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異界日記  作者: 赤城康彦
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第十四話

 通はその銅鏡に見惚れていた。銅もよく磨かれれば金銀に勝るとも劣らない輝きを放つのかと。

 五重の塔には窓はあるにはあるが、すべて閉ざされていた。そのために陽の光が入らずに暗かったが。各所に燭台が飾られてほのかに闇を払っていた。

 最上階ともなれば、燭台の数も増えて。陽の光が入っているかのように明るかった。

 火のついた燭台の数が多ければ明るいが、火災の危険もある。それに関しては、常に見張り番の女官が管理しているという。

 お琴はそのための女官として、乙姫さまと通とともに入ることを許されたというわけだ。

「まさか」

「そうじゃ、この五重の塔がわらわが祈りの儀式を執り行うための塔」

 窓を閉めているのは曲者の侵入を防ぐためであり、普段は窓を開け換気もしている。

 ここで乙姫さまは祈りをささげて、通を竜宮城に召喚したのだ。

 乙姫さまは大うちわを指さした。

「あれが、そなたに託す大うちわじゃ」

 言いながら乙姫さまは祭壇にあがり、大うちわの柄を握り持ち上げて。祭壇を降りて、通によく見せる。

「見よ」

 乙姫さまは大うちわを軽く扇いだが、風が起こらない。再び扇がれたが、それでも風が起こらない。

 大うちわは大人の女性の半身ほどの大きさで、軽くでも扇げばそよ風でも起こせるであろうに、起こらない。

「これは」

「言うたであろう、心ある異界の者でなくば使えぬと」

 乙姫さまは大うちわを差し出し、通は受け取った。柄は細い竹であるが握りやすい。骨組みはすべて竹であり、薄くともよく張った和紙が貼られ。竹細工としてもよくできた工芸品であった。

「扇いでみよ」

 言われて、軽く扇げば。そよそよと軽くそよ風が起こり。乙姫さまの長い髪をすこし揺らした。

「私が扇いだら……」

「これを定められた場所で扇げば、風が起こり。その風により、金毘羅さまが地の底よりお出になられる」

「乙姫さま!」

 お琴が切羽詰まった声で告げる。

「大鮫どもが向かってきているそうです!」

「わかった、すぐにゆく」

 三人(?)は足早に階段を降り、五重の塔から出て。「さあ」と乙姫さまに導かれて、朱雀門から大極殿までの大通りの丁度真ん中の辺に来れば。

 いつの間にか、大きな丸印が大通りに墨痕鮮やかに描かれていた。

 大筆を持ったたすき掛けの女官が墨のついた顔で、

「金毘羅さまがお定めになられた通り、神通陣を書きました」

 と叫んで。「ご苦労!」と乙姫さまはこたえる。

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