって、正直者なのだから、よく青春ラブコメにあるすれ違いの可能性だって十分にある。
よく考えれば、見た目が少し日本人と違うだけで、何か裏があると勘ぐっていた自分が嫌になる。もしかして、白井の転校が多いのって、実はこのすれ違いのせいか? このすれ違いのせいでクラスにいづらくなって転校を繰り返していた? こんな純粋で正直者の白井がそんな過去を持っていたと思うと、急に目頭が熱くなるのを感じた。そろそろ、この尋問じみた時間を終わらそう。そして、こいつと友達になるんだ。
「あっ、ありましたありました」
俺が決意を固めると、白井が長く閉じていた口を開く。
「どんな質問?」
「はい、好みの女性のタイプを聞かれました」
「そうかそうか、好みのタイプかあ」
「うん? どうしたんだよ円戸、その穏やか〜な口調はよ?」
「うんうん、嘘つき筋肉ダルマは黙っていろよお。それで白井、一体なんて答えたんだい?」
「はい、歳上だと答えました。より正確に言いますと、巨乳でエロくてドMで僕の命令ならどんなことでも躊躇わずに実行する奴隷願望を持つ、できればですけど、人妻だと答えました」
…………、
…………、
…………、
「「あっ、それだわ」」