第十九話
金毘羅船船
追風に 帆かけて
シュラシュシュシュ
回れば 四国は
讃州 那珂の郡
象頭山 金毘羅大権現
いちど まわれば
……♪
通は気が乗るにまかせて金毘羅船船を張りのある声で歌えば、乙姫さまたちも唱和し。
皆で意気投合しての、大合唱となった。
「我らは竜宮城じゃ!」
乙姫さまは感極まってそう叫んで、砂介やお琴に赤鼻までもが、
「我らは竜宮城じゃ!」
と叫んだ。
「勝って金毘羅船船を歌うのは気分がいいわ」
通はご機嫌であった。
結局最後まで竜宮城の面々に押されるがままにごり押しをされたような気もするが。
試練を克服し、危機も去って、大団円である。
まことにめでたい。
「通よ、そなたの恩は忘れぬ。……元の世界に帰してやろう」
「え、帰していただけるのですか」
「そうじゃ」
「ありがとうございます」
竜宮城の居心地も悪くないが、やはり自分には自分の世界がある。
砂介がそばまで来て、どうぞと言う。
たすきをほどいて、女官にわたし。もうひとりの女官に大うちわをわたす。
乙姫さまも近くに来て、優しく抱擁をした。
「達者でな」
「乙姫さまも、皆さまも」
名残惜しそうに抱擁し合って、離れて、通は砂介の背に、足をそろえ、上品に腰掛けるようにして乗った。
ふわりと浮かんで、ゆるゆるながら空へと飛び立つ。
「さようなら皆さん、お達者で~」
手を振れば、竜宮城の人々も手を振り返す。
砂介の背は居心地がとてもよく、緊張が解けたのもあって、とろんと眠気を覚えてしまった。
「ああ、もうだめ」
睡魔の誘惑に抗いきれず、通は砂介の背の上ですやすやと眠りについてしまい。砂介はくすりと微笑む。
それから――。
「わ、ぷッ!」
息が苦しくなり、目を覚ませばなんと自分は海で溺れて。手をばたつかせているではないか。
その手を急に掴まれ、強く引っ張られて、小舟に引っ張り上げられる。
「しっかりせい!」
「あ、私は」
そうだ、船から海に落ちてしまったのだ。
幸い近くに漁師の小舟があり、急いで駆け寄り通を助けてくれた。その近くに丸亀藩の船が来て、養性院や侍女仲間たちが顔をのぞかせ。さらに水夫が縄を垂らして「掴まれ」と言われたとおり掴まって、引っ張り上げてもらった。
「よかった、よかった」
養性院や侍女仲間たちは安堵の表情で、へたりこみながらも微笑む通の無事を喜んだ。
その様を遠くから眺める目があった。スナメリの砂介であった。
うんうんと頷いて、海の中にもぐりざまに尾ひれを出し。手を振るように左右に振って。
海の中へ中へと潜っていった。




