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異界日記  作者: 赤城康彦
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第四話

「まことにうわさに聞く天平の昔のような、平城京のような」

「天平の昔ですか。そなたから見れば、そう、古いように見えるでしょう」

 ひときわ豪奢な、深紫の朝服をまとう若い女性が声をかける。同時に周囲の人たちが一斉にひざまずいて。砂介も腹を地面につけて平伏する。

「ああ、申し訳ありません。悪気は……」

「頭が高い。このお方をどなたと心得る」

 平伏しながら誰かが言う。

「この竜宮城をお治めになる、乙姫さまなるぞ」

「……?」

 通にはなんのことだかさっぱり理解できない。

 海に落ちて、もはやこれまでかと観念したら。なぜかスナメリの背中におり。それにここまで運ばれて。

 ここは竜宮城で、目の前の女性は乙姫さまであるという。

 正気の沙汰ではない。

(私は悪い夢でも見ているのでしょうか)

「夢を見ているような顔をしていますね。しかし、これは夢ではなく、まことのことです」

 通の気持ちを見透かしたように、乙姫さまなる女性は微笑みながら言う。

 その微笑みは初春のような、ほっとするような慈悲深さをたたえて。恐慌をきたし、叫びそうなのを堪える通の心にそっと触れる。

「はあ」

 足から力が抜けて、思わずへたり込みそうになり。そばの女性が慌てて駆け寄り手を差し伸べて支える。

「これはいけません。私の背中にどうぞ」

 スナメリの砂介は近くに来て、腹を地につけ背に乗るよううながす。

「……。ごめんなさいね」

 厚意に甘えて砂介の背に腰を掛ける。そうしている間にもタコやエビ、イカ、ニシガイにカキ、ハマチとマナガツオ、ナシフグにビングシといった魚介類がふわりふわりと宙を泳いでいる。

 しかしここは海の中ではない。息も確かにできている。そよ風が吹いて頬をなでる。その風に乗るかのように、魚介類が宙を泳ぐ。人々はそれが当たり前のようで、何とも思わずに、見向きもしない。

 たまに間抜けな魚がこつんと人に当たるが、気まずそうに慌てて逃げ。人はそれを微笑んで見送る。

 なんとも摩訶不思議な光景だ。これが夢でなくて何であろう。

「ここで立ち話をするわけにもならぬでしょうから、内裏だいりへまいりましょう」

「内裏!」

 仰天し、思わず大声が出てしまい。砂介もつられて「わっ」と声を出し、身体を揺らし。通はあやうくこけそうになった。

 周囲を見れば、何度となく平城京のようなと言ってしまうだけあり。唐風の建物や五重塔も見えるが。今いる、朱雀門から通る広い大通りの向こうに宮殿らしき建物が見える。大極殿だいごくでんといおうか。宮城の中にまた宮城があるようなおもむきがあった。

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