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異界日記  作者: 赤城康彦
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第十二話

「まあ、試練も済んだことであるし。ささやかながら皆で楽しく小宴を」

 言うや、宮仕えの官人、宮人たちが慌ただしく動き出し。砂介もその中に交じる。

「ささ、こちらへ」

 乙姫さまに手を引かれて、一段高い上座の玉座のそばに来て控えていれば。

 長卓と椅子がコの字に並べられ、その上にささやかなお菓子の乗せられた皿や器、徳利が置かれてゆき。

 その手際の良さに感心するうち、

「どうぞ、お掛けください」

 と、支度は整えられて。通は乙姫さまとともに椅子に掛けた。他の者たちも思い思いに椅子に掛けて。砂介も、通のそばの角の席に、人間のように腰掛け、愛嬌たっぷりに微笑み。通もつられて微笑み返す。

 一旦椅子に腰かけた乙姫さまだったが、小宴の支度整いきったのを見て立ち上がり。

「大鮫のこともあり、苦難の時であるが。わずかの間でもそれを忘れ、ささやかながらでも楽しいひと時を過ごそうではないか。楽しゅうやってくれ」

「乙姫さまのお心づかい感謝いたします」

 官人、宮人らはうやうやしく一礼し、乙姫さまはうむと頷いて椅子に掛ければ。思い思いの会話に花を咲かせながら官人、宮人らは飲食を楽しむ。

「それで、私はなにをすればよいのでしょうか」

「金毘羅さまを目覚めさせてほしい。そのために竜神さまの作られた大うちわをそなたに仰いでほしい」

「大うちわで、金毘羅さまを目覚めさせる?」

「そうじゃ」

 言いながら乙姫さまは通の器に徳利を傾ける。見た目はにごり酒のようだ。

「あ、ありがとうございます」

 通は器を手にして飲めば、甘い味付けがされているが酒ではないようだ。察するに果物で水に味付けをしたものかと問えば、乙姫さまはその通りと笑顔で頷く。

「おいしゅうございます。程よく甘く、喉ごしもすっきりとして」

「気に入ってもらえて何よりじゃ」

「それで……」

「うむ。金毘羅さまは自らのお力大なることを憂い、自ら地の底に眠られた。その時に、大うちわを神通力によりお作りになられ、我らに預けられたが」

「それが、何かあるのですか」

「心ある者にしか使えぬようになっておるのじゃ。心無い者に悪用させぬために、金毘羅さまの神通力でそうなされた」

「そのようなものが」

「そうじゃ、その上、異界の者でなければならぬ。そのために骨を折ったぞ」

「乙姫さまは通さまを見つけ、召喚なされるために、飲食もとらず、ただただひたすらに祭壇で祈りの儀式を執り行われておりました。下々の我らそれを見るに忍びなく」

 砂介は少し涙ぐむ。乙姫さまは「いらぬことを言うでない」と照れ隠しに砂介を叱る。

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