見上げた先は
しばらく馬車に乗っていると……。
ガタンッ!
唐突に馬車が止められたので、危うく全員イスから転げ落ちる所だった。
「もっと丁寧に止められないの!?」
何から何まで腹が立って仕方がない千鶴は騎手の見える小窓からそう怒鳴る。
が、騎手は既に降りていたようでそこには居なかった。
さらにイライラが募るが、こればかりは仕方ない。
「到着しました」と、騎手が馬車の扉を開けると、
「ご苦労。彼らを中の兵士の所まで連れて行ってくれ」
とアレンが言う。
アレンが外に出てから、人間の4人も外へ出るよう騎手に促される。
そして馬車から出た4人が目にしたのは……。
「し、ししし城!?」
「でか……」
そこにはとてつもなく大きく、高い城と、その門がある。
彼らがそれを見上げている間にも、アレンが城内へと足早に入って行く。
と、そこにエリーの姿が。
「あれ? アレン何で戻って来てるの?お休みもらったんじゃ……」
「どこぞのバカが面倒ごとを押し付けてきやがったから戻るハメになった!」
「あぁ、なるほど〜。それであんなに楽しそうに……ってあの子ら誰!?」
「知るか! だからどこぞのアホが俺に寄越した連中だっての!!」
騎手が城内の兵士2人に彼らを引き渡し、連れて来る。
「アレン様! コイツらはどこへやりましょうか?」
「謁見室に連れて行け! 俺も荷物置いたらすぐ行く。エリー、あの人とアイツら呼んで来い」
「えぇ〜せっかくクッキーもっと貰えるように言いに行こうとしてたのにー」
「今俺を怒らせない方が身のためだと思え」
ドス黒いオーラを放ちながらそう言ったアレンに、「ひぃー」と言いながら走り去ったエリー。
「ここで待ってろ」と千鶴たちが言われたのは広い謁見室だ。
「え、私らここで何するの? 何させられるの!?」
「知らねぇよそんなの! 俺だってこれから何が起こるか分かんなくてビビってんだよ!」
「はっ! 俺は全然怖くも何ともねぇけどな!!」
「震えてるから説得力ないわよ、武」
そんな会話をしていると……。
「何で急に謁見室に呼ばれたんだ? しかも、アレンのヤツ家帰ったんじゃなかったのかよ」
「何かね、レイナに面倒ごと押し付けられたらしいよ」
「なるほど。彼らがその元凶と言うことですね」
スカイ、エリー、セリカが順に謁見室に入って来る。
そしてエリーが彼らに近寄り、
「へぇ〜! 見た感じ、魔力は持ってないし、武器も……あ、持ってても兵士が回収してるか。敵意は無さそうだし、縄解いてあげても良いと思うけど?」
「ばーか。それなら逃げ出すだろ」
「逃げたとしてもすぐ捕まえられるっしょ」
そう言っているとアレンも中に入って来る。
「ソイツら、一見精霊に見えるが人間だ。いくら魔力が発現していない精霊や他種族だったとしても、全く魔力の波動が感じられないのはおかしい」
「確かにその通りの様ですね。服も、人間が着るものと酷似していますし」
彼ら人間は、Tシャツに半パンという姿だったが、アレンたちは城内の制服の様なものを着ている。
それに、街の者たちも中世ヨーロッパの人の様な服を着ていた様な気もする。
「あの、私たちこれから……?」
あずさが心配そうに彼らに聞くと、エリーが悪そうな顔をして言う。
「アンタたち、これからこの世界で最も怖い方に、辛く厳しい生活を強いられるのよ……!」
「ひぃっ」
「止めろエリー。この世界で一番怖いのは確かだが、後半が正しいなら俺らとっくの昔に死んでる」
「あ、それもそうか。じゃあ今のナシ!」
「アハハハ」とエリーが笑っていると、1人の兵士が部屋に入って来て、アレンに
「お見えになられました」
と耳打ちする。
アレンがその兵士に「分かった。下がれ」と言うと、一礼して謁見室を出て扉を閉める。
「おい人間、頭を伏せろ。良いと言われるまで上げるなよ」
アレンにそう言われると、渋々皆頭を下げる。
そしてアレンが
「女王に敬礼!!」
と言うと、同時にバッという音が謁見室に響く。
彼らが敬礼した時に服が擦れて音がした様だ。
静まり返った空間の中、コツン、コツンという靴の音だけが響き渡る。
「敬礼、止め!」
再びバッという音がし、彼らは敬礼を止めた。
「皆さん、顔を上げて下さい」
女王と呼ばれた女性らしき声が聞こえると、千鶴たちはゆっくりと顔を上げる。
すると、そこにいたのは
「久しぶり。精霊界の城下はどうだった?」
「れ、レイナぁ!?」
それは昨夜出会った、他の誰でもないレイナだった。