鎖の付いた鳩
※2009年執筆
あるところに鳩がたくさんいました。
そこは真っ暗な所でした。
鳩は成長し大人になると、青く広い空を目指して飛び立ちます。
しかし、時折飛び立てない鳩がいるのです。
その鳩は真っ白な色をしていて、みんなと少し違いました。
もう一つ違うところといえば
足枷と鎖が足に巻き付いているのです。
みんなが外そうとしても鍵がなく、がっちりと鳩の足を掴んだ枷は外れませんでした。
一番最初の鎖の鳩は、自分の足を切り離して青空を目指して飛びました。
暗闇の孤独に耐えきれず、先に飛んだ仲間を羨んで。
しかし、血塗れで千切れてしまった足ではバランスを得られず
青空を見る前に、再び闇に落ちて死んでしまいました。
二番目の鎖の鳩は、鎖が錆びて壊れるのをただ待ちました。
そうすれば空を飛べると信じてただ待ちました。
鳩の信じた通り、鎖は錆びて鳩の足から外れました。
鳩は喜んで飛び立ちました。
しかし、鎖に繋がれた年月はあまりにも長すぎました。
一人寂しく老いたその身体では、青空まで辿り着けませんでした。
三番目の鳩は、闇の住人になりました。
空を掴むだけが幸せじゃないと、飛び立つことを諦めました。
諦めてしまった鳩は、闇に引きずられてしまい
鎖と共に、消えてしまいました。
四番目の鳩には友達がいました。
友達の鳩は、空を飛び、青空のことを鎖の鳩へと伝えました。
しかし、鎖の鳩はいつしか友達の鳩が憎くなりました。
自分は空を飛べないのに、何故仲間は飛ぶことを許されたのかと
恨んで恨んで
友達の鳩を殺してしまいました。
それと共に鎖は外れましたが、飛び立つ空は暗闇ばかり。
鎖の鳩は青空に浮かぶ鳩達を、ただ殺していきました。
そしてまた、新しく鎖の鳩が生まれました。
五番目の鳩は、生まれたときから全てを知っていました。
今までの鎖の鳩がどうなったか、この鎖がいったい何なのか。
全てを知っていたから飛び立つことができませんでした。
それでも五番目の鳩は空を飛んでみたかったのです。
時が経ち、鳩達は大人になりました。
そろそろ周りの皆は飛び立つ頃です。
五番目の鳩は焦りました。
早く決断をせねばと、思いました。
その時、隣にいた鳩が鎖の鳩に聞きました。
『どうして君には鎖がついているの?』
鎖の鳩は答えました。
『これはこの暗闇が寂しがっているからだよ。
誰か一人だけを、ここに留まらせておきたいから、それに私が選ばれたんだ』
隣の鳩は聞きました。
『君はこの暗闇から出たくないの?』
鎖の鳩は答えました。
『過去に出ようとした者はみんな、悲惨な末路を辿るから』
そうして、四番目までの鳩の話を聞かせました。
隣の鳩は聞きました。
『どうして僕らが生まれる前のことを知ってるの?』
鎖の鳩は、少し間を開けて答えました。
『そうだね。それは私が考えただけの選べる未来かもしれない』
鎖の鳩は、問いました。
『もし、君ならどうする?
掴みたい夢があるのに、飛び立つことができないの』
隣の鳩は言いました。
『じゃあ、君が飛び立つまで僕がここにいてあげる。
飛び立つときも、飛び立ってからも、僕が君を支えよう。
そうしたら、君も、この闇も、寂しくない』
そうして、周りの鳩が飛び立つ中、二匹の鳩は飛び立たずに
ただ二人で時を過ごしました。
それはとても楽しい時間でした。
闇はもう寂しくなんてありませんでした。
鎖が錆びて切れたとき、二人はたくさん飛べました。
とても楽しく、広い青空を最期の時まで二人で飛んだのでした。
END