聖夜に祈りを込めて
クリスマスに絡めて、30分で書いた即興小説です。以前書いた「待ち人来たりて、甘い夜に」にも登場した二人です。もしよろしければ、そちらも併せてお楽しみください。
君は風のような人だね、と彼に言われたことがあるのですが、どうなんでしょうね。追い風か向かい風か、多分私はそのどちらにもなれません。私に似合うのは気まぐれで細やかなそよ風でしょう。もしも風になれたなら、彼にいたずらを仕掛けに行くのも楽しいかもしれません。
ですが、私は人間。夜の寒空に吹く冷たい風には震えてしまいます。コート、マフラーに手袋。スカートの下にはタイツを履いています。完全防備です。……でも、まだ寒いです。
「これだけ着込んでも寒いですね。どうしたら良いんでしょう?」
「耳あてでもしたらどうかな」
あら、そうですね。完全防備と言いましたが、耳あてを忘れていました。
でも、そういうことじゃありません。
隣を歩く彼はわかっていないようです。
「耳あては今度つけましょう。他にはありませんか? もっと心も温まるような方法が」
「心も温まる方法……か。うーん…………」
歩きながらも彼は顎に手を添えて考え込むような表情です。その横顔よりも、私は手の方につい視線が行ってしまいます。……他意はありませんよ。ええ、ありませんとも。
私からの視線に気づいたようで、彼は困ったように言います。
「ん、どうした?」
「いーえ、何も」
ただ、お馬鹿さんをジーっと見ていただけですから。
私は手をぶらぶらさせてみました。優しい私からの大ヒントです。
すると、彼は「あ」と声を上げて、苦笑を浮かべました。そのまま私の手を取って、手袋越しに手を繋ぎます。
「ごめんよ。これでどうだい?」
私はにっこりと笑います。
ただ、にっこりと笑います。
「え、ちょ、あれ? 違った?」
おやおや、ただ笑みを浮かべていただけなのに、彼は焦り出してしまいましたね。……ふふっ。意地悪はこの辺にしましょうか。
「六十点です」
そう言って、私は彼の手から自分の手を離し、彼の腕に自分の腕を絡めました。
「次は満点目指して頑張ってくださいね♪」
彼は私の方からまた前に向き直ってしまいました。そして、指でぽりぽりと頬を掻きながら、「……まあ、頑張るよ」と。
紅くなった頬について指摘するのはやめておきましょう。寒さのせい、なんでしょうね。きっとそうなんでしょう。……ふふっ。
「それにしても、本当に良かったのか? レストランじゃなくて。一応今からでも、どこか探せばあるとは思うけど」
「あら? 私の手料理では心許ないと?」
「違うよ。そうじゃない。君にクリスマスディナーを奢るくらい何でもない。遠慮をさせてないかと思ってさ」
「そんなことはありませんよ。むしろ、私が希望したんじゃないですか。私の家でクリスマスを過ごしたいって」
「まあ、そうだったね」
「宅飲みをしましょうって」
「君は本当に酒好きになっちゃったね……」
チキンとケーキは彼と一緒に買いに行きましたが、既にワインたちは家の冷蔵庫に控えています。私たちに飲まれることを今か今かと待ち受けているのです。
「しょうがないじゃないですか。貴方のせいですよ」
「俺のせいだけじゃないと思います」
「私……貴方に穢されちゃった……」
「人聞きの悪いことを言うな」
「きちんと責任を取ってくださいね」
「……まあ、そう遠くないうちには」
…………。言ってみるもんですね。期待しておきましょう。
「クリスマスプレゼントは用意してありますか?」
「もちろん。きっと喜んでくれると思うよ。…………今それが確認できてしまったし」
「確認?」
「いや、何でもない。もう着くよ。ほら、早く温まろう」
何かを誤魔化された気配があります。嘘も意地悪も私の特権です。彼にも譲ってあげません。すぐに私が暴いてあげましょう。
風の吹かない家の中でも、私はそよそよと彼の側で吹く風です。
願わくば、ずっと側に。
聖夜に祈りを込めて。