第十話
「金毘羅さまのご加護により、竜宮城は栄えた。しかし栄えれば栄えたで、それを狙う不埒者もおる」
「そんなご苦労は、いずこの世界でも同じなのですね」
「悲しい事じゃがの」
通は女帝として竜宮城を治める乙姫さまの苦労を思いやって、思わず同情してしまう。
「やはり一番悲しいのは、危機を救ってくれた勇士のあらぬ振る舞いじゃ」
「……」
通は沈痛な面持ちの乙姫さまを見つめる。人の上に立つ者としての苦労は、余人にははかりがたい。
乙姫さまは沈痛な面持ちで通を見やる。
「そこで」
「はい?」
「そなたに試練を受けてもらおう」
「……はいッ!?」
試練? 試練であると、乙姫さまは言った。これはいったいどういうことであろうか。
「そなたにすべてを託すことができるか否か、悪いが試させてもらおう」
「いや、あの、言っている意味がよく、いえ全然わかりませんが……」
おろおろとして砂介の方にも目をやりながら通は乙姫に不満を訴えるが。
ぱっ、と目の前が暗くなった。
「あら、あら、あらららら? 私はどうなってしまうのでしょう」
なぜが自分は大極殿の大広間から真っ暗闇の中に放り込まれて、恐慌をきたしてしまう。
すると、
「ぐおおおーーー」
という、重苦しく耳障りな、獣じみた叫び声が聞こえた。
「な、なに!?」
びくりとして身構えれば、突然目の前に赤鬼と青鬼が現れ。
「きゃあああーーー!」
通は身も心も張り裂けんがばかりに悲鳴を上げた。
鬼どもは通を見てにやりと笑い。大口を開けて牙を見せつけ、もろ手を挙げて襲い掛かってきた!
たまらず通は逃げ出す。
しかし走っても走っても逃げきれず、鬼どもは、
「待てえー、いじめてやるう~! うはは!」
とにやにや笑いながら叫ぶ。
すると、目の前に刀が現れる。通は必死の思いで柄を握る。
「あ、これはにっかり青江!」
丸亀藩を治める京極家の伝家の宝刀である。その名のいわれは、にっかり笑う女の幽霊を切り捨てて、翌朝確認をすれば石塔が真っ二つになっていたという伝説によるが。
なぜそれがと思う余裕もなく、通は必死の思いでにっかり青江をぶんぶん振るった。




