第十三話
「そして私を召喚され、さらに試練を与えて見極められたと」
「左様。命運がかかっておるゆえにな。しかしこれでもう安心じゃ」
乙姫さまはにっこりと笑う。
「もう安心されるのは早いかと」
まだ大鮫を退けられたわけでもないのに、乙姫さまたちはもう安心しているようで。通は苦笑する。
「大鮫の来る刻限までまだ間がある。戦いの前に気持ちを楽にしようではないか。ささ、この菓子も美味いぞ」
乙姫さまは通に菓子を勧め、果実水をそそぐ。
小宴は四半刻(三十分)ほどであったが、皆気持ちがほぐれたようで笑顔になった。
「それでは……」
乙姫さまは頃合いを見計らって、小宴をお開きにする旨を皆に告げるにともなって、イルカがおそばまで来たから。通は驚く。
「ご用意は済んでおりまする」
「ごくろうであった、お琴」
乙姫さまは琴介と呼んだイルカの頭をなでれば。それは「きゅう」とささやいて、照れくさそうに頬を桜色に染めた。その横にいつの間にか砂介が隣り合っている。
「この度の戦いが済めば、心置きなくそなたらの祝言を挙げられるな」
「はい」
「祝言?」
照れくさそうな砂介とお琴を眺めて、通は不思議そうにする。
「そうじゃ、砂介とお琴は許嫁じゃ」
「ま、まあ、それは」
スナメリとイルカがそのような関係にあるとは。竜宮城はほんとうに通の理解力の及ばぬ異界である。
「末永くお幸せに……」
とは言ったものの、まだ事は済んでいないのである。しかし、
「ありがとうございます。通さまのご恩は忘れません」
と、ふたり(二頭?)はすっかりその気になっており。通はそれを見て己の責任が大なることを感じた。
「ではこちらへ」
イルカのお琴が優雅に宙を泳ぎながら通らを先導する。彼女(と言うべきか?)は大極殿に仕える女官であるようだ。
大極殿を出て東向きにしばらく歩けば五重の塔があり、両側に控える門番の衛士がうやうやしく一礼をするのを礼で返した。
「ここからは、わらわと通、お琴のみでゆく」
乙姫さまは「さあ」と通を導き、五重の塔に入ってゆき。お琴も続く。
中に入れば。太い柱の立つ、簡素ながらも力強いつくりなのがうかがえる。何もなく、上にのぼる階段があるだけであるが。乙姫さまは階段をのぼり、通も続いた。
階段をのぼりのぼりし、最上階の五階に着けば。東向けに、丸く大きな銅鏡が飾られた祭壇があり、銅鏡の上には大うちわが本尊のごとくに壁に飾られていた。
祭壇も簡素で両手を広げたくらいの幅がある丸い銅鏡はよく磨かれて、どこも青みがかっておらず。銅色ながらもきらりと光る。




