第十七話
「や、やや、金毘羅! まことに出おったのか!」
「できれば地の底で永久に眠りたかったのだが……」
「小癪な!」
大鮫ども、赤鼻も一瞬驚いたが、ここまで来ては後に引けぬと、めげずに吠え猛る。
「我らの牙で噛み砕いてくれるッ!」
大鮫どもは大口を開けて金毘羅に迫った。
「大うちわを扇げ! 金毘羅さまの援護じゃ!」
「は、はい。ええ~い!」
大うちわを扇げば、風が巻き起こりそれが竜巻となって金毘羅を包み込む。
その目が光り、口が開けられたと思えば。やはり竜として鋭い牙が整然と並ぶその口から、真っ赤な火炎が放たれた。
火炎は竜巻と合わさって火炎竜巻となって大鮫に向かい、あっという間に包み込んだ。
「むッ!」
「うおお!」
火炎竜巻に包まれた大鮫どもは熱さに悶え、突風に飛ばされて。四方八方に飛び散らされ。
「これはたまらん」
と尾ひれをばたばたさせて逃げてゆく。
「おお、鮫どもが逃げてゆくぞ!」
竜宮城の人々や魚介類たちは逃げ去る大鮫どもを見送り、歓喜の声を上げる。
「まだじゃ、油断するな!」
神通陣の中で大うちわをかついでほっとひと息つこうとした通を乙姫さまは叱咤する。
見れば赤鼻ただ一頭だけが残り、金毘羅と対峙している。
「なんと」
「さすが大鮫どもの頭領なだけはあるものじゃ。火炎竜巻をたくみにかわしおった」
赤鼻は牙をかみ合わせ歯ぎしりする。
「さすが金毘羅、その力衰えておらぬか」
「悪い事は言わぬ。改心し共に生きようぞ」
「黙れ!」
赤鼻は金毘羅さまに迫った。
「金毘羅はこの世界の絶対者。さすがの俺様もかなわぬ。しかし、せめて一矢報いてくれん!」
赤鼻は死を覚悟して金毘羅に迫っていたのだ。それを見て通も咄嗟に大うちわを扇げば。
風が起こって竜巻となり金毘羅を包み、再び火炎竜巻が放たれた。
火炎竜巻は赤鼻を包み込むが、それでも勢いは止まらず金毘羅さまに迫るが。火炎の勢い強くこのままでは焼け死んでしまう。
「……哀れな」
金毘羅の目に一筋の涙が光った。その涙が風に運ばれ、火炎竜巻に包まれた赤鼻のもとまで飛んだ。
涙は大きな水の玉となって。なんと赤鼻を包む火炎竜巻を消し去ったではないか。それとともに、赤鼻はなぜか勢い衰え、空から落ちてくる。
「危ない!」
その真下にいた人々や魚介類は慌てて逃げるが、そこに現れたのは砂介とお琴。二頭身を寄り添わせて、背で落下する赤鼻を受け止め。静かにおろした。
乙姫さまと金毘羅さまはそれをじっと見据え。通はきょとんと見つめていた。




