名乗ろう
ニコニコ笑っているレイナに対し、千鶴たちの方は驚きで目をまあるくしている。
「おいおい。初対面でいきなり呼び捨てかよ。一応女王だぞ、コイツ」
と、スカイが言うや否や、アレンが溜まりに溜まった怒りを爆発させた。
「お前一体どういうつもりだ!? まさか、この為だけに俺をわざわざ家に帰したのか!? 俺がせっかく……! あ”ぁもう! 何とか言え!!」
そう言うとレイナは何も悪びれた様子もなく、
「まぁそれは悪かったと思うよ? けどさ、こうした方が楽しそうだな〜と思ってね」
と言う。
アレンは怒りに震えながら「てんめぇ〜……!」とまた怒鳴ろうとするが、レイナが「それにしても〜……」と何か言い始めようとしたので、ギリギリ抑える。
だが、それをすぐに後悔することになろうとは…。
レイナは武、晴斗、千鶴、あずさの順に顔を眺めた後、プッと吹き出して
「あはははハハハはは!! ま、まさか、こーんなに上手いこといくなんて、思わなかっ……。あーお腹イタイ……」
と指をさしながら大爆笑する。
それを見たアレンが怒らないはずがなく……。
「お前……! いつまでも笑ってねぇで、いい加減事の成り行きを最初っから説明しろッ!!」
と叫ぶ。
「うわー、荒れてんなぁアレンのヤツ」
「あれは恐らく、妹さんのお世話中にこうなったパターンですね」
大正解。
歳の離れた妹が可愛くない訳がないのだ。
そんな妹との時間をこのように壊されたら……。
そりゃあ怒鳴りたくもなる。
「ごめんごめーん……! くくっ……!」
笑いがひと段落ついた後、レイナが昨晩あったことについて話をする。
レイナは昨夜、彼らの仕事場にあった書類の内の1つを読み、ガルシア村のあの山へ行った。
仕事の内容は「夜の魔力数値が不安定である為、近隣の捜査に当たって欲しい」とのことだった。
そと調査を行なっていたところ、突然魔力の波動が大きく揺れ、その原点となった場所へ向かおうとしたら彼ら人間に出会ったのだと言う。
「ま、そこからは簡単だよ。私が連れて帰るにも、馬1頭では無理だし、かと言ってずっとあの小屋に居させるわけにもいかない。だったらとりあえず自力で村まで出て行って、村の交通機関に頼ってエステルまで行き、そこからアレンに連れて来てもらったら良いんじゃないか、と思ったの。いきなりステッラの城まで来いって言ったら、私の正体バレちゃうかもでしょ?」
何の悪びれもなくそう言う彼女に対し、
「だから! そういうつもりがあるならハッキリそう言えと!」
と反論するアレンだったが、
「こっちの方が楽しいじゃん! 色々」
「……ッ!!」
満面の、今日イチの笑顔を見せてそう言ったレイナにはもう、アレンですら何も言えなくなる。
「アレン、諦めろ。お前の負けだ」
スカイにそう言われ、アレンは舌打ちをしたっきり黙ってしまうのだった。
「で、レイナちゃ、レイナさんってこの国の女王……様……?」
「レイナで良いよ。この子らにもそう呼ばせてるし」
「え、でも信じられないよ〜! 昨日の夜に出会った女の子が……!!」
あずさは本当にビックリしているようだった。
「そういえば、ちゃんとした自己紹介はまだだったね。私はレイアナ・ステッラ。第23代目、星の国女王よ。改めて、よろしくね」
「よろしく!」
「とりあえず、人間界へ通じる門の開発は絶賛進行中で、もう2、3ヶ月もしたら完成するから、それまでの面倒は城で管理するから安心して」
レイナの言葉に人間たちは目を丸くして言った。
「3ヶ月!? 私ら1ヶ月後に学校があるから、それまでに何とかならない?」
学校に行かないのはもちろんあまり良くないことだが、それ以前に、家に何の連絡もしないでここに住み続けることが彼らは心配だったのだ。
するとレイナが何かを思い出したかのように「あぁ」と前置きして、
「それなら問題ないよ。人間界とこの世界は時の流れが4倍分違うの。人間で言う1ヶ月は大体、ここの4ヶ月に値するから。ちなみに私の年齢だけど、今年で62歳になるわね」
「うぇぇえぇ!?」
「ははは! 良い反応〜! でも、結構これあんまり関係なくてさ?四季は1年に1度変わるから、人間の世界と仕組みは変わらないし、面倒だから4年に1度歳が取るってことにしようって話になったんだ」
「つまり、今は16歳ぐらいってこと?」
「そう言うこと。あずさ、あなた頭良いのね」
そう言われて嬉しそうに笑うあずさ。
すると、
「ちなみに俺らもコイツらも全員歳一緒なんだぞ〜?」
と眼帯青年・スカイが、人間達に歩み寄りながら言った。
「あ、俺、スカイ・リゴルト。訳あって右目を失くしたんだけど、怖がらないでくれよな!」
スカイのその流れから、彼らの自己紹介が始まる。
「私、エリーカイゼルっていうの。普通にエリーって呼んでくれて良いからね」
「セリカ・アンダーソンです。よろしくお願いします」
「……」
じ……と他の仲間から見つめられ、「何だ? 俺もか?」と言いたげな顔をしながら、
「アレン・カーライル。……これも何かの縁だ。よろしくな」
と、無愛想に言う。
そんな彼を見て、
「コイツさ〜、慣れたら平気なんだけど、ずっと無表情だから怖いだろ〜? でもまぁ、大分レイナにイジられてるせいか、最近は結構……ッタ!! 何すんだテメェ!」
人間に近寄って、親指をアレンの方に向けながらそう言うスカイに、アレンが頭にゲンコツを落とす。
「いらんこと喋ってねぇで、お前はその悪い頭をどうにかしたらどうだ」
「何だと!?」
「まぁまぁ! ほら、この子らが挨拶出来ないでしょ?」
彼らのやりとりに自己紹介のタイミングを完全に見失っていた人間達に、レイナが助け船を出す。
そして武、晴斗、千鶴、あずさの順に自己紹介をして、互いに顔と名前を確かめ合ったのだった。