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なんか、バレた

 そうそう。あのパーティーの後、二人で生徒会室に帰った時。


「ふ、ふふ……ふははははっ! あー楽しかった! 舞台女優になった気分っ」

「あれ程まで泣き真似が達者だとは知りませんでした」

「昔密かに練習してたのよね。ほら、ロミオとジュリエットの舞台を見に行った事があったでしょう?」

「ああ、ありましたね。六つ位の頃でしたか」

 愛し合う二人の悲劇を描いた物語の舞台。それを両家で見に行った時、わたしは女優の演技に酷く感銘を受けたのだ。

 それからというもの、いついかなる時にも咄嗟に泣きの演技が出来るよう特訓した。習得しても特に披露の場は無かったけど。


「まあ昔取った杵柄というやつよ。で? あんな感じでよかったの?」

 半目でルークを見やると、奴は仄かに口の片端を持ち上げた。

「ええ。やりすぎ……いえ、十分すぎる程にね。あれで地の底だった現生徒会の評判も回復したでしょう」

 やりすぎって聞こえたけど。

 やれって言ったから本気で遊んだのに。真に遺憾だ。


 しかし、成程確かに。

 殿下ほか役員たちのせいで、他の生徒たちや教員たちにとって『現生徒会役員』という肩書きの印象は最悪だ。支持を得られないのに、生徒代表の顔なんてしようものなら、より反発を生む。

 自分がやらかしたのなら反省しようがあるけど、ルークには何の罪もないのだから。


「そもそも殿下の行いを止められれば良かったのでしょうが。あれ程までにもどかしい事はありませんでしたよ」

「何か変な力でも働いてたみたいだったわよね。周りの忠告も取りつく島もなくて……意見する者はみんな敵。みたいな感じだったし」

「……それなのですが」

 ルークは珍しく神妙な顔をつくり眼鏡の縁を指で押し上げた。

「実は、彼女……レイチェル・カクリスタンと初めて会わされた時……」

 会わされたんかい。多分殿下経由だろうな。

「妙な吸引力を感じたんですよね。一瞬の事だったのであれ以降気にも留めなかったのですが、今思えば妙な力が働いたと言うのもあながち……」

 それが本当の事なら大変じゃない。

 そういえば、レイチェルちゃんは別室に連れて行かれて以降どうしたのだろうか。

「まさか、『良い男はみんなあたしを好きになーれ』的な魔法を使ったとでも?」


「ほぼその通りだ」

 突然聞こえた、凛として威厳のある声。

 密室であったはずの生徒会室にいないはずのお方が。

 わたしとルークの死角に立って、壁を背に腕を組んで、尊大な笑顔を浮かべておられる――。


「王太子殿下……」

 一瞬目を見開いて、咎めるような視線を作るルーク。わたしはというと、あまりの事に声が出せない。

 あれ、この人いつからここにいた?

「いくら王太子殿下といえども、婚約者同士の空間に無言で入ってこられるのはいただけませんね」

「いや、甘い空気になろうものなら即退散するつもりだったぞ」

 殿下はにやにやとわたしたち、主にわたしを見て目を細めた。

 殿下がいると分かった瞬間、わたしは日々培った仮面を張り付ける術を以って、表情を取り繕ったのだが。

「知らなかったよ。あの見る者全てを魅了する人形姫がこんなにも愉快な女人だったとは」

 わたしは軽く絶望的な気分で問う。

「王太子殿下。いつからこの部屋にいらしたのです」

 まだだ。まだ希望を捨ててはいけない。

「舞台女優になった気分だと高笑いしていた時からかな」

 最初からかい! 分かってたけど!

 おお、神よ。

 わたしは胸の前で祈りの形をとって天井を見上げた。気を抜きすぎていました。

「はぁ……。迂闊でした」

 現実逃避をするわたしとは裏腹に、ルークは非常に苦い顔をしてわたしを見ている。いや、少しは誤魔化すとかして助けてよ。

「人が悪いな。ルーク・テンペジア君。もう少し早く知りたかったものだ……十年程前にな」

「お戯れを」

 冷静になった氷の貴公子殿は何をそんなに警戒しているのか。

 というか十年前というと、わたしが王太子殿下と弟殿下の婚約者候補から外れた時期。そしてテンペジア家との間に、契約が成された頃だ。

 ルークとの婚約という。


 わたしは冷や汗を浮かべる。

 わたしが無表情の演技をしてたのも、何か――あまり覚えてないけど、それ関連が理由だったような。

「ああ、勿体ない事をしたものだ。まさかあの見る者全てを魅了する人形姫が……」

「ちょっと待って下さい。何ですかその妙な枕詞は。レイチェルちゃんじゃあるまいし」

 わたしはもう面倒になって仮面を外した。

 殿下は綺麗に口元に弧を描く。


「そうそう。カクリスタン嬢は瞳力を持っていたと判明した」

 殿下は手近な椅子を引き、尊大に座る。長いおみ足を組んで。しかし聞き慣れない言葉にわたしもルークも黙って続きを促す。

「眼球に呪いだか祝福だか知らないが、人を惹きつける力がある事がわかった。先程君が話した体験通り、俺もあの一瞬カクリスタン嬢に引き寄せられる感覚に陥った」

 恐らく先程のパーティーでの事だろう。

「効果が強く出る者と出ない者、出ても効果の薄い者がいるようですが」

 ルークも僅かとはいえ効果が現れた側だ。わたしはというと全くそんな事はなく。

「恐らく目を合わせる事が鍵となり、無意識下で相手を選別しているという仮定が出た。効果の差が顕著なのは謎だがこれから調べる」

 成程。

 確かに『良い男はみんなあたしを好きになーれ』的な魔法だ。

「カクリスタン嬢は拘束の上王城預かりになった。一応君たちにも報告をと思ってね」

「それはお手を煩わせてしまい恐縮です。ではもうお帰りになられては?」

「ちょっとルーク……」

 特に親しい仲、という訳ではなかった筈だ。ルークの不敬ともとれる態度に冷や冷やする。

「まあそう邪険にするな。仲良くしようじゃないか、なあ、リーオロッサ嬢?」

「へ、はい。殿下の御心のままに」

「硬いなあ。先程のように素を見せてくれ」

 さり気なさを装いわたしの手を取ろうとする王太子殿下を、こちらもさり気なく避ける。


 うわあ……兄弟だなぁ。

 なんて、不敬な事を考えてしまった。

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