縁日 後編
「神楽様の言ってた通り、マデラ様が達成したです! 20匹以上の達成景品は、ここの屋台のフリーチケットです!」
ピョンコピョンコと跳ねながら、チケットを手渡してくれる。
姉御は最初からこれ使わせる目的だったのでしょうか?
マオ様が興味を持つ様な出店にわざわざ景品などを設置して、このような物を用意しているのはそうとしか思えないのですが。
「そういえばマデラよ。先の食い物は全てマデラでツケにしてあるぞ? それで払ってくるのじゃ」
「あ、はい。ではちょっと行って来ます」
マオ様からさらっととんでもない事を言われた気がしますが、「勇者育てろ」なんて要求より酷い無茶振りなんて思いつきませんし、まだまだ可愛いものです。
チケットを見せれば納得したように頷いて、さらにはその屋台の食べ物を一つ手渡してくれます。
そういえばツヅラオで見慣れていますが、妖狐はみな子供のような見た目なのがデフォルトなのでしょうか?
後で姉御にでも聞いておきましょう。
先ほどの綿菓子なるお菓子はその場で即完食し、ついでにおかわりを貰ってマオ様の元へ。
先程の場所にはいませんし、一体どちらへ行かれたのでしょうか?
辺りを見渡しても姿は……。あぁ、発見しました。
建物の一つ、縁側に腰を降ろして姉御達と談笑していますね。
「戻りました」
「おー、スマンな。神楽が酒を用意してくれとるぞ」
「魔王さんに振り回され取ったんか。お酒も、清酒とエールと用意しとるよ。どっちがええ?」
「俺はエール。まだまだ飲み足りねー」
「私もとりあえずエールを」
はいはい。待っとりや。と姉御が席を立ち、お酒を持って来ていただけるようです。
それはそうと……。
「マオ様は何を食べておられるので?」
「クラーケン焼きじゃ。甘辛いタレが絶妙じゃぞ」
「俺が今朝仕留めて来た奴だからな。鮮度がちげぇ」
本当にクラーケンを狩りに行ってたのですかミヤジさんは。
――その情熱はどこからくるのでしょうか?
まぁ話題になったクラーケン焼きをいただきましょう。丁度姉御が戻ってきましたし。
一口大にカットされ、串に刺さっているその切り身を一つ口に放り込めば。
柔らかい食感に続いて旨味のエキスが溢れて、その後から主張する甘辛いタレと見事に調和します。
身も噛み切れないということは無く、心地良い噛み応えの後はすんなりと喉を通りますね。
飲み込んだ直後にエールを飲むと……あぁ。最高に合いますね。素晴らしいです。
「マデラよ、次はこれに付けて食べてみるのじゃ」
「これは?」
「一味マヨだ。異世界の調味料。それも魔性のな」
何でしょう、変な脅し文句を言われたのですが。気になりますし、付けていただきますけど。
一味マヨなるものをクラーケンの切り身に少し付けて、と。
ふむ。なるほど。…………。
思わず無言で飲み込んで、そのままエールを傾けて。
エールを空になるまで飲んでため息一つ。
ふぅ。……これは――本当に魔性の調味料ですね。
もちろんクラーケン焼き単体でも美味しいのですが、この一味マヨを付けて食べるともうそれ無しでは物足りなくなります。
なによりエールに合いすぎます。
そのままクラーケン焼きと一味マヨを肴にエールを飲み続け、クラーケン焼きが無くなったことで次の食べ物へ。
これは……、鳥を油で揚げたものと説明されましたが何かつけて食べるのが正解なのでしょうか。
「唐揚げにはレモンじゃ。あとは塩で十分」
「下味は付けとるよ。レモンだけ絞ればええんやない?」
「お前らレモン勢かよ。……俺のはレモンかけずに分けといてくれ」
ミヤジさんの分を取り分け、姉御がレモンを絞ってくれたので一つをつまんで口へ。
口に入れた瞬間の柑橘系特有の酸味。そして未だ温かい唐揚げに歯を入れれば、そこから溢れてくる肉汁。
そして言っていた通りしっかりと下味の付けられた肉の旨味。
飲み込んだ後に口に残る油を流す様にエールを喉を鳴らして飲めば。
あぁ、幸せ。なんとも素晴らしい料理です。美味しくなるとどうも語彙力が無くなりますね。
本当に美味しいからですけど。
「うっとりした顔しとるの、マデラ。分からんでもないが。神楽、清酒おかわり」
「よう飲みはるね、魔王さんは。エールも飲んだらええのに」
「苦いの苦手じゃ。その点神楽の清酒は飲みやすくて進む進む」
「嬉しい感想おおきにな。マデラも清酒はどうや?」
「もう少しエールで。えぇ、この唐揚げが無くなるまでは……」
「すっかり油分とエールの相性に夢中じゃな。残り食べてよいぞ」
「? マオ様はもう食べないのですか?」
「わしはこれからこれと格闘じゃ」
そういってマオ様が取り出したのは……。
リンゴ飴……ですか。
「縁日と言えばわしはこれじゃ。~~~♪」
ご機嫌に鼻歌を歌いながらリンゴ飴を舐めるマオ様を視界の端に移し。
唐揚げとエールを平らげた後に今度は鳥を串焼きにしたものを姉御お手製の清酒で楽しみながら。
久々のゆったりとした休息を満喫するのであった。