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異界日記  作者: 赤城康彦
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第十一話

 刃は風を切り、なにやら手ごたえもしたような気がして。

「ぐわあおおおーーー!」

 悲痛な鬼どもの悲鳴が上がり。見れば赤鬼と青鬼そろって尻もちをついているではないか。

「なんと手ごたえのない!」

 あまりのことに拍子抜けし、恐怖も抜けた。

 鬼どもはぶるぶる震えながら、

「ゆ、許してくれ!」

 と頭を地面にこすりつけるほどの土下座をして命乞いをする。

(許してくれ? 散々怖い思いをさせて!)

 通はにっかり青江の柄を握りしめて、いっそ鬼どもを滅多斬りにしてやろうかと、怒りがふつふつと沸いた。

 が、きーんと、耳鳴りがした。

「……あッ!」

 私ったら、何を考えていたの!

 突然、自分の今の姿を思い起こされて。とめどもない羞恥心を覚えて仕方がなかった。

「わかりました、許してあげます」

 通はにっかり青江をしずかに地面に置いた。鬼どもは涙を流しながら、

「ありがとうございます!」

 と、駆け去ってゆく。

 その背中を見送りながら、

「これでいいのですね」

 と、自分に言い聞かせるようにつぶやけば。

 ぱっ、と目の前が明るくなって。大極殿の大広間に戻っていた。

「見事じゃ、通!」

 気が付けば乙姫さまが目の前におり、手を取って通を讃嘆し。砂介をはじめとする他の者たちも笑顔でそれを見つめていた。

「すまなんだな、通。そなたの心根を試させてもろうた」

「え?」

「勇とは力のみにあらず。慈悲も兼ね備えてこそ、まことの勇となる。そなたがそのような勇を持っているか。試させてもろうた」

「試練とは、そういうことだったのですか」

「そうじゃ。力のみの蛮勇で、どれだけの悲劇を見せられたことか。それを防ぐためには、まことの勇を持った者の存在が必要不可欠となる」

「はい……」

 まだなんだかよくわからないが、自分は乙姫さまたちに認めてもらったということだろうか。

 とめどもなく乙姫さまたちの展開が推し進められてゆく。しかしながら、通の手を握る乙姫さまの微笑みを見て、悪い気はしなかった。

 しなかった、が……。

「そ、それで、竜宮城の皆さまは、私になにを求めているのですか? 私は竜宮城でなにをすればよいのでしょう」

「そうじゃ、肝心なことを話しておらなんだ。これは迂闊」

 乙姫さまは苦笑いをし、順番違いを丁重に詫びる。

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