学園 その3
間隔空きまくりましたが大丈夫です。忘れていません。
「フォワせんせー。ノナと何話してたんだー?」
ようやくノナに解放されたカノンは、自分そっちのけで進められていた大人の魅力談義、もといカノンに大人の下着を履かせて欲しい兄の願望を叶えましょうキャンペーンの事を聞いてくる。
「お金に関する大人の話さ。君にはあまり関係ないかな」
「とりあえず、今週末に一緒にお出かけする事が決まりましたわ。お金はノナ先生が出してくださるそうですわよ」
「そうなのかー。フォワせんせーとお出かけかー。一体どんな事を教えてくれるのかなー」
「きっと素晴らしい事さ。フォワ先生が教えてカノンがどう変化するのか楽しみだよ」
はたから聞けば幾分かまともに聞こえる会話ではあるが、ノナのカノンに対する感情を知っていれば、意味合いがまた違ってくる。
「それじゃあ、僕は次の授業の準備をしてくるよ。カノン、君のクラスの授業だからしっかり国語の準備をしておいておくれよ」
そう言ってスーツを翻し、どこぞに姿を消したノナの居た空間には、ほのかに香水の香りだけが漂うのだった。
*
「”枕草子”――、流石の君達でもタイトルくらいは聞いた事があるよねぇ?」
ヘーゼルカラーの瞳を生徒達に向け、冷たさを感じさせるように目を細めてノナはどこか刺々しさを声音に含めて言う。
「これから僕が板書していくから……、それを現代文に訳していってもらうからね」
そう言って教科書を片手に持ちながら黒板に板書する後ろ姿に、羨望の眼差しを向ける小さな存在が一つ。
他の先生の授業風景を勉強し、自分の授業に活かそうと、手が空いている時には生徒達に混ざり授業を受ける事を日課としているツヅラオであった。
ツヅラオ――翡翠色の髪と瞳、そして同じく翡翠色の狐耳と大きく二又に分かれた尻尾を持つ、下手すると生徒達よりも幼い存在の数学教師である。
その小さい身長ゆえに、黒板の上まで手が届かず、専用の踏み台が各教室に置かれている何とも可愛らしい存在である。
生徒達からの人気も非常に高く、休み時間や昼休みには生徒に囲まれ、よくモフられている。
彼がノートに書く内容はもちろん授業内容ではなく、自分が授業中に活かせそうな所である。
もちろんノナもそれを分かっている。分かってはいるが、
「では、ツヅラオ先生。現代語訳をお願いできますかね?」
「ふぇっ!? 僕なのです!?」
まさか当てられるとは思ってなかったツヅラオは、つい素っ頓狂な声を上げてしまう。
それでも一呼吸入れて落ち着きを取り戻し、現代語訳を書きに黒板へと向かい、解答を板書しようとするが
――。
そもそも黒板の上に手が届かない為に板書が出来ず、背伸びをし、プルプル震える姿を見て……。
「仕方がないね。届かないみたいだし、僕が手を貸してあげるよ」
とツヅラオを抱き抱え、黒板の上まで届くように持ち上げたノナは――ツヅラオの尻尾にビンタをされていた。
目線が上がり嬉しいのか元気よく、勢いよく振られる尻尾は当然ノナの顔面を叩き続けるわけで……。
それを見てそれを見てカノンが一人肩を震わせていた。
しっかりと現代語訳を板書したツヅラオは自分の席に戻り、何とか先生としての面子を保った。と胸を撫で下ろすのだが、果たしてノナに持ち上げられながら板書する様に面子はあったのかは謎である。
明らかにツヅラオの尻尾ビンタのせいで不機嫌になったノナは、いつもよりも乱暴に授業を進め始める。
節々に吐く毒も一層刺々しさが増し、生徒達は震えあがっているのだが、不機嫌にした本人はどうやら気が付いていない様子。
何もそこまで言わなくても、と思うような嫌味をノナが口にした時にツヅラオの隣から静かな声が聞こえて来た。
「全く、あの嫌味が無ければ尊敬に値する授業じゃというのに」
いつの間にそこにいたのか、見た目麗しい美少女が頬杖をつきながらノナの授業を眺めていた。
思わず横を向き、その存在に気が付いたツヅラオは思わず声を上げそうになるが、
「おっと、授業中じゃ。静かにな」
と口を塞がれてしまう。落ち着いたか? と聞かれ、頷いたところでようやく手を離して貰った。
「が、学園長!? どうしたのです?」
「別に? 暇つぶしに授業を見て回って居るだけじゃ。何ぞ変か?」
「い、いえ。驚いただけなのです」
どうやら気まぐれで授業を覗いているらしいマオに向け、
「そこ、うるさい」
とノナから轟音を上げて投げられたチョークは、
「ふべらっ!?」
見事にマオの額に命中し、思い切り頭を仰け反らせた。
次回予告としましてダンジョン課本編で書けなかったマオ様大暴れ回……と思っていたのですが。
どうもノナも大概に強いとの事なので元ラスボス同士の戦いになるようです。
次回がいつ、とは明言出来ませんが、お待ちいただけると幸いです。