第八話
「言うわ」
げらっと大鮫どもは笑った。
「我に力ありとすれば、なぜその力をもって我が望みをかなえようとせぬのか」
「……そなたら滓どもにわかることではない」
「なんと?」
「敢えて言おう、滓であると」
「う、うぬ、我らを滓とそしるか」
「金毘羅さまのお心を察することのできぬ者は、滓と言われてもしかたないことじゃ」
「言わせておけば!」
隣の砂介がびくんと身体を震わせる。通はじっと動く絵を見据えている。
「ともあれ、悪い事は言わぬ。力に奢るのをやめ、我らと共存共栄を目指さぬか。さすれば……」
「否と言っておろうッ!」
大鮫、一番大きい先頭の大鮫が吠えた。その叫びは大極殿の大広間中にも轟きわたり、思わず耳をふさぐものまであった。
通は目を見開き大鮫どもを凝視している。
「しかしながら、我ら力の信奉者として金毘羅を慕ってもいる。地の底に眠る金毘羅が目覚め、姿を現せば、乙姫の進言を聞き入れてもよいぞ」
「それはまことか」
「まことじゃ。金毘羅に誓おう」
先頭の大鮫、それは大鮫の頭はそう言う。特に尖った鼻先が赤いのが印象的だった。
「そうそう、あれは赤鼻と呼ばれています。今まで手にかけた者たちの血で染まったそうです」
砂介がそう説明し。通は静かに頷く。
乙姫さまの瞳に、かすかながら希望の光が宿った。
「よかろう。不本意であるが、金毘羅さまにお目覚めいただく」
「言うたな。明後日にまた参る、その時に金毘羅に会わせよ。それができぬのならば、有無を言わさず我らが力をもって竜宮城を打ち滅ぼしてくれる」
かっはっは! と、大鮫の頭・赤鼻は笑い声を響かせながら、手下どもを引き連れて去ってゆく。
壁の動く絵はそこで終わり、ふっと消えてなくなった。
乙姫さまはこちらに向き直り、
「以上じゃ」
と言い。通は静かに頷く。
が、それから、ふと気になることがあって問う。
「金毘羅さまとは、私が知る金毘羅さまなのでしょうか」
「左様、またの名を竜神さまと」
「私の世界も金毘羅さまの信仰があります。その私の世界と、この異界……、竜宮城は、まことつながっているのですか」
「我らの目から見ればそなたの世界が異界なのじゃが、聞いたことはないか? 竜宮城の名を、そして浦島太郎の名を」
「ありますとも」
「その浦島太郎が来たのが、この竜宮城じゃ」
「……ッ!」
通絶句。
浦島太郎は言わずと知れたおとぎ話であるが、その伝説は全国各地にあり。丸亀藩領の荘内半島にも浦島太郎伝説がある。